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占いの館『ダングリング・ポンチオ』から駅に向かった俺は、帰りの電車に乗るためにホームに立っていた。 ショッピングモールの最寄り駅と言っても、郊外だから人はまばらだ。 電光掲示板を見ると、あと10分後に電車が来るみたいだった。 俺は近くの椅子に腰を下ろして、スーツのポケットからスマホを取り出す。 優成から連絡は来てないか……。 優成とのトーク履歴は、俺の『今からレイチェルに会ってくる』というメッセージで終わっている。 突然入った出張で、優成は返事をする時間も取れないんだろうな。 俺は返事の来ていない画面に、また文字を打ち込み始めた。 ──トトトト…… 『占いの代償の話をきい』 ここまで書いて俺は指を止めた。 とても文章で説明できるような内容じゃないと思った。 これは、俺の口から気持ちごと伝えないと優成には伝わらない気がした。 俺は書きかけのメッセージを消して、文字を打ち直した。 『仕事お疲れさま!』 『早く優成に会いたい』 伝えたいことはたくさんあるけど、今一番思っていることを送ることにした。 ──会いたい 俺はそっと胸に手を当てた。 レイチェルの話を聞いてから、俺の頭の中は優成のことで溢れている。 愛おしいような切ないような……、とにかく胸がいっぱいで苦しいほどだ。 俺はしばらく静かに座っていた。 数分経った頃、アナウンスが流れて電車が到着した。 強い風を横から受けながら立ち上がり、俺は電車に乗り込んだ。 帰宅時間ということもあり、電車の中は人が多かった。 俺は真ん中に進み吊革に掴まった。 走り出した電車に揺られながら、俺は窓に映る自分の顔を眺めた。 あれ、俺なんか老けた? え、嘘……こんなくたびれてるの? 目の前には、今朝よりもだいぶボロボロになった俺が立っていた。 俺はそのまま静かに瞼を閉じ、現実から目を逸らした。 物理的に……。 そりゃあ、仕事終わりで重い話を聞いたあとの27歳サラリーマンだもの。 疲労困憊で老けるに決まってる。 どれだけ部活で走っても元気だった頃の俺とは違うんだ。 高校生の頃の記憶を思い出して、俺はまた胸が締め付けられた。 毎日陸上に明け暮れていたあの頃から、いつも近くに優成がいた。 部活のみんなと一緒に騒いで遊んだり、二人だけで遊ぶこともたくさんあった。 そういえば、優成が俺の家に泊まりにきたこともあったな。 あの日は、優成に貸した俺のスウェットが寸足らずで死ぬほど笑ったっけ。 ……あのとき既に、優成は俺のことが好きで悩んでいたのかもしれない。 友達でいるのが苦しかったのかもしれない。 それでもいつも俺の隣にいてくれたんだ。 優成の立場になって考えた瞬間、今までの思い出が喉を締め付けるものに変わっていくみたいだった。 ──タタンタタン、タタンタタン…… 規則的に揺れる電車の音が、俺を現実に引き戻す。 静かに目を開いて、窓に映る今の自分を見つめた。 よれよれのワイシャツの俺は、高校生の頃の明るく爽やかだった頃の俺じゃない。 それでも、優成は今も俺を好きだと言ってくれている。 この10年間、ずっとその思いを抱えていてくれた。 一緒に笑っているときも、喧嘩しているときも。ご飯を食べたり、買い物に行ったりしているときも。 そして、俺の代わりに──誰かを抱いているときも。 考えれば考えるほど目の奥がぎゅっと熱くなり、紛らわすように吊革を持つ手に力を入れた。 そもそも、なんで優成はそこまで俺に気持ちを伝えなかったんだろう? 隣にいるために恋愛を諦めるって、俺が相当脈なしだったとしか思えない。 ……俺はそこまで優成を恋愛対象にしないような態度だったか? でも実際、俺は優成を好きになってる。 つまり優成が告白してくれてたら、OKだった可能性があったってことだ。 …………。 …………あれ? 本当にそうなのか? 俺が優成を意識し始めたのっていつからだ? あ、そうか……。 呪いが発動して、エッチなことしてから優成を“かっこいい”って思ったんだ。 もしかしたら俺は、呪いがなかったら優成を恋愛対象としてみることはなかったのかも。 だから優成は、10年間も告白ができなかったんじゃないか? 呪いの前に優成に告白されてたら、俺はなんて返事してただろう? …………。 たぶん、それはその時の俺にしかわからない。 でも“その時の俺”はもういないんだ。 今となっちゃ、わかんないな。 だって、もうこんなに優成のことが好きになってる。 ──タタンタタン、タタン、タタン…… ──シュー…… 気づけば降りる駅に着いていた。 俺は人混みをかき分けてホームに降りた。 すると、隣のホームにいつも優成が使っている路線の電車が到着した。 俺はつい優成を探して、いないとわかって肩を落とした。 当たり前だ、優成は今出張中なんだから。 スマホを見ると、まだ何の連絡もきていなかった。 俺は仕方なく改札に向かって歩き出す。 そして、小さく息を吐いた。 騒がしい駅の中で、その音だけがやけに耳に響いた気がした。

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