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イマジネーションウィーケンド
真っ暗な世界に、ピカッと光る。
ストロボのように。
あ、また。
暗黒の宇宙の、星が生まれる瞬間って遠くからはこんな風に見えるのかもしれない。
俺の感覚は研ぎ澄まされ、脳が刺激を受けて、光が放たれる度に生まれた恍惚感が身体の中に跳ね返って気持ち良い。
「あっ」
背中が、魚が地上に出た時のように跳ねる。
――ねえ、誰が光を与えてるの?
――誰だと思う?
その絶対に交わることがないだろう誰かが俺を今、侵しているのだと思い込んで、肩がぶるっと震える。
――ここは? 慧、気持ち良い……?
――ここ、イイ?
ああ……興奮してきた。
「ねえ」
「!」
急に、現実に帰った。
「ねえ、やっぱり外していいかな。この目隠し」
上から男の声が降ってくる。
「え」
姿が見えない声のする方を見上げる。
「だって、君の顔。ちゃんと見て、ちゃんと目を合わせて、したいよ」
「……いいですよ。外しますね」
目隠しを自分で首周りに落とす。
黒いネクタイを縛って覆っていた黒い想像の世界から、現実の明かりが眩しい部屋の一室に戻されて、|幾田慧 は一瞬両目を瞬く。
「やっぱり俺は顔見てするのが良いんだけど。嫌?」
「いえ。別に最後までそうしたいって訳じゃないんで」
最初からやり直しするかのように、慧に跨る男が慧の首元に顔を埋めて吸い付いてくる。
「……あ」
優しい人だなあ。良かった、今回は良い人で。
「……ほら、ゲイビでさ、ゴーグル付けてるのあるじゃない? あれ、俺はちょっと萎えちゃうんだよね……」
そう言いながら、慧より少し歳上の男はさっきと同じように、乳首を指で揉んでくる。
「んっ」
慧は、さっきと同じように背中を揺らす。
「それ……分からなくもないです」
「でしょ。一緒に、同じように、ちゃんと気持ち良くなりたいじゃない?」
男はそう言いながら、今度はそれに舌で触れる。一緒に慧の膨らんだ局部も下着の上から形をなぞるように摩り、先を親指で捏ね回す。
「そう、ですね……」
「ふふ、もう濡れてるよ。パンツ、脱がすね」
ラブホテルの光沢感のあるベッドの上で、下半身も丁寧に気持ち良くされて、後ろを少し強めに侵されて、慧も心地よく射精することができた。しばらくベッドで身体をくっ付けてから男が慧から離れて、ゴムを外し下着や服を着る。相性が良ければ、アプリでマッチしたヤリモクでも甘い気分にはなる。
「俺の変な遊びに付き合ってもらって、ありがとうございました」
「いえいえ。俺、君のこと割と好みだし、セフレもいつでも受け付けるよ」
慧は、服を着てからバッグの内ポケットの中に、首から解いた黒のネクタイを丸めて収納する。男は「じゃ、先に出るね」と告げて、部屋を出ていった。慧も、身支度が終わるとすぐに夜の繁華街に出る。
週末の夜の繁華街は、きな臭い雰囲気で澱んでいて、それでいてガチャガチャとした原色のネオンが輝かしくて、その猥雑さが非日常的な気分を曝け出させてくれる。それは、慧のような平日は普通に働いているサラリーマンにも。
ラブホ街は、土曜日だからか様々な男女がちらほら出入りしている。若いカップル同士以外にも、四十は超えた男に若い女。そして、慧のように男同士も今日はいた。たまに車体の低い改造車が、ドンドンと重低音を鳴らしながら乱暴な運転で狭い道を走り抜けていく。
ああ、久々のセックス気持ち良かった……。
今回はちゃんとあの人がイマジネーションに出てきてくれた。
今回の相手が体格も良くて巧かったからだ。ちゃんと奥を侵してくれた。またあの人にしようかなあ。セフレ……考えてもいいかもしれないな。今日は休日出勤の終日撮影で疲れたし、今から爆睡できそう。
慧は家に帰ろうと、繁華街を真っ直ぐ抜けて地下鉄入口へ向かった。
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