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第5話「衝撃」

 ちょっとオレ、泣きすぎ。そう思って、涙をこらえていると。 「リン。ちゃんと、こっち向いて」  頬に触れた手に、上向かされる。  ――あれ。なんか……すごくちゃんと感触がある。  ……これ、夢じゃない? 一瞬、そう思うけど。  でも、クロムがここに、いるはずないし……? 「――リン」  じ、と見つめられる。ぼー、と見つめ返して、瞬きを繰り返す。 「リン、オレのこと、分かってる?」  ぶに、と頬を摘ままれる。両頬、引っ張られて、その感覚に、ぽかんと見つめてしまう。 「え……本物??」  そう聞くと、苦笑して「うん。本物」と言う目の前の人は……。 「クロム……?」 「そうだよ――寝ぼけてるの?」  オレの頬をぶにぶにと引っ張って、クスッと笑う。  変な顔にされたまま、ぼけっとクロムを見つめていたけれど。 「……え、何で? 何でここにいるの?」 「リンがΩだって、聞いたから」 「――って、なんでそんな、早いの? オレだって、さっき、寝る少し前に病院で聞いたばっかり……」  オレ、めちゃくちゃものすごく、寝ちゃってたとか??   時計を見て、そんなに経ってないことを確認してから、ますますパニックになる。  え、だって王都から……??  ……って、オレ、いま。待って。  好き、とか。言った? 言ったよね、口に出してた。ひええ。  内心、めちゃくちゃ慌てていると、クロムは、オレの頬から手を離した。 「オレね――リンがβのときでも、リンのことが好きだった。だから王都に行こうって誘った。でもリンの言ったことは分かる部分もあって……あんなにはっきり拒否されたら、あれ以上困らせることは出来ないと思った。確かに、Ωと引き合うのはそうなのかもと思ったし。リンと一緒にいることは出来るけど……番にはなれないから……リンを不安にさせるのかもしれないと、思ったから……二年前は諦めて、一人で王都に行った」 「……ぅん」 「――でもね。同じ気持ちのまま二年も経って、結局諦めきれないから、今度こそちゃんと告白しようと思ったんだよ。それで、父さんに近々帰るからって連絡したら、リンがΩだったって聞いたんだ。今日、リンのお母さんに会って聞いたって」  つぎつぎと紡がれていく言葉を、たまに頷きながら、一生懸命聞くしかない。  そこまで言い終えて一度黙ったクロムは、オレを見つめて、続けた。 「ちゃんと告白しようと思ってた、このタイミングで、そんな話聞いたら……もう、運命かなって思って――もう何もかも置いて、急いで帰って来たんだ」  そんな風にまっすぐに話すクロムは、二年、会ってない間に、大人っぽくなって、ますますカッコよくなった気がする。  クロムは一度唇を噛んで、それから、オレをまっすぐに見つめてくる。 「リン――オレと番になって」  返事が出来ない。  番。  クロムと、番。  そんなの、なっていいのかな。  考えてるオレの手に、クロムがそっと触れる。 「オレは、ずっと昔から、リンが好きだった。ずっと特別で……向こうに行っても、リンより好きになれる人は、いなかった。明るい笑顔とか、優しいとこも。一緒にいるだけで――顔が見られるだけで、ほっとして、ずっと、幸せだった」 「――クロム……」  何て言ったらいいのか、分からない。  そんな風に言ってもらえるとか。全然、オレ、そんな大したやつでは、ないのだけど……。 「ごめんね。突然すぎて、信じられないだろうけど――本当なんだ。ずっと好きだった」  綺麗な瞳が少し俯いて、長いまつ毛が目元に影を作る。――ほんとに、綺麗だな……。ぼう、と見つめていると、ふと、その瞳が真っすぐにオレを見つめてきた。  その瞬間、胸が大きく震える。 「もし、リンがオレとは嫌だって言ったらって思うと、今すごく怖いけど……でも、リンを、他の誰にも渡したくないんだ」  きゅ、と、オレの手を握るクロムの手に力がこもる。 「今までもずっと、リンだけだった。オレは一生、リンだけ愛すから――だから」  オレの手を握る、クロムの手が、少し震えているのが分かる。 「……オレの番になってください」    ――Ωだったって、聞かされたときよりも、もっと衝撃だった。

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