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遼(はる)か焦がれる

 暑い空気を逃がす為に、草蘆全ての窓が開け放たれている。  先生の読み上げる経書の旋律が、子守唄のように俺の眠気を誘う。  俺はあくびをしながら、隣の席に目を向けた。  そこには、頭を机に横たえ、堂々と眠る涼しげな顔立ちの青年がいる。  俺は彼の顔を見ると、少し頬が火照るのを感じた。  数日前、貧しい俺は、周りから謂れのない誹謗を受けそうになっていたが、そんな俺の事を笑い飛ばして受け入れてくれたのが彼だった。  その日から俺は、彼の事を少しずつ目で追うようになっていった。  気づけば彼は、俺の心が思い描く物語の主役になっていた。 「うぅん」  彼が寝返りをうつ。  俺は想いを悟られないように、目を逸らした。  だらしなく唇からよだれを垂らす姿でさえも、俺には愛おしい。  それから数日が経ち、彼と過ごす時間が増えるにつれて、俺の想いはどんどん膨らんでいった。  現実でも俺は、毎日愛馬に乗って現れる彼を兄のように慕い、尽くした。  彼なしの生活なんて、もう考えられない……。  俺はいつものように顔を火照らせて、眠る彼を横目で見た。  告げられる事のない想いが、胸の中で静かに高鳴る。  その日は毎晩の手癖が災いし、自分の股をいつの間にか撫でていた。  すると、彼が珍しくむくっと身を起こす。  俺は手を素早く離し、彼から目を逸らした。 「おい、さっきから何見てんだ……」  彼は俺をにらみながら、声を低くして唸った。  俺の体が反応して、臀部の小孔を締めると、股の先端が少し濡れた気がした。  "――終わった"  俺はそう感じながら、平静を装おうとしていると、 「おいっおめえ!ちょっと顔かせ」  と、荒い声で彼に呼び出しを受けた。  俺の背筋に、冷ややかなものが走った。  裏の雑木林に連れて行かれた俺は、太い幹の前に体を力任せに押さえつけられた。  木々の枝葉が影で辺りを覆い、まるで白日から行為を隠すかのようだった。 「おめぇ、俺ばっかり見やがって!  気になってしょうがねえんだよ!」  彼は、俺の顔の横に腕をつき、顔を一気に詰め寄せてきた。  俺の胸は飛び上がらんばかりに鼓動を速くした。  俺はそれを凝視することが出来ず、思わず(まぶた)を閉じてしまった。  一瞬の沈黙の後、俺の唇に強い感触を覚えた。  "えっ?"  彼は怒っていたはずだ。  俺は今起きている『事件』を確認するよう、目をゆっくりと開いた。  毎晩頭の中で妄想していた事が、実際に起きていた。  俺は彼に唇を塞がれている。  密着している彼の口周りから、『ちくちく』と触れるものが、空想にはなかった現実的な物を感じさせた。  頭がどうにかなってしまいそうな俺は、彼の胸板をそっと押す。 「すまねえ、男同士で、嫌だよな……」  彼は俺から目をそらすと、顔全体を朱色に染めていた。  嬉しすぎて言葉が出ない俺は、黙って下を向いた。 「おめえを見てたら、オラ、頭がおかしくなっちまった」  予想外の言葉に衝撃を受けた俺は、彼を直視した。 「俺が、可愛い?」  そう聞き返すと、彼は息を飲んだ後、俺の両肩を掴んで、 「おめえはそこら辺の女より、遥かにそそるんだ」  と、獣のように吠えた。  村のささやかな避暑地で、彼の額から一筋の汗が流れる。  息を激しく荒げている彼を見て、俺の小孔の奥が疼き、求めていた。 「すまねぇ、この事は忘れてくれ!」  彼は俺から離れると、再び顔を背けた。 「忘れねえよ……」  俺は聞こえないように囁くと、彼の背中に腕を回し、背伸びをした。  そして、ふわりと彼に唇を合わせる。  それに応えるように、彼の腕が俺の体を力強く包んだ。  彼の匂いを間近に感じながら、しばらく体の感触を確かめ合った。  “これは、妄想なんかじゃない”  俺は(もも)に当たる硬くて熱いものに気がつくと、それを慰めるために手を伸ばした。 「あぁ……」  彼が吐息を漏らした。  俺は愛おしい彼のものを撫でていると、彼の手が俺の股間を隠す布に侵入した。  彼の手は俺を直に掴み、ゆっくりと上下してきた。  "締め付けが、キツい……"  毎晩彼に代わり、自分の手がその役をになっていたが、今まさに本物が俺を慰めている。 「ちょっ、待って」  俺は彼の手を押さえて制止すると、衣を脱いで股の布を外した。  俺の恥ずかしい部分が、彼への欲情を隠せないでいた。  彼は俺を眺めうっとりすると、 「今のおめえは、男の一番綺麗な時期だな」  と甘く俺を褒めた。  そして、彼も衣を脱いで、一糸まとわぬ体躯を俺の前に晒した。  彼のそれは、想像よりも大きかった。 「哥哥(グァグァ)(お兄さん)も綺麗だよ」  俺は彼を眺め、素直な気持ちを告げると、 「オラも美男子ってもてはやされてはいたが、髭が生え筋骨も盛り上っちまって……今では、すっかり男になっちまった」  と言って顎をさすった。  俺は哥哥の顔を見て、 「俺は髭を伸ばさないから!」  そう軽く吠えると、彼の股間に反り立った自分のモノを擦り付けた。  哥哥は俺に微笑むと、その大きな手で二人の幹を包んだ。 「あっ」  俺は哥哥にしがみつくと、彼は二人の熱くなった棒を、軽く押しつぶすように握った。  哥哥は、自分のさじ加減で、手を上下した。 「はぁん」  竿で感じる彼のぬくもり。  その速い動きに、俺は意外と早く彼の手の中で果ててしまった……。  彼の太い幹は、俺の白い液体を被って汚れてしまった。  俺は彼に背中を向けると、臀部の小孔を指で開いて魅せた。  毎晩思い描いていた物語通りの展開を、胸をときめかせながら俺は待った。  哥哥が俺の肩に手の平を乗せる。  "来た!"  そしてゆっくりと、俺の小孔を押し広げながら、熱く硬い塊が中に入ってきた。  哥哥の先が孔道(こうどう)の奥に触れるのを感じた時、妄想が叶った事に俺の体が痙攣して喜の叫びを上げた。 「くっ!」  哥哥は、俺の締め付けで果ててしまったようだった。  二人の規則正しい吐息だけが、雑木林に響いていた。  "哥哥のが俺の中に……"  俺が余韻に身を(よじ)らせていると、哥哥は俺の腰を掴んで、果てた棒の出し入れを再開した。 「叶わぬと悩み、オラは毎晩身を捩らせていたんだ、いっ、一度で満たされるもんか」 「ちょっ!」  俺は目の前の太い幹にしがみつくと、哥哥の激しい突きを受け止める格好になった。  哥哥が漏らした熱い体液が孔道の滑りを良くして、出入りする度に彼のものが雄々しくなっていった。  躰の奥を突かれる度に、俺は自分の男の子を大きく揺らした。 「はあぁぁぁん!はあぁぁぁん!」  俺は言葉を失った獣のように、恥ずかしげもなく喘いだ。  淫らに尾を交える姿を、辺りの木々が見ている。  竿の先より、だらしなく垂れる俺の粘液。  地面の枯れ葉を、二人の体液が濡らしていった。 「おめえの(たくま)しいここも、オラのもんだ」  哥哥はそう喘ぎ、むき出しのまま揺れる俺の竿を掴んできた。  強い握力が俺の男の部分を束縛する。  一度も子を残す行為をなしていない俺のそれは、彼の体をメスとして受け入れるだけモノへと、その機能を転換していた。  "俺には子孫を残せないのかな……"  一瞬、俺の頭の中に母上の顔がよぎった。  孔道の奥への刺激と、男の部分への拘束が、俺の鈴口へ解放を促した。 「はぁん、出る!」  俺は大きく呻くと、大量の透明な体液を、勢いよく飛ばした。 「うっ!」  その直後、俺をわからせるかのように、哥哥から熱いオスの汁が吐き出された。  俺の中が彼で満たされていく。  事が終わると、哥哥は俺を後ろから強く抱き締めてきた……。  俺たちは衣を身につけた後も、日が暮れるまで甘く語り合った。  まあ、途中で欲情し何度も求め合ったが……。  哥哥は帰り際に、俺にしばらく待つように指示した。 「実は、おめえに会わせたいやつがいるんだ」 「ブルルル」  彼を今かと待つ俺の耳に、動物の嘶きが聞こえた。  了

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