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「さては、俺の実力を信じていないな?ほら、これだけ簡単に人間に化けられるんだぞ」 そうして変化したその姿は、見知ったトガクの姿よりも歳を取っているのに、もう正幸の目にはトガクにしかない映らないのが不思議だ。 人間である正幸には、人間への変化がどれ程大変なものなのか想像もつかないけれど、二十年もの時をかけて、自分との約束を守ってくれた。 それを思えば、トガクの何を疑っていたのだろう、トガクはこんなにも自分を思ってくれていたのに。 そう思ったら堪らなくなって、正幸は手で顔を覆った。 「正幸?悪い、大丈夫か?」 そんな正幸に、トガクは不安そうな顔を向ける。そんな心配そうな声に、正幸は顔を隠した手をどけて、「違うんだ」と、トガクを見上げた。 「好きだなって、幸せだなって思って」 手をどけてみれば、正幸は幸せをふわふわと撒き散らして微笑んでいて。トガクは目をぱちくりとして、それから勢いよく正幸に覆い被さった。 「うわっ、え、え?」 「頼むからさ、」 額同士がくっついて、その距離の近さを改めて認識すると、正幸はかっと顔を熱くして、今度は正幸が目をぱちくりする番だった。トガクは、正幸の体に負担を掛けない為か、ベッドヘッドに手をついている。頬が熱くて、突然、心臓が騒ぎ始めたが、それでも、その腕で抱きしめてくれたら良いのにと思ってしまう。正幸がそんな葛藤を繰り広げていれば、トガクは大きく溜め息を吐いたので、正幸は思わず肩を強ばらせた。 「早く、体調治してくれ」 もしかしたら、何か気に障る事を言ってしまっただろうか、してしまっただろうか。そんな不安の中で聞こえた言葉に、正幸はさっと顔を青ざめさせた。 自分の事ばかり考えて、トガクの気持ちをちゃんと考えてなかった。正幸は、焦りに瞳を揺らし、トガクの服をきゅっと掴んだ。 「ご、ごめんね、そうだよね、せっかく会いに来てくれたのに看病させて、」 「そうじゃなくてだな…手が出せないだろ、これじゃ」 「…え?」 正幸は、思いもしない言葉に、きょとんとして視線を上げた。トガクは額を離してそっぽを向いているが、その頬が赤く染まっている。 「…だ、出してくれるの?」 「だ、!」 思いもよらない言葉につられてか、正幸はついそんな言葉を溢していた。 だって、まさか、こんな自分に?あの頃と違って、もう若くもないのに? 期待と希望、それに加えて熱もあるせいか、それとも泣いたりしたせいか、正幸の瞳は潤んで魅惑的にトガクを見つめている。トガクは堪らず正幸の顔に布団を勢いよく掛けた。 「びょ、病人はさっさと寝ろ!」 「い、嫌だよ!せっかく会えたんだ!こまりちゃん達だって、」 そこで、はたと気づき、正幸はもぞもぞと抵抗を試みて、布団から顔を出した。 「そういえば、どうして店が忙しいって知ってるの?外から見たくらいじゃ、中の様子は分からないでしょ」 「あー。あれは、俺のせいだから」 「え?」 「人に化けられる妖を集めて、店に客として行かせたんだよ。そうでもしないと、この家には誰かしらいるだろ。お前は、体調が良けりゃ、朝も夜も店や町にいるし。休みの日は、あの親子や近所の奴らがべったりだ。俺の変化の力が安定してるとはいえ、久しぶりの再会だし、さっきみたいに気が動転して、変化が解けるとも限らないしさ。そうでなくても、なるべく再会は二人きりが良かったんだ。…深夜は、色々と気になるしさ」 そう言って、トガクはちらりとベッドに目を向ける。その視線の意味が分かって、正幸はまた赤くなって布団を口元まで引き寄せた。 そんな照れる正幸に、トガクはそっと笑みを向けた。 「まぁ、俺の第一関門は突破したんだ。これからは、いつだって会いに来れる。だから、ゆっくり休め。正幸が眠るまで、側にいるから」 「…じゃあ、目を覚ましたら、トガクさんは居ないんだね」 自分が思うより、寂しい声が出てしまった。それでも、それが本心なので、正幸はどうしようと不安そうに瞳を揺らせば、トガクは仕方なさそうに肩を竦めた。 「あの親子に見つかったら厄介だろ。今日のところは、だよ。言っただろ、会いに来るって。また明日、会いにくる。それに、まずは体調治せ。俺は結構我慢してるんだからな」 「はは、何だよそれ」 正幸が笑えば、トガクもどこか嬉しそうに笑った。 「それで、色々話そう。これまでのことも、これからのことも」 そう愛おしく頭を撫でられ、正幸は胸を熱くさせてそっと頷いた。 希望の先に未来がある、愛おしい彼と、まだ共に歩める未来があるなんて。 こんなにも幸せで、正幸は心の居場所を再確認する。 何もないと思っていた、鬱々と暗いばかりの箱の中から、嬉しいも楽しいも、それから、悲しみも恋しさも、トガクが全て教えてくれた。 その心が、ちゃんとここにある。このまま目を閉じても、夢のような日々が明日へと繋がっていく。 正幸は、久しぶりに心から安堵して、幸せな眠りについていった。

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