1 / 1

雒陽の秘技

 薄暗い路地に、洗濯物の生乾きの匂い。  青年が中年の男の手を引いて、民家の狭い間を小走りで進んでいく。  青年の手から伝わるぬくもりと、ほのかに香る汗の匂いが、男のオスの部分を軽く刺激する。 「ここでいいかな?」  そう言いながら民家の玄関をのぞき込む青年を見て、男は不安を訴えた。 「見つかったらマズいぞ……」  青年は男の制止を聞かず、 「みんな市場へ行ってるから大丈夫だぜ」  と言うなり、男を誰もいない室内へと誘い込んだ。  家主の帰宅を恐れながらも、紅潮する男の頬。  二人は縄の扉をくぐって部屋に入ると、青年が指で数を示した。 「雒陽の秘技を教えるからには、だいたい相場はこれくらいかな」  青年がそう言いながら小麦色の肌を見せると、男はツバを飲み込みながら、懐より袋を取り出した。 「はっ、早くしてくれ!」  袋の物を取り出し、それを青年に手を震わせながら渡す男。 「毎度ありっ!」  青年が笑顔で受け取ると、身につけていた衣を滑らかに脱ぎ捨て、股間を隠す布きれだけの姿になった。 「ほらほら、旦那も脱いで。こういうのは雰囲気が大事だからさ!」  小麦色の平らな胸を目の前に、男の股間は一気に熱くなった。  男は自分の衣をぎこちなく脱いで、熱を帯びて膨らんだオスの部分を露わにした。 「旦那、奥さんは?」  青年が横目にそう尋ねると、男は目線を落として無言になった。  青年が男の肩ににそっと手を触れると、男が声を少し震わせながら、 「今までとんと縁が無くて、気が付いたらこの歳だ」  と答えた。 「こんなに優しそうなのにな……」  そう言いながら、胸板を合わせて男の竿を優しく撫でる青年。  男の枝先からは透明な汁が滲み出て、青年の手を汚して行った。  青年は男の枝から手を離し、股間を隠す布に手を掛けると、そのまま素早く脱ぎ捨てた。  露わになった青年の少し膨らんで垂れ下がった男の子。 「うおっ!」  それを見てたまらなくなった男は青年の体を抱き締めて、顔を近づけ青年の口を吸おうとした。  青年は手の平で男の口をそっと押さえると、 「おっと!情を持っちゃあこの商売はおしまいだ」  となだめた。  青年は男の竿を優しく握り、手を上下に動かし始めた。  「あっ」っと漏れる、男の吐息。 「小さいワンちゃんのときは、おっきいヤツにお手を出す⋯⋯」  耳もとで囁く青年の吐息が感じられないほど、男の意識は竿に集中している。  静まりかえった部屋の中、この世には二人しかいないような錯覚。  男は青年の顔を見ようと視線を動かした。  男の目に映るのは、真剣な眼差しをした青年。  その少し悲哀を秘めた表情に、胸の鼓動が高鳴った。  青年は手を止めると、夢見心地のような男の体を筵の床へと座らせた。 「覇王級が来たら、一口(かじ)る⋯⋯」  青年はそう言うとその愛らしい口を開いて、はち切れそうな男の幹を咥えた。 「あああっ!」  たまらず声を上げる男。 「しっ!」  青年は顔を上げて、少し怒った顔で注意した。  しかし、その怒った顔すらも、もう男の中では愛おしくなっている。  再び青年が幹を口に含むと、その頭を上下し始めた。 口笛を吹くように窄められた青年の唇から、『クチャクチャ』という音が聞こえてくる。 「くっ!」  男は声を殺して青年の頭を軽く掴む。  幹のうずく感覚が、青年の口腔によって慰められていく。  二人きりの部屋の中で響く青年の唾液をすする音。 「ああっ、今まで女ともした事ないのに⋯⋯」  男が自分の貞操を吐露すると、その恥辱が顔を真っ赤に染め上げた。  顔を隠してしまいたいような、気持ちが心へ広がって行く。 「俺もねえよ……」  青年が幹から口を離し目を伏せてそう言うと、男の幹は脈打ちを上げ⋯⋯、 「はああああああっ」  青年の目の前に白濁の汁が、引き絞られた矢のように噴き上げた。  "この子も女を知らないんだ……"  と、果てて朦朧とする意識の中で男は思った。  青年は小刻みに吐息をつきながら、筵へ散った悦楽の跡を黙々と指ですくっている。  "何をする気だ?"  男がそう思った瞬間、青年は男のびくびくと動く竿へ手で優しく包みこんで、ぬめったそれを纏わせた。 「ここからが……本番……」  青年は少し言葉を詰まらせながら、顔を背けて小声で言うと、再び指で数を示した。 「追加でこれほど渡してくれたら⋯⋯旦那もっと喜ばせてやるよ⋯⋯」  青年はそう声を振り絞りながら、後ろを向いて小孔を開く。  男がそれを目にすると、彼の中の生殖本能が再び幹へと活力を与えた。  "この子を俺の物にしたい⋯⋯"  心に生じた不安から、男はそれを口にする。 「俺は、お前と情を交わしたい!」  青年が少し困ったような顔をすると、慌てた口調で男に言った。 「早く決めないとそいつが乾いて、これから先は味わえないぜ……」  民家の外では小さく人の声。  男は落胆の眼差しで樹液を被った幹を眺めると、渇望する心を抑えられずに傍らに置いた袋を投げた。  青年はそれを受け取り置くと、男の幹の先へと小孔を当てる。 「雒陽の秘技、覇王級でヤリ合う時はあっ⋯⋯背中をむけて手を出さない⋯⋯」  青年がそう呟くと、声を殺しながら腰を下ろして男の幹をゆっくり吸い込んで行く。 「おおおおっ!」  男がのけ反って声を上げた。 「くっ」  青年が声を出しすっかり男を取り込むと、引き締まった後ろの頬をそのままゆっくり上下した。  男が小孔を出入りするたびに、青年のいつの間にか反りきった太い枝が『パチンパチン』と腹を打って鼓を鳴らす。  "この子、あんなにして⋯⋯やっぱり俺の事⋯⋯"  男はそう一人で感じながら可愛い部分を覗いて見ると、青年の男の子の先からは涙のような無色の液が。 「はぁん!⋯⋯はぁん!⋯⋯」  男の先の感覚が青年の中で膨らんできた快感を生み出す宝玉を探し当てると、彼はそのまま身を起こした。 「はぁん!そこっ!」  そう鳴きながら男の前に伏せる青年。  男は青年の腰を持つと、青年の中の膨らみを鋭い剣で激しく突いた。 「はん!はん!」  青年の子犬のように吠える声と『パンパン』という尾を交わらせる音が部屋に鳴り響く。  青年の男の子は下に揺れて、喜びのよだれを垂らしている。  男の感覚は幹へと注がれ、渇望をひたすら癒して行った果て、彼の意思に反して体が再び弓をつがえた。 「ううっ!」  男が声を絞るように出すと、幹の先から今までに出したことのないような熱い激流が流れ出た。 「はあああああっ!」  青年も続いて声を上げ、男の子から露を噴き出す。  青年の体内に注がれる男の子種。  青年は『はっ』と我に返ると、小孔から垂れるものを顧みず、慌ててそのまま下着を纏い、服を羽織ると袋を拾った。 「⋯⋯早く逃げねえと、家主がくるぜ」  青年が去っていその姿を見て、男は一人余韻にふけった。  "俺の子種があの子の中に⋯⋯"  活気にあふれる市場で男は、初めて味わった悦楽の後に襲って来た、強い渇きを埋めるように彷徨った。  目で青年を探している内に、市場を歩いて聞いて回ると、あの青年は高貴な家に生まれながらも不遇な立場にあると知った。  "なら、力ずくでさらって行っても問題ない"  男は心でそう呟いた。  強い渇きを潤すために人の尊厳を害してまでも心の奥から突き出すその感情を、人は『悪』と呼ぶ。 「ちょっと良い憂さ晴らしがあるぜ⋯⋯」  同じく不満を抱えた者を誘い、男はある場合でようやく獲物(あのこ)を見つけた⋯⋯。  了

ともだちにシェアしよう!