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第34話 解放の秘密

「精気を…混ぜ合わせる?」  言葉の意味が分からず、鸚鵡返しにそう尋ねる。百八は胸の前で腕を組んだまま、大きく頷いてみせた。 「そう、式神と同じように、人間にもオーラがあるんだ。それが精気。つまり、お前のオーラと俺のオーラを合体させれば、少しずつ呪縛が解けていく」  ——オーラを合体って…なんか…嫌な予感しかしないんだけど…  晴人が黙っていると、百八は再び湯船の中に座り、こちらをじっと見つめてきた。 「これまでは、俺がお前を気持ち良くさせて、放出した『精気』を吸収することで、霊力を補給してきたよな?だが、合体させるにはお互いに気持ち良くならなければいけない」 「お互いに…つまり、お前にされたようなことを、俺もお前にするってこと?」 「うーん、少し違うな。今まではほら、俺がお前を口や指で刺激してオーラの放出を促してただろ?だが、精気を混ぜ合わせるには、俺とお前の体を一つに結合させる必要がある」 「なっ…結合⁉︎それってもしかして…」  思わず百八の下半身に目がいきそうになり、慌てて目を逸らす。体が熱いのは、湯に浸かり続けているからか、それとも違う理由からか。 「晴人ももう子供じゃないんだから分かるだろうが。つまり俺のコレを、お前のアソコに…」 「うわー、もうそこまでで十分伝わったから大丈夫!」  急にこの状況が恥ずかしくなり、晴人は百八の言葉を制して、彼に背中を向けた。じわじわと、動悸が激しくなるのを感じる。  百八をレベルアップさせる方法を聞く、という当初の目的は達成できた。しかし——  ——無理ゲーにも程があるだろ…今まではされるがままになってきたけど、そこまではまだ…心の準備が…  赤面して俯く晴人の肩を、百八が背後からそっと抱いた。胸の高鳴りを悟られてしまいそうで、寒くもないのに思わず体がびくりと震える。  身を固くする晴人の耳元で、百八は静かに囁いた。 「安心しろ、無理にとは言わん。というか、この儀式は強制的にやっても意味がないんだ。互いに合意の上で、そこに心がこもっていないと、カグラにかけられた呪縛は解けない」  その優しい声色に、固まりかけていた体が、ほんのわずか、緩く解けていくのを感じる。晴人は、しばらく黙り込んだ後、百八に背を向けたまま、おずおずと口を開いた。 「…つまり、俺も気持ち良くならないと…ってこと?」 「そうだ、俺だけが欲望を満たしても、精気は混ざり合わない。宿り主とともに感じ合わないと、上手くいかない」 「ともに…感じ合う…」  自分と百八が「結合」されているところを想像し、晴人は自分の耳が赤くなってゆくのが分かった。全身の火照りが、さらに高まり、解けかけていた体が再び固くなる。  誓約の力を深め、百八を強くするために、必要な行為であることは理解できる。しかし、やはりまだ自分が「それ」をするのは難しいということを、その瞬間、晴人は直感で悟っていた。 「ごめん…」  掠れた声でそう呟く。 「俺、まだそこまでは…できそうにないかも…」  背後で、百八が頷く気配を感じる。 「謝らなくても良い」  百八は、晴人の背中に自分の体をぴたりとくっつけたまま、柔らかい声色でそう言った。 「お前が俺を必要とする限り、俺はお前のそばを離れることはない。焦らなくていいんだ。お前から俺を求めてくれるまで、俺はじっと待つことができる」 「…あり…がとう」  ——なんかこいつ、やけに優しいな。  晴人は、俯いていた顔を上げ、ゆっくりと体を回転させると、百八の方へ向き直った。 「多分、いつかは…できるようになると思う。その時まで…」  そう言いかけた晴人の唇を、百八のそれが塞ぐ。 「っん…ん」  再び、舌が絡み合い、甘い吐息が口から漏れる。湯の中で、晴人は自然と、百八の逞しい体に腕を回していた。 「晴人、俺はお前と誓約を交わして良かったと思ってる」  しばらく口づけを交わした後、百八は晴人の目をじっと見つめて言った。 「お前にも、そう思ってもらいたい。だから…」 「だから?」  晴人が言葉の先を促すと、百八がにかっと大きく口を開けて笑った。 「今日はこれで我慢する!」  そう言うが早いか、百八は晴人の腰を持ち上げ、最も敏感な部分に舌を這わせた。そのまま、唇で包み込むと、ゆっくりと晴人の体を上下させる。 「っん…あ…はぁ…」  不意打ちの快楽に、晴人の全身が震える。押し寄せる刺激の波に身を任せていると、やがてその時が訪れた。絶頂に達する、あの感覚。晴人の根の先から、一気に甘い蜜が迸る。 「あっ…ん…あああ」 「これこれ、うん、満たされるぞ」  百八の体が、黄金色の光を帯びていく。晴人の放った精気が、百八の体へと移っていくのが見える。  湯船に浸かったまま、肩で息をしながらその様子を見守っていると、不意に目眩のような感覚に襲われ、晴人は百八の胸の中に自然と崩れ落ちていた。 「力…補給できたか…?」 「ああ、今日使った分は十分補給できたぞ。よし、明日も頑張ろうな、晴人!」  百八の笑顔を見ながら、不思議と、胸が安らぐのを感じる。晴人はそのまま、全身を包み込む暖かさに身を委ね、目を閉じた。 「晴人、よく頑張ったな」  意識が消えかける瞬間、百八がそう囁くのを確かにきいた気がした——

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