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第1話
出会いは単純だった。
何にもないところでこけたあいつに俺が絆創膏をあげた。
それから、会って話すうちに好きになり俺から告った。
OKを貰って付き合い始めた…はずだった。
付き合い始めてから2カ月。
会話らしい会話をしていない。
まさに、自然消滅寸前。
「あー どうしよ…」
「江藤、最近バスケに身が入ってないぞ?」
俺が呟いた時、顧問の笹川先生が俺を注意した。
「すんません…」
今は部活中だと切り替えてバスケに集中する。
この、東村高校のバスケ部は全国から見ると弱小だが、地区で見ると1,2を争う実力なので休みが少ない。あいつが所属する吹奏楽部も同じくらいなので休みが少ない。
今も、楽器の音が聞こえて来る。
「朝練終わるぞ! 主将! 」
同級生の村川真冬が言った。
慌てて「朝練終了‼︎ 遅れないよう気をつけろよ! 」と叫び、真冬にサンキューと声をかけて、片付けに参加した。
気がつけば、聞こえていた音もなくなっていた。
「さむっ…」
外に出た途端、冷たい風が吹く。
もう真冬だしなぁ…と隣にいる真冬が呟く。
言った後に自分の発言に気づいたのか、赤くなっていた。
(それ、去年も言ってただろ… )
教室に入ると、女子が騒いでいた。
朝から元気だな…
「彼氏とぉークリスマスデート‼︎」
不意に聞こえた"クリスマス"。
(そう言えばもう少しでクリスマスか。…クリスマスデートしたいなぁ … )
いや、自然消滅寸前のカップルには無理だろ。
俺は、寒さで凍える手を無理矢理動かして髪をわしゃわしゃした。
俺とあいつ鈴尾京との仲がうまくいっていない理由を考えてもどうしようもない答えしか浮かんでこない。
"江藤翼と鈴尾京が男同士だから"
本当にどうしようもない性別を変えろって? 無理だろ。絶対。
そんなことを考えている間に、先生が入ってきてホームルームが始まった。
せめて話すきっかけが…。
1時間目は体育だ。
体操服に着替えて、真冬と体育館に向かっていた。
寒いから走ろうぜ、と話していた時目の前に大きな影ができた。
…絶対京だ。こんな背が高いやつは京ぐらいしかいない。
顔を前に向けると風が吹いた。
兄が横を通り過ぎて行ったことなんか、すぐわかった。
俺らはすれ違った時に何も話さない関係だっただろうか?
吹いた風が冷たく感じた。
授業が全部終わり、部活の時間になった。
今日の部活はバスケの事しか考えなかったので、笹川先生に褒められた。
部活終了後
「つっばさー。俺今日夜とこあるから一緒に帰れねーわ。」
真冬が俺に言った。俺は、はぁと返事した。
「ああ…やっぱ寒い…。 」
寒い寒いと言い続けていれば後輩がマフラーを貸してくれた。優しい。
それをぐるぐるまいて、学校出る。
学校を出たところに京がいた。
誰が持っているのか、と思ったら京が俺に気づいた。
京が、低く懐かしい声で、
「翼」
と言った。
「な、なに?」俺は平常心で返事したつもりが声が裏返った。
やばい、今まで話さなかった分声をかけてもらえるとすごい嬉しい。
京は俺の声が裏返ったのには、ノーコメントだ。そーゆー奴だったよな。
「12月25日。クリスマス」
「えっ」
日にちの確認? な、なわけないよな。
「空いているか?」
「まぁまぁ一応」
「デートしよう。」
「ハッ?」
え、え? いきなりのことで頭が追いつかない。デート? 俺と、京が?
12月25日デート…つまり、、、"クリスマスデート"
「しよう!クリスマスデート!」
大声を出した俺に対して京は「あぁ」といい笑った。
笑った顔、久しぶりに見た。
少し離れていただけで、一つ一つが幸せに感じる。いなくなることで、京の存在の大きさがわかった気がした。
自然消滅寸前のカップルがクリスマスデート。
違和感なんてものじゃない。でも、俺はすごく幸せだ。
それから2人で久しぶりに一緒に帰った。
いつまでたっても会話は途切れなかった。
聞こえる吹部の音とともに、バスケ部の朝練が始まる。
今日は調子が良い、体が軽いと思っていると案の定、真冬に言われた。
「つばさー、今日調子良いなぁお前。いや最近が変だったんだよなー。ぼーっとしてると思ったら闇雲にバスケをして…。笹川先生最近お前のことずっと観てたんだぞー。」
言われた瞬間、恋の力はスゲェって素直に思った。
相手の行動1つで自分が浮き沈みして。相手の言葉1つで、バスケの調子が良くなったり悪くなったり。
「悪かったな。真冬。」
素直に伝えてみた。
すると思冬が慌てて「いや、キャプテンのことを支えるのが副キャプの役目だから…」
とゴニョゴニョ言い始めたので真冬の背中をバシーンと叩いて大声を出した。
「朝練終了ー!!!遅れないように早く片付けろよー‼︎」
この声を聞いた部員から「江頭先輩、今日元気すね、いいことあったんすか??」と言われたのでちょっとなと返した。
気がつけばクリスマスまであと3日だった。
冬休みも始まり、連絡手段はなくなっていた。あるとしたらお互いが部活の時だけ。今日もバスケ部と吹奏楽部は活動する。
「じゃぁ10分休憩なー‼︎」
笹川先生が言ったのを合図に部員がバタバタと倒れこむ。
この寒い中、ハードなメニューをやり続けたので足も手も冷たく痺れ、頭だってあまり働かない。マネージャーが一人一人にタオルとドリンクを配る。
タオルで汗を吹かずに部員は暖を取っている。使い道違うじゃねーかと思いながら真冬と話す。こいつの名前はもう聞いただけでも寒くなる…。
すると、「主将ー! 次の練習会議の作戦会議するからなー。外来い!」と、
悪魔の笹川先生の声がした。なんで外ってめっちゃ寒いじゃねーか!
真冬に見送られながらドアを開け外に出る。
冷たい風が体を撫でる。ジャージを着てこようかと思ったか笹川先生が見ていたのでやめた。
「江藤!遅いぞ! 休憩中に終わらせたいから急げー。」
俺に休憩はないのかと思いつつも「はい!」答え先生の元へ駆け寄る。
笹川先生作戦について話し合っていると、吹奏楽部の音が聞こえた。
きれいな曲だ。
こんな近くで音がはっきりと聞こえるのはおかしいと思っていると、マーチングの練習だったようで並んで吹いている姿を見かけた。
ー京は一番前だった。
力強く吹いている姿がとてもカッコよかった。
京はこちらをちらりとみるとすぐに前を向いた。
見てくれたことが嬉しくて、でもすぐそらされたことが悲しくて。
吹奏楽部をじっと見ていると笹川先生にげんこつを落とされた。
じんじんといたむあたまをなでながら、俺なんか乙女チックだな、と思った。
それから作戦会議は無事終わり練習に戻った。
部価値が終わり部室で着替え真冬と出る。
マフラーをぐるぐる巻いて外に出る。
校門を出て…
「翼」「えっ」
京だ。けいがいた。
京は視線を真冬に移し、「今日は翼と帰りたい」と言った。
真冬は、俺と京を交互に見た後分かったといってかえっていった。
「…、クリスマス、10時に翼の家に迎えに行くから。」
真冬が見えなくなると京がそう言った。
「了解、楽しみにしてる。」
「あぁ…」
系の返事を合図に、俺たちは歩き始めた。
前回と同じように会話が途切れることはなかった。
「ただいまー」
「おかえり、兄ちゃん」
帰ってきた俺にバタバタ音を立てながら妹の若葉が出迎えてくれた。
若葉は、中学2年生で京と同じ吹奏楽部だ。
「ねぇねぇ兄ちゃんクリスマス予定ある? ってか兄ちゃん彼女いたっけ?」
質問が多い。めんどくさくなりながらも
「あー、クリスマスな」
と言いながらリビングに入る。
「うん。12月25日。」
「京と遊ぶ。彼女はいないよ。」
ソファに座る。大丈夫、京はどちらかというと彼氏だ。
彼女じゃない。ってか男じゃないしそうだよな。
でも俺は若葉の次の言葉に顔を青くした。
「えっ京さんって男だよね? クリスマスに男二人で遊ぶっておかしくない?」
若葉は何気なく言ったんだろう。でも俺にはどうも引っかかった。
やっぱり男同士って変だろうか?
大切な人に男も女も関係あるかな?
考え出したら止まらなくなりそうだったので、俺は若葉を軽くあしらって自分の部屋へ行った。
若葉の「兄ちゃんに会いたいっていう友達紹介しようと思ってたのにー」
という言葉を聞き逃していたのに気づかずに。
クリスマスまで後2日
この日は雪が降っていた。
今日は部活もなく、家でゴロゴロしていた。
部屋が暖かくなってきて、ウトウトしていた時…。
さっむー、という声とドアの開く音がした。
若葉か、あいつ部活あったんだなー寒かっただろうに…なんてのんきに思っていた時、おじゃましますという綺麗な声が聞こえた。
びっくりしすぎて漫画を落としそうになった。
まぁ俺には関係ないだろうと思って、また漫画を読み始めたら「兄ちゃーん‼︎ ちょっと降りて来てー‼︎」という若葉の声が聞こえた。
こんな寒い中うちに来ているのもおかしいのになんで俺を呼ぶ? 疑問が頭の中を埋め尽くしているのを実感しながら下に降りて行った。
「あっ、兄ちゃん来た来たー。遅いってのー、バカー。」
妹の理不尽な暴言を受けながら会いているソファに座った。
「えっとねー、兄ちゃん。この子が私の大☆親友の、天音夏。ナツが兄ちゃんに会いたいって行ってねー」
「あっ、もーうばか若葉! 自分でそこはいうからー!」
若葉の隣の天音ちゃん? が、文句を言いコホンっ、と咳払いをしギギギッとこちらの方を向く
「あの、ですね、若葉からお兄さん…翼さんの写真を見せてもらった時からですね、かっこいいと思っちゃいましてね…、あ、いや、すいません…。」
途切れ途切れにいい一回一回呼吸をし、キッと覚悟を決めた顔で俺をジッと見る。
「一目惚れしました! クリスマス、デートしてくだい…くださいませんか!」
告られた。そして、噛んだよな。
「えーと、天音ちゃん?」
「あっ、親しみを込めてなっちゃんで良いですよ‼︎」
「急だな。なっちゃん」
俺は、頭をガシガシかいた。
こんな堂々と惚れた宣言をされたのも初めてだし、ましてや、告った後デートに誘われたのも初めてだ。
「あー。一目惚れの件は置いといてデートの件は…」
「それは大丈夫よ、兄ちゃん! たぶん!」
先約があると断ろうとした時、若葉が大声をあげた。
「京さんならそこのコンビニで女の人と歩いているのを見たよ! 京さんの方にも彼女はいるのよ! だから、ナツといけるよ!」
鈍器で頭を強く殴られたような感じがした。
…京が女の人と?なんで。こんなデートの前に。
やっと自然消滅から遠ざかったと思ったのに。変だと思ったんだ。急にクリスマスデートに誘うなんて。
(別れ話だったのかなぁ。俺と別れるつもりで…?)
「…まぁ兄ちゃんナツ断られてもいいって行ってたし。急だしね。返事当日で良いから、でもちゃんと答えてあげてね!」
何も言わない俺に気を使ったのか若葉はサッサと要件を伝えてなっちゃんを送りに行った。
いつまで経っても衝撃は薄れなかったし、ため息しか出てこなかった。
クリスマスまで後1日
気分は昨日から下がりっぱなしで、部活が休みだというのにバスケをして動き回りたくて仕方がなかった。この気持ちをどうしたらいいのかわからなかったのだ。
「あー、わっかんねぇ」
俺は家を出て近くのコンビニにノートを買いに行った。
「…さっむ。」
昨日から外に出てなくてわからなかったけど最近は寒いらしい。
もしかしてホワイトクリスマスいなるかも…なんてニュースでやっていた。
リア充じゃない若葉は「寒いらしいね〜。まぁ、家にいるから関係ないけど。」とぼやいていた。
「…翼?」
京の声がした。振り向くと京がいてこっちをびっくりしながら見ていた。
「京、こんなところで偶然だな。一人か?」
「あっ…、うん。」
ちがう。絶対一人じゃない。若葉が言ってた女の人か?
そんな考えが俺の頭の中をぐるぐる回っている。
「じゃあ俺はこれで。明日、寝坊すんなよ。」
京がそういって立ち去ろうとしたとき…
「京ぉ〜! 遅いわよ、寒いから早く…」
車から女の人が出て来た。
綺麗な女の人だ。京の隣に立つとすごくお似合い。
京の方を見て怒っていたが、俺の方をみるとびっくりして立ち止まった。
「なに京、まだ別れてなかったの?」
衝撃! また殴られた気がした。
やっぱり京は別れる気だったんだ。そしてこの女の人と…。
俺の思考が結論に届きそうだった時
京が俺の腕を引っ張った。
「かおりさん、先に帰ってて。俺、用事あるから。」
京がそう言い、俺の手を引いて近くの公園まで歩いて行った。
その時、俺はもう涙目だった。
公園についても京はなにも言わなかったので、俺の方から切り出した。
「なぁ京。明日、俺と別れるつもりだったのか?」
声が震えて、涙が出て来た。京はただ下を向いている。
そこで、俺の何かが切れた。
「わかんねーよ。だまってても全然話さなくなって、自然消滅寸前の時にクリスマスデートに誘われて、嬉しかったの俺だけかよ。ばかみたいだろうが。ばか。
明日じゃなくても今、フッてくれればお前はあの女の人と…」
クリスマスデートできる。そう言おうとしたら、京に抱きしめられた。強くしっかりと。思わずぐぇって言ってしまった。
「悪い。…本当に悪い。違うんだ翼!」
声が震えてる。
「…俺、大学県外に行くんだ。さっきの人は俺が行く大学、紹介してくれたのあの人なんだ。あ、それに結婚してる…。
それで翼って、近くの大学だろ?だから遠距離になるから…。
あの人は、別れた方がいいって言ってるんだけど、」
ズズっと鼻をすする音がする。
「俺は、別れたくないと思ってる。」
はっきりと言われた京の言葉で目に溜まっていた涙が流れたす。
泣きながら、俺もだよ、ばか。と言ったつもりだが、嗚咽がひどくたぶん聞き取れていないが、雰囲気でわかったのかもっと強く抱きしめられる。
ばかじゃねーか俺。京がこんなに思ってくれているのに別れ話と決めつけて…。
ばかだ。まじばかだ。
クリスマス1日前。俺は京の気持ちを知り、一緒にいたいと思った。
ここが俺たちのスタート地点。
マイナスだった関係が0になった日
今まで話せなかった分、いっぱい話そう。
今まで笑えなかった分、いっぱい笑おう。
男同士だからとか乗り越えられる。
なっちゃんに謝ろう。ごめんって。
彼女にも素敵なクリスマスを過ごしてほしい。
きっかけはクリスマス。
絆が強く結ばれた、クリスマス前日。
この絆が途切れませんように…。
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