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第1話

 投げ飛ばされるに近い形で桜庭はベッドに背中から落ちた。反射的に閉じた瞼をすぐに開くが目の前には三住の顔が迫ってて、あっという間に唇を塞がれた。  三住の家は母子家庭で、看護師の母親は夜勤で留守だった。洗面器に手際良く金魚を移すと桜庭の手首を強く掴んで部屋へ促す。 「待ってっ、三住っ、俺……っ」  慣れた手管で桜庭は次々に服を剥がれ、力の入らない手だけがそれにブラブラと振り回される。 「無理、待てない」  耳や首筋に何度も口付けながら三住は桜庭をあっという間に裸にした。  風呂でもない限り、他人に全裸を見られたことがない桜庭はあまりの恥ずかしさに目を回した。上に体重を掛けずに跨る三住は自らもシャツを脱いで床に投げた。 「三住っ……おれ、したこと、無い……っ」 「うん」 「うんじゃなくてっ」 「俺も男とはないよ」 「どっ、どーすんの?」 「いいよ、もう」 「何?」 「お前の全身にキスしていいなら、それだけでも俺は構わない。……好きだよ、──桜」 「っ……」  涙まみれの桜庭に何度も優しく口付けて、何度も優しく抱きしめた。  三住はそれだけで十分に幸福な瞳をしていた。 「あっ、やぁ……っ」  緊張して硬かったはずの桜庭の体は、いつの間にか熱で完全に溶けきっていた。初めてされること全てに全身を朱に染めては無意識に鳴いた。 「中……っ、入ってる……、うそっ……」 「だめ? 怖い?」  必死に沸騰してしまいそうになる欲望をギリギリまで我慢させながら、三住は赤く腫らした唇が漏らす声を心配そうに伺う。髪をゆっくり撫でると涙で濡れた瞳が少しだけ開かれる。 「みすみっ……みすみ……」 「うん、うん──」  少し怯える瞳を閉じて優しいキスに桜庭は意識を寄せた。  中でまた強い刺激が走る。痛いけれど、それだけじゃない。桜庭は三住の肩に腕を絡めて繋がった場所が離れないようにしがみついた。  その後も何度も達した桜庭は、もう目を開けているのも限界で、三住が自分を呼んでいるのがわかったが、答える気力のないまま意識を無くした。  腕の中でぐったりと、でもどこか安らいだ顔をして眠る桜庭を優しく包み込み、三住は泣いた──。 「大好きだよ、桜……」 ──また、会えて良かった──。 「あーあ、本当につまらない。折角久々に美味い肝に有り付けると思ってたのに、痛みから逃れたいと思うのが本能というものだろう? わからないなぁ、人間てのは」  悪魔は退屈そうに呟いた。  この世界は思ってたより美しくて、目を開けているのも気分が悪い。  またもう一眠りするかと大きくため息をついた。 「だけどきっとまた、すぐ誰かが私を呼び起こすんだろうねぇ……何だかそんな予感がするよ。彼らにはもう二度と会わないだろうけどね……。心の強い貴方、彼との明日を選んだ貴方、どうぞ末長くお幸せに──」  

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