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はじめましての誤解から7

 クレープを食べ終わったイジュンは満足そうな顔をしている。 「お腹いっぱいになってきた。でも、日本ってすごいね。美味しいもの天国だ。食べたお店、全部韓国に持って帰りたい」  お店を持って帰るという表現に俺は笑ってしまった。でも、それくらい気に入って貰えたのなら嬉しい。 「お腹いっぱいになってきたなら、次のデザートに行こう」 「まだ美味しいデザートあるの? おかずじゃなくて」 「クレープと同じ、完全デザートだよ。ソフトクリーム」 「ソフトクリームか。いいね。俺好きだよ」  そういうイジュンの頭の中には、きっとミルクの普通のソフトクリームがあると思う。だけど浅草に来て、そんな普通のソフトクリームを食べるなんてもったいない。浅草に来たなら、浅草らしいソフトクリームを食べなくちゃ。そう思って俺は浅草ならではのソフトクリームを食べるべく歩を進めた。 「ここはね、芋ようかんソフトっていうのがあるんだ。ここのお店にしかないんだよ」 「芋ようかん?」 「んーと。ようかんって知ってる? 小豆を煮て作ったこしあんに砂糖とか入れて煮詰めたスイーツなんだけど」 「ん? パッヤンゲのことかな?」 「韓国にもある? それの芋なんだ」 「へー。そしてそれをソフトクリームにしたの?」 「そう。芋ようかんのソフトクリーム」 「それは食べてみたい」  イジュンが興味深そうに言うから、俺はソフトクリームを2個買って、ひとつをイジュンに渡す。 「このトッピングされているのは?」 「それが芋ようかんだよ。このお店は芋ようかんで有名なお店なんだ」 「へー。いただきます」  いただきます。と日本語で目をキラキラとさせて言うのはなんだか可愛かった。というか、イジュンはいつも目をキラキラとさせているんだろうか。天ぷら蕎麦を食べたときからずっと目をキラキラとさせているから。でも、いただきますって覚えてきたんだろうな。1人じゃ言うこと少ないだろうに。 「美味しい! この芋ようかん? これが甘くて、でも甘すぎなくて美味しい。これは買って帰りたいな。もっと食べたい」 「芋ようかん美味しいだろ? ソフトクリームも食べて」 「うん」  そうしてソフトクリームを舐めたイジュンは目を大きくさせた。 「芋ようかんの風味がする。パッヤンゲ味のソフトクリームなんて面白いものを日本人は考えたね。韓国では思いつかないよ。これも持って帰りたいくらいだ」  芋ようかんも気に入ってくれたみたいだけど、ソフトクリームも気に入ってくれたみたいで俺としても嬉しい。 「日本人のアイデアってすごいね。さっきの抹茶クレープもだけど、お茶を使うっていう発想がすごいよ。韓国にはそういう発想がないんだ」 「そうなんだ。さっき食べたもんじゃコロッケもそうだよ。普通はもんじゃ焼きだけを食べるのに、それをコロッケにした」 「コロッケって普通はどんなの?」 「オーソドックスなのはひき肉の入ったじゃがいもかな。でも他にクリームコロッケとかもある」 「クリーム? まさか生クリームじゃないよね?」 「まさか。そんなことはないよ。これはどう説明したらいいのか俺の英語力じゃ無理だな」 「そのクリームコロッケってどこで食べれるの?」 「普通にお惣菜屋さんで売ってるよ。珍しいものではないから」 「そうなんだ。じゃあ韓国に帰る前に食べよう。日本で食べたいものたくさんある」  そう言って嬉しそうに笑うイジュンはおそらく食べることが好きなんだろう、そう思った。 「でも、このソフトクリームはほんとに美味しいね」 「俺もこのソフトクリーム好きなんだ。日本っぽいソフトクリームに抹茶ソフトもあるけど、俺はこれが好き」 「え。日本人はソフトクリームにまで抹茶を使ったの?」 「うん。それは結構いろんなところにあるかな? お茶の美味しいところにはある。浅草にもあるよ」 「そうか。じゃあ、帰る前にそれも食べておかなくちゃ」  どうもイジュンの食べたいものリストに抹茶ソフトも入ってしまったらしい。 「ねえ明日海。俺のガイドになってくれないかな? 報酬は食べ物で。俺は英語はわかるけど、日本語は字さえ読めないし」  突然の申し出に俺は一瞬びっくりした。さっきナンパしてきて(あれは絶対にナンパだ!)流れで美味しいもの食べて貰っているけど、今だけのことかと思っていた。でも、日本では英語はあまり通じない。駅とかでは英語や韓国語で書いているけれど、他ではあまりない。それに、そう言って誘うイジュンの顔はおねだりをする犬みたいだ。 「学校の授業があるときは無理だけど、それ以外のときなら」 「ありがとう! 美味しいものいっぱい食べようね」  俺の返事にイジュンは嬉しそうな顔をする。これで、俺は東京をガイドすることになった。だって困っている人を放っておけないじゃないか。まあ数日間のことだし、いいか。

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