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いつか君を見る4
JRとバスで来ようかと考えていたけれど、考えて見たら浅草ならそれは遠回りだ。東京タワーへは地下鉄一本で行けるし、すぐだ。そんなすぐの距離だけど浅草からは建物の屋上などに登らないと見えない。イジュンはスカイツリーに行ったと言っていたから、そこで東京タワーは見ているだろう。
地下鉄の最寄り駅から歩いて10分ほどで東京タワーに着いた。
「着いたよ。東京タワー」
赤く塗られた鉄骨の塔が真上にそびえ立っている。イジュンは言葉がないのか、それをじっと見上げている。そして、しばらくしてから口を開いた。
「映画みたい。スカイツリーから見ても大きいとは思ってたけど、真下から見るとそんなものじゃないね。迫力がある」
「高さ333メートルあるからね。スカイツリーができるまでは日本一高かった」
「そんなに高いんだ。ソウルタワーと同じくらいかと思ってたよ」
「ソウルタワーは高さどれくらい?」
「239m。東京タワーより約100メートル低い。けど、山の上に立ってるから高く感じる。入り口ってここ? 展望台は?」
「うん、まずはこの中に入る」
そう言って俺は脚元のフットタウンに入って行く。中はレトロを感じさせ、土産物屋や飲食店が並んでいる。
「なんかすごくレトロ。日本の感性!」
「1958年、昭和33年に完成したからね。昭和だよ。日本が戦後から復興していく時代のシンボルだったんだよ。この形はエッフェル塔を参考にしてるって言われてる」
「うん。パリには行ったことないけど、写真で見るエッフェル塔によく似てる。でも、可愛いけど格好いいな」
「色は”国際航空障害標識”のルールで赤と白に塗り分けないといけないっていう決まりがあるらしいんだ。だからこの色なんだって」
「なるほど。実用的だったんだね」
そう話しながらエレベーターに乗ってメインデッキへと向かう。登り切ったガラス張りの展望台で夜景を見下ろす。
「すごい、綺麗。どこまでが東京なんだろう」
「どこだろうな。暗いとわからないな。でも、晴れてれば富士山が見えることもあるよ。あっちが新宿で、こっちがお台場。あの辺が皇居」
そう言って俺が指指してゆっくりと説明すると、イジュンは黙って聞いていた。イジュンの横顔に夜の明かりがちらちらと映っている。
「夜の東京ってこんなに綺麗なんだ……」
「イジュン、こっち来いよ」
俺は少し離れたところからイジュンを呼ぶ。すると、なに? と言いながらイジュンは俺のところへと来る。
「足元見てごらん」
「足元? うわっ! 真下が見える! 怖い!」
イジュンが騒ぐのを俺は笑ってみていた。そこはスカイウォークウィンドウで足元がガラス張りになっているから地面がまんま見える。
「昼だともっと怖いぞ」
「そりゃそうだよ。高所恐怖症じゃないけど、これは怖い」
そう騒ぎながらも、写真を撮っている。フィルムカメラって夜景は綺麗に撮れるんだろうか? デジタルでも難しいから、フィルムだと無理なんじゃないかと思って、俺はイジュンが写真を撮ったところを後からスマホで撮っていった。
「あのー」
そんなふうに写真を撮っていると、イジュンがカップルに声を掛けられていた。どうやら写真を頼まれたようだ。カップルは夜景を背に立ち、写真を撮っていた。そして、しばらくするとイジュンがにこにことして俺の方に来た。いや、にこにこというより、にやにやか?
「どうした?」
「んー。素敵なカップルですねって言われた。だから、ありがとうございますって言った」
「ちげーし」
カップルに間違われたってことは俺のこと、女だと思ったのか? なんだかそれは嬉しくないけれど、何か胸に引っかかる感じがした。
「それより、ここはメインデッキ1階だけど、この上にメインデッキ2階があるぞ」
「行ってみたい」
そう言って俺たちはエレベーターで上へと登った。メインデッキ2階は夜景を楽しむというよりも、お土産屋があったり、ポストがあったりする。イジュンはそんなところも楽しんでいた。
「郵便ポストがある! 韓国にはもうないのに。あ、お土産買いたい。東京タワーに登ったっていう記念に」
しばらく店内を見ていたが、イジュンが俺を呼ぶ。手には東京タワーのチャームが着いたストラップだった。
「明日海。これ、お揃いで買おう。って、お金は俺が払うけど。ガイドさんしてくれてるお礼」
「お礼でお揃い?」
「そう。イヤ?」
不安そうな顔をして俺を見るイジュンに、俺はつい笑ってしまった。
「じゃあ買って貰うよ」
俺がそう言うとイジュンは嬉しそうに笑う。
「じゃあ俺がブルーで明日海は白ね。買ってくる」
足取りも軽くレジへと行き、小さな袋に入れて貰って戻ってきた。
「はい。明日海はこっち」
「ありがとう」
お揃いだというそれが、なんだかくすぐったく感じた。
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