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勉強と兵役と3

 イジュンが生クリームをすくって食べているのを見ながら、俺はなんとなく気になっていたことを訊いた。大学のことだ。 「イジュンの出た大学ってどんなところ?」  そう訊いた俺にイジュンはぱくりと生クリームを食べてから、ちょっと考えるように視線をあげた。 「うーん。そうだな、大きいよ。そして韓国では難関校って言われてる」 「すごいよね。頭良いんだもん」 「まぁ韓国ではね。英語は、授業が英語で行われるのもあるから、ある程度はできるようになったよ」 「へー。それでもすごいよ」 「でも、毎日がサバイバルみたいな感じだった。勉強も厳しかったし、あまり遊んでばかりもいられなかった。あ、でもちょっと息抜きできたのはトウミかな」 「トウミ?」 「そう。語学留学生のお手伝いをするの。語学堂があるから語学留学生が多いんだ。そして留学生から色々な話しを聞けるのは楽しかったよ」  その言い方がとても自然で、なんか変に関心してしまった。語学堂。なんだか楽しそうだ。日本の大学には、語学堂っていうのはないからわからないけど、キャンパス内に留学生がたくさんいるのは楽しそうだ。 「楽しそうだな」 「うん。トウミをしてるときは楽しかった。でも、それ以外のときは勉強ばかりしてた。いつも試験のこと考えてさ。気を抜くと置いていかれちゃうから。あと、普通はさ、大学在学中に軍隊に行くんだ。でも俺は勉強を途切れさせたくなくて卒業後に行った。勉強は大変だったけど妥協はしたくなかったんだ」  その声には、どこか疲れが混じっているようだった。多分、大学時代を思い出しているんだろう。でも、そうなるほど勉強頑張ってたってことだ。それはすごいな、と思った。 「彼女とか、いた?」  勉強ばかりしていたというのに、意地悪な質問だ。いなかったと返事が返ってくると思いきや、イジュンは不意をつかれたように一瞬目を見開いて、それから苦笑いしながら言った。 「いたよ。一応ね」  いなかった、と返事が返ってくるかと思ったのに、返ってきた答えは”いた”だった。でも、一応というのが気になった。 「一応ってなんだよ」 「うーん。確かにいたんだよ。付き合ってはいた。でも、じゃあほんとに好きだったかって訊かれたら、多分、違うと思う」  あっけらかんと言うその口調に、俺は思わず口を尖らせて言った。 「それ、結構酷いこと言ってるぞ」  そう指摘すると、イジュンは苦笑いを浮かべた。自分でもそう思っているのだろうか? 「そう思うよ。でも、なんか周りがみんな恋愛してたから、自分もそうしなきゃって思ったのかもしれない」  答えながら、コーヒーカップの縁を指でなぞるその指先が、どこか少し寂しげに見えた。きっと、その頃はイジュンは優等生でいなくちゃっていう意識の方が強かったんじゃないかな。なんだかそんな感じがした。だから自分の気持ちには蓋をしていたのかもしれない。そう思うと、意地悪で訊いたことに胸がちくりと痛んだ。でも、イジュンの言うこともわかるんだ。 「そんなものなのかな、大学の頃って」  俺がぽつりとそう言うと、イジュンは肩をすくめた。 「かもしれないね。でも、今思えば、もっと自由にやっておけば良かったって思うよ。日本に来てから、少しずつそう思うようになってきた」  その言葉は、どこか今の自分に向けられているようで、俺は視線を外した。大学生は思いも掛けず、難しい年頃なのかもしれない。

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