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すれ違いの再会5

 昼を食べ終わると外へ出る。外は高いビルで一杯だ。東大門って市場のあるところだと思ったけど違うのかな? 市場と言うとアメ横を思い出す俺は、市場というと露天が出ているところというイメージだ。少なくともビルというイメージはない。このビル群は市場とは関係ないビルなのかもしれない。 「イジュン。市場はどこなの? 東大門って市場のあるところでしょう?」 「もう来てるよ。ここも市場だ」 「え。でもビルが……」 「うん、市場のビル。洋服とか服飾系が多い。安いよ」  ビルが市場の一角というのに驚いた。 「ビルは普通のビルと違って24時頃までやってる」 「そんなに?」 「そう。ソウルは夜が長いからね。なにか見たいものはある? ビルによってはTAX FREEがあったりするからいいんじゃないかな。あ、でも航空券もなにも持って来てないか」 「お財布しか持ってきてないよ」 「だよね。急かしたのは俺だ」 「でもいいよ。初日から買い物はしないから。それに買い物しに来たわけじゃないから」 「そうだよね。恋人に会いに来たんだもんね」  そう言ってにやにやするイジュンに俺は恥ずかしくなってそっぽを向く。 「将来のためだよ」 「えー。素直じゃないなぁ」  こいつ、1回黙らせたい。イジュンに会いたかったのは嘘じゃないけど、それだけのために来たわけでもない。将来の下見だ。お店を出すソウルがどんな街か知らないし、チキン屋がどれほど多いのか、クレープ屋がそんなにないのか。立地はどこがいいのか。立地はチキン屋とクレープ屋のどちらにするかでも変わってくるだろう。チキン屋なら会社が多く集まっているところか住宅地がいいだろうけど、クレープ屋だと自然と若い女性がターゲットになるから、若い女性が多く集まるところがいいだろう。 「冗談抜きに将来の話しするぞ」 「わかったわかった。でも、今は観光ガイドさせて。東大門はソウルでも大きな市場だから」  確かに着いてすぐなんだから、少し観光モードでもいいか。それに、将来ソウルに住むんだとしたら、東大門がどんなところか知っておいて損はない。イジュンはビル群の中をすいすい歩いて行く。 「じゃあ話しは夜な。市場ってやっぱり特色あるの?」 「あるよ。東大門市場は衣類、手作り用品、韓服、婚礼用品が多い。ハンドメイドをする人には欠かせない市場だね。韓服は他の市場にも扱っているところはあるけど、婚礼用はここが有名だな。今からそう言ったところに行く」 「婚礼用品って?」 「布団類をはじめタンスとか鏡台とかの家具類。あとは結婚式できる韓服。韓服は新郎新婦が着るものはもちろん、新郎新婦の両親が着る韓服もある。その他にも婚礼で使うものなら小さなものでも扱ってるよ。俺たちが布団を買うときはここで買おうか?」 「馬鹿! なに言ってるんだよ。俺たちと婚礼用品は関係がないだろ」 「なんで? だってそれと似たようなものじゃん?」 「頭沸騰してるな」 「してないよー。だって寒いもん」  確かに寒い。でも、真剣に話していたのに、どうしてそうなるかな? イジュンの冗談と本気がよくわからない。 「俺は真面目に話してるんだぞ」 「うん。俺も真面目に話してる」  と真面目な顔をされると、もうどう言ったらいいのかわからない。確かに俺とイジュンは恋人同士だ。それは日本でのあのときから変わらないらしい。でも、同性だから結婚なんてあり得ないし、男同士で婚礼用品の店はあり得ないだろう。真面目に話しててなんでそうなるかな? 「正直言うと韓国は日本よりも同性愛者の肩身って狭いんだ。市民権なんて全然ない。日本ではウエディングフォトなら同性同士でも撮れたりするんでしょう? だけど、韓国にはそういったものはないんだ。だけど、俺は明日海のこと本気で好きだから、今だけじゃなくて将来もずっと一緒にいたいと思ってる。明日海が女性ならプロポーズしてるよ。それくらい本気。だから婚礼用品も無関係ではない。わかる?」 「でも、市民権ないなら潜ってなきゃだろ」 「だけど、布団くらいいいじゃん」 「どんな顔して行くんだよ。自分たちが使うなんて言えないだろ」 「そしたら結婚する兄弟に贈るって言えばいい」  そう言われたら確かにそう言って買うのはありかもしれない。悔しいけど、口でイジュンには敵わないらしい。やっぱりそこは頭がいいからだろうか。 「まぁ、今日は観光としてね。こんなところもあるよって。布団の話しはまたあと。今日はここを見て、夜は|広蔵市場《ぐぁんじゃんしじゃん》で食べよう」 「観光に関しては任せるよ」 「うん。一般的な観光と将来的なのとちょっと混じるけどね。今日は一般的な観光。将来の話しは夜にね」  と言って今日のスケジュールが決まった。

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