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第三章 『恋人としたいこと◯か条』ー6
「……まぁ、二、三回くらいだけど」
答えるのに少し間があった。その間に彼は何を考えたのか。
(っていうかっ学校外でも会ってたんだっ学食かカフェしか行ってないみたいな言い方だったのにっ)
だから今間があったのかも知れない。ちょっと面白くない気持ちになったけど、もちろん顔には出さない。
「あ、そうなんですね」
そう相槌を打ったものの次の言葉が出てこない。
その時。
「お待たせしました〜」
という高いトーンの声が頭上から降ってきた。
「唐揚げと海鮮ピザでございます」
ドンドンとテーブルの上に置かれる。
(天の助け! グッドタイミングだよ、お兄さん!)
僕は心の中で拝んだ。
「あ、すみません。ウーロンハイを。温くんは?」
先に来ていたグレープフルーツサワーはサワグラの四分の一になっていた。気づけば僕もほとんど残っていない。
「じゃあ、オレンジジュースを」
「はいっよろこんで!」のかけ声と共にスタッフは去って行った。
「美味しそうっ食べましょうか」
さっきまでのことはなかったことにした。陸郎も何も言わずに軽く微笑んで手を伸ばした。
「あ〜もう僕お腹いっぱいですよ」
陸郎の隣を歩きながらお腹を擦る。
午後十時を回り僕らは居酒屋をあとにした。ちょうどよいバスがなく徒歩で帰ることにした。
ぽつんぽつんと話しかけながら僕は考える。
(手を繋ぐ? 腕を組む? どうやろうかな。ノリで腕を組んだほうが簡単かな? 手を繋ぐほうがハードル高そう)
僕は腕を組む機会を伺っていた。駅近くは明るく人も多いのでさすがに無理かと思う。住宅街になると格段に暗くなり、時間帯もあって歩いている人もまばらだ。
歩いて三十分弱。そろそろ陸郎の自宅近くだろうか。正確な場所はわからないけど、僕の家よりも駅から手前だということだけは知っていた。
「松村さんの家って何処なんですか? 僕んちより手前にあるんですよね?」
「よく知ってるね」
何故知ってるかって? それは優雅と家の前で別れた陸郎が来た道を戻って行くのを見ていたからだ。
そんなことは言えるはずもなく「ふへへ〜」と変な笑いで誤魔化した。
陸郎が百メートルくらい先を指差す。
「あそこの街灯の下を右に曲がるんだ」
そう言われて焦る。
(あともう少ししかないっ)
僕はさっと辺りを見渡した。運良く近くには誰もいない。
「松村さんっ今日楽しかったです。また一緒に行ってくださいねっ」
軽い口調でそう言って、さっきから時々ぶつかり合っている陸郎の右腕を軽く掴み「えいっやーっ」という勢いでその腕に自分の左腕を絡ませた。
腕を組むというよりは縋りついたという形が近いかも知れない。
(あ〜お酒で飲んでたら酔った勢いって形でもっと楽にできたかも、なんだけどー)
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