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第六章『涙のバースデイ』ー7

「なんだ、オレと相合傘できて嬉しいのかと思った」    変なこと言ってくるので、 「そんなわけないでしょ」  さも嫌そうにと言い返したら、ちょっと真顔になった。 「そりゃあ、残念」 (あれ、なんか雰囲気が。悪いこと言っちゃったかな)  なんとなく気不味くなって黙りこんだ。ああ、やっぱり肩濡れてると思い始めた頃、洸のほうから話しかけてきた。 「『セレニタ』もう行ったの?」  特に気不味げな様子もなく話題を振ってきたことにほっとする。 「あ、まだです。今度の土曜日に予約してあるんです」 『セレニタ』は洸の最寄り駅から十分ほど歩いたイタリアンレストランだ。誕生日ディナーを何処にするかを悩んでいた僕はたまたま更衣室で一緒になった洸に何気なく訊いてみた。  ちょっとちゃらそうだけど、イケメンで意外に気遣いのできる優しい男がモテないわけがないと考えた。経験豊富そうを装っている僕とは違って本当に経験豊富に違いない、きっとお洒落なレストランを知っているだろうと勝手にふんでいた。予想通りいろいろ教えてくれた中で彼が一番のお気に入りだという『セレニタ』に決めたのだ。 「彼女?」  そう言いながらにやにや笑っている。 「違いますよ」 「じゃあ、家族とか?」 「それも違います」  洸は首を傾げたが、何か思いついたのか「あ」と小さく声を上げる。 「もしかして……この間、大学のカフェで会った……」 「そうです」  言い当てられて思わず素直に答えてしまった。ここで誤魔化したほうが良かったのだろうかと言ってしまってから思った。 「え? ほんとに? 確か誕生日ディナーだったよね? コースで頼むって言ってたよね? けっこうお高いのに」 (あ〜そんなにつっこんで聞かないでくれ〜)  しかし彼は興味津々だ。 「どういう関係なの?」 「兄の……友だちですが、僕もお世話になってます」  ロボットのように棒読みで、小さく答えた。 「ふぅん」  僕の説明に納得いかないような顔をしている。 「ずいぶん仲良さそうだよね。『あーん』とかしてたし」 「んん?」 「実はあの後も二人でいるの何度か見かけた」  まさか見られていたとは。どう誤魔化せばいいのか悩んでいたらちょうど駅に到着した。 「あ、駅に着きましたよ、傘ありがとうございます」  手を差しだすと洸は丁寧に畳んで渡してくれた。 「こちらこそありがとう」  それから僕の顔をじっと見て。 「温くんさぁ……」  と言ったけど。 「あ、やっぱ何でもない」  自分で解決して終わった。ありがたいことにさっきの話にも戻らなかった。  電車では一駅だけ同じだったけどバイト先の話を楽しくして別れた。

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