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第十章『彼氏になったらこんなに甘々になるなんて聞いてません!』ー1
僕と陸郎が『恋人ごっこ』改めて、『恋人同士』になってから、ひと月が過ぎた。
季節は冬になっていた。
「この間も大学で二人でいるの見かけた、上手くいってるみたいで良かったな」
「あ、見てたんですか」
「偶然! ――なぜかよく見かけちゃうんだよなー」
心なしかしゅんとしている。
大学では洸とはあまり遭遇しなくなり、バイト前や後の更衣室で偶然会った時に話をするだけになった。
陸郎と会わなかった期間、彼と過ごすのはすごく慰めになった。
僕のことを好きでいてくれる彼に陸郎とのことを報告するのは少し気まずかったが、軽い修羅場になったことを考えても、何も言わないわけにはいかなかった。
彼は「おめでとう。良かったな」と微笑んで言ってくれた。
「あの人前より大学来てない?」
もう既に着替え終えて、二人で更衣室の真ん中にある長椅子に座っている。
「そうなんですよねー。授業のない日も来てるんです」
「あ、そうなんだ。なんか意外だよな」
彼は実に清々しい顔をしている。
もう僕のことはなんとも思っていないのかもしれない。それだったらいい。僕が言うのもおこがましいが、彼には幸せになって貰いたい。
「本当に洸くんにはいろいろと甘えてしまって……」
「おっどうした、急にあらたまって」
もう一度、改めて彼にお礼を言いたくなった。
「ありがとうございました」
座ったままだけど、隣に座っている洸に向かって丁寧にお辞儀をした。
「なんの礼かわからないけど。オレ、お前のこと諦めたわけじゃないから」
「え?」
驚いて顔を上げると、洸がめちゃめちゃいたずらっぽく笑っていた。
「あの人とまた何かあった時には攫っていこうと隙を狙ってるんだ。だから何かあったらオレに泣きついて?」
イケメンがイケメンなことを言っている。
(洸くん、まだ僕なんかのこと……)
「僕が言うことじゃないですけどっ。洸くんには僕なんかよりもっと素敵な人を見つけてくださいっ!」
力説してしまった。
洸はちょっと困った顔になって。
「そうだなー、お前がずっと幸せだったら――そのうちには、ね」
かっこよすぎて心の中で、だーっと涙を流した。
「あ、僕もう行かなきゃ」
更衣室の壁にある時計を見て、急に我に帰る。
「お迎え?」
「あ、うん」
今の話の後で見せつけるようなのもどうかと思って、軽く頷いて立ち上がった。
「お疲れ様です」
「お疲れ〜」
洸は小さく手を振っていた。
いつものように裏口から出ると、敷地の外にある街灯の下に人影があった。僕はその人影に向かってパタパタと走って行く。
「お待たせしました」
「お疲れ様、温」
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