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短編
俺の友人の海霧 は、いわゆるイケメンでカッコイイ。
そんな海霧の隣にはいつも、海霧の大親友であり可愛い容姿の陽那樹 がいる。
陽那樹は女だらけの実家に居場所がなくて、全寮制の男子校に進学したそうだ。
そしてそこで海霧と知り合い、お互いの部屋に入り浸って、青春時代をなんでも一緒に過ごしたらしい。
だからか、普通以上に二人は仲が良い。
仲が良いというレベルではなく、距離感がバグっている。
ある日、いつもぽわぽわしている陽那樹がいつも以上にぽわぽわしていたのに気づいたのも、当然海霧だった。
「おい陽那樹、ちょっと顔が赤くないか? 熱がありそう」
「うーん、大丈夫だと思うよ? 喉とかも痛くないし」
海霧は陽那樹の前髪をそっと持ち上げ、こつん、とおでこをくっつける。
今にも唇がくっついてしまいそうな距離に違和感を覚えることもないのか、陽那樹はそれに驚くでもなくなされるがままじっとしていた。
「……うん、やっぱり熱ありそうだな。今日は早退しよう。俺も付き合うから」
「一人で帰れるからいいよ」
「だめ。熱がある陽那樹は色っぽさが増すからな」
「なんだよ、色っぽさって」
あはは、と陽那樹は無邪気に笑うと、海霧はじと、と陽那樹を見つめる。
「じゃあ、保健センターで休ませて貰うから、講義が終わったら一緒に帰ろ?」
「ああ。陽那樹、絶対に一人で帰るなよ」
「うん、わかったって」
「待て、防犯ブザー持っていけ。保健センターで襲われそうになったら、すぐに鳴らすんだぞ」
「銀行でもないのに、襲われることなんてないよ」
その日二人は、仲良く手を繋いで帰っていった。
またある日のこと、俺とその二人を含む仲良し四人組で帰りにファストフード店に寄った時のことだ。
「陽那樹、口元にソースついてる」
「え、どこ」
自分で拭こうとして紙ナプキンを掴んだ陽那樹がそれを口元へ持っていく前に、海霧の手が伸びる。
「ここ」
海霧はぐっと親指で陽那樹の口元についたソースを拭うと、陽那樹をじっと見つめたままその指をペロリと舐めた。
「ありがと〜」
よくあることなのか、陽那樹はその仕草になんの抵抗も見せずにこっと笑ってお礼を言った。
電車を使う時、海霧はいつも陽那樹を座らせて自分は隣に座るか、陽那樹の前に立つ。
二人で立つ時はいつも陽那樹を守るように海霧が壁になる。
バスケサークルで良いプレイが出来た時、俺が陽那樹の肩に手を回すと、海霧がその手をはたき落とす。
「……っていうの、やっぱりおかしくない?」
「そうかな。でも、どうしていきなりそんなことが気になったの? もしかして育 、二人のどちらかが気になってるとか?」
あらぬ疑いを掛けられそうになり、俺は慌てて首を横に振る。
「いやまさか。もしかして付き合ってたりするのかなって、単に二人の関係が気になっただけ。でも、海霧の片想い止まりな気もするし……」
十中八九、海霧は陽那樹のことを好きな気がする。
あの独占欲が単なる親友に向けられるものだとしたら、逆にある意味ヤバイ。
「へえ。でもさ、そう思っているなら陽那樹の肩に手を回すのは駄目じゃない?」
「確かに、悪かったかな。でもその場の雰囲気とか盛り上がりとか、あると思わない? ほら、狼 とは普通にするからついあいつらにもしちゃうんだよな〜」
ちなみに海霧本人の肩に手を回しても、叩かれることはない。
自分がされるのは大丈夫なようだ。
ただ、狼のほうを見て嫌そうに顔を顰めるだけだ。
そいやなんで、狼のほうを見るんだ?
「いくら友達でも、僕にしてることをそのまましちゃ駄目だよ」
「まぁね。大丈夫、それくらいはわかってる。……ところでさぁ、狼。雨が凄いから、カラオケでも寄ってく?」
「いいね、そうしようか」
俺は親友の狼とカラオケで雨宿りをしようとした、のだが。
「うわ、狼! なんでそんなに濡れてるんだよ!」
傘を忘れた狼と一緒に、俺の傘で二人並んで帰っていたのだが、傘を持っていた筈の狼が身体半分以上濡れていることに気づいてビビる。
びしょ濡れのまま入れば、店に迷惑をかけるかもしれない。
そう思って、カラオケに入店しようとした狼の腕を引っ張る。
「育?」
「そのままじゃ風邪ひくだろ」
俺はスマホで空き状況を確認すると、カラオケ店の斜め向かいにあるレンタルルームに躊躇なく入った。
「ほら、さっさとお湯溜めて、先にあったまって」
「育も一緒に入ろうよ」
「俺はそんなに濡れてないし、一緒だと狭くないか?」
「ここの風呂大きいし、別々は寂しいよ」
「ん、わかった。じゃあ一緒に入ろっか」
俺たちは服を脱ぎ、ハンガーに掛けた。
お湯を溜めながら身体を温め、狼の腕に触れる。
冷えていなくて、ホッとした。
狼はにっこり笑うと、俺に尋ねる。
「育、今日も抜き合う?」
狼に問われて、頷く。
オナニーは一人でするより、狼としたほうが何倍も気持ち良い。
半年前くらいにそれを狼から教わってから、一人でシコることが激減した。
「する。二日空いたから溜まってんだよな」
「じゃあ、僕の上に跨って」
「ん」
狼のほうが身体が大きいので、兜合わせをする時は大抵俺が狼の上に跨る。
狼の大きな手が二本のペニスを包んだところで俺は狼の首に両手を回し、しがみつくようにしてバランスを取りつつ腰をゆるゆると振った。
「ん……♡、は、ぁ♡」
瞳を閉じて、快感を追いかける。
セックスをしたことはないが、他人にちんこを扱かれるだけでこんなに気持ち良いのに、まんこに突っ込んだらどれだけ気持ちが良いのだろうと、期待と妄想を膨らませる。
好きな子がいないので、まだ予定は未定だが。
「育、気持ち良い?」
「ん♡ 気持ち、い……っ♡♡」
ちゅう、と狼にキスをされ、仕方なくそれを受け止めた。
半年前、キスはお互い好きな子のために取っておこうと話した筈なのに、狼はそんなルールをすっかり忘れてお構いなしにしてくる。
ファーストキスを奪われ、心の中で泣きながら「今のはノーカンな」と言ったのに、結局セカンドキスもその次もその次も狼にされて、もう諦めた。
いちいちキスするなと言うのも、気分が盛り下がることだし。
恐らく狼は、気持ちが昂るとキスをしたくなる体質なのだろう。
狼の掌の中でお互いの性器を擦り合わせれば、あっという間に射精感が高まっていく。
「……っ、狼、も、イきそ……♡」
「あと少し、待って、育。一緒に、イこ……っ」
ぬちゅぬちゅ、といういつもの水音の代わりに、湯船の中の湯が飛沫となってパシャパシャと弾けた。
「ぁ♡ 早く♡ も、限界……っっ♡」
「育、育……っっ!」
限界だと言っているのに、狼は俺の首をべろりと舐めあげ、その舌先を耳にねじ込む。
くちゃくちゃ♡ と耳の中を犯され、俺の我慢はピークに達する。
「んあ♡ それ駄目っ♡ イく、イくぅ……っ♡♡」
「僕も……っ」
俺たちは同時に、湯の中に白く濁った欲を放った。
半年前、俺が学校のトイレでシコっているのを気分が悪いと勘違いして狼が突撃してきたのをきっかけに、俺たちはこうして抜き合いをする関係になった。
男友達相手に不健全かもしれないが、性欲のありあまった寂しい非リア充な独り身としてはごく健全な流れだったと思う。
まぁ、見つかったのも相手してくれたのも狼で良かった。
シモの処理まで一緒に出来る親友なんて貴重だ。
だから先ほどの、「いくら友達でも、僕にしてることをそのまましちゃ駄目だよ」という狼の言葉は確実に、この行為を指しているのだと思う。
はぁ、はぁ、と息を整えている俺の身体に、狼はキスをする。
最近の狼は乳首を吸うのが好きみたいで、ちゅうちゅうと俺の乳首に吸い付きながら、もう片方の乳首を優しくカリカリ♡ と指で引っ掻いた。
「ん……っ♡」
「気持ち良い? 育」
俺はこくりと頷く。
以前はくすぐったいだけだったのに、最近では狼に触れられるところからじんとした甘い痺れが広がるようになってしまって、少し戸惑う。
「身体軽く洗って、出よう。のぼせるぞ」
「うん、そうだね。ねぇ育、出たら続けてもいい?」
一度放ったはずの狼のちんこは、再び大きくなり太さも強度も取り戻していた。
「ああ、いいよ、わかったから」
「ふふ、やった」
二人で風呂からあがり、狼が俺の髪を乾かす。
俺が横になると、狼はいそいそと自分の鞄の中からローションを取り出した。
俺は二度くらい出せば満足するのに、狼は絶倫だ。
狼は「前立腺を弄れば、また育も大きくなると思うよ」と言い、兜合わせを付き合わせるためだけに、俺の尻穴を弄っては俺の息子を元気にしまくるのだ。
他人の尻に指を入れるなんて、よくそんなこと出来るなと呆れを通り越して感心する。
俺には絶対出来ない。
「育、アナルも綺麗だね」
「……ん♡」
ローションを纏った狼の指がにゅるり♡ と俺の尻に挿入される。
今では毎回これをされるので、狼のために尻穴を常に綺麗にしておかなければならないのだ。
それだけは、面倒。
狼は慣れた手付きで俺の尻穴を探り、気持ちの良いところをトントン、と刺激する。
「は♡ んあ♡」
「育のここ、ぷりぷりに育ったね。気持ち良い?」
「ん♡ 気持ち、良い……♡♡」
初めての時は異物感が凄かったのに、今となってはこれが癖になっている自分がいる。
「育、もっと太くて硬いもので、ここズリズリされたくない?」
されたい。
されたいけど、それをされたら、もう彼女なんて作れなくなってしまう気がする。
だから、無視するので精一杯だ。
「今日もだんまりかぁ。でも前は首を横に振ってたのに、それをしなくなっただけ、大進歩だよね」
狼は嬉しそうに言いながら、指は容赦なく俺の尻穴を攻め続けた。
ぐち、ぐち、ぐちゅ♡♡
いやらしい音が、部屋に満ちる。
「ほら、ぢゅぽぢゅぽされて気持ち良いって、育の可愛いおちんぽは喜んでるよ」
「ん♡ ぁあ♡」
狼の言う通り、ぐったりしていた俺のペニスが、尻穴しか弄られていないのにもかかわらず、元気を取り戻していく。
刺激を追いかけてヘコヘコと腰を動かしてしまいそうなタイミングで、狼にちゅぽん♡ と指を引き抜かれて、落胆した。
「あぁ……」
「よし、元気になったおちんぽ、また一緒にスリスリしようね」
狼は仰向けになっている俺の上に覆いかぶさると、自分の身体を倒して、ずり、ずり、と下半身が密着するように動き始めた。
「狼、狼……っ♡♡」
二人の身体に挟まれたお互いのペニスが擦れ合って、気持ち良い。
手で扱くよりは緩やかな刺激だけど、達するための短距離走というより、快感を長く追い続けられる長距離走みたいな感じで、心が満たされていくような気がするのだ。
「育、こっちも一緒に気持ち良くなろうね」
「ぁ♡ それさあ、ヤバいんだって……♡♡」
性器を摺り合わせつつ、俺のお尻ににゅぷぷ♡ とアナルプラグが差し込まれた。
最初は細かったプラグも徐々に太いものへとかえられ、今ではプラグと腹ごしにペニスで前立腺を挟まれ圧迫されるこの快感が病みつきになってしまっている。
「でも育のアナル、期待で入り口がヒクヒクしてるからさ」
「んっ♡ も♡ 変になる……っ」
俺たちはこの日も、たっぷり二時間、抜き合った。
***
「あー、すっきりしたらお腹すいた!」
汗と精液まみれの身体を流すためにもう一度シャワーを浴びて、服を着る。
気付けば窓の外は晴れ間が広がっていて、もう雨は止んでいた。
通り雨の、一番激しい時間帯に帰ろうとしてしまったようだ。
「育の好きなチョコバーあるけど、食べる?」
「うわ、さんきゅ! あのチョコバーさ、売ってる店近くになくていつも探し歩いているから、マジ嬉しい!」
狼が手渡してくれた俺のお気に入りのチョコバーは、ナッツとドライフルーツがぎっしり入っていて腹持ちも抜群に良い優れものだ。
「あれ? 狼は食べないの?」
「僕は今はいいや」
「そう? なんか悪いな」
「お腹空いてないだけだから」
「えー、そっか。ファストフード店に誘おうと思ったけど、また今度かー」
「それは行くよ」
「え、お腹空いてないんじゃないの?」
「ポテトは別腹」
「なんそれ」
俺と狼は、大学のキャンパスの最寄り駅から真逆の方向に家があるので、基本的に一緒に行動するのは最寄り駅までだ。
勿論、一人暮らしをしている狼の家に遊びに行くときは別だけど。
半年前にえっちな遊びを覚えてしまってから、自然と狼の家へ泊まりに行く頻度はぐっと増えた。
狼の家に行くと、実家は楽だけど、早く俺も一人暮らしをしたいなーと思ってしまう。
狼の家には俺の荷物がどんどん増えていっていつでも泊まれる状態だから、それに甘えすぎるのも良くないと思うし。
「だって今日は、うちに来られないんでしょう?」
「ああ、妹が俺の髪を切りたいんだって」
「美容院の専門学校に行ってるんだよね」
「そうそう。俺は特にこだわりないし、カラーも適当にやってくれるから楽だよ」
「僕は床屋しか行ったことないからなあ」
「今度狼もやってもらう? 練習台だけど、結構上手いよ。話してみよっか?」
「いや、僕はいいよ、大丈夫。それより、明日はうちに来られるの?」
「狼がいいなら、遊びに行くよ」
そろそろ試験も近いから、妹と母親がずっと話している声が延々と響く実家より、狼の家のほうが集中して課題が出来る。
狼は頭がいいから色々教えて貰えるし、気持ちイイこともできるし、キャンパスからも近いから一石四鳥だ。
「そっか、楽しみにしてる」
そんな話をしながら、俺たちは駅へ向かって歩いた。
***
「……あの二人、今ラブホ代わりで有名なレンタルルームから出てきた?」
「ああ、出てきたな。雨宿りでもしていたんじゃないか?」
「あ、そっか」
大雨から避難していた喫茶店の入口で、僕と海霧は顔を寄せ合い、ヒソヒソ話をした。
二時間前まではバケツをひっくり返したような大雨が降っていたけれども今ではすっかり止んで、道に大きな水たまりが残っているだけだ。
前を歩く親友二人に声を掛けようとして、やっぱりやめた。
二人きりの時、どうも話し掛けにくいムードを作っているのだ。
なんとなく、邪魔かなと思わせるような雰囲気というか。
一際大きな体格だけど優しく穏やかな性格の狼牙 と、ジェンダーレスを代表するようなお洒落美人である育真 の後ろ姿を眺めながら、僕たち二人はその数メートル後ろを離れて歩く。
「あのさ、海霧。狼牙は育真のことが好きなんじゃないかなーって思う時ってない?」
隣を歩く海霧にしか聞こえないような小さな声で、今までずっと思っていたことが口をついて出た。
「……へぇ、なんで?」
海霧の返事に、僕は二人を小さく指差す。
「最近気づいたんだけど、二人が歩道歩く時はいっつも狼牙が車道側なんだよ。ほら見て、今通った車の水ハネからさりげなくかばって、狼牙のズボンが濡れたし」
「うわ、泥ハネすげぇな」
「あの二人が先に帰る時、狼牙が傘忘れたから一緒にいれてって育真に言ってたんだけど、狼牙の鞄にはいつも折り畳み傘が入ってるはずなんだよね」
「狼牙は事前準備九割の人間だからな。それなら誰かに貸した、とか」
「そうかもしれないけど」
僕は、育真と相合傘がしたくてそう言った確信犯なんじゃないかと思っている。
「他にもまだあるんだよ。狼牙はいつもお菓子なんて食べないのに、育真が好きなお菓子だけはいつも持ち歩いているの、知ってる?」
「ああ、あのチョコのやつな」
「そうそう! あれって絶対、育真のために買ってる気がするんだよね。狼牙がひとりであれを食べているところ、まず見ないし」
「まあ、それはそうだろうな。あれって、売ってる店が少ないって育真がぼやいていたしな」
同意してもらえたのが嬉しくて、僕はつい「だよね!」と声を大きくしてうんうん頷いた。
「ところで……陽那樹はそんなことに気づけるほど二人をよく見てるみたいだけど、狼牙と育真、どっちを見てるんだ?」
二人の距離感は相変わらずバグっているなぁと思いながら眺める僕に、海霧が尋ねる。
「ん? どっちって?」
どっちかが視界に入れば、当たり前のようにもうひとりが入ってくるだけだけど、と僕は首を捻る。
「狼牙が育真を好きだとして、何か陽那樹に関係あるのかって話」
海霧に問われ、僕は首を振った。
「ううん、ないよ。ただ二人が付き合ってるなら、知りたいなーって思っただけ」
「男同士の交際については、なんとも思わない?」
「うん、別に。男だろうが女だろうが、好きになった人と付き合えばいいんじゃない?」
僕がそう言うと、海霧はホッとしたような表情を浮かべた。
もしかして、海霧は二人がどういう関係なのか実は知っていて、僕には内緒にしていてくれと言われているのじゃないだろうかと、つい勘繰ってしまう。
それは、仲間はずれにされたみたいで物凄く寂しい。
「なら良かった。ま、本当にそうならそのうち話してくれるんじゃないか?」
「……そうだよね。別にそれで、何が変わるわけでもないし」
いやいや、いけない。
勝手に妄想するのは、僕の良くない癖だ。
話題を変えようとして、思い出した。
「あ、そういえば海霧」
「ん?」
「今日って時間ある? またおねぇが新しい衣装を送って来たから、撮って貰いたいんだけど」
「バイト終わりでもいいか? 絶対行くから」
「うん、勿論。疲れているのにごめんね、ありがとう」
海霧は僕がどんなことをしても、引かずに傍にいてくれる。
それがわかっているから、甘えてしまうのだ。
「違う、俺が楽しみだから行くんだ」
「そっか。なら嬉しい」
僕は海霧と別れ、ひとり暮らしをしているアパートに帰宅した。
簡単な野菜炒めを夕飯として二人分作って、一食分を海霧の夜食用として冷蔵庫の中へ取っておく。
おねぇの送り付けてきたダンボールを開けて、中の衣装とおねぇの手紙に目を通すと、スマホでそのキャラクターについて調べた。
化粧箱をひっくり返し、スマホ画面とにらめっこしながら自分の顔をその女キャラクターに似せるよう化け、衣装に袖を通した。
***
僕には四人の姉がいる。
一人だけ男だった僕は小さな頃からとても可愛がられた。
そして彼女たちにとって僕は、オモチャのような立ち位置だった。
僕は小さな頃から彼女たちの着せ替え人形だったし、成長期を迎えても身長が伸びなかった童顔だった僕は、大きくなっても彼女たちの着せ替え人形だった。
一番上の姉は二次の同人誌好きで、二番目の姉は同人誌の描き手で、三番目の姉はコスプレイヤーで、四番目の姉は針子だった。
着せ替え人形だった僕は、色んなキャラクターをさせられてはイベントに連れて行かれ、写真を撮られた。
最初の頃は、男キャラだけだった。
それがいつの間にか、女キャラのコスまでさせられるようになった。
それもおねぇたちが喜ぶから、嫌なわけではなかった。
ただ、女装をしていた僕が着替え室で撮り子に襲われそうになったことは、軽くトラウマになった。
おねぇたちのいないところに行きたくて入った高校は男子校で、更に寮生活が出来て、最高だった。
女性に比べて男は表裏がないし、本音で話すことが多いし、とてもわかりやすい。
その男子校で知り合った海霧は特に気が合って、仲良くしてもらった。
僕が寮生活になると、おねぇたちはイベント会場に僕を連れて行くことは諦め、代わりにコスプレをした写真を自撮りして共有するようにお願いされた。
高額なバイト代を貰わなければ、多分やらなかった。
基本的に顔出しはしたくなかったけれども、化粧は自分でも出来るし、カツラまですればほぼ別人で僕だと気付く人はいない。
おねぇが寮に送り付けた衣装を着て、ああでもないこうでもないとカメラのアングルに悩んでいた時、鍵をかけ忘れた僕の部屋に入ってきたのが、海霧だった。
「うん、きちんと『未来ちゃん』だな。もうちょい、杖の角度を変えて……ああ違う、逆、逆、顔に近付ける感じで」
「こう?」
「いいね、バッチリ」
あの日以来、海霧はすっかり、レイヤーとして色々なキャラクターを演じる僕の専属カメラマンに落ち着いてしまった。
見つかったのが海霧で心から良かったと思う。
まさか、海霧がアニメオタクだとは思わなかったけど。
寮でコスプレした僕をしばらく凝視したまま呆けていた海霧だったが、直ぐに我に返って部屋の扉を閉め、僕に状況説明を求めた。
そして、写真を撮るのに四苦八苦している僕の当時の状況を知り、おねぇたちに送る写真を俺が撮るよと自ら志願してくれたのだ。
渡りに船すぎた。
一度お願いしてみたら、カメラアングルが完璧なイメージ通りの仕上がりに、僕は感激してしまった。
海霧から誰にも言わないから自分の推しのコスもして欲しいと言われて、僕はこれからも海霧が撮影に協力することを条件に頷いた。
僕たちは、ウィン・ウィンの関係だった。
でも最近、ほんの少し、そんな僕たちの関係が代わり始めていた。
「……こんな感じ?」
「うん、すげぇエロ可愛い」
きっかけは、おねぇが送り付けてきた、ほぼ裸に近い十八禁のような衣装だった。
こんな衣装を男の僕が着て誰得なんだと思ったのだが、「男の娘」という需要があるらしい。
女コスだと思っていたら、男の娘コスだった。
おねぇたち本当にあり得ない、と愚痴りながらも無駄毛の処理をして、その衣装を着てみたところ、海霧が挙動不審になっていることに気づいた。
海霧は、女の子が好きなはずだ。
だから僕に好きなキャラクターの衣装を着せて、嬉しそうな顔で僕を撮るのだ。
なのに、どうして男の娘コスをした僕に欲情したかわからない。
海霧は隠そうとしたけど、その時なんとなく、僕は良い気分になったんだ。
だから僕は、海霧の前で、目のやり場に困りそうな際どい衣装を着て、えっちなポーズで誘惑する。
「海霧、勃っちゃったなら、協力するよ?」
僕は親指と人差し指で輪っかを作って舌を出し、海霧を誘う。
「……いや、いい」
でも、男の僕相手にヌくのが嫌なのか、海霧が頷くことはなかった。
海霧が我慢していることが、僕にとてつもない興奮をもたらす。
僕も女の子が好きなのに、なぜ海霧相手にこんな気分にさせられるのか、説明がつかない。
でも、僕の一挙手一投足に海霧の意識が集中している様を見るのは、紛れもなく快感だった。
「そう?」
僕は縄で編み上げた足を伸ばして、ズボンの上から海霧の股間をなぞる。
ビクンビクンと動くそれは、とても硬くて、熱い。
「やめろ、陽那樹」
「うん……でも、出さないと辛いでしょ?」
「大丈夫だ、ほっとけばそのうちおさまる」
それは、嘘だ。
いつもトイレでヌいているの、知っているんだから。
「僕、海霧が女の子好きだって知ってるし、僕も女の子が好きだから、こんなのは彼女がいない男同士の遊びの範疇でいいんじゃない?」
スリスリ、と足で海霧のペニスを撫でながら首を傾げる。
「馬鹿言うな。昔、撮り子に襲われたことがトラウマだって言ってただろ」
「……そう、だけど」
自分ですら、今海霧に言われるまで、忘れていた。
レンズ越しに丸裸にされるような、あのいやらしい視線は好きになれなかったのに。
いつの間にか、熱を帯びた海霧の視線に、僕こそが夢中にさせられて。
どうしたら海霧が、僕に手を出したくなるんだろうかと、そればっかり考えて。
いやらしいのは、自分だった。
「……海霧なら、全然構わないのに」
「それってどういう」
「僕はさ、海霧に見られて興奮しちゃった」
黒い紐のようなパンツを少しずらせば、元気になった僕のペニスがぴこんと現れる。
海霧は真っ赤になって、僕から顔を背けた。
「今ここで処理するから、気持ち悪いなら少し家から出て貰ってもいい?」
「……っんな、ら、」
「なに?」
先走りを掌で塗り拡げながら、くちくち、と自分のイチモツを扱きはじめる。
ああ、海霧が見てる。
肌が焼けるような、熱い視線で――。
「僕ね、最近アナニーにも嵌ってるんだ」
「……は?」
海霧の視線が、僕の指に釘付けになった。
事前準備を施しておいたお尻に、ちゅぷん♡ と中指を挿し込んだからだ。
瞬間、視界が反転する。
「〜〜っ陽那樹、後悔するなよ?」
海霧は僕の上に覆いかぶさり、真っ直ぐに僕を見据える。
先ほどまでの戸惑いや躊躇なんて微塵も感じさせない、オスの顔で。
「うん、しない。海霧こそいいの? 僕、男だけど」
「――男とか女とか、関係ない。陽那樹だから、いいんだよ。お前だって、さっきはそう言ってただろ?」
男だろうが女だろうが、好きになった人と付き合えばいいんじゃない?
確かに、そう言った。
「え、それって」
じゅぷん♡
「ああっ!」
「〜〜ッ、キッツ……」
ドクドクと脈打つ海霧のぶっといペニスで一気に奥まで突っ込まれ、息が止まる。
入り口は想像した以上にみちみちと押し広げられ、裂けたかと思うようなピリピリした痛みを感じる。
「バカ海霧、初めてなんだから、ゆっくりぃ……!」
涙目で訴えると、海霧が驚きの声をあげた。
「は!? 初めて? ならあんなふうに煽るなよ、紛らわしい……!」
なかなか誘惑されてくれない海霧に痺れをきらせて確かに大胆に誘った自覚はあるけど、海霧に誤解されたと知って、ショックを受けた。
「海霧以外とこんなこと、するわけないでしょお!」
「ごめん、俺が悪かったから。馴染むまでゆっくりするから、力を抜いて……」
海霧に涙を吸い上げられ、そのまま額や頬にちゅ、ちゅ、とキスを落とされる。
ただそうされるだけで、幸せだ。
女じゃないのに海霧に抱いて貰えるなんて、奇跡かもしれない。
「大丈夫か?」
「うん、少し落ち着いてきた」
「俺さ、陽那樹の傍にいられるだけで良いって、ずっと思い込もうとしてて」
「うん」
「俺の推しキャラさ、本当は陽那樹に似てるから好きになったんだ」
「……え?」
ぎゅう、と海霧の首に回していた腕を緩めて、海霧の顔を見た。
「じゃあ、海霧は推しキャラに似てたから僕を見てくれたんじゃなくて……」
「逆。陽那樹が好きだったから、あのキャラに惹かれた。アニメのキャラなら、いくらでも推せるからな」
嬉しい。
でも、おねぇたちには絶対言えない。
邪道とか推し活バカにするなとか、大変なことになりそう。
「そうだったんだ。実はあのキャラに妬いてたんだ」
「はは、可愛い」
海霧が幸せそうに笑ってくれて、胸がきゅんとした。
同時にお尻にも力が入ってしまったらしく、海霧が少し痛そうに眉を潜める。
「ごめん、その、そろそろ平気になってきたからゆっくり動いていいよ」
「……ん。痛くなったら、きちんと言えよ」
「うん」
海霧が僕のペニスを扱きながら、律動を開始する。
パン! パン! パン! パン!
「ん、うぅ……っ」
最初はやっぱり痛みが強かったけれど、海霧のペニスが気持ちの良いところを突いてくれるようになってからは、快感しかなかった。
「ぁん♡ 海霧♡ そこ、気持ちいい……っっ♡♡」
「ここ、ぷっくり膨らんでて、カリが擦れるたび、俺も、すげぇ気持ちいい……!」
女じゃなくても海霧を気持ち良くさせることが出来ることに、安堵と喜びが広がっていく。
じゅぼ♡ じゅぼ♡ じゅぼ♡
仕込んでいたローションは海霧の動きをしっかりサポートしながら、僕たちの気持ちを昂らせる。
「ぁん♡ 良いよぉ♡ も、イきそ……!」
「いいよ、お腹の上、出して」
前も後ろも刺激され、尿道を射精感が駆け上っていく。
「イく♡ イ……っあああ♡♡」
「……っ、締め付け、エグ……!」
自分が達すると同時に、海霧の精液が僕のナカに染み渡っていく。
その感覚に酔いしれていると、余韻もなにもなく海霧は慌てて僕のナカから出ていった。
「悪い、耐えられなくて出た。早く洗いに行こう。お腹壊すぞ」
そうなの?
「ええ〜……ナカに出してくれて、嬉しかったのに。もう少しあとじゃ駄目?」
「陽那樹はただでさえお腹壊しやすいんだから、駄目だ」
しぶしぶ移動したお風呂場で、海霧に精液を掻き出して貰う。
そこでもう一度だけ交わってから、僕たちはベッドで抱き締めあって、眠りについた。
***
「ねぇお願い! 一度聞いてみてよ〜」
「あーもう、わかったよ。聞くだけ聞いてみるから、駄目でも文句言うなよ?」
「いいから早く! 行っちゃうじゃない」
俺は、サークルの女友達に急き立てられるようにしてその四人組に「よ!」と声を掛けた。
うちの学科……だけでなく、うちの大学で有名な四人組。
モデルみたいなイケメンの海霧、男なのに可愛い陽那樹、大柄で誰にでも優しい狼牙、そして性別不明な美人の育真。
タイプは違えど、全員が人の目を惹く魅力のある奴らだ。
で、そんな奴らが女の影なくフリーとあらば、女たちは黙ってないわけで。
「来週に合コンを企画してるんだけどさ、女の子たちからお前たちを誘ってくれってお願いされちゃって。俺の顔をたてると思って、一度でいいから来てくんない?」
頭を下げつつパン! と両手を合わせ、ちら、と四人を見上げる。
「ごめんね、僕、可愛い恋人出来たんだ〜」
ニコニコ、と笑顔で言うのは可愛い陽那樹。
お前以上に可愛い女子なんていたっけ、と思いながら、「そっか、残念。……じゃなくて、おめでと」と返事をする。
「海霧はどう?」
「俺も、パス。ずっと好きだった子と、やっと付き合えるようになったから」
「マジで?」
なるほど、大学内で女の影がなかったのは、幼馴染とか、外で好きな子がいたからか、と納得する。
「えーと、じゃあ、狼牙たちは……?」
頼む、来てくれ! と願いを込めて二人を見る。
育真は「どうする?」と狼牙に尋ね、狼牙は「僕はパス。そういうのは性に合わないし、好きな人がいるから」と答えた。
「え! 狼牙、好きな人いるの?」
まさかの告白に、その場にいた俺たちは驚く。
中でも育真は驚きに目を見張り、そのあとうーん、と顎に手を当てて悩む素振りをした。
「今のところ俺は彼女いなくてもいいんだけど……でも、もし人数足りなくて困ってるなら、」
来てくれるのか!?
うんうんと頷きながら、期待を込めて会話の続きを促す。
しかし、なぜか狼牙が育真の口をガバっとその大きな掌で塞いだ。
「……だめ」
「んーっ! んーっ!」
「ちょっと狼牙、育真が苦しそうだよ」
狼牙の掌を自分の手でずり、とずらして育真は空気を確保する。
え、なんか俺のせいでごめん。
「だめって何でだよ」
育真が不思議そうに狼牙を見上げる。
「課題、一緒にやるって約束した」
「確かにしたけど……ああもう、わかったよ」
育真は俺に向き直って、「その日は狼と約束してたから、悪いけど今回はやめとくわ」と続けた。
撃沈。
やっぱり四人共、無理だったかー!
「や、なんか逆に悪かったな。女の子たちには適当に言っておくからさ」
俺は軽く手を振り、四人を見送る。
四人のうち二人に彼女ができて、一人は既に好きなコがいるなら難しいか。
でも、育真だけなら次は来てくれそう。
そんなことを考えていると、狼牙だけが振り向き、俺をじっと見た。
……え? 何?
狼牙の怒りのオーラを感じて、俺はビビる。
普段温厚なやつほど、怒らせると怖いんだよな。
多分だけど、もう合コンには誘うなと言われている気がした。
狼牙は育真とつるむことが圧倒的に多いから、好きな人がいたとしても、親友の育真を同じ大学の女に取られるのが面白くはないのかもしれない。
まぁ、育真なら合コンなんかに出なくても、彼女を作ろうと思えば直ぐに出来るだろうし。
そんなわけで女の子たちには、四人全員、外部に彼女がいると伝えることにした。
……それにしても。
ぼんやりと四人の後ろ姿を眺めながら、俺は肩を竦める。
なぜなら陽那樹は海霧の腕に自分の手を回し、狼牙は育真の腰に手を回していたからだ。
彼女がいると聞くまであまり気にしたことはなかったが、あの四人の距離感は確実にバグっている、と思う。
「おいおい、彼女が見たら浮気を疑われるんじゃないか?」
俺はそんな自分に全く関係ない心配をちょびっとしつつ、期待に満ちた瞳でこちらを見る女の子たちに、指で小さなバッテンを作ってみせたのだった。
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