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短編
目が合った瞬間、頭のどこかで警報が鳴った。
――こいつは、ヤバイ。
***
「だだだ誰か助けてぇ~!!」
僕は猛ダッシュでひぃこら逃げる。
体育祭ではいつも一番先陣をきる僕、足の速さはクラス一と言っていい。
……遅い方のね。
一番最初に走らされるってだけね。
うわあああ、と必死に逃げる僕をうおおおお、と追いかけてくるのは、ゴブリンの群れだ。
お家に侵入してごめんなさい、ただ単に雨宿りがしたかっただけですううううううう!!
足の遅い僕だが、持久力だけはある……わけがない。
あっという間にスタミナが切れて、後ろを振り返らずとも感じる、ゴブリンさんたちの気配。
多分、あと少し手を伸ばせば届く距離。
もう駄目、掴まっちゃう。
勇者レベル一の僕がヘロヘロと走る横から、能天気な声が掛かった。
「君はいつも、危険な目に遭ってるねぇ。これはもう、才能だよね」
「わかって、るなら、助けて、くだ、さい、よぉ……!!」
なんとか力を振り絞って、助けを求める。
できたら話すほうじゃなくて、走るほうに全力を注ぎたいんだけど!
「助けて欲しい?」
「はい!」
「俺の報酬は?」
「銅貨、三枚、で!」
「交渉決裂だね。じゃあ一人で頑張って~」
本当に去って行きそうな気配に、涙目になりながら僕は恥を忍んで叫んだ。
「ふぇ、ふぇら、で!」
「それはこの前やってもらったしな~」
「じゃ、じゃあ、一回で!」
「このゴブリン一匹につき一回でもいい?」
くそう、人の足元見すぎだよ!!
でも、死にたくはない。
ぐっと服を引っ張られ、僕の脳裏に「死」が過る。
「大丈夫だよ、ゴブリンなら殺されずに犯されるだけだから」
あっけらかんと笑いながら言うその声に、心の底から腹が立つ。
「でも、ゴブリン何十匹を相手にするよりは、俺一人を相手にしたほうが楽だと思うけどなぁ~」
「っ、三回、で!」
「よしよし、仕方がないね。ちょっと疲れるけど、お兄さんが助けてあげよう」
ゴゥ、という音と共に、引っ張られていた感覚がなくなる。
「う、わ」
逃げようとしていた僕は、勢い余ってつんのめり、前にこけそうになった。
けれども倒れる前に、がっしりとした腕に、抱き締められる。
「大丈夫?」
「……はい」
後ろから、腐った肉の焼けたような、焦げ臭いニオイが漂う。
多分、見ちゃいけないやつだ。
見たらまた、吐いてしまうだろう。
「助けてくれて、ありがとうございました」
僕はしぶしぶしながら、助けてくれた人をぐっと両手で押し返しつつ、お礼を言った。
この世界は、地球の日本人として生まれ育った僕には過酷すぎる。
「よし、じゃあ早速三回、楽しませて貰おうかな」
「せ、せめて宿についてから……」
「外でヤるのも楽しいよ?」
「僕は楽しくありません!」
「仕方ないなあ、今回はサービスね」
ひゅん、と足元から突風が吹く。
瞬間的に目を瞑った僕が再び目をそろそろと開けると、そこは僕が借りた宿の一室だった。
***
「ひ♡ あ♡ あう♡」
「んー、気持ちイイねぇ。きちんと俺のおちんぽぐっぽり咥え込めるようになって、イイコイイコ」
座位で後ろからどちゅどちゅと突き上げられながら、頭を撫でられる。
「うぁッ♡ ふぅん♡♡」
「戦闘センス皆無で一年経った今もレベル一なのに、オナホの才能はしっかり開花して嬉しいなぁ」
丁寧に育てた甲斐があった、と笑いながら激しくピストンする男に、僕は心の中で悪態をつく。
戦闘能力が開花しなかったのは、教え方が悪かったんじゃないですか、と。
一年前、僕は異世界に転移した。
そこは、ゲームや絵本の中でしか見たことのないドラゴンが暴れ回っている現場だった。
当然動くことなんて出来ず、思考もストップした。
そこで、そんなドラゴンと一人楽しそうに戦っている人間がいた。
目を見開く僕と、その人は目が合った。
血まみれになりながら笑って戦う男だ。
誰が見ても、ヤバい人間。
男は突然現れた僕を見て不愉快そうに眉を顰め、呆然とする僕に向かって何かを放った。
今思えば多分あれは、魔法的な何か。
その瞬間、殺されると思った。
恐怖で腰が抜けて、ガクンとその場に突っ伏して。
突っ伏した僕の上から、パラパラパラと小石が降ってきて、僕は気づいた。
僕の上に落ちてきたらしい岩を、彼が粉砕してくれたことに。
当時の僕は呑気なもので、動けるようになると彼がドラゴンを倒すまで安全そうな場所に避難していた。
そして、彼がドラゴンを倒したあと、駆け寄ってお礼を言いに行ってしまったのだ。
――さっさとその場から離れて、逃げれば良かったのに。
どちゅ♡ どちゅ♡ どちゅん♡!!
「ノゾムくん、何か考えごとかな? 余裕だねぇ」
「ち♡ ちがっ♡ お¨ッッ♡♡」
思い切り奥を突かれ、足が勝手にピンと伸びる。
ペニスの先端から、ぱしゃ、と飛沫が弾けた。
「お、潮まで噴いて、気持ちイイの大好きになったんだね。可愛いなぁ」
「あ¨♡ も♡ ムリっ♡ ムリぃ……ッッ♡♡」
「自分勝手なの、良くないよ。ノゾムくんは三回イったかもしれないけど、俺はまだ一回もイってないからね。でも、そろそろ一度イこうかなぁ」
後ろから両足を抱え込まれるように腕をまわされ、そのまま何度も持ち上げられては、落とされた。
ばちゅ♡! ばちゅ♡! ずちゅッッ♡!!
「ひぅ♡ あ¨♡ あああ¨ッッ♡♡」
男のペニスが、僕の身体を幾度も貫く。
僕の一番気持ちイイところを暴いては引かれて、気が狂いそうだった。
「あ、さっきからずーっと痙攣してるの、イイよー。締め付けエグくて、直ぐに出そう……ッッ」
「や♡ ナカは♡ 止め……~~ッッ♡♡」
どぷ♡
お腹の奥まで、生温かい液体を大量に注ぎ込まれる。
「ごめんね、きゅうきゅう締め付けるから出ちゃった」
「も、降ろし、てぇ♡ リクゼル、さん……♡」
「んー? いいよ、一度寝かせてあげるね」
ぬぽん♡ と彼のペニスを引き抜かれ、僕は身体を震わせた。
お尻の穴に放たれた精液をドロドロと垂れ流しながら、ベッドにころりと横になる。
ようやく息を整えられる、と思ったのも束の間。
ぢゅぷん!♡
「ひぁ♡♡」
片足を持ち上げられたと思えば再び逞しくなったペニスを突き入れられた。
「ほらほら、せっかく出してあげたの、零しちゃ駄目だよ」
「ちょ♡ 休憩♡ きゅう、け……ぁん!♡ あぁん♡」
「仕方ないなぁ。俺が動いてあげるから、たくさん感じててね〜」
パン! パン! パン! パン! パン!
ぶちゅ♡ ぐちゅ♡ ぢゅぷ♡ ぬちゅ♡ ずちゅ♡
身体を交差するようにして、奥のほうまで交わる。
精液で滑りを良くしたペニスで、アナルを何度も掻き回された。
「俺の精液、泡立っててエローい」
「ぁん♡ あう¨っ♡♡」
「ほらほら、弱っちい君には俺のオナホ係しか出来ないんだからさぁ、もっと頑張って」
「お¨♡ ああ¨♡♡」
ぐったりとした僕の身体は、リクゼルさんの言う通り、ただ彼のペニスを扱くためだけの穴として勝手に使われている。
違和感しかなかったはずの行為は、気持ちの良い場所を探り当てられ、散々慣らされた。
僕のお尻の穴も、今ではリクゼルさんのペニスを歓迎するかのように動きを合わせて締め付ける。
「も♡ 許し♡ ゆるひてぇ……♡♡」
「えー、二回目もまだなのに。体力はもっと付けようね~」
「身体♡ おかひ……ぃのぉ♡♡」
「イキ癖ついちゃったからね~」
僕は彼が三回達するまでの一日半、ずっと犯され続けた。
***
異世界、つまり地球から転移した人間は、もれなく勇者と呼ばれるらしい。
召喚された場合だけではなく、僕のように次元の狭間に落っこちてしまう人も勇者だ。
だからこの異世界で、勇者はひとりとは限らない。
魔王を倒せば元の世界に戻れるので、勇者たちは日々魔王を討伐しようと死に物狂いで頑張る。
魔王を倒すために頑張る人だから、勇者と呼ばれるのだ。
僕が落っこちた先にいたリクゼルさんは、こちらの世界で言うところの英雄だ。
どうやらレベルをカンストした英雄様らしい。
その英雄様曰く、勇者には魔王との戦いにおいて便利なチート能力がひとつ備わるらしいのだが、僕にはそれがないらしいのだ。
剣も弓も槍もどれも満足に扱えず、才能のなかった僕。
そんな僕が元の世界に戻るには、助けて貰って以降の付き合いであるリクゼルさんの協力が必要不可欠だった。
そんな僕の状況を知っていても、リクゼルさんは必ず対価を要求する。
その気持ちはわかるし、理解も出来る。
人間誰だって、ただ働きほど嫌なことはないだろう。
しかし、リクゼルさんの問題は、それがお金じゃないことだった。
お金は有り余っているらしいリクゼルさんが要求してくるのは、もっぱら僕の身体である。
人食い蜘蛛の巣に引っ掛かった時は、公開オナニー。
人狼に囲まれた時は、フェラ。
オークと鉢合わせしてしまった時は僕の乳首を一時間弄ることが、条件だった。
その後危機が訪れるたび、お尻の穴を弄られ、尿道をいじめられ、玩具を突っ込まれ……僕は童貞を失う前に、後ろの穴の処女を失った。
はっきり言って、どこの街に行ってもモテモテのリクゼルさんが、真っ平な胸と子供を宿すことのない胎にどんな楽しみを見出しているのか、全くわからない。
それでも、僕が異世界で生きていくことは本当に大変で、リクゼルさんに身体を差し出してでも死にたくはなかったし、元の世界に戻りたかった。
***
「おい、本当にこんなちんちくりんが?」
「はい、間違いねぇです。こいつがリクゼルの弱点でさ」
「ははは、おい、冗談だろう。このガキが理由で、姫様の求婚を断ったって?」
がははは、とその大男は笑いながら、ぐるぐると簀巻きされた僕を品定めするようにジロジロと眺めた。
今までの数々のピンチは自業自得だけど、これは人災じゃなかろうか。
街にいた筈なのに、気付けばどこかの山小屋に拉致されている。
「リクゼルめ、英雄だかなんだか知らねぇが、調子に乗りやがってええ!」
大男がこう叫んでいる時点で、多分原因はリクゼルさんだ。
「……あのう」
「ん?」
猿轡をされていなくて良かった、と思いながら僕は勇気を出して発言する。
「僕はこの国に飛ばされて一年の勇者です。リクゼルさんに助けて貰ったことはありますが、赤の他人なので解放していただけませんか?」
街に入ると、リクゼルさんはいつも「やっと女を抱ける〜」と言いながら姿を消すのだ。
そして再び現れるのは、僕が資金集めをするため、森に入ったあと。
街の宿屋で謝礼をしたあとも、気付けばいなくなっていた。
何度も命を救って貰ってはいるが、僕だってその分の対価……は一応払っているわけだし、この関係は友人ですらないだろう。
僕の訴えに、大男たちはきょとんとしながら顔を見合わせる。
そして、どっと爆笑した。
「聞いたかよ、赤の他人だって! 英雄様が、振られてやがる」
「あーあ、つれないねぇ。お前と行動を共にするようになってから、あいつは一切誰にも目をくれないってのに」
いやいや、今ごろ楽しく女の人とイチャイチャしているはずですけど!?
僕がムキになりながらそう言えば、呆れたような目で見られた。
「アホか。今だって最高難易度の仕事を振られて魔獣の討伐に行ってるだろ」
「……え?」
そう言われて、思い出す。
確かに姿を消す前、「三日間は、お小遣い稼ぎのクエストを受けちゃ駄目だよ〜」と言っていた。
「じゃなきゃ、レベル七十ちょいの俺らがお前を攫えるわけがないだろ」
ニヤニヤしながら、盗賊のような格好をした男が言う。
レベル七十も十分凄いと思いますけど。
「まぁ、お姫さんたちもムキになるわけだ。お前には強力な保護魔法がかかってるからな、殺すことも出来ないらしい」
いやちょっと待って!
怖!!
僕、知らないところで暗殺されかかってるの?
「殺意を持つと、お前には近付けない。殺傷能力のある武器や魔法を投げても持ち主にそのまま反転する。だから性的にぐちゃぐちゃにして、お前自ら離れるようにしろだってさ」
「えーと、誤解ですって、依頼主の方に伝えていただくことは……」
「もう大金貰ったしな。俺たちは、調子にのってる英雄様に一泡吹かせられれば、それでいい」
「では、あなたがたに襲われたことにして、リクゼルさんから離れることをお約束します。依頼は無事に完遂したと報告していただいて構いませんので、見逃していただけませんか?」
流石に、三人の屈強な男たちにレイプされたくはない。
僕をオナホ扱いするのは、リクゼルさんたけで十分だ。
僕は必死で頼み込む。
「どうする?」
「……けどさぁ、こいつ、ちんちくりんの割にはこう……なんつーか、色気があるよなぁ」
「別にこんなガキどうも思わないが……俺たちがこいつの口車に乗せられたと姫様に知られたら、ヤバイよな」
「そうさ、依頼はきちんとこなさないとな。信用問題に関わるし」
そんなところで真面目を発揮しないで欲しい!
そして、なぜかこれまでとは少し違った意味合いを含むねっとりした視線を向けられ、僕の身体はビクリ、と硬直する。
「じゃあ、さっさとヤっちまおう」
「や、やめてください……っ!」
声が震える。
ゴブリンに襲われた時だって、心のどこかでリクゼルさんが見守ってくれているのだと、わかっていた。
けど今、リクゼルさんは不在みたいで。
二日目に攫われた僕の居場所なんて、わからない筈で。
男たちは素早く、僕を縛り付けていた縄を外して、服を脱がしにかかる。
「やだ、嫌……!!」
「おいマジかよ、これ見てみろ。貞操帯じゃねぇか……!」
ずる、とズボンを引きずり下ろされ、男たちの視線がそこに集中する。
街で貞操帯をつける、というのは、最近ゴーレムに襲われた時に助けて貰うための、リクゼルさんが出した条件だった。
男たちはその貞操帯をああだこうだ言いながらやっとのことで壊し、僕のお尻に親指を突っ込んで、ぐぽ♡ と広げる。
「いやだぁ!!」
上半身をひとりの男に羽交い締めされ、大男ともうひとりの男が、僕の足を左右に開いたまま押さえつけていた。
「あっはっは!ちっちゃいおちんぽ、ぷるぷる震えて可愛いでちゅねぇ」
「すげぇ、トロトロに仕上がってんじゃねぇか。直ぐに突っ込めるぞ……」
ごくり、と男たちは喉を上下させる。
大男が親指を引き抜き、今度は中指と人差し指をじゅぽ♡ と一気に突っ込む。
そしてそのまま、グリグリと適当に解された。
「い、痛……っ」
痛い。
気持ち悪い。
「乳首も感度良いじゃねぇか」
「尻穴と乳首いじられてビクンビクンしちゃうなんて、随分と淫乱なガキだな」
「やめ、抜いてぇ……っ」
男たちに身体をまさぐられて、気付いた。
リクゼルさんに触れられた時は、痛いと思ったことも、気持ち悪いと思ったことも、なかった。
「最っ悪……!!」
思わず悪態をつく。
こんな時に、気付きたくなかった。
やられていることは同じなのに、リクゼルさんじゃなきゃ嫌だなんて気持ちに。
男なら自分でこの危機をなんとかしなきゃいけないのに、リクゼルさんの助けを待ってしまう気持ちに。
リクゼルさん以外に犯されたら、僕への興味を失ってしまうかもしれないと恐怖する気持ちに。
「リクゼルさん! リクゼルさん!!」
「おい、黙らせろ」
「よしよし、大人しくすりゃさっさと終わらせてやるからな」
「んぐ! ふううううん!!」
口をタオルで塞がれ、足をぐっと持ち上げられた。
暴れようとしても両手を縫い付けられるようにして押さえられ、足を動かそうとしてもお尻が揺れるだけ。
「こいつ、尻振って媚びてるぜ」
「本当は犯して欲しいんじゃねぇの?」
「んふぅ!!」
ぐっと尻タブを掴まれ、その中心にヌルリとした先端が押し付けられた。
慣れないペニスに、緊張で身体が硬直する。
「ほーら、お待ちかねのおちんぽですよ、と」
「んん″ー!!」
――ぐちゅん♡
助けは間に合わなかった。
「うは、こいつは最高のオナホだぜぇ!」
「早くしろよ、次は俺だ!」
願いも虚しく、僕の身体は男たちのペニスを代わる代わる受け入れ、中に大量の精液を吐き出されたのだった。
***
「……ん……」
僕が目を覚ますと、そこは湯船の中だった。
「ノゾムくん、起きた?」
「……リクゼル、さん……?」
リクゼルさんは後ろから僕を抱き締めるようにして、肩に頭をつけていた。
「……遅くなって、ごめんねぇ〜」
いつも通りの、ふざけた声。
でも、震えている。
「本当ですよ、流石に男三人の相手はしんどかったです」
でもゴブリン数十匹よりはマシですよね、と明るい声を出しながら、リクゼルさんの頭を撫でた。
リクゼルさんは顔を埋めたまま、何も答えない。
「……それであいつら、どうしました?」
僕が最後に覚えている景色は、血の海だ。
僕を犯した男たちは手足を切断され、止血された状態で何処かへ転送されていた。
依頼主に送ったのだろうか。
「んー、オークとトロールとゴブリンの巣にそれぞれプレゼントしといた」
「……ソウデスカ」
僕にした行為を、今度は彼らが味わう番だ。
けれども、あまり喜べない。
僕がもっと上手く交渉すれば、彼らは五体満足のまま無事だったのかもしれない。
「ノゾムくん、何を考えてるの?」
「え? えーと、リクゼルさんが無事で良かったなって」
「全然良くないよ……」
リクゼルさんが頭をあげた気配がしたので、くるりと振り返る。
そこには、真っ赤に充血した目とぱんぱんに腫らした瞼をしたイケメン台無しの顔があって、少し笑ってしまう。
「ノゾムくんが助けを求めているのに、何もできなかった」
貞操帯が破壊されれば、必然的にリクゼルさんは僕の元へオートで転移する予定だったらしい。
けれども予想外のことが起きて、転移できなかった。
転移する瞬間、それに気付いた人たちに解除されてしまったそうだ。
聞けば、レベル九十の英雄二人に妨害されていたらしい。
カンストしたリクゼルさんに戦いを挑む人たちは数多くいるが、普通は一対一の決闘なのに、今回は不意打ちに近いものだったという。
手加減ができずに殺してしまったことも、リクゼルさんの大きな後悔になっているようだ。
「俺のどっちつかずの判断が、どちらも最悪な状況にしちゃったんだよ」
さっさと殺していれば僕が犯される前に間に合ったかもしれないし、僕の救出に間に合わなかったとしても、焦らなければ二人を殺さずに済んだかもしれない。
もしかしてその二人は、知り合いだったり過去に一緒に戦ったことのある仲間だったりするんだろうか。
リクゼルさんの憔悴しきった表情にそう気付いて、胸が痛んだ。
「リクゼルさんのせいじゃないですよ」
僕が弱いことが、悪いんだ。
いつもリクゼルさんに助けて貰えると思って甘えて、荷物になっていることすら気付かずにいた。
「ノゾムくんを成長させなかったのも、俺の意思だ」
「ああ……」
やっぱり。
なんとなく、そうじゃないかと思っていた。
物理攻撃は散々やらされたのに、魔法をやらされたことは、一度もなかったから。
「僕が弱いままだといつまでも足手まといなのに、どうして?」
それはリクゼルさんにメリットがないはずだ。
だから僕には魔力がないと言われた時、納得したんだけれど。
「少しでも強くなっていれば……」
男たちの下卑た声と、舌や手が這いずり回る感覚が蘇ってきて、ぶるりと震える。
男なんだから、輪姦されたとしても、女性ほどのダメージはない。
そう思おうとはするものの、リクゼルさんが来るまで、やはり怖かった。
終わりの見えない野蛮な行為に、ただ息を止めて、耐えるしかなくて。
「本当にごめんね。けど……ノゾムくんが強くなれば、魔王を倒してあちらの世界へ戻ってしまう、から」
胸につっかえていたものを吐き出すように言われて、僕は苦笑した。
「そう思うなら、そう言ってくれれば良かったのに」
「俺も何度か言おうとしたんだけど……ノゾムくんの警戒心が強かったから」
「殺されかけたんだから、当たり前ですよね!?」
僕はくるりとリクゼルさんの膝の上で向き合うように座り直して、そのぱんぱんに腫れ上がっても綺麗な顔にお湯をかけた。
簡単に避けられるはずなのに、リクゼルさんは真正面から受け止める。
「初めて目が合った時ね、ヤバイと思ったんだ」
「何がですか?」
「いつかノゾムくんに殺されるっていう危機感……なのかな? とにかく、そういう危険分子だっていう気持ちが発動して。気付いたら攻撃してた」
あの時、僕が腰を抜かしていなかったら、直撃していたはずだ。
粉々になったのは、岩じゃなくて僕だった。
「あの攻撃が当たらなかった時に我に返ったから、ノゾムくんを殺すのは諦めたけど」
殺そうと思って攻撃したのに、レベル一が避けられるわけがないのだ。
だからそれは、そういう運命なのだ。
「しばらく見張っていたら、俺がなんでノゾムくんに恐怖を覚えたのかわかったよ」
恐怖を覚えたのは僕のほうなんだけどな、と思いながら、先を促す。
「君はね、俺のアキレス腱になりうるから。どうしようもない、弱点だよ。ノゾムくんを盾にされたら、俺は何もできない」
「……え?」
僕はぽかんと口を開けて呆ける。
あの男たちが言っていたのは、あながち間違いではなかったってことかな?
「本当は誰も知らない場所に、ノゾムくんを閉じ込めたかった」
こんなことになるなら、そうすれば良かった、とつぶやきながらリクゼルさんは自分の頭をガシガシと乱暴に引っ搔く。
でもそれをしなかったのはきっと、僕のためなのだろう。
リクゼルさんに閉じ込められれば逃げ出そうとしたに決まっているし、元の世界には戻りたいけれども旅自体は凄く楽しい、と何度も話していたから。
「街で離れていれば、平気だろうって。俺がノゾムくんに関心がないように見えるだろうって、自分の力を過信してた」
でもなんでバレたんだろう? と本気で不思議がるリクゼルさんに、僕は保護魔法じゃないですかね、と言っておいた。
「……ああ! 国宝にかけるレベルの保護だったからか!」
なるほど、と頷きながら呟くリクゼルさんが、人間味を感じてなんだか可愛い。
前から薄々気付いていたけど、英雄だって人間で。
レベルをカンストしたからと言っても、完璧な人間なわけじゃないんだ。
戦闘だけは無敵でも、どこかで失敗するし、言葉は足りないし、愛情表現も下手だし。
餅は餅屋という言葉があるように、調査や諜報に関して専門的に扱う部隊がいるなら、いくら気を付けていたとしても、その分野でリクゼルさんが勝てるわけないのだ。
「もうノゾムくんのことがバレたってわかったから、俺、これからはノゾムくんとずっと一緒にいてもいい?」
リクゼルさんにおずおずとお願いされて、僕の胸に喜びが広がっていく。
街に入るたびリクゼルさんが姿を消してしまうと、本当は心細く感じた。
親鳥のような刷り込み現象だと思おうとしたけど、それだと女性を抱きに行くと言われた時の胸の痛みを説明できなかった。
僕が男を好きになるとは思わなかったけど、生まれて初めて好きになった人が、リクゼルさんだった。
でも、そうは言ってあげない。
「……僕の命を守ってくれるなら、いいですよ」
僕を助けることに毎回条件をつけて抱くという回りくどいことをしていたリクゼルさんに、小さな復讐を開始する。
「それはもちろん。ノゾムくんからも好きになって貰えるよう、これから頑張るよ」
小さな復讐をものともせず、リクゼルさんは笑顔で応える。
いくらその笑顔が眩しくても、直ぐに許しては駄目だ。
恋人にするかのような熱量で僕を抱くのに、代替のきくオナホ扱いされていたことは悲しかったんだから!
「大好きだよ、ノゾムくん。キスしても良い?」
「……良いですよ」
僕も大好きですよ、と心の中で応えながら、瞳を閉じた。
その後僕は、リクゼルさんの何度目かの求愛を受けて、正式な恋人になった。
これでオナホ扱いはなんとか脱することが出来たみたいだけれども、僕を犯すよう命じた依頼主がまた狙ってくるとも限らない。
僕に過酷な異世界転移はまだまだ続きそうだけれども、これからはリクゼルさんの恋人として、魔法も学んで、しっかり生き延びたいと思います!
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