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闇の中
殴られた瞬間は、それは痛いけれど冬夜は生きている実感を感じられて好きだった。
金網で仕切られた丸いリングでは、生きるのに必死な相手が鬼の形相で向かってくる。
簡単に交わせる攻撃ではあるが、その生を感じたくて5回に一回は受けていた。
今日の相手の木場は、今回負けると借金が5倍になるらしく本当に必死になってかかってくるが、冬夜はこの地下格闘場の経営者に雇われているプロの格闘家だ。
元喧嘩上等のヤンキーな上に、海外を渡り歩いて格闘技を身体に教え込まれた格闘マシンである冬夜に、1年前にこの場所に放り込まれた格闘素人が勝てるはずが無い。
運営はこう言った人物を何人か抱えており、こう言った切羽詰まった者が現れたときには必ず飼っているプロを充て、借金を増やして競技場の維持と無限に金を返済させるシステムを作っていた。
一見優男に見える冬夜を最初は油断して殴りかかってくるが、それを受けて生を感じるのも1ラウンドだけだ。
「そろそろ飽きてきたな…」
2ラウンド目の頭でマウスピースの口をモゴッと蠢かせそう言うと、、それに一瞬でもえ?と思った相手の顎の右側。
そこへ一発左手でフックを叩き込む。
左利きとは知らない相手はなんとかなるだろうと受けてしまうが、利き腕は脳震盪必須の場所へ間違いなく拳をヒットさせ、木場は膝から崩れ落ち下向きに冬夜の前に倒れ込んだ。
レフェリーがカウントに来るが、白目をむいているのを確認すると、立ち上がり冬夜の右手を挙げて勝ちを宣言する。
が、金網の向こうの観客は歓喜するどころか騒ぎ出し、
「もっと長引かせろやクズ!はえーんだよ!」
だの
「もっと痛めつけろよバカが!血ぃ見せろや!」
だの
「金払って見にきてんだぞ!お前が勝つのはわかってても見せ場くらい作れ!プロだろーが!クソ野郎!」
だのと激怒をしている。
ここの客は勝ち負けなどは気にしていない。
人が殴られ痛めつけられること、それだけを見にきているのだ。
鍵をかけられたフェンスのドアが外から開き、セコンドがすぐにタオルをかけてくれて冬夜はバリケードの花道を控え室へと歩いてゆくが、そこに手を伸ばして肩を突いてきた客がいた。
試合後すぐの興奮状態と言う事もあったが、その行為にイラついて冬夜はそいつを睨んで拳を握り込んだが、セコンドの塚田に手首を握られて睨んだだけで先を急ぐ。
「客のことは気にするな。お前が殴ったら殺しちまうだろ」
控え室のパイプ椅子に座った冬夜に、塚田が紙コップに入れたポカリを渡してやり、それを冬夜は一気に飲み干した。
控え室はコンクリート打ちっぱなしの無機質の冷たい部屋だ。
狭い部屋だが、プロとして飼われているものは個室を与えられていた。
今冬夜が座っているパイプ椅子の他に、ところどころ破れてはいるが黒い皮の3人ほどが座れるソファーがなぜか置いてある。
冬夜はその椅子が嫌悪の対象だ。
そして部屋の奥には、シャワーフックが壁から生えていて、それを後付けのレールでカーテンが囲んでいた。
「俺…いつまでこれ続けたらいいんすかね」
今回の試合での冬夜のファイトマネーは200万だ。
これは冬夜の知名度と客の入り、相手の借金の額で決まる。
「いい金もらってるんだから文句言うな。まあ俺が半分貰うわけだがそれだって1試合100万手に入るならいい方だろ」
もう一杯どうだ、と言われ断ってから部屋の隅のシャワーのカーテンの中へと入って行った。
シャワーを出して床に置いてあるボディシャンプーを身体にぶっかけて、手で体を洗ってゆく。そのまま髪まで洗ってしまうものだからシャワー時間も早いが、なぜ早くしたいかというと
「ちわっす!」
塚田の声がして誰かが部屋へ入ってきた。この入ってきたやつが来る前に部屋を出たいからなのだが…今日はまずった。
「おう、あとは俺が見てっからお前はいいぞ。ほれ、分け前」
金を受け取ったのだろう、塚田は
「ありっす!」
と言って部屋を出て行ってしまった。
冬夜は小さく舌打ちをしてシャワーをキュッと閉める。
「冬夜、今日はどうした」
冬夜が嫌悪するソファーに座った男は、高そうなスーツを着て足を組んで座っていた。
「どうしたって…別に何も…」
腰に一枚タオルを巻き、バスタオルを頭から被った冬夜は、自分の服の入ったバッグを取りに男とは正反対の場所へ行こうとするが
「おいおい違うだろ、こっちだろ」
自分の膝を叩いて右手の人差し指でくいくいと冬夜を呼ぶこの男の名前は、東條一澄 。この地下格闘場のあるビルのオーナーで、表向きは大きなファンド会社の社長だ。
冬夜は肩越しに東條を見るが、ふっと小さくため息をついてその前に立った。
「どうするんだっけ?」
命令しないやり取りが本当に嫌だった。
自分からしたいわけではないのに有無を言わさない圧で、まるで自分が好んでこうするように仕組んでくる。
冬夜は出来る限りの無表情で、組んだ足が解かれた東條の膝に跨った。勿論タオルの下は何も履いていない。
「今日の試合はなんだって聞いてる」
その腰を両手で掴んだ後、右手を尻の方へ這わせる。
「っ…」
何度されても慣れない行為だが、この人には逆らえない。
「相手が…あまりにも必死で…ガツガツくるから避けるのに飽きちゃって…っんぅっ」
尻の奥に指を這わせられ、そこに無遠慮に指が入ってくると、冬夜の背が伸び上がる。
「そりゃあそうだ。木場は今日負けると、借金が5倍になる契約してたからな…勝てば帳消しだったのに…」
そう言う奴に自分をぶつけるくせに、と思うが中で蠢く指に思考がなくなってくる。ーだからってあの勝ち方はねえ…ーの言葉に続けて、
「いい投資家だったんだがなあ…欲出して俺に仕掛けてきやがって…しかし1年で随分喧嘩できるようになったよな…?な?木場のことだけど」
長い指が奥の方まで入り込み、冬夜は東條の肩に両手をついて背中を反らせてゆく。声はできるだけ出したくないが、今日はどこまで我慢できるか…。
ーだから嫌だったんだー
快感で意識が持っていかれる中、ちょっとでも理性を保ちたくてそんな考えも出してみるが…
「うぁっ…ぁあんんっ」
腸壁の少し奥、ソコを指で押されて思わず声を漏らしてしまう。
フルに立ち上がったペニスも透明な液体を流れさせ始め、
「スー…ツ汚しちまうからもう…」
快感に濡れる瞳で東條にそう言うが、東條は抜け目なく腰に巻いてあったタオルを冬夜の股間の下に当てていた。
「僕に死角はないのよ」
ふざけて笑って見せて、冬夜を膝から下ろす。
これからの行為は…
「でも今夜は…あまりいい試合とは言えなかったから…お前の取り分は50万だ。後半分欲しかったら俺を満足させろ」
スーツのズボンからまだ半分しか勃っていないペニスを取り出して、冬夜を跪かせた。
ここまでくると冬夜も逆らわずにそれを手に取り、まずは下から舐め上げ、教わった通りに東條の顔を見る。
「頑張れ」
笑う東條の顔を目を瞑ることで遮って、冬夜は舐めあげることから咥えることに移行し、喉の奥まで入れては引き出し、その間に舌で裏側を刺激してはまた喉の奥へを繰り返す。
「ああ…いいなお前のフェラは…喧嘩もうまいがこっちも海外で鍛えられてきてるもんな…俺は好きだよお前のフェラ…」
ボサボサの切りっぱなしの髪を優しく掴んで、上下したり左右に触れたりする冬夜の頭の動きと口の動きをリンクさせて東條も目を瞑る。
「飲めるか?ちょっと溜まってるから濃いかもしれんが」
髪を掴んで自分に向かせると、冬夜は目を合わせて頷いた。
「じゃあ…頼む…」
ソファの背もたれに両手をかけて、奉仕する冬夜を眺める。
こうなるともう冬夜は従順で、いつも最初からこうなら楽だろうに、と思って見ている。
上下の動きが速くなり、手も添えられて擦られて、睾丸がぎゅうっと上がってきた。
「出る…っ…」
頭を抑えて腰を突き出し、冬夜の喉の奥まで差し込んで射精する。
それを受け止めて一回飲み下すと、冬夜はそこから少し抜いてまた上下に口中で擦りながら、断続的に出てくるものを軽く吸いながら口で受けて、それを飲み下した後…思い切り吸い上げる。
「っ…ぁ…」
この時ばかりは東條の口からも声が漏れる。
東條は冬夜のフェラチオが好きだった。最後まで全て吸い尽くす技は、女性でもあまりいない。
「ほんとに気持ちいいなぁ…お前のフェラは…俺はこれで満足しちまうんだが、それじゃあお前が可哀想だもんな」
冬夜を引き上げて、再び前に立たせるとフルボッキして先走り液を陰嚢まで滴らせたペニスを握ってその液体を指に絡めると、腰を抱くようにしてその指をバックへと当てる。
ぬるりとした液体で穴の周りを濡らし、口では冬夜のペニスを舐め上げていると、冬夜は最初腰を引くが次第に緩やかに振ってきた。
「じゃあお前ここに膝突きな」
東條は立ち上がってソファを空けると、そこに後ろ向きに冬夜に膝をつかせ、背もたれに手を置かせると腰を突き出させる。
「綺麗なケツだな」
それはお尻全部の形容ではなく、自分が育てた穴のこと。
東條はそこへ舌を這わせ、尖らせた先を侵入させる。
「んっ…ぁ…」
柔らかいがしっかりとしたものが中を抉ってくる。
開かれる感覚はさっき指で味わったが、舌の感触はもちろん味わったことはない触手というものがあったらこんな感じなのかと想像し、多少の気味の悪さもあるがそれがなんとも言えない感覚で癖にもなってくる。
冬夜の身体はもうそれを覚えてしまっていた。
「じゃあいくか…」
さっき冬夜に出したばかりだが、冬夜の尻を舌で舐めた行為で再び起立したペニスを擦りながら立ち上がり、冬夜のバックへと当ててゆく。
前に手を伸ばして滴っている液体をまた指につけて、潤滑剤の代わりに周りに塗りたくって少しずつ進めてゆく。
「ぁ…あぁああ…」
ソファの皮をギュウっと握りしめて、入り込んでくる異物を締め上げると、かえってそれが刺激になり、自分を無意識に高めてしまう。
「は…キツ…いいな…冬夜…いい…」
東條は腰を振り始め、長いストロークの取れる己自身を大きく出し入れし、次第に早めてゆく。
「んっんんっあっんぅっ」
揺れるリズムと同じリズムで声を上げ、最初に嫌がっていた冬夜はもういなかった。
快感に溺れる1人の男で、気持ちとは裏腹に東條 を求めてしまう。だから会うのが嫌だと言うこともあると言うのを本人だけが気づいていないのだ。
「あっあぁっんっんっあぅぁうっ」
長い東條のペニスはもう根元まで入り込み、それで肉の音を立ててパンパンと突くものだから、冬夜の奥も快感の悲鳴をあげてくる。
グチュグチュとあまり聞かない音がなり、冬夜の声も可愛らしいものから次第に獣じみた声に変わってくる。
「ぉうっぐっゔぅ…おぐぅ」
「いい声出てきた…俺も気持ちいいよ冬夜…奥に入り込んで最高だ…」
東條の腰も激しいものからゆっくりになり、冬夜の奥を楽しむようにカリで擦り上げたり、奥に差し込んで亀頭を自ら刺激したりして、冬夜の反応も楽しんだ。
「ぐっぅんっ…はっはぁっ…んぐっ、おっおっ!ぐぅっ…おぅ」
絶え間なく声が漏れ、意識を手放した冬夜は、ただ腰を振って快感を貪るだけの人形のようだ。
「明日も…試合組むから…せいぜい稼げ…」
「うぐっうぁ…んっんぐ…おっおぉ」
そんな声しか出てこない冬夜に笑って、東條は最後とばかりに激しく腰を突いてきた。
「んぐぅうっんっぐぅっあっぁ」
いっそう激しく声も上がり、冬夜は背もたれにしがみつくようにして快感を貪る。
「いいぞ…いい声だイクぞ…中でいいな。出すぞ。お前もイケ…」
中のツボを刺激されたら、そこに触らずともイケそうだ。
揺らされながら冬夜はイク事に集中し、突かれる感覚に身を任せる…。
意識が戻った時には、部屋に1人だった。
身体は綺麗にされ、下着とTシャツだけ着せられている。
またやってしまった…
東條が来るといつもこうで、気づいたら腰の甘い疼きと共に嫌悪感が湧いてくる。
意識が飛ぶほどの快感や今感じている嫌悪感の中にある充足感など、自分を呪うことばかりが高まりこの後酷く落ち込む。
寝ていたソファから身を起こすと、ソファの手置きの上に帯のついた札束が置いてあった。100万円だ。
「満足したってことかよ…」
舌打ちをしてその札束を持って立ち上がると、部屋の隅に投げ出されている自分のリュックへ向かい無造作に投げ入れる。
金はその日が暮らせるだけでよかった。いつももらったものは直ぐに口座にぶち込んで、必要な金額しかおろさない。
コンビニでやっているのでいくらあるのかなんて言うのも把握すらしていない。
部屋も月7万の狭いアパートだし、この世の全てに興味がなくて、毎日昼間は寝て夜にここに通う毎日。
たまにジムで筋トレもするが、鈍ったなと感じない以外は行かないし、ほんと自分はクズなんだなあと毎日考えていた。
「さてと…」
シャツを羽織りズボンを履いてリュックを背負う。
今日の試合は確かに手を抜いたので、客の待ち伏せもあり得るからそれで東條が来たのか?とは思いたくはないが、あの人はそう言う目端も聞くから嫌だ。
格闘のプロに流石に喧嘩を売ってくる者もいないが、イラつく言葉を投げかけてくる輩がいるのは確かだ。まあ言い逃げではあるけれど。
部屋を出て、裏口から出ると5mほどの向こうに大通りが目に入る。
今日もそこに這い出て、まだネオンで明るい23時の街に紛れて一般人の顔をして帰ろう。
そしてまた明日…生を感じにここへ来る。
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