23 / 38

第23話 一週間

 その日の夜、カナタは僕に触れてこなかった。  僕と一緒に寝るのは変わらないが、何もしてこない。  明日も明後日も学校があるからだろうか、それとも違う理由があるのか。  あまりの別人ぶりの僕は内心振り回されていた。  いやカナタは普段と変わらないことをしているだけだ。  朝食の用意をし、帰ってきた学校の話をして夕食を食べる。そんな当たり前の日常を過ごしていた。 「進路なんだけどさ、先生にもハンター止められたんだよな」  夕食の席で、カナタは不満そうに告げた。 「それはそうだろうな」 「そうなんだよなー。来週火曜日から期末試験だから、帰り早いよ。昼メシは勝手に食うから。あと三者面談の日程なんだけど――」    なんていう、いつもと変わらない会話を交わす。  そして夜には一緒に寝るだけだ。抱きつきもしてこなければ、触れもしない。  カナタは夜のことを口にしないし、だから僕も触れない。  表面上、何も変わらない時間が流れていた。  その週末、六月二十九日金曜日。  仕事からの帰り道、人気のない夕暮れの町を歩いていると、目の前に立ちふさがる男たちがいた。  二十歳は超えているであろう、異形の青年が二人、僕を不思議なものをみる目で見つめている。 「こいつか?」 「ええ、間違いないですよ。絶滅危惧種の旧人類」  白髪の男の問いに、綺麗な顔をした黒髪の男が妖艶な笑みを浮かべて答える。  ああ、そういうことか。  どうやら彼らはどこかで僕の噂を聞きつけたらしい。  こんな場面は一年に一度は必ずあった。  相手がひとりならまだ逃げられるだろうけれど、背後にも立たれているようで逃げ場がない。 「本当に人間なのか……?」  不審げに白髪の男がつぶやく。 「ええ。よく見れば異形とは違いますよ。耳も、姿形も整いすぎてる」  白髪の男の言う通り、それが異形と僕の決定的な違いだった。  背後から気配が近づき、腕を掴まれる。 「ヤればわかるでしょ? そんなの」  僕の腕をつかんだ異形は。笑いを含んだ声で言った。  夕暮れの中、人など来ないであろう廃工場に僕は連れ込まれ、乱暴に服を脱がされる。  抵抗するつもりなど毛頭ないが、男たちは僕を後ろ手に縛りあげた。  後ろから貫かれ、僕の口の中にもペニスが出し入れされる。  仕事帰りであるから、僕のそこは難なく男たちのペニスを受け入れた。 「慣れてる感じするけど……中キツっ」  うっとりとした声が背中に降ってくる。 「高級娼夫に旧人類がいる、と聞いたことありますから、もしかしたら彼なのかもしれませんね。舌使いも上手いし」  僕の口の中を蹂躙する黒髪の男が言い、奥までペニスをねじ込んでくる。  息苦しさに涙がでてくるが、男たちがそんな事、気にとめるわけがなかった。  響く水音に僕の諦めの想いがどんどん大きくなっていく。 「へえ、じゃあ……二本、入るんじゃねえの」  面白そうに言われた言葉に、僕の背筋が凍る。  たとえ傷ついたとしてもどうせ治るが、心は確実に壊れていくのに。  そんなこと知りもしない異形たちは僕の身体を蹂躙し続けた。  どれほどの時間、陵辱が続いただろうか。  精液まみれにされて打ち捨てられた僕は、ゆっくりと身体を起こす。  工場にはすでに誰もいない。  縛られた痕が消え始めている手首を見つめて、僕は息をついた。 「畜生……」  そんな呟きは、静けさの中に虚しく消えていった。  ふらふらと歩き、どうにかでた水で軽く身体を洗い、僕は日が暮れた町を歩きなんとか家にたどり着く。  できればカナタと鉢合わせたくなかったが、そんな事はもちろん不可能だった。  玄関ドアを開くなり、カナタが部屋から出てくる。 「おかえり、音耶。帰り遅いから心ぱ……」  そこで言葉が途切れたことで、カナタが察したことに気がついてしまう。 「ただいま……シャワー浴びる」  それだけ告げて風呂場へ向かおうとする僕に、カナタの哀しげな声がかかった。 「……レイプ、されたの?」  できればカナタにそんなこと、気が付かれたくもないし触れても欲しくない。  だから僕は何も答えず廊下を行こうとすると、カナタが僕の腕を掴んだ。 「精液の匂いがすごい。いつもこんな匂いしないのに」  やはり匂いで気が付かれるか。だから顔を合わせたくなかったのに。  そんな、必死な様子のカナタの方をゆっくりと振り返り、僕は淡々と告げた。 「大丈夫だから、シャワー、浴びさせて」 「音耶……」  カナタの手の力がすっと抜け、僕は彼の手を払い風呂場へと入っていった。   

ともだちにシェアしよう!