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第1話
俺が担当する競走馬、ゲンキイチマンバイ、ゲンマンは名のとおり鬱陶しいほどの元気印だ。
二十四時間三十五日ポジティブシンキングで練習には全力投球、がっつり脳筋の体育会系で、すこし頭が足りないのが愛くるしい。
馬主やオーナー、スタッフ、ファン、大勢に愛されている馬なれど、成績はいまいち。
原因は明白で、筋肉をつけすぎて体が重いこと、そうと分かっていても調教師の俺がダイエットさせられないことだ。
ぶっちゃけ、俺はゲンマンを特別視しているし、夜のおかずにもされてもらっている。
だって筋肉もりもりの豊満な肉体をしながら、愛嬌あふれる天然ちゃんなんて、かわいすぎるだろう。
どうもゲンマンは筋肉がつきやすい体質のようで、平均的な食事の量、トレーニングの量でも、ほかの馬よりボリュームのある体つきに。
となれば、それらの量を減らせばいいものを、ハムスターのように頬を膨らませて食事をするさまも、汗を散らしてがむしゃらに筋トレに励むさまも、愛しくてしかたなく、待ったをかけられない。
まあ、レースに勝てなくても人気があるから、引退するまで施設送りにならないだろうし、俺の立場が危うくなることもないだろうとはいえ、高い潜在能力を発揮させてあげられないのは、かわいそう。
調教師としての仕事怠慢を棚にあげて「なんとかならないかなー」と悩んでいたところ。
レース期間にはいったものを、俺とゲンマンは寮でお留守番。
ゲンマンは足首の怪我のため、俺はほかの調教師と殴りあいの喧嘩をして謹慎処分を食らったため。
俺はともかく、これまでレース皆勤賞だったゲンマンは耳を垂れてさすがにしょんぼり。
二人で部屋でぼんやりとしながら「なあ、ケンジさん・・」といつになく神妙な口ぶりで。
「俺、どうやったら、もっと早く走れるようになるかなあ?
いつもみんなに、とてもよくしてもらっているというのに、あまり勝てなくて、今回は休場になっちゃって申し訳ないというか、ちゃんと恩返しをしたいんだよ・・」
「まあ!なんて健気な子!」と胸をときめかせつつ、ここは俺が元気づけねばと「知ってるかあ?」とふんぞり返ってみせる。
「俺の精液を飲んだ馬は、みーんな出世しているんだぞ?
ほらスターキラリンとか、ゴッドマスターとかさあ、俺のちんこをしゃぶって下の口でたらふく飲んで、そしたら俄然、走りが早くなって、一気に頂にのぼりつめたわけ!」
「お前もスターの仲間いりしたかったら、飲ませてやってもいいぞ!」とあきらかに冗談で、がははは!と笑ったものの「うん!飲ませてくれ!」と真顔のゲンマンが股間に接近。
予想外の反応に「へ?」とすぐに対応できず「いや・・!ちょと、冗談・・!」と暴れだしたところで、すでにズボンと下着をずり下ろされて性器をにぎられていた。
俺は競走馬になりたくてなったのではない。
借金のかたとして親に売られて、この協会に引き渡されたのだ。
はじめは悲しかったし不安だったから、訓練生として指導されるとおりに練習に励んでいたら「こりゃあダイヤモンドの原石だ!」ともてはやされた。
とたんに興ざめした俺は「活躍することで、まわりが利益を得たり、よろこぶなら、がんばりたくないな」と考えて、以降、絶妙に手をぬくように。
デビューしてからは、施設送りにならないていどに勝利をおさめて、どれだけオーナーや馬主、スタッフに「もっと本気でやれば、スターになれるぞ!」と背中を押されても完全無視。
大規模な賞レースなどで接戦のときは、あっさり走る速度を落とし、そのまま最下位になったり、関係者を怒らせるような真似も。
今回も、途中まで一位争いをしていたのが、ゴール近くになって失速したのをまわりから非難されたもので。
どれだけ、落胆されても、叱咤されても「はいはーい」と聞き流していたのだが「お前には負け癖がついているぞ!」との大声の指摘には、こめかみを強ばらせる。
「ほんと、お前、調教師のくせに目が臭ってんな?
負け癖じゃなくて、俺はわざと負けているの、分かる?
人間の都合で走りたくないのに走るなんて、まっぴらごめんだからな」
「そうやって高飛車なふりをして、自分の欠点を見て見ぬふりをしていては、なんの問題解決にもならないぞ!
ちゃんと負け癖があるのを認めて、どうやって克服できるかを俺と考えながら、心身を鍛えあげようじゃないか!」
俺を担当するのは、人情派熱血調教師。
盲目的なほどに前向きな思考をして、この世には心に闇を抱える人もいるということを知らない、というか、認めないで、一方的にポジティブシンキングを押しつけてくる無神経な野郎だ。
ほかの人間につっかかられても「へーへー」と冷笑的にあしらう俺にして、こいつに対してだけは、むきになって噛みついてしまう。
今もまた逆上してしまったが「いや、落ちつけ、こいつのペースに乗せられるな」と一旦、落ちついてから「俺さあ」とふんぞりかえってにやにや。
「ほかの調教師の言葉になら聞く耳持つけど、お前の指示には絶対従わないから。
だって童貞のいうことなんて聞けるわけないし。
すくなくとも俺よりエッチが上手なやつじゃないと、耳を傾けねーよ」
物心ついたときから馬に一途なオタク道まっしぐらで色恋にまるで興味ないらしく、自ら童貞宣言もしている。
その揺るぎない事実があるからこそ「童貞の話は聞かない」と突き放せば、押し黙るだろうと思たのだが「俺は童貞だが、エッチがへたとは限らないだろう!」とまさかの真顔の返答。
「はあ!?童貞のくせに、なにふざけたこと・・・!」
「俺のエッチがお前よりへただという証拠があるのか?
ないなら、どうして、そう決めつけられる!」
急に論破してきたのに、悔しいながら、すぐに反撃できず。
歯噛みする俺に、童貞調教師が告げたことには「じゃあ、お前が抱かれて確かめてみるか?」と。
「ついでに勝負しようか!
もし、俺が先にイったらお前のいうことをなんでも聞く、もし、お前が先にイったら俺と負け癖改善トレーニングをする!どうだ!?」
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