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第3話 幼なじみ
気分が滅入る卒業アルバムを閉じて、ベッドの下で腹筋を始めたところ。
がちゃ、とドアが開いた。
「また筋トレ?」
尊が苦笑しながら、入ってきて、ドアを閉めた。
オレは、腹筋をやめて、座り直した。
「頑張ってるよな」
笑いながらオレを見てくる、尊は大きくなるごとに、イケメンへと進化した。昔は、超、鼻垂らしてたくせになぁ、と思いつつ。
少し毛先が跳ねた感じの黒髪、キリっとした一重。
サッカー部、健康的で焼けた肌。オレとは反対で、男っぽい。頭も良くて、難関私大の附属に合格してる。学年一モテるって言われてた。
「おー、いいじゃん、神陵の制服」
制服を見て、そう言いながら、尊はローテーブルの反対側に座った。
「いよいよ明日だな、入学式」
「一緒じゃないの、初めてだね」
「幼稚園のから一緒だったもんな」
ははっと笑う尊。そう。オレたちの母さんは、妊娠中、区で行われた母親学級で知り合った。同じ町内で、出産予定月が同じ人達が集められたらしい。そしたら徒歩二分という近所で、気もあったらしく、オレと尊は生まれる前からの幼馴染みだ。生まれてからもずっと一緒に遊んでたので、もうお互い、ほぼすべて知り尽くしている、と思う。
オレが初彼女に振られた理由も、亮介のことも、尊にだけは話してある。
ばらさないのはもう、分かってるし。お互いにいろいろ知りすぎてるので、秘密協定みたいなもの。
「とにかく、なめられないようにな?」
「あ、うん」
「翠はさ、中身は女っぽい訳じゃないし。いざ襲われても合気道で吹き飛ばせるから大丈夫だとは思うけど」
「一般人、吹き飛ばすのはあんまり」
「いざという時はってこと。お前に投げ飛ばされるとは、絶対誰も思わねーもんな。お前にそれが無かったら、オレ、結構心配してただろうけど」
「大丈夫だよ。そこらへんは、心配しなくて平気」
「そうだな。高校入っても、まだ続けんの?」
「もちろん。小三からだしさ、やめたくないから」
その時、コンコン、とノックの音。はーい、とドアを開けると、母さんと、妹の澪みおが入ってきた。
「お茶どうぞ。お菓子とかはまだいらないでしょ?」
「うん、ご飯食べたばっかりだし」
「尊くん、こんにちはー」
母さんと話してるオレの横で、澪が尊に笑顔で言ってる。「こんにちは、澪ちゃん」と尊が笑顔で返すと、澪、嬉しそう。
いつからか、澪は尊を王子だと思ってるらしい。
少し話してから、二人が出て行くと、尊は「かわいーな、澪ちゃん」とクスクス笑った。
「尊は王子らしいから。あ、でも、手は出さないでね」
「翠、馬鹿なのか? 小二だよ? オレ、そんなに困ってないし」
「はいはい。モテモテだもんな、尊」
「翠だって、普通に女子にモテるじゃんか」
「気を使ってくれなくていいよ。オレは、高校から頑張る」
「別に気ぃ使ってねーけど……まー頑張れー」
「もっとやる気で応援してよ!」
はは、と尊は笑って、ふとドアの方を見てから、オレに視線を戻す。
「ほんと、おばちゃんと、澪ちゃんと翠、そっくりだな」
「言わないで」
「理人りひとはおじさんにそっくりだしな」
「オレも父さんに似れば良かった」
「まあ、そこは選べねーからな」
「ほんと、それね」
うちの父は普通にかなりイケメンなのだ。母は超可愛いと、皆に言われる。親同士でも言われてるし、オレの友達も言う。授業参観で二人そろってくると、嫌と言うほど目立ってた。
高一のオレ、中二の弟の理人、小二の妹の澪。三人も産んで、そこそこ年もとってるのに、可愛いと有名な母さんに、オレはそっくり。遺伝子って怖い。性別を無視してくる。澪は女の子だから可愛くていいけど。でも、可愛いから、オレが守ってあげないとだけど。
理人は父さんにそっくり。まだ中二だけど、イケメンのオーラはひしひしとあって、羨ましすぎる。
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