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ハロウィンの夜に会ったなら

もう十年も前のことだ。 ハロウィンの日。お金が無いので、白い布を被っただけの幽霊の仮装をして、広場に行った。 たくさんの人混みの中、その子を見つけた。 魔法使いの仮装をした男の子。 泣いていた。誰もその子に話しかけないから俺が話しかけた。 「どうしたの?」 「ひっく⋯⋯迷子になったの」 「誰と来たの?」 「お父さんと⋯うぅ⋯怖いよぉ」 さらに泣き出してしまったその子におろおろした。 どうしたらいいのか、幼いなりに考えた。 「じゃあさ、俺と一緒に探そ!」 「えっ⋯?」 「お父さん、探そうよ。大丈夫!俺がついてるよ!」 その子を心配させまいと必死に強がって、その子の手をぎゅっと握る。 「⋯⋯あ、りがとう」 その子は涙で濡れた顔でにこりと笑ってくれた。 その後のことはあまりよく覚えていない。 ただただ必死に広場を駆け巡っていた。 その子を怖がらせないように、時々大丈夫と声をかけていたのを何となく覚えている。 それからどのくらいだったか―― 森の近くでその子のお父さんと再会した。 お父さんも魔法使いの仮装をしてたので、仲良しな親子だなと思った。 お父さんとその子にありがとうとお礼を沢山言われた。 帰り際、その子は言った。 「僕ね⋯君のことが好き。あのね、だからね⋯⋯十年後、大きくなったら僕のことお嫁さんにしてくれる?」 ひどく驚いた。だって初対面の子に、しかも綺麗な子にそんなこと言われるなんて思わなかったから。 混乱しながらも「いいよ」と答えた。 「本当?約束だよ」 そう言って、その子は俺をぎゅーと抱きしめる。 俺も負けじとぎゅーと抱きしめた。その様子をその子のお父さんは微笑ましそうに見ていた。 「⋯⋯じゃあね。また会おうね」 そう言うと俺から離れ、お父さんの元へ走っていった。 そして、驚いた。 二人はホウキにまたがり、飛んだのだ。空を。それが当たり前のように。 ――それが、朧気な十年前の記憶。 俺はまたあの広場にやってきた。 あの時と同じく、幽霊の仮装。 あの子が約束を覚えているかなんてわからない。 でも、俺はあの子のことを焦がれている。 だから来た。 ――人混みの中、彼がいた。 魔法使いの格好。背丈は俺と同じくらい。とても、綺麗に成長していた。 あの子――彼はこちらを見つけると、にこりと笑う。 彼は手招きをして、人が居ないところへ案内する。 森の近くだ。彼はそこで止まり、俺は彼に近づく。 「⋯⋯⋯約束、覚えててくれた?」 首をこてんと傾げ、彼はそう言う。 「うん」 「よかった⋯忘れてるかと思ってた」 「忘れないよ⋯俺も、君のことが好きだから」 彼の手を握りながら言う。 「僕さ、人間じゃないよ?」 「知ってるよ」 「⋯⋯それでもいいの?」 「いいよ。君だからいいんだ。それに、俺も君に顔を見せたことないけどいいの?」 「⋯いいよ。君だから、いいの」 彼はそう言い、握り返してくれた。 「僕と、来てくれる?」 「⋯⋯⋯うん。未練はあるけど、それ以上に君といたいから」 「ありがとう。じゃあ、行こか」 どこからともなく彼は杖を取り出し、呪文を唱える。 魔法の光が辺りを包む。 見慣れた世界が消えていく。月の向こうに見えていた家が、少しずつ薄れていく。 ――月が綺麗だ。 ハロウィンの夜。ひとりの青年が消えた。

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