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第16話

気づけばもうすぐ日が昇るような時間になり、俺たちは美しい日の出を眺めてから車で帰った。俺は車の中で大学でもらった塩分タブレットがあることを思い出し、サクに手渡した。 「なんですか?これ」 「大学で子供からもらったんだ」 「子供…ですか?」 「多分だけど、お前丸一日何も食べてないんじゃないか?あとでコンビニ寄るまで、それでも食っとけ」 「……うん、ありがと先輩。俺、梅味好きだよ」 俺ももらった塩分タブレットをひとつ取り出して袋を破り、口にほおり込んだ。クエン酸のすっぱさとブドウ糖の甘さが体にしみた。それから車をひたすら走らせ、無事サクの家に到着したのは午前八時くらいで、玄関を開けるなり母親がわっと飛び出してきた。サクと母親は二人とも抱き合い、わんわんと泣いていた。俺はそれを見守り、しばらくしあと、二人に挨拶をして、自宅へと戻った。 サクの話によると、サクの家は離婚後に二度ほど引っ越したらしく、家の住所は父親にはばれていないとすれば母親は安全だろう。心配なのはサクだ。あの後サクは父親のメールアドレスを着信拒否に登録し、メールを消去した。俺は今後できる限りサクと一緒にいるようにすることにし、サクのバイトが休みの日はサクに俺の家に泊まってもらうことにした。これから、もっともっとサクと仲良くしたいから。 「俺、今度文芸サークルに入ろうかなと思ってるんだよね」 サクが俺の隣で話し始めた。 「サークル?いいと思うけど、お前バイトは大丈夫なのか」 「うん。前よりもだいぶ慣れてきたし、毎日は難しいかもしれないけど、たまに顔出すくらいなら。サークル入ったら文化祭で合同誌とか出してみたい」 「しかしお前が文芸好きとは意外だったな」 「俺、五教科だったら国語が一番好きだし得意なんだよね。本読むの昔から好きで、それがだんだんと自分でも文章書きたくなってきて。先輩に見せたあの原稿も俺が書いたやつ」 「あぁ、あれか。なかなか面白かったぞ。謎解きもあったし」 「ふふっ。今度新しいの書けたら先輩に一番最初に読ませてあげるね」 「おう。楽しみにしてるぞ」 俺はサクの頭をわしわし撫でた。サクは少し照れているような、じれったいような顔で 「えへへ」 と笑っていた。 もしも限りなくゼロに近い確率でしか起こらないことが起きた時、人はそれを奇跡と呼ぶのだろう。星の数ほど人間が存在するこの世界で、俺とサクが出会えた確率はどれくらいだろう。これは奇跡であり、そして期待であり、救いでもある。ふと耳を澄ませてみると、遠くで汽笛の音が聞こえた気がして俺は夜空を見上げた。マンションのベランダから見る景色は湖で見た夜空にはかなわなかったが、今日も満天の星空である。隣にいる小さなポラリスは何かに気づいたようにあたりをきょろきょろとしていたが俺が見ていることに気づき、俺を見つめた。俺はそれを見つめ返し彼を抱きしめた。そして確信を得た。俺が見つけた煌めく小さな動かぬ星。 俺はサクを、宇宙でいちばん愛してる。

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