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第1話

そのホラーゲームはゾンビパニックのアクション系に見えて、すこしちがう。 相手はゾンビでなく、植物人間だから。 植物人間とは寝たきりの人ではなく、全身緑の肌をして葉っぱや蔦を生やして光合成をする存在。 人間は酸素を吸い二酸化炭素を吐くが、植物人間は本家の植物と同じく、二酸化炭素を吸い、酸素を吐く。 植物と人間が合体した生命体の誕生のきっかけは、世界で二酸化炭素排出量が目標に達して減ってしまったこと。 おそらく、それが原因で、二酸化炭素を餌とする植物たちが、地球全体で一斉に突然変異を起こし、人間と同じ構造になったのだ。 つまり酸素をとりこみ、二酸化炭素を排出するという。 おかげで地球全体で一気に酸素量が減り、人々は次々と窒息死。 酸素ボンベなどを使い、なんとか生き延びた人類は、かつての人口の五十分の一に。 人が減ったところで、全世界の植物たちの二酸化炭素放出はとどまらず、科学者の計算によると「五十年も経たずに植物も人間も絶滅するだろう」と。 人間が吐いた二酸化炭素を植物がとりこんで、酸素を放出し、それを人間が吸収する。 持ちつ持たれつの循環が、人間の愚作によって崩れ、怒るように突然変異を起こした植物は暴走したまま、無理心中をするように破滅に向かっているようだった。 人の手で酸素をつくることができるとはいえ、全世界の植物の反乱にはとても敵わず、とてもとても前のように日常生活を送るのはままならない。 動物はとっくに全滅、生きのこった人類にしろ五十年を待たずに滅んでしまうとの計算がされたが、ある有能な科学者が、絶望的状況を打開してくれるような革新的な生物を誕生させた。 そう、それが植物人間だ。 植物より多くの酸素をつくりだしてくれ、一人いれば、大勢が救われるし、まともな生活が送れるし、数を増やして全世界に配置すれば、逆転した酸素と二酸化炭素の循環を成立できて、もろもと全滅を避けられる。 人類救済の希望となった植物人間なれど、じつは元人間。 滅びかけの世界で常識も倫理も法律も糞もなかったが、それでも「非人道的なのでは」と反対の声があがり「だれを植物人間にするのか、だれが決めるのか」と問題点が指摘され喧喧囂囂に議論がされた。 植物人間を有効活用して人類を存続させようという派閥と、植物人間の研究を元にべつの方法を模索して犠牲者をだすまいとする派閥と別れて、争いは激化するばかりで、ついには決別。 アメリカのある地域で生きのこりが集まって暮らしていた施設、そこから反対派は追いだされて、賛成派は拠点の防衛をしつつ、べつの地下の拠点をつくってお引っ越し。 道を分かたれてなおのこと、意地になったようにお互いを目の敵にして、賛成派は攻撃的な植物人間を開発し、反対派に襲わせて殲滅しようと。 反対派は撃退しつつ、地下にもぐって行方をくらました賛成派の拠点を見つけだして制圧、研究データーを手中にし、植物人間から発展させた研究で人類救済をしようと。 ゲームは反対派の視点で、賛成派を倒す展開。 敵は攻撃的に改造された植物人間なれど、これがなかなか厄介。 植物人間に種を植えつけられると、自分も同じように変貌して人間性を失い、元にもどることはできず、そこらへんはゾンビと似たようなもの。 明確な急所というものがなく、多少、体が欠損しても死なないから、粉々に砕いて戦闘不能にする必要が。 プレイヤーが操作するのは、反対派のリーダーにして戦闘チームの指揮官、イアン。 スポーツ刈り金髪青目、ゴリマッチョで脳筋ポジティブな典型的、陽キャラのザ・アメリカ人で「Go to Heven!」が戦闘時の口癖。 「Go to hell!」が「くだばれ!」だから、その意味合いもありつつ、元人間を哀れんで「天国に行っちまえ!」と銃弾を打ちこんでいるのだろう。 「何人殺れるか競争だ!」とやや不謹慎ながら、意気揚々と戦うさまが目を引いて、どん詰まりの絶望的な状況にあって、陰鬱さを吹きとばしてくれる。 ホラーゲームにしては珍しく、勢い任せの無鉄砲戦闘狂キャラで、この主人公の人気が高いことからゲームが売れているのだが、さらに注目すべき点が三つ。 ひとつ目は、水中にいるように酸素が吸えない状況での戦闘。 ふつうのアクションゲームのように体力ゲージなどに加えて、酸素残量ゲージがある。 イアンやほかの隊員は酸素ボンベを背負って戦い、残量がゼロになる前に補給をしないと死亡。 補給部隊がくるまで、ボンベの交換にすこし時間がかかること、ステージによって補給できる回数が限られていることなどなど、制約があっての戦闘はけっこう難しい。 あまり難易度が高いと、アクションに不馴れな層は避けるのだが、このゲームに限ってはミッションクリアしたときの緊張からの解放感と達成感がたまらないと好評のよう。 ふたつ目は植物人間の扱いについて。 主人公のイアンは植物人間を利用しての人類救済を認めない派閥なれど、酸素がないことには賛成派の猛攻に対抗できないどころか、日々の生活もまともに送れない。 人の手で酸素をつくりだすのでは間にあわず、結局、否定派も生きる糧として植物人間を利用しているのだ。 というわけでゲームでも生け捕りが求められる。 あるていどの数の植物人間を生け捕りにしないと戦闘のパフォーマンスが落ち、増えるほど戦闘員も比例して、士気があがったり強化されたり、いいことづくめ。 ただ、殺すより生け捕りにするほうが、種を植えつけられるリスクが高まるし、なにより植物人間否定派としては葛藤せざるをえず、サイコパスでない限り、プレイヤーは苦悩することに。 「こんなシステムをつくった制作者は鬼も泣かせるような鬼畜だ!」と泣きじゃくりながらプレイする人たちは、そのくせ、なかなかゲームをやめることができない。 潜在的エムっ気をくすぐられるのではないか?との説が流れているとはいえ、つぎつぎとプレイ中毒者が生みだされる理由は謎。 三つ目はモブの顎髭の男が「けっこうエロくね?」と囁かれていること。 彼は主人公、イアンの友人であり相棒のガルで、顎髭を生やして渋い見た目をしながらも、二人は同い年という。 腕の立つ医師兼、植物人間について研究をする科学者。 後方支援の担当かと思いきや、イアンに劣らない屈強な体つきをし、特攻するイアンに負けじとばかり、ごつい銃器を担いで先陣を切る、なかなかの好戦的な眼鏡をかけたインテリだ。 「そこらの兵士より兵士らしく戦う医者であり科学者」という個性的でユニークなキャラなれど、なぜかゲームでは一言も話さない。 イアンのそばにいることが多いし、なくてはならない主人公の相棒というポジションながら、説明書やホームページに名前以外の詳細が書かれていないし。 さらに不可解なのはラスボスを倒したあと、イアンのそばにいないこと。 そのうえでエンディングロールも謎だらけ。 ホラーっぽくなく、色恋がこじれた三角関係のBL小説。R18。 「こんなホラーゲームがあったらいいのに」と願望混じりに設定を考えるのに浮き浮きしてせっせと書いたものです。 各サイトで電子書籍を販売中。 詳細を知れるブログのリンクは説明の下の方にあります。

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