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短編
「こらこらルキ、それは食べちゃ駄目だよ」
僕は慌てて、可愛い弟分の手を掴んだ。
何を言われているのかわからない、というようなキョトンとした表情で僕を見下ろすのは、三年前に森で拾った魔族の子供。
ルキの木の根元で倒れていたから、そのまま便宜上ルキという名前で呼んでいる。
僕は血まみれで倒れていたルキを、はじめ魔族とはわからずに助け、自宅に連れ帰ってせっせと看病した。
だから、ルキが目を開けた時、僕は途方に暮れた。
その真っ赤な目と縦長の瞳孔を見て、魔族であることに気付いたのだ。
この時僕は、こんなに人間そっくりな魔族もいるということをはじめて知った。
森の中にぽつんと佇む一軒家に住んでいて、心から良かったと思う。
魔族は人間に害をもたらす存在とされており、見つかれば即殺処分の対象だ。
しかし、ルキは人型の魔族。
僕に対して警戒心は見せるものの襲ってこないことから、もしかしたら言語は伝わらなくても身振り手振りでなんとか意思疎通が可能なのではないかと、僕は期待した。
「怪我が治るまでは、ここにいてもいいからね」
僕はそう伝えて、ルキに質素だけれども山の幸をふんだんに使ったご飯を与え、清拭をした。
身体の包帯を取り替えたり薬を塗ったりした後、ルキが怖がらないようしっかりと距離を取って、硬い床で寝る生活をした。
数日後、噛まれたりしたらどうしよう、と思いながらも頭を撫でてみたが、特に嫌がる様子もなく僕に身を任せてくれた。
僕が仕事に行く時、自由に外へ出られるように鍵をかけずに行ったが、山から戻ってきてもルキは外に出ることなく大人しく家の中で待っていた。
やがてルキは、怪我が治ると僕について回るようになった。
僕の仕事に付き合って一緒に山へ入るようになり、僕が山菜や薬草を摘んでいる間に、どこからか狩りをしてきて獲物を獲ってきてくれるようになった。
自由に動けるようになったルキは、「もう自分のお家に帰ってもいいんだよ」と伝えた後も僕の家に住み続けた。
いつの間にか二人で食卓を囲み、風呂に入り、同じベッドで寝て、一緒に山へ行く生活が当たり前になった。
僕の腰ほどまでしかなかったルキの背丈は、今では二メートル以上に成長し、頭を下げて入らないと家のドア枠に頭を打ち付けてしまうほどだ。
でも魔族だからか言葉は三年前と同じくほとんど通じず、子供のようなその仕草についつい幼子にするような話し方をしてしまう。
「この実は毒があるから、ぺっ、しようね」
一生懸命ジェスチャーで伝えようとするが、上手にできなかったみたいだ。
「あ、こら」
ごくん、と目の前で飲み込んでしまい、僕は肩を竦める。
肩を竦めるだけですませたのは、どうやらルキの身体は毒耐性があるようだからだ。
触れば皮膚がかぶれてしまうような草でも全く問題なく触れるし、動物が恐れるような猛毒の実を口にしてもせいぜい腹を下す程度。
ルキは僕の太腿ほどに育った逞しい腕でひょいと僕を担ぎ上げると、何事もなかったかのようにそのまま山の中を歩き出した。
***
「う〜ん、やっぱりこの本にルキのことは書いてないみたいだなぁ……」
僕は街で購入した魔族辞典を開きながら、僕を後ろから抱きしめたままうなじをペロペロと舐めるルキの頭をよしよしと撫でた。
何故か最近、ルキは僕を抱っこしたがる。
椅子が壊れる様子もないのでルキの好きにさせていたけれども、余りにも頻繁に僕のうなじを舐めるようになってきたので、そろそろ止めさせなければとは思っている。
「ルキは変異種なのかな? 似たような特徴を持つ魔族もいるみたいだけど、人型じゃないんだよなぁ……」
ある犬型の魔族は番を見つけると、種付のために成長ホルモンが一気に分泌されて幼体から成体へと変化する。
また毒素を体内で分解し、それを精液に混ぜ込み媚薬とする特殊な植物型の魔族は、雌雄関係なく相手を孕ませることができる。
そしてオーク型の魔族は常識改変という術式を展開する個体もいるので、その紅い瞳を長く見てはいけない。
ルキの特性と似通っていて参考になりそうなこともいくつか書いてあったけれども、どれも人型ではなかった。
オークが極めて人型に近いけれども、ルキのように人間と間違えるほどの姿ではない。
ルキが正しく成長してくれているのならばいいのだが、魔族の育児本なんて何処にも置いてないから困ってしまう。
こんな田舎では情報収集するのも一苦労で、成長の過程でルキに何かあったらどうしよう、と最近ではそれが専らの悩みだ。
テーブルに頬杖をついて困った僕のうなじを舐めていたルキは、同じ場所をかぷかぷと甘噛みしだす。
「ルキ、噛まないで〜」
先日野良猫の交尾を見てからというもの、ルキは僕の首にじゃれつくようになった。
きっと、メスの首にオスが噛みついているのを見て、自分もやってみたくなったのだろう。
魔族にも発情期というものがあるのか、僕のお尻の辺りには、しっかりと成長したルキの性器がちょうど当たっている。
三年前まで幼子だったのに、二メートルになった今ではもう立派な成人済みの魔族なのだろう。
もしかすると、生きた年齢で言えばルキは出会った頃から弟ではなく兄だったのかもしれない。
魔族はどうやって性欲を発散するのだろうと思いながら分厚い本をパタンと閉じると、僕はルキの膝の上でくるりと向きを変えてルキを見た。
「僕はオス、ルキもオスなんだから、交尾は出来ないよ?」
僕の言葉を理解出来ないルキは、首を傾げる。
そして視線が交わったままルキの顔が近付いて、僕にキスをした。
魔族のキスにはどんな意味が込められているのだろうか。
ルキの頬を押さえて距離を取ろうとしたが、逆に頭を押さえつけられて上手くいかない。
「ルキ、ちょっと……んんっ」
ルキの長い舌が入り込んで口内を這いずり回り、僕は目を白黒させる。
意味が分からないまま、しかし誤って噛んでしまわないよう、僕は口を開けていた。
僕にとって長い時間が経過したあと、やがて満足したのかルキの舌が去って行く。
「もう、人間はそんなことしないんだよ」
僕が注意しても、ルキは首を傾げるばかり。
「あ、こら」
ルキは僕の頬を舐め、鎖骨を舐めた。
いつか僕は、弟のように可愛がっているルキに食べられてしまうのではないかと、ちょびっと不安になった。
***
「お、トーイじゃねぇか」
「……こんにちは、若様」
嫌な人に会ってしまったなと思いながら、僕はぺこりと頭を下げた。
街の偉い人の、息子で長男。
次男が跡を継ぐことが決まっているみたいだけど、その偉い人の名前を使って、僕たちのような立場の弱い人間に色々融通しろと言ってくる困った人だ。
山の恵みをお金に換えさせてもらっているだけの僕にまで何かと絡んでくることが多く、本当に暇なのだと思う。
「相変わらず、細っこいな。きちんと食べていけてるのか?」
「お陰様で」
当たり障りのない返事をしながら、少し足早に去ろうとする僕。
なぜ当たり前のように後ろをついてくるのか、ちょっと理解できない。
「その布、どうした? お前のものにしては、やたらでかくないか?」
恐らく他意はないだろう挨拶程度の会話に、思わずドキリとする。
ルキ用の服は街にも売っていないので、僕が布を使って服にしているのだ。
三年前は本当に酷い仕上がりだったが、生地を売っている店舗の女の子と仲良くなったので色々教えて貰えるようになり、今ではだいぶ上達した。
「最近少し、大きくなったんです」
でも、最近は以前より肉がついているはずだ。
ルキが山で獲物を獲って来てくれるようになってから、街の人から随分と健康的になったと褒められることが多くなったんだから。
「なあトーイ。いい加減山なんかじゃなくて、街に住めよ」
「ばぁちゃんが遺してくれた家ですし」
「でも、山は魔族がうろちょろしてて危ないだろ。今の時期なんて、虫型が多いしな」
若様の言葉に、思わず足を止める。
「若様って、もしかして魔族のこと、お詳しいですか?」
山に住んでいる以上、街の人間よりも魔族に詳しいつもりでいた。
しかし逆に言えばばぁちゃんが教えてくれたのは僕の住む山の話だけで、魔族全般に対して見識があったわけじゃない。
「え? ああ、勿論だ。お前と違って、俺は色んなところに行ったからな!」
「では……人型の魔族についても、ご存知ですか?」
「人型? そりゃお前……」
若様はふと口を噤んで、僕の耳元で囁いた。
「公には話せねぇ話だから、お前の家で教えてやるよ」
「本当ですか!?」
今までずっと、家に来たいと言っていた若様をなんとか宥めすかして家にまで招待したことはなかった。
しかし、本に記載されていなかったルキの情報が手に入るなら、お安い御用だ。
僕は喜んで、若様と一緒に家路についた。
***
「俺、この山に入って一度も魔族に遭遇しなかったの、初めてかも」
「そういえば、ここ数年は見かけなくなりましたね」
ばぁちゃんが生きていた頃は魔族と遭遇することなんて当たり前だったのに、最近ではまず見ないなと僕は返事をする。
「んなわけあるか。昨日だって、街のやつが怪我して帰って来たって大騒ぎしてたのに」
「ええ? そうなんですか?」
「そうだよ、だからこんな山に――」
「あ、あの家です、着きました。すみません、ちょっと散らかっているので、ここでお待ちください」
若様を玄関手前で待たせ、先に家の中に入った僕はルキを探す。
来客中だけルキには外にいて貰おうと思ったが姿は見当たらず、出掛けているようだ。
だったら、ルキが帰宅するまでに話を聞くことができればいい。
「お待たせいたしました、どうぞ」
「ああ」
若様はそう言いながら、物珍しそうに僕の家の中をきょろきょろと見回す。
お茶を出して早速、僕は本題に入った。
「それで、若様。人型の魔族についてですが……」
「その前に、トーイ。情報ってのは金になる。それは知ってるか?」
「え?」
「金だよ、金」
「……はい、ちょっと待っててください」
ルキのためなら、仕方がない。
僕がお金を準備しようと立ち上がると、何故か若様は僕の手首をガシッと掴んだ。
「若様?」
「金じゃなくて、身体でもいいぞ」
「身体?」
「つまり、こういうことだ」
若様は立ち上がって顔を寄せ、僕にキスをした。
「若様!?」
慌てて距離を取ろうとする僕の頭を抑えて、舌を差し入れてくる。
どうやら僕の知らないキスがあったらしいと気付いて、愕然とする。
ルキが間違っていたのではなく、僕が知らないだけだった。
そのまましばらく舌を吸われて、やっと口が離れる。
「ああやっぱり、お前なら勃つわ。俺ずっと、お前とヤってみたいと思ってたんだよな。女は妊娠するから、面倒だし」
「……舌を口に入れるのって、魔族だけかと思っていました」
「は?」
その時、外のほうでガタンと音が鳴り、僕は慌てて若様を押し退けると玄関扉のほうへ駆ける。
「ルキ、お帰り。ごめんね、ちょっとお外で待っててくれるかな?」
僕は身振り手振りで外にいるよう伝えたが、ルキはその指示を無視してすんすんと鼻を鳴らしながら頭を下ろして玄関扉の枠を潜った。
「駄目だよ、ルキ。今はお客様が来てるから、いい子だから、お外にいてね」
僕はルキの目を隠そうと必死で手を伸ばしたが、ルキはその手をそっと掴んで横に退けてしまう。
そして、初めての来訪者をじっと見た。
「は? なんだこいつ、でけぇな」
「ええと、僕の同居人なんですが……」
そして若様も、ルキをじっと見た。
正確には、ルキの真っ赤な瞳を。
ルキを見る若様の顔がみるみると青褪め、イスからガタンと転げ落ちる。
「こいつ、まさか魔族……!?」
「あ、でもすごく大人しくて、本当に」
「こんなモン飼うなんて、どうかしてる……!」
「若様!」
若様は、僕の話を聞かずに足をガクガクとさせながらも駆けて出て行ってしまった。
外はそろそろ暗くなるのに、ランタンも持たずに大丈夫だろうか。
でも、ルキのことを誤解したままの若様が街へ戻れば、きっとこの家には討伐隊がやってくるだろう。
もしかしたら、僕も処罰させられるかもしれない。
僕はこんな日のために準備しておいた非常用の鞄を持ち出し、鞄の紐をルキに引っ掛ける。
僕にとっては大荷物なのに、ルキにはせいぜいその辺にハイキングへ向かうような格好になってしまうのが、こんな時だというのに面白い。
「ルキ、ごめんね。ルキはもう、ここにはいないほうがいい。ルキが見つかると、殺されちゃうかもしれないから」
ルキが自発的に出て行くなら良かった。
これでは、僕がわざと追い出したと思われても仕方がない。
しかし、逆に良いきっかけだったのかもしれない。
ルキと僕は、住む世界が違う。
ルキはもう一人でなんでもできるのだから、さっさと魔族の社会に戻ったほうがいい。
僕は泣かないように必死で笑顔を浮かべた。
そして、そんな僕の顔と鞄を交互に見て、ルキは察したようだ。
今日獲って来てくれたらしい獲物を台所に置くと、もそもそと玄関へと向かい、振り返ることもなく猛ダッシュで去って行った。
***
「……あれ」
朝、目が覚めてベッドの上で起きる。
隣にはいつも通りルキがいて、僕の声で一度瞳を薄く開けた。
どうやら起こしてしまったようだ。
「……昨日はいつ寝たんだっけ」
ごしごしと目を擦りつつ、ベッドから出ようと足を下ろすと、ぐいっと後ろに引っ張られた。
「うわっ……! こら、ルキ」
素っ裸な僕の身体の上から圧し掛かるルキ。
「こら、くすぐったいって」
ルキはペロペロと僕の首や鎖骨、そして乳輪を舐め回すと、勃ち上がった乳首にきゅぅ♡ と器用に長い舌を絡めた。
「ぁん……っ」
乳首の先端を、くりくり♡ とルキの舌先で弄られる。
僕のペニスはその刺激であっという間に元気になってしまって、ルキの身体と僕の身体の間でその存在を主張する。
「ルキぃ……♡」
朝から盛ってしまうのも、いつものことだ。
僕の胸に顔を埋めるルキと視線を交わしたまま、その頭をぎゅっと抱き締める。
「ルキ、ルキの精子、僕にちょうだい……?」
ルキは僕の身体をひっくり返すと、後ろから僕のお尻の穴をくぃと広げる。
「あ、だめ、こぼれちゃう……」
昨日たくさん放たれたルキの精子が、トロトロと流れていくのを感じる。
僕のペニス程の大きさのルキの人差し指が、じゅぶ♡ とその穴に突っ込まれて、ナカを掻き回される。
「あ♡ あ♡」
ぐちぐち♡ と掻き混ぜるついでに気持ちイイところを擦られ、僕は腰を揺らす。
「おしり気持ちいい♡」
ぷるぷるとペニスを震わせながら、ルキの指に媚びてお尻を自ら当てにいく。
「イく♡ イくぅ……♡」
ペニスに触れることなく、ルキにお尻をほじくられて、朝から達した。
ぬぽ♡ と指を引き抜かれ、両手で腰を掴まれる。
僕の胸が期待に高まる前に、ルキの極太のペニスは一気にその穴を押し広げて挿入 ってきた。
――どちゅん♡
「ああッッ♡♡」
どちゅ♡ どちゅ♡ どちゅ♡ どちゅ♡
内臓が圧迫されて、苦しい。
僕の手首ほどの太さがあるルキのペニスが出入りして、お尻の入り口が捲れ上がった。
「イイッ♡ ルキ、イイよぉ♡♡ もっとしてぇ♡♡」
古い精子の上に、新しい精子が上書きされる。
ルキの精子で満たされれば満たされるほど、快感という甘い痺れが僕の身体を支配した。
――ああ、このペニスがないと、僕はもう生きていけない。
***
「若様が行方不明になって、もう一カ月だねぇ」
「どうせ、またどっかにフラフラ遊びに行ってるんだろうよ」
「それか、女関係で恨まれて、今頃仕置きでもされてるんじゃないかい」
井戸端で人の不幸話を楽しむ街の人たちを尻目に、僕はルキへのプレゼントを見て回っていた。
若様は、僕の家を飛び出したあの日、やはり山で遭難したらしい。
魔族の出る山でランタンも持たずに飛び出したのだから、いくらでも危険な目に遭っただろう。
僕はあの日、いつ討伐隊が来るかとドキドキしながら待っていた。
しかし、いくら待っても討伐隊は来ず、翌朝には戻って来たルキを何度も山へ追い出したのだが、三日目になったところで逆に僕は街へ向かうことにした。
そこで、若様がいなくなったことを知った。
僕は街の警備隊へ情報提供をしに行き、僕の家から街までの道のりを一緒に捜索したのだが、それらしい手がかりもなく一週間後には捜索が打ち切られた。
捜索が打ち切られ、再び山が静けさを取り戻したところで、ルキがまた戻ってきたのだ。
そんなルキを、僕はもう追い返さなかった。
お帰りと言って、キスをされて……そして、お尻の穴にペニスを突っ込まれた。
痛さも気持ち悪さもなくて、気持ち良いだけだった。
男同士でもセックスが出来るということは、その時初めて知った。
どうやら、随分前からルキの中では僕は保護者ではなく、番という立ち位置だったらしい。
街で男女関係なく他の人に触れると匂いが移るらしく、その日は嫉妬したルキにしつこく舐められるので、以後人には触らないように気を付けている。
「トーイ、何を探してるんだい?」
「少し見栄えのいい短剣を探してるんだけど、何か良いのはないかな?」
知り合いの露天商に声を掛けられ、笑顔で答える。
今日は、ルキと出会った記念日のプレゼントだ。
「これなんかどうだい?」
「わあ、とても綺麗な貝細工だね」
手が届かないほどの高価なものではなく、かといって陳腐でもない。
光の当たり具合によってキラキラと見せる色彩を変えるその短剣を僕はとても気に入った。
「その綺麗な顔に免じて、安くしといてやるよ」
「いいの? ありがとう」
ほくほくとしながらお金を渡すと、その露天商が思い出したようにふと話を振る。
「そういやトーイ、前に魔族の本探していなかったっけ?」
「ああ……うん、探していたけど」
「上位魔族の本を入荷したって、本屋が騒いでたぞ」
「そうなんだ……情報ありがとう」
「おうよ。またご贔屓にな」
露天商にお礼を言って、街のシンボルである時計塔を見上げる。
本屋に寄る時間はあるが、上位魔族の本はかなり高価で、僕の手元にあるお金では到底買えるものではないだろう。
また今度来た時に立ち寄ってみよう、と考えながら、僕は帰路についた。
***
「お待たせ、ルキ」
僕が山に入るとすぐ、ルキがどこかしらから現れる。
ルキはよいしょと僕を抱き上げると、ひょいひょいと軽い足取りで山道を進んだ。
「僕も少し歩きたいな」
健康は足から、とばぁちゃんがよく言っていた。
ルキに抱いて貰ったまま移動するのはとても楽だけど、ルキと毎日楽しく生活するには自己管理も大切だ。
僕がそうお願いすると、言葉は通じないはずなのに、ルキは少しなだらかな場所に入ってからそっと僕を下ろす。
そして、僕の顔を持って自分のほうへ向けるとじっと見つめてきた。
「ルキ、どうしたの?」
じっと赤い瞳に見つめられると、その中に吸い込まれてしまいそうな錯覚になる。
ルキはそのまま顔を近づけて、キスをした。
「……うん、いつものね」
僕はその場でしゃがみ込むと、勃起したルキのペニスに顔を寄せる。
そっと布を取り払うと、布で押さえつけられていたルキのペニスが、僕の目の前でぎゅん♡ と天を仰ぐように飛び出してきた。
毎日僕を癒してくれるその逞しいペニスに、僕は舌を這わせる。
ペロペロと唾液をまぶしてとうもろこし大のそれを舐めしゃぶり、先端をちゅうう♡と吸って、発射されたルキの大量の精液をごくごくと懸命に飲み干す。
ルキの精液は、僕のとは違ってとても甘くて美味しいのだ。
「ルキ、僕やっぱり、我慢できなくなっちゃった」
僕はいつも通り、その場で腰に巻いていた隠し布を取り払う。
ルキに背中を向けて、大きく穴が開いたお尻の部分を、すり♡ とルキの太腿に擦り付ける。
「あ……♡」
ルキは僕を軽々と抱き上げると、ずぶぶ♡ と自分のペニスを僕の穴に埋めてくれた。
「あッ♡ あッ♡♡」
ルキが歩くたび、その振動でじゅぽじゅぽと穴を掻き混ぜられるのが、気持ちいい。
まるで、自分がルキのペニスのケースになったかのよう。
言葉は通じないのに、ルキの顔をみるといつもお尻が疼いて、埋めて欲しくて堪らなくなるのだ。
「ルキ、ルキ……♡ 気持ちいい……っ♡♡」
道程繋がったまま、帰宅して。
帰宅しても、繋がって。
「ルキ、今日はね、ルキにプレゼントがあるんだ」
僕はルキに短剣をプレゼントして、「これで身を守るんだよ」と笑顔で伝えた。
それは、僕らの日常だった。
***
ルキが食べていた毒を、消化する前にキスをしてしまったらしい僕、当たり前だが数日寝込んだ。
うんうんとうなされている僕の横で、ルキが毎日せっせと何かしら世話を焼こうとしてくれている気配だけは伝わった。
目が覚めた時、部屋の中は台風の去ったあとみたいになっていて、多少涙目になったけれども。
「ルキ……」
頭が痛んで、どうしようもなかった。
というか、弟分とキスをするとか、自分がどうかしていたとしか思えない。
「……あれ?」
ふと、違和感に気づいた。
いや、ちょっと待って欲しい。
僕はいったいルキと、何をしていた?
家族でキスはしないし、男同士で性行為なんて、あり得ない。
でも、記憶の中で僕はルキと何度も抱き合った。
あり得ないけど、部屋以外でも、どこでもまぐわった。
そんなこと、するべきじゃない。
なんで、正常な判断ができなかったんだろう。
頭はこんなに痛いのに、むしろ痛みで今のほうが冴えているのではないかとすら思う。
……駄目だ、魔族は山へ帰さないと。
魔族と番だなんて、許されない。
もしかして、変な夢でも見たんだろうか。
ここ数日うなされていた間に見た、悪夢?
ガタガタ、という音がして、ルキが帰って来た音がした。
「ルキ……」
僕の小さな蚊の鳴くような声ですらも拾い上げたらしいルキが、慌てたようにベッド横に駆けてくる。
僕の可愛い弟分の、ルキ。
俯いたままの僕の視線の先で、しゃがんだルキのその腰には、僕がプレゼントした短剣が備えられているのがわかった。
「僕は……なんてことを」
夢じゃなかった。
ルキとセックスを日常としていたことも、ルキに「君を害すものは、これで殺してね」と言って、短剣をプレゼントしたことも。
魔族のルキに短剣をプレゼントして人間を敵に回すなんて、僕はどうかしてる。
「ルキ、僕は……」
頭の痛みをこらえて、僕はルキの顔を見た。
紅い瞳が、こちらを見据えている。
それは、心配するでもなく不安でもなく、ただ侵食するためだけにある色だった。
「ルキ……お水、ちょうだい」
ルキがそっと差し出した水を、僕は勢いよく飲み干した。
つぅ、と口端から顎、顎から鎖骨へとこぼれた水を見て、ルキがごくりと喉を鳴らす。
「心配かけてごめんね。……なぁに、しばらくシてないから、溜まってるの?」
僕はルキの顔を見ながら、ルキの屹立したペニスを布の上から軽く踏みつける。
「仕方ないなあ……病み上がりなんだから、優しくしてね」
ルキはがばりと僕に覆いかぶさると、激しい口付けをし、僕の口に精液という名の媚薬を流し込む。
僕のお尻がひくひく♡ といつも通りに疼いて、ルキの種付けを強請った。
僕の身体は、ルキによって作り変えられている最中だ。
ルキの子を孕むことの出来る身体に。
何度も性交するのは、そのためのようだ。
言葉はお互い通じないけど、ルキの瞳がそう言っている。
「ほら、ルキ……きて?」
僕は自分の尻たぶを押し広げながら、ルキの目の前にその穴を晒した。
これが、僕のニチジョウ……?
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