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第1話
『嫌だ無理じゃねえよ! 何フザケた事抜かしてんだ、おい!』
金髪の男が泣いている女性を脅し、怒鳴っていた。
「君ね、ソレ……組織のもの勝手に持ち出しただろう?」
その男性は今酷く痣だらけの顔で、縄で縛られて床に転がされている。
『そうだオレ良いものもってるから使ってやるよ』
その時の男性は懐から出したものを女性に掲げ、見せつけるようにちらつかせた。女性の顔が恐怖で歪んだのを見て、愉悦に浸っていた。
「しかもそれを女に使って? 納得させるじゃなくて無理矢理?」
床に転がされている男性を、ソファに座りながら見下ろしている恰幅のいい男性がはあ、と溜息を付く。
『ほらどうだよこの淫乱女! さっさと股開いて男に媚びて稼いでこいバーカ!』
薬で目を回し、息を荒げ、大量の汗をかいて痙攣した女性をその時の男性はゲラゲラと見下して笑っていた。
「今までのボヤは目を瞑ってきたけど今回はね、やりすぎだ」
現在、逆に見下されている男性は酷く青い顔をして震えている。
「罪には罰を、だ。信楽、教えてやれ」
「はい」
部屋に控えていた信楽と呼ばれた背の高い顔の整った男性、信楽結糸が転がされている男性の元へと近づく。
「……せ、先、輩……」
「……玲矢」
転がされている男性、七瀬玲矢は憐れむような目で自分を見つめてくる結糸に救いを求めるように声を掛ける。が、一瞥して名を呼んだだけで、結糸はソファに座っている男性の方を向いてしまった。
「この件は私にお任せください」
こうして、組織のルールを破った玲矢はこの日、一切の希望を失い地獄の門を潜る事になった。
◆
「ッぐ、ンウウ、ッ゙」
「聞いてると思うけど君がやらかした事は組織に対する重大な裏切りだ」
先程までいた雑居ビルの一角から、マンションの一室に運ばれた玲矢は口をテープで塞がれ、手と足の縄での拘束はさらに頑丈なものになり、全裸の状態でベッドに仰向けに転がされていた。縄の先はベッドの柵につながれてしまっており、そこから動けないようになっていた。
部屋は電気が薄っすらとしかついておらず、月明かりを頼るしかない。
傍には結糸が立っている。冷ややかな目で玲矢を見下ろし、淡々と罪状を告げていた。
とあるスカウトグループに所属している二人は、過去教育係とその新人の関係にあった。今は玲矢も自立し自分で仕事をこなしているが、グループの中では一番付き合いが長く今も気の置けない相手だと玲矢は思っていた。
「ンーーッ!」
「今までは後輩のよしみでお咎め無しにしてきたけどこれは庇いきれない。しっかり反省してもらう」
何だかんだと何かしらやらかしてもフォローをしてくれた先輩である結糸でさえも、今回は軽蔑し静かな怒りを顕にしている様子に、玲矢は震え上がっていた。口が塞がっていなかったら叫び出していた程に。
ここまで自分に冷たい結糸は玲矢は見た事が無かった。
「やり方は俺に任せるって言われたし、折角だから趣向を凝らそうと思うけどどうだ?」
「むぐ、う、ンンンッ」
返事を求められても返事等出来る筈が無い。こもったうめき声しか玲矢は出す事が出来なかった。
「そう、じゃあ好きにさせてもらうかな」
「ンーーッ! ンーーッ‼」
そんな事はお構い無しのようで、結糸はどんどん話を進めていく。玲矢はベッドから起き上がる事すら出来ない為、結糸が今何を持っているのか、何をしようとしているのかを確認する事は出来なかった。
「君さ、後ろの経験ってあった?」
「ンン……?」
突然の質問の意味が分からず、玲矢は困惑する。その様子に結糸は溜息をついた。
「君も俺もこんな世界にいるんだ、知りませんなんて事はないだろ」
呆れたような声に、玲矢は泣きそうになる。そんな事もわからないのか、と見放されたようで悲しくてたまらなかった。
「じゃあまずはコレか」
(……ちゅ、注射器⁉ な、何だよオレに何盛るつもりだよ‼)
月明かりでなんとか見えた結糸の手には注射器があった。玲矢の顔が一気に青くなる。中身が既に何かで満たされているのか、手が動くとに中の液体が波打つ様子がちらりとだが確認出来た。逃げ出そうと暴れようとするが拘束で動けず、叫んで恐怖を紛らわそうとするがそれすらテープで叶わない。ガタガタ、と自分の体が震え出すのを玲矢は止める事が出来なかった。
「通常なら暴力で痛めつける方向で反省してもらうからこんな事はしないけどな」
そんな玲矢の様子を気にもとめず、結糸は淡々と語っていく。
「今回こういうのやってみようと思いますって提案したら皆快諾してくれたよ。色々お土産もくれたからそれも使って……君を君じゃなくさせてもらう」
恐ろしい処刑宣告に、少し涙が滲んだ目を見開いて玲矢は恐怖に震えた。
◆
暫くして。ベッドに拘束されたままの玲矢は、焦点の合っていない目で虚空を見つめながら、「うう」「ああ」という声をテープ越しに零して痙攣していた。
傍には注射針が落ちており、腕には注射痕がある。大暴れした形跡もあるが、今はそれも出来ない様子だった。
「口、外してやるよ。もう抵抗なんて出来ないだろうし、声聞くのも面白そうだ」
ビリッ、と玲矢の口を塞いでいたテープが外される。ようやく声を満足に出せるようになっても、玲矢はうめき声をあげるばかりだった。結糸の方を見ていない。
結糸は玲矢の頬を叩いた。衝撃で合っていなかった焦点が少し合い、玲矢はゆっくりと結糸を見る。目が合ったのを確認すると、結糸は傍に乱雑に置かれていた物の一つを手に取った。
「ほら見なよこれ。自分が女に使った事はあっても自分が使われる事は無かっただろうから楽しむといい」
結糸の手には、所謂ディルドが握られていた。そんなものどうするんだろうという疑問が玲矢の中に浮かぶが、頭が靄がかかったようでまともな思考が出来なかった。
玲矢の返事も聞かず、結糸は大きく足を開いた状態に拘束されている玲矢に馬乗りになる。結糸には玲矢の後ろの穴がよく見えた。
そこに、何の予告もなくゆっくりとディルドを挿入していく。
「……ッ、あ、んう……」
ミチミチ、とディルドが穴を広げながら奥ヘ奥へと入っていく。玲矢は不思議で奇妙な感覚に思わず訳も分からず声を漏らした。なんとなく、ピリッとしたくすぐったさを感じていた。根元まで挿入しきると、結糸は不思議な感覚に浸っている玲矢を一瞥してからディルドと連動している機械を左手で持った。
「これ、実は電動で動くんだよ」
結糸がそう淡々と告げる。カチッというスイッチを入れたような音が聞こえると、
「ッ⁉ ん、んんんあああっ⁉」
ヴヴヴという振動音を部屋に響かせながら、挿入されたディルドが震えだした。たまらずに玲矢は声をあげる。先程までなんとなくとしか感じられなかったくすぐったさが一気にはっきりとした快感として襲いかかってきた。
困惑しながら玲矢は喘ぐ。何が何だかわからなかった。
結糸は振動しているディルドを動かし、深く突っ込んでは抜き、また奥に突っ込む動作を繰り返した。振動だけでもたまらないのに、抽挿によって快感が逃げる隙もなく与えられた。
淡々とそれを行っていた結糸は、自分が玲矢が反応を返す度に口角が吊り上がっている事に気づいていなかった。
そうして、
「あ、あああ、ううっあ、あああああッ」
玲矢は耐えきれずに絶頂を迎えた。玲矢の性器から精液が飛び出し、玲矢の腹を白く汚す。
「……とんでもない効果だな。後ろでイッた気分はどうだ?」
クク、と見下すように笑う結糸は抽挿を止める事無く手を動かし続ける。
逃げられない快感に、玲矢は喘ぎながら拘束されている満足に動かせない体を必死に動かし、少しでもそれから逃げようともがいている。
一度目の絶頂から程なくして、二度目、三度目と迎える度に玲矢の目からは大量の涙がこぼれ続けている。それを視界に捉えて、結糸は心底楽しそうに笑っていた。
「快楽を後ろで感じ取れるようになった気分はどんな感じなんだろうな。見てる分には……愉快だな」
十回から数えるのをやめ、何度目かの絶頂の後、ようやく結糸はディルドの抽挿を止めた。結糸はベッドから降り、玲矢を見下ろす。玲矢は白目を向いた状態で舌を出し、ピクピクと体を痙攣させ、絶頂の余韻に溺れている。心ここにあらず、の様子だ。
愉快だな、と口に出して結糸はようやく自分がこの行為を楽しんでおり、好みの反応を返す玲矢に今までとは比べものにならない愛着を抱いていることに気づいた。
「……、……」
少し意外そうな顔をして、結糸は玲矢を見てから天井を見上げた。自分の中に発生したら未知の感情を整理する為に。
(制裁という目的の為に、精神的に痛めつけプライドを崩し、肉体的にも痛めつけていただけだった。それ以外には何も思っていなかった、が……)
喉の渇きを潤す事も兼ねて机の上に置いておいたペットボトルの水を取って一口飲み込む。ぬるかった。まるで今までの自分の心の状態のようだ、と結糸は思う。では今は? 何をするにも関心が薄く熱くなれず、なんとなくぬるま湯に浸かるように生きてきた今までとは違う。段々と温度が上がってきているような感覚だった。
心と体の芯が熱せられるかのように、目の前で横たわっている玲矢に対する興奮が抑えられないのを結糸は感じ取っていた。
(面白い、楽しい。もっと……もっと……)
結糸の口角が更に吊り上がる。
凶悪な笑みを浮かべた結糸はその欲望のままに自分を動かす方向に舵を切る事にした。
結糸は玲矢の頬を強めに叩いた。
「ぅ」
うめき声を漏らして、気絶していた玲矢は衝撃で少しばかり意識を戻したようだった。まだぼう……とはしているが首が動いて、結糸の方へと目線を向けてきた。何が何だかわからない、という表情をしている。
「せ、……ぱぃ……?」
「気分はどうだ?」
結糸がそう聞くと、玲矢は回らない口を必死に開いて自分の状態を説明し始める。
「……、目がまわって、……熱い、……お尻、ヒリヒリ、す……る……?」
薬の影響で先程までの記憶が丸ごと薄らぼんやりとしか思い出せなくなっていたが体の違和感は継続しているようだった。程よく効果が薄まっている事を確認した結糸は、ニコリと笑ってから服を脱ぎ始めた。上を脱ぎ、下も脱ぎ、全て脱ぎ捨てた後、ベッドへとあがる。そのまま拘束されている横たわっている玲矢を押し倒すような形で覆いかぶさった。
玲矢は頭が回らない事もあり、うまく状況を理解出来ない。手を動かして結糸を押し戻そうとしたが、拘束されていた為少しも動かす事が出来なかった。
「なん、で……せんぱ、……オレに跨って……?」
「そこは不思議に思うのに理解しないんだな。本当に愚かで鈍くて、ハハッ……可哀想で可愛いよ、玲矢」
喋りながら結糸は自分の性器を持ち、先程までディルドで解されていた玲矢の穴に充てがった。ようやく何かとてもまずい事になっている事を理解した玲矢が、膜が張ったような感覚を必死に振り切り抵抗を始める。
「あ、やめ、ヤメロ……! 何しやが、う、あああっ」
しかし拘束もされ、薬も効いている状態の抵抗等赤子の手をひねるように簡単に押さえつけられてしまった。穴に男性器が挿入されていく慣れない感覚に玲矢はたまらずにうなる。
「男相手は初めてだったけど、ちゃんと解せば入るんだなあ、フフッ。はあ、あったけぇ……」
ディルドで十回以上も絶頂したからか、穴はキツすぎる事も緩すぎる事もなく、性器は根元まで入りきった。温かい肉壁で包まれる感覚にひたり、満足げに息を吐く結糸とは裏腹に、玲矢は青ざめた顔で息を荒くしている。
「な、何で……何でこんな、ッあ⁉」
困惑し混乱しそうになった玲矢を黙らせるように、結糸は律動を開始した。ズンッ、と性器を更に奥まで押し付けられた衝撃に玲矢は思わず声を漏らした。
「う、あ、や、ッ……おぐっ! め、ろ……ッ! や、め……!」
出ては挿入される動きで中が擦られる度に、玲矢に電気が走って痺れるような感覚が襲いかかってきた。抵抗の意思を示したいのにその感覚に邪魔されてまともに喋る事が出来ない。
結糸はその様子を心底楽しそうにニヤニヤと見ながら動いている。結糸の記憶の中の懐かない猫みたいだった生意気な玲矢の顔が浮かび、そうして己が押し倒し与えられる快感に戸惑いながら必死に抵抗している顔を見て、そのギャップにまた笑みを深くした。
「い、あ、なっなんか! なんか来る……ッ、と、まれ、止まれっとまってく、れ、んあッ!」
荒波のように打ち寄せてくる快感に必死に抗っていると、追い立てられるような急激な感覚の変化に玲矢は戸惑った。このまま腰を動かされ続けるとまずい事になると本能で察した。玲矢は記憶が無い為分かっていないが、散々ディルドで弄ばれ何度も絶頂している身体はとても上り詰めやすくなっていた。
しかし必死に制止を呼びかけても結糸が動きを止める様子はない。むしろとても楽しそうに先程よりも激しく腰を打ち続けている。
「ふ、ははっ。イキそうなんだ、な? ほらっイクって言いながら絶頂して、みなよ!」
叩きつけるように、中をえぐるように襲いかかってくる衝撃に玲矢は翻弄される。
「やめ、ヤメロッ、腰を止め、うっん! おっあ、だ、だめ、ダメダメ、ダメェ……! あ、んううああ‼」
「っ、ぅ」
悲鳴を上げるように声をあげ、玲矢はもう何度目かわからない絶頂を迎える。同時に、それで締まった中で玲矢も射精した。
お互い呼吸を荒くし、玲矢は余韻に震え混乱し、結糸は今だ熱っぽい眼差しで玲矢を見つめている。
「宣言してからイケって言ったのに、悪い子だな」
「ぁ……なに、コレぇ……」
穴から性器がぬぽっと抜かれた。抜く時の動きさえ快感に繋がるらしく、玲矢の口から「んおっ」という喘ぎが出た。結糸が出した精液が穴から伝い、ベッドのシーツを汚していく。精液が溢れる様子すら、劣情をそそる。先程出したばかりだと言うのに、結糸の性器はまた勃ちあがり先端から先走りが出ていた。
まだまだ足りない。ここまで性に貪欲な自分がいたなんて、と結糸は思った。
「ハア……ハハッ。なあ何で君に俺がこんな事してると思う? いくら仕置きだからってここまでやるとか普通は無いに決まってるだろ」
一旦少しでも落ち着こうと息を漏らしてから、自身を蝕む快楽にいっぱいいっぱいの玲矢に結糸は語りかける。
「……?」
震えながらも、声を掛けられた事はわかった玲矢が結糸の方へと視線を合わせた。
「最初はそんなつもりなかったんだけどな。あのキャンキャン吠える犬みたいな玲矢がみっともなく醜態晒して……そして今薬で抵抗力奪われてるのに必死に暴れて、感じてるのに嫌がって泣いて……ハハッ。君を、こんなに愛しいと思う日が来るなんてな」
結糸は右手で玲矢の左頬を包んだ。先程までの乱暴さは鳴りを潜め、まるで宝物に触れるように優しく。玲矢がびく、と少しだけ恐怖で震えた。それを気にせずに結糸は愛おしいものを見るように優し気に目を細めた。
「それで決めたんだよ。君を俺の理想の恋人にする。そして二度と手放さない」
「……? ……⁉ は⁉ こ、こいび⁉」
玲矢は最初何を言われたのかわからなかった。音として認識した言葉を頭で考えて意味を理解し、今の状況を忘れたかのように照れてしまい顔を真っ赤にして驚いた。ヘマやらかしてボコられて制裁されたと思ったら告白されました、なんてタイトルがつきそうな展開に戸惑う。
しかし。
「体を堕として心も壊す。俺好みの快楽に溺れてみっともなく男に媚びて醜態晒す性奴隷に」
光悦とした表情で告げられた言葉で一気に現実に引き戻された。
「……。……何言ってんだ、アンタ」
真っ赤だった顔を真っ青にして、玲矢は結糸の発言に引いていた。
結糸は気にせずあっけらかんと喋り続ける。
「あ、勿論全力で抵抗してくれ。その時と堕ちた後のギャップを比較して楽しみたいし、抵抗されるとそれだけでゾクゾクするんだ」
「……ッ! あぐっ」
反射でその場から逃げ出そうとしたが縄の存在を忘れていた為、反動で出戻ってしまった。ベッドにまた倒れる。
「ハハッ何してるんだよ」
それを愉快そうに笑って、行為を再開しようと結糸は玲矢に体を近づけていく。阻止しようとする動きに連動し、縄が引っ張られ伸びる音を響かせながら玲矢は抵抗する。
「く、来るな変態野郎‼ お前頭おかしいんじゃねえの⁉」
「あ、そうそうそんな感じだ。その調子で頼む」
その抵抗も好みだったのか、結糸は逆に嬉しそうに微笑む。
「グッ、このっ……! 畜生どんだけ強く縛って、んうっ」
騒ぐ口を結糸は無理矢理口で塞ぐ。キス、と言うにはムードも何もない。玲矢は目を見開いた。舌を入れると噛みちぎられそうだとはわかっていたので直ぐに結糸は口を離した。
「へえ、ただ合わせただけなのに思ったより衝撃を受けているようだな……もしかして初めてだった?」
散々弄ばれた後だったが、キスはされてなかった為それをしてきた事に玲矢は驚いていた。自分でも自分の反応に違和感を抱く。それを悟らせない為に玲矢は否定する。
「うるせぇ違う! ん、んああ!」
喚く玲矢を黙らせるようにまた結糸は玲矢の穴に自身の性器を埋めていった。喋っている途中に挿入されてしまい、何も抑えが効かない状態で甘い声が口から飛び出してしまう。
「ははっ、声かわいー」
それに気分を良くして、結糸は律動を始める。薬の効果は若干弱まっているとは言え、快感を拾いやすくなっている状態なのは変わらずの為擦れる度に玲矢の口から喘ぎ声が出てしまう。
「テメェみてえな、変態……っあ、野郎をぉ、先輩と、してっ……ぐ、慕ってた、なん……て虫酸が走る、んだよ‼」
喘ぎを誤魔化す為、またやられっぱなしが嫌な為罵倒し続ける。こうやって反抗するのも結糸の望みを叶えてしまっているのは十分分かっていたが、何もしないままでいるのは嫌だった。
「嫌われちゃったか」
結糸はとても楽しそうに腰を動かしている。今が結糸にとって人生で最も楽しい時間と言っても過言ではない。
「うるせぇ強姦魔‼ っ、くそ……気持ち悪、い……まだ頭が、ゆらゆらっ、する……んんっ」
「今は失望されようが嫌われようが構わないさ、どうせこの後そんな事考えられなくなるから」
これから自分はどうなってしまうのだろう、強がっていてもそんな不安が玲矢の心を徐々に蝕んでいた。今の自分に至るまでも幸せからは程遠くて、今は先輩と慕っていた相手に襲われて、これから先どうなるか不安でたまらなかった。
親はまともに自分を育ててくれなかった。友人だと思っていたクラスメイトは信じてくれなかった。逃げ出した先でも結局悪い大人に捕まってしまった。子供の自分は何も悪い事をしなかったのに、大人になってからやられた分をやり返していただけだったのに。何で全部全部悪い方へ悪い方へと向かうんだ。
――玲矢の心にヒビが入った。
少しして、玲矢の喘ぎの中に涙ぐんだような声が混じってきた事に結糸は気がついた。粗暴で乱暴者な玲矢でもここまでされたら泣くのか、とまた背筋を電気が走るような興奮が起こる。前髪で隠れていて玲矢の表情が見えなかった為、律動を一旦緩めた。結糸はわくわくしながら右手で前髪をめくった。目に涙を貯めて零れそうになっている。どんな宝石よりも綺麗だと思った。
「生理的なものじゃなくて本当に泣いちゃったな」
「……くそ、……んで……」
「ん?」
何か言葉を紡いだようだったがよく聞き取れなかった為、わざとらしく優しく聞き返す。すると、玲矢は目から涙をこぼし心の内を叫んだ。
「……なんで、畜生……いつもいつもっ、嫌な事ばかり……!」
「…………」
極限状態で追い詰められ、自分の過去と今を思い、あまりの『こんな人生』に悲観したのだろう。耐えきれずに悲痛な叫びが飛び出してしまったようだった。玲矢の心が追い詰められて弱り始めた事を結糸は悟った。
仄暗い笑みを浮かべて結糸は玲矢に呼び掛ける。
「なあ玲矢」
光の無い目で自分の不幸を嘆いていた玲矢が、ゆっくりと結糸の方を見た。
「恵まれない環境で壊れて歪んで育って、大人になっても表を歩けないまま。ようやく見つけた俺という存在すら、君を壊そうと襲いかかっている……君は本当に救いの無い人生を歩んでいるな」
玲矢の目が見開かれる。瞳が揺れている。言葉にハッキリと表された事が相当堪えているようだった。
そうして結糸は残酷な言葉を、救いのように見せかけた地獄の道を示していく。
「いっそ快楽に溺れて堕ちた方が幸せなんじゃないか? 快楽だけで頭を満たした馬鹿になれば余計な事考えないで済むぞ」
悔しそうに、玲矢は歯をギリ……と強く噛んだ。
「きっと君はそうして俺のものになる為に生まれてきたんだよ。これなら君の人生にも意味が、」
「誰がテメェのものになるかよ‼」
悲観も何もかもを吹き飛ばすように玲矢は叫んだ。どうやら逆に抵抗への火をつけてしまったようだった。しかし、結糸にとってその方がより燃えるというものであった。
「……ふ、フフッ。これがそそるってやつ、か」
「あぐッ⁉」
腰が力強く押し付けられ、その衝撃で玲矢は苦痛に満ちた声を漏らす。そのままの強さで叩きつけられるように繰り返される律動に玲矢は悲鳴を上げ続ける。脂汗をかいて苦しみ悶える玲矢に反比例して結糸は興奮し凶悪な笑みを浮かべながら笑っていた。
やがて、中にまた出され、律動は止まらぬままに次のラウンドに進んでいく。
「ど、同時はっ、やめ……っあああやめへ、やめ、うううあ!」
前の性器を同時に擦られながら腰を強く押し付けられる。
「う、……うぅっ――っか、は……!」
首を絞められ、窒息しそうになりながら激しく腰を打ちつけてくる。
「っぶ、んむ、んんっくるっし……むむっ……!」
後ろではなく、口の中に性器を突っ込まれ、口の中に射精させられた。
必死に抵抗を続けながらも、何度も行為を繰り返すうちに玲矢の体力はどんどん無くなっていき、もはや拘束が無くとも手足を動かす元気など無くなっていった。
回数が十を突破する頃には縄が外され、様々な体位を試された。シックスナインの体勢を取らされて口淫をし合う時も噛みちぎろうなんて考えは頭に浮かばなかった。
結糸が水を飲む時のみしか息をつく暇がなく、日が昇ってきているというのにそれまで休憩等も何もなかった。
◆
すっかり日が昇った頃、二人の体液でぐちゃぐちゃのベッドの上で玲矢は気絶して横たわっていた。光の無い目を少し開け虚空を見つめるように。どこも痣だらけ、精液や唾液、尿まで混じった体液で体中ベタベタな状態だった。
相当な体力を使った為、結糸も息を整えていた。窓を見ると太陽が上の方に昇ってきている。行為を始めてから半日以上の時間が過ぎていた。
(タイムリミット。今回はこれで終わり……かな)
結糸は息を整えた後、玲矢を再度手錠や縄で拘束し直した。後で風呂に入れる必要はあるが一旦離れなければならない為、万が一にも逃げられないように。
そして、目を覚ます気配が無い玲矢の頬をまた強めに叩いた。
「おい、生きてるか」
ゆっくりと玲矢の目が開く。どんよりと曇った目で周りの様子を確かめているようだった。そして結糸の姿を視界に入れると、玲矢は力の入らない体を何とか引きずって結糸から距離を取ろうと僅かに動いた。体が震えている。恐怖に満ちた表情で結糸を見ていた。強気で乱暴者ないつもの姿は鳴りを潜め弱々しく怯えている。その落差の素晴らしさに結糸は感激していた。
その姿にまたゾクゾクと悦に浸り襲いかかりそうになったが、一度上へ報告に戻らなければならなかった。欲を抑え込んで、淡々と身支度をしながら結糸は玲矢に宣告をする。
「言っておくがこれで終わりじゃない。……絶望するのはまだ早いんじゃないか?」
玲矢は酷使した喉で声になっていない悲鳴をあげた。喉が完全に潰れていた。顔が青くなり、両手で頭を押さえ、先程よりも酷く震え出している。恐怖で心が潰されてしまっていた。
「明日からもこの君にとっての地獄、俺にとっての天国は続くんだ。どこまで正気を保ってられるかな」
にんまり、と楽しそうに告げる結糸はそのまま浴室へと姿を消した。
目からボロボロと涙を流し、玲矢はベッドの上で潰れた喉で叫んで喚き始めた。己の不幸への悲観と、終わると思った地獄が始まりに過ぎなかった事を悟った故に。
◆
その夜からまた再開された地獄で、玲矢は出来る限りの抵抗をした。が、初日から折れてしまっていた心を覆い隠す為の空元気に過ぎず、三日を過ぎた頃から反抗は劇的に鈍くなってしまった。強すぎる気持ち良さに浸り、それに小さな喘ぎを出すだけに。もはや快感に流されるしか無かった。
そして五日目、それに追い打ちをかけるように更に強い媚薬を入れられ更に快感を強く感じてしまうようになった。もはや抵抗も弱く、しかして無感動でいる事すら許されず、もうその快感にすがり、頭が支配されていった。
一週間後。
「これでお仕置きは終わりだ。……壊れなかった、みたいだな?」
「はっ、当たり……前だ、オレはそんな、ヤワじゃねぇ……!」
終わりを告げられた玲矢は心から歓喜した。
本当はとっくの昔に壊れてしまっているが、自分がまだ普通だと信じていたい玲矢は昔の自分のように強がった。体は傷だらけの痣だらけで、震えが止まらず、後ろが疼いて仕方なかったが、振り払うように。
「遠方に呼び出されたから俺は暫くの間こっちにいない。君はしっかり罰を受けたからな、これで終わりだ。まあ暫くはまともに動けないだろうからここにいていい。俺名義で借りてるセーフハウスみたいなものだから」
「…………」
遠出の支度をしながら留守を告げる結糸を玲矢は強く睨んでいた。早く何処かに行け、と目で訴えていた。痛めつけられた体が痛くてうまく動けない為、ベッドの上から動けない。睨むくらいしか玲矢に出来る事は無かった。
それを嘲笑うように笑って、
「睨んでも散々だらしない顔を見たから怖くもなんともないな」
「うるせぇ……!さっさとどっか行けこの変態野郎‼」
「はいはい。じゃあな」
結糸は部屋から出ていった。わざと拘束もせず、玲矢はここから完全に出る事は無いと確信したまま。
ドアが閉じ結糸の姿が完全に見えなくなってから、玲矢は肩の力を抜いてベッドに倒れ込んだ。自分で自分を抱き締めるように縮こまる。抑え込んでいた震えも解放して、目から涙をこぼした。
「ようやく、終わったんだ……もうあんな事されなくても、しなくても、いいんだ……」
深い安堵。穏やかな、とは言えないが日常が返ってくる希望に震えた。
「ッ、いってえ……。あの野郎散々オレを、くそっ」
少しでも体を動かすと行為で痛めつけられた体がすぐに悲鳴を上げる。こんな所早く出たくて仕方がないが体調がこうではまともに動けない。数日ここで療養してからでも構わないだろう、と玲矢は考える。
制裁の間の栄養補給はゼリー飲料か水のみだった為、何か食べたいと思ったが今の胃の状態で固形物は無理そうだった。何か入りそうなものはないか、と痛む体を労りながら冷蔵庫やらを漁った。家探しに対する罪悪感等微塵も無かった。
「あ、これなら」
見つけたのは葛湯だった。栄養は……取れないだろうがお腹は満たせるだろうと拝借する事にした。
お腹を満たし、後はベッドの上……は少し嫌だった為ソファに移動して横になって体力回復に努める事にした。
初日はそのように比較的穏やかに過ごす事が出来た。この調子なら二、三日後には出ていけるな、と疼くような感覚に目をつぶって。
しかしそんな憶測は甘かった事を次の日に思い知った。
目を覚ましてからずっと体がおかしかった。何かに追い立てられるような気持ちに、快感を求めて仕方なく疼く性器と後ろの穴。油断すると手がすぐに性器に向かってしまう。
最初の内は耐えようと腕を抱え、足も閉じた状態でソファに横になっていた。が、どんどん耐えられなくなる。快感が欲しくて仕方がなかった。
(…………無理だくそっ‼)
すぐに我慢は決壊した。急いで服を脱ごうと手をかける。
焦り、なかなから脱げない服にもどかしさが募りながら服を取り払っていく。裸になった玲矢はまずとにかく自身の性器を掴み、上下に擦り自慰を始めた。手っ取り早く快感を得るにはこれが早い。
「……っ、ん……あっ、……ん」
始めから疼いていたからか昇りつめるのは早かった。触れば触るほど気持ち良さが強くなっていく。手が止まらない。
「あっ‼」
やがて絶頂し、射精した。飛び出した精液が玲矢の足と床を汚す。荒い息を吐きながら、玲矢は余韻に浸る。これで収まったかと思いたかったが。
「……足り、ない」
まだ体は酷く疼いていた。快楽を新たに獲得してしまったからか先程よりもそれは強くなっていた。前だけでは足りない。自然と指が後ろに伸びる。
「どうやる、んだ。されるがままだったから、知らねぇ……っん」
指を穴に入れてみた。不思議な異物感は感じるが快感には程遠かった。入れるだけでは駄目とわかり、もっと奥まで指を入れ、とりあえずバラバラと動かしてみた。
「……ん、……んっ、……ち、がう」
少しじんわりとした快感は拾えたが、あの波のような快楽では無い。むしろ、やればやる程焦燥感は募っていった。
「ちがう、ちがうちがうちがう‼ 何だよっ、あああ何だよこれ! どうすりゃいいんだよぉ……!」
得たいものが得られない苦しさに、涙が出てきた。少しでも得ようとする程もどかしくてたまらなかった。
暫く自分で試してみたが、何度射精しても、どんなに擦っても弄っても得たい快感には届かなかった。
怒りも何もかも感じる事に疲れ、ソファの上でドロドロに汗だくになりながらぐったりともたれていた。疲れ切っても快感を求める欲求は止まらなかった。
「何か、何か……何かないか……あああ……」
気持ちが焦り、欲求ばかりが増えていく。
憔悴しきった時にふと、思いついた。昔、今の自分を救済出来るかもしれない情報を聞いた事を。スカウトの仕事をしている時、仲間との会話で耳にした『男が男を漁る場所』についての話を。あの時は意味が分からなかったが今なら分かる。それはつまり、男とセックスしたい男が相手を求めて集まる所だ。
(いや、でも……オレはそんな……淫乱みたいな奴じゃ……)
拒否の感情が浮かぶのは当たり前の事だった。今まで見下してきた風俗の女達と同じようなものにはなりたくない、と。
しかし、今の自分はどうだ。ようやく解放された後一人で他人の部屋で自慰をして体液を垂れ流して足りない足りないと嘆いている。とっくの昔に自分は堕ちきっているのだ。自分の体を見下ろし、床やソファ、ベッドの惨状を目にする。
玲矢は、絶望した。
◆
鍵がどこにあるかなんて分からなかった為、そのまはま夜の街へと歩み出した。まだ体は本調子ではない。ふらふらとした足取りで、目的の繁華街の一角を目指す。
顔色悪く、千鳥足より不安定な歩みで進む玲矢を不審に思う人の視線もお構いなく玲矢は歩き続けた。
辿り着いた場所で、玲矢は光の無い目で
「酷く犯して、くれ……滅茶苦茶に、して……下さい」
と泣きながら訴える。
自分から求めてどんなハードなプレイにも耐える玲矢の相手をしたがる男は何人もいた。休む間も無く日が昇るまで狂宴は続く。
自分で自分を慰めるよりも強烈な快楽を得る事が出来た玲矢は涙を流しながら笑う。自分の今の姿を過去の自分が見たら発狂するだろうな、とどこか冷静な自分が冷めた考えを抱いたが、そんなものも快楽の波に押し流されて消えていった。
日が昇り狂宴が終わって結糸のセーフハウスに戻った後、玲矢は浴室でシャワーを浴びながら歓喜ではなく後悔で涙を流した。
「……あんなに、酷くしてもらった、のに……何で、」
我慢すれば良かったのに耐えきれずに自ら更に堕ちる道を選んでしまった後悔と、それを上回る渇望に涙が止まらなかった。
あそこまでしたのに、足りなかったのだ。
結糸は次の日になっても戻って来なかった。
自慰で抑えようとしても、抑えきれず、夜な夜な玲矢はあの場所へと足を運んだ。
◆
「なんだ、まだここから出ていって無かったのか」
ベッドで止まらぬ涙を流したまま意識を手放していた玲矢は、待ち望んでいた声が聞こえた気がして目を開いた。顔を上げた先には、
「……せん、ぱい?」
一週間以上ぶりの結糸の姿があった。目を大きく見開いて、玲矢は固まってしまった。
「……どうした?」
何も動こうとも喋ろうともしないボロボロの玲矢に、結糸が不思議そうに首を傾げる。鼻をつんざく匂いに、玲矢が予想通りの自分のいない日々を過ごしている事には気づきながら。
声を掛けられた玲矢は急に回路が繋がったかのように動き出した。急いでベッドから降り、結糸に向かって飛び付いた。背中に手を回し、縋り付くように抱き着いた。
「せんぱい、先輩……! たのむ、頼むから、お願いします、疼いて仕方ねえんだ、オレを犯してくれ…!」
「……、」
結糸は目を見開いた。まさか、ここまで理想通りになってくれるとは! 喜びに打ち震える。
「自分じゃ足りなかった、外にも行ったけど足りなかった‼ 思い切りイきたいのに、何で、何でぇ……‼」
結糸に抱き着いたまま玲矢は泣きじゃくる。結糸がいなかった日々の苦しみを訴えかける。
「お前のせいだ‼ こんなのオレじゃない! 責任取れ‼ オレもう、先輩がいないと、あああああ‼」
結糸に縋り、怒って、泣いて、求めて、叫んだ。
背筋に電撃が走るような感覚を覚え、結糸は喉を鳴らし、顔を紅潮させ、口元を歪んだ笑みの形にした。
「……」
そうして、叫んで自分にすがりつく玲矢を蕩けた笑みを浮かべて強く抱き締めた。
「ああ……俺のせいだな」
この場面だけ切り取れば、感動の再会を果たした映画の名シーンのようだろう。二人はお互いを求めて強く抱き締め合った。
◆
荷物を置いて、ベッドへと座った結糸にまた玲矢は強く抱き着いている。早く触って欲しい、と下半身を擦り付けながら。快楽を求める事に何の抵抗も、躊躇いも無い。目の前の主人に全力で媚びを売っていた。
「欲しい、くれ……くださ、い! 信楽、せんぱっ、い……!」
その醜態に笑みを浮かべながらも、結糸は直ぐにはご褒美をあげなかった。焦らして焦らして、玲矢をもっと美味しいご馳走にしようと考えていた。
「駄目だ。俺の帰りを待たずに外へ浮気に行ったのは頂けない。罰として俺が帰るまでに何をしたのか全て話せ。話し終わるまで俺は一切触らない」
「そ、そんな、だって、指じゃ足りなくて、あああ、うう畜生、畜生…!」
ようやく渇望していた快感を得られると思っていた玲矢は、告げられた言葉に怒りと悔しさを顕にする。どうにかして今すぐ触ってもらおうと、結糸の下半身に手を伸ばして性器を取り出そうとした。が、それを片手でいなされる。
「追加で自分で後ろを解しながら喋るように」
「鬼畜野郎!」
お痛をした玲矢に、結糸は更に条件を提示した。
「俺はこのまま君を放って寝てもいいんだぞ。疲れてるしな」
ベッドから立ち上がって移動しようとした結糸を、玲矢はその手を両手で掴んで引き止めた。自慰は散々してきたが見られてやる等、快楽を求める事に躊躇いが無くなってきていた玲矢にも抵抗があった。しかし、結糸はこのままでは本当に自分を放って眠ってしまうと思い、羞恥心をしまい込んで苦渋の決断をした。
「う、うう……わかった、から! ちゃ、ちゃんと話す、話すから絶対に挿れてくれ、約束してくれ、……くださいっお願いします‼」
「はいはい」
一枚しか羽織ってなかった結糸のYシャツを脱ぎ捨て、玲矢は全裸の状態でベッドの上で結糸に見せつけるように大きく足を広げた。そして、手を自分の性器と後ろの穴に伸ばす。やりたくない、という思いと、早く結糸に触って欲しい、という欲望が少しの間だけ拮抗する。すぐに欲望が勝ち、まずは性器を上下に擦りながら話し始めた。
「最初は、んっ普通に過ごし…てた。次の日から!……あっ、我慢出来なく、なって……自慰をするように、なったんだ、おっ、う。何度絶頂しても、足りなくて……足りなく、て、っは、辛くて……辛くて」
そして後ろの穴にも指を伸ばす、くぱぁっと人差し指と中指で穴を広げた。結糸に見せつけるように。
「その次の日……あれ、当日、だったっけ、もうわかんね、えや。ん、昔……話に聞いた『男がセックスする相手を探すって場所』に、行ったんだ。あっ……ズタボロに犯して、ふ、ん……欲しくて。色んな奴に、犯されたよ! 道具みたいに、あ、扱われたりも、した。自分でやるより、はあう!……強い快感を得られ、たっ」
指を後ろの穴に入れては出して、入れては中でバラバラと動かす。やはり自分では満足出来ない為、もどかしい快感に腰が震えて来た。
「でも、足りなかった! むしろ、犯され、ればっあ、う……犯される程……信楽先輩が、欲しくてっ欲しくて! しょうが、なくなった、んだっ、んっお!」
そんな玲矢の痴態を見て、結糸も興奮を抑えられなかった。口元を抑え、ニヤケるのが止まらないのを隠す。
「自分でも数え切れない数の男に犯されてボロボロになって、それでも足りないとか。ははっ。ド淫乱になったな」
結糸は嘲笑うように笑う。そこまで堕ちたのか、と以前までの玲矢の姿と比較し、自分の理想の姿になった玲矢を愛おしそうな目で見た。
「……そうだ、よ、道具みたいにっ、ん、乱暴に、扱われないと……足りなくてっしょうがなかったんだ! それでも、っあ、満足出来なかった、んだよ‼ んううっ」
性器を擦っても、指で穴を弄っても絶頂はなかなか訪れなかった。やはり自分では物足りないのだ。
「うう、足りない足りない……‼ 頼む、全部話したから、挿れて、くれ、くださいっ、先輩、先輩ぃぃ!」
手を止めて、結糸はじれったい快感でビクビクと震えている体を必死に動かし、結糸の元へと四つん這いで向かう。そして、結糸のお腹に顔を埋めるように抱き着いた。思いっきり叫んだ後、待ちきれない玲矢は結糸の性器を服の上から舐め始める。服越しで分かりにくいが、舌だけでもその大きさを感じ取ろうと必死に。何度も何度も繰り返される愛撫に、少しずつ性器は硬さを増していった。
「……っ、媚びを売るのが上手くなったじゃ、ないか」
それに、ゴクリと喉を鳴らし満足気に言葉を漏らした結糸は、そのまま玲矢を押し倒した。
「アハッ先輩のチンポ来来たあ……‼」
性急にズボンと下着を脱ぎ捨て、結糸は玲矢に挿入する。待ちに待った贈り物に玲矢は歓喜の声を上げた。
「んあっ、あっ、スゲ、きもち、気持ちいっ!」
二週間以上前の、あの制裁が始まった夜が嘘みたいに素直に甘い欲に塗れた喘ぎを、律動の度に上げ続ける玲矢に結糸は大層気分が良くなる。
「ほら答えてくれ。お前は誰の何が好きだ?」
「先輩ですっ、先輩のチンポが、先輩に抱かれる事が一番好きです‼」
「そうか」
結糸は本当に幸せそうに微笑んだまま腰を打つのを止めなかった。
「自分が今まで女達に強いてきた以上の事をされて、それよりも惨めな姿に落とされて……それなのにそんな光悦とした表情を浮かべられる。君才能あるよ、肉便器の。性奴隷でも良いか」
言葉でも責める結糸と、与えられる快感に馬鹿になった頭で喘ぐ玲矢。狂犬のようで、愛を知らなかった子供のようだった、ある意味で純粋だった玲矢はもうどこにもいなかった。結糸の手によって完全に破壊されてしまった。
「もう、もうどうでもっいいんだよそんな事! んあっ、気持ちっ、オレはんおっ! もう先輩のチンポの事しか考えられっな、ホォ、イク、イクううあああ‼」
「はいはい……ははっ惨めで可愛い。オラ思いっきりイケ!」
「あ、いくっイクイクイクい、アアアアアアッ‼」
玲矢はようやく得られた酷く強烈な絶頂を迎えて喉の奥から歓喜の叫び声を上げた。
激しく何度も行われた性行為の後、結糸は玲矢をその腕で抱き締めながらベッドに横になっていた。まるで愛し合う恋人同士のように。それまでの過程は普通とはかけ離れているが。
玲矢は本当に幸せそうに、痣だらけで、やつれて、隈も出来た体で、結糸が与える快感の事しか考えられない頭で、微笑んでいる。胸にすり寄って、自分を壊した張本人に甘えていた。
「ほらな、君は俺に堕ちて来る為に生まれてきたんだよ。これからはずっと、ずーっと俺の恋人 でいろよ?」
「はいっ……♡」
残酷な事を告げられているのに、玲矢は蕩けた目で結糸を見つめて、結糸の唇へと口をつけた。閉じた世界で、永遠の愛を誓うように。
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