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短編
「お久しぶりです、南出先輩」
「え?」
俺は、目の前の陽キャ寄りのキラキライケメンに微笑まれて、首を傾げた。
誰だ?
こんな知り合い、いたか?
しかし、南出 ……それが俺の名前であることは確かだ。
そして、この苗字はそこまで多くはない。
今は全ての関係を絶った大学時代の友人を思い浮かべるが、やはり思い当たる人物はいなかった。
大学時代の友人は確かに陽キャだらけだったが、バカ騒ぎが大好きなチャラいやつらばかりだ。
こんなにいかにも仕事できます、女に困っていません、頭も良いですって雰囲気からはかけ離れている。
次に地元の高校時代の友人を思い浮かべようとした俺の思考を遮るように、キラキライケメンは早くも答えを教えてくれた。
「忘れてしまいましたか?僕です、如月知久 です」
「如月……」
俺の頭に、大学時代の映画サークルで一緒だったひとりの後輩がポンと思い浮かんだ。
因みに俺の、待ち合わせ相手でもある。
「え? マジで? 本当に、如月……?」
俺はつい、目を見開いてまじまじと目の前の人物を見上げた。
真っ黒だった髪は綺麗な茶色に染められ、当時はなんのスタイリング剤も使っていなかったであろうその髪は、ところどころ嫌味なく跳ねていた。
「はい、恐らくその如月です」
瞳を隠していた長い前髪はさっぱりと切られ、当時は見えなかった切れ長の瞳と目元の黒子が露になっている。
綺麗な鼻筋に整った顔立ちをしていそうだとは思っていたが、まさかこんなに化けるとは思わなかった。
「随分とまあ……変わったな」
呆けながらも辛うじてそう言えば、如月は薄い唇を軽く持ち上げてくすくすと笑う。
その笑い方には見覚えがあり、本当に本人なのだと理解した。
切れ長の目が細められて、男相手に少しドキリとする。
そうか、この笑い方をしていた時にはこんな表情をしていたのかと、如月の素顔を初めて知った。
「ははは、南出先輩の好みから離れましたか?」
好みってなんだ? と思いながらも、俺は首を横に振る。
「いや、すげーカッコよくなったよ」
「そう言っていただけるなら、イメチェンして良かったです。しかし、南出先輩も……随分と、変わりましたね」
「ああ、俺もイメチェンしたんだ」
如月に突っ込まれて、俺はニヤリと笑った。
社会人二年目、一年目で真っ黒に染めた髪は、とうに地毛のままだ。
コンタクトをやめて真面目そうな黒縁の眼鏡をかけ、毎日無難なスーツを着て満員電車に揺られている。
煙草も酒もやめて、夜遊びもせずに真っ直ぐに帰宅。
どこかに寄りたくなってもバーに行くことはやめて、少しお高い個人の喫茶店で一杯のコーヒーを楽しむ程度だ。
「遠目では本当にわかりませんでしたよ」
「そうだろ」
如月に言われて、ホッとした。
わかるような変化だったら、逆に困る。
縁を切りたいやつらがいるからな。
そう。
俺は如月とは逆に、社会人になって、陰キャデビューを果たしたのだった。
***
「僕、ずっと先輩を捜していたんですよ。良かったです、こうしてご連絡をいただけて」
「ああ、ずっと借りてたDVD返せてなくて悪かったな」
「いいえ、そうではなくて……」
違うのか?
俺が愛用している個人の喫茶店に入り、静かなBGMの流れる店内で借りっぱなしだったDVDを鞄から取り出して丸いテーブルの上に置いた。
「南出先輩、大学四年で、何かありましたか?」
「んー? ああ、まあ、色々と」
如月からの質問に、俺は曖昧に言葉を濁して躱す。
色々と、というより、自分が付き合っていたやつらが大麻だかなんだか、とにかく葉っぱをやるやつらだと知って縁を切ることにしただけだ。
俺は大学時代、わかりやすく遊んでいた。
つるんでいたやつらは気安く、馬鹿話していれば時間が潰れる、そんな深くもない遊びに困らないやつらばかりだった。
当時入っていたサークルは映画サークル含め全てヤリサー。
特定の彼女は作らず、群がってくる女たちと適当にエッチして日々を消化した。
俺は映画が好きで、映画サークルだけは真面目に語りたくて入会したから、そこもヤリサーだと知った時は落胆した。
しかし、一年遅れで入って来た陰キャの如月が、俺の理想とする時間を与えてくれたのだ。
俺は如月と一緒にいる時間が増え、二人で夢中で好きな映画について語り明かしたが、それまで俺がつるんでいたやつらはそれを良しとしなかった。
当時俺はモテモテだったから、俺が遊びに参加するだけで女子の参加率がぐんと変わるからだ。
如月にちょっかいや嫌がらせをしそうな雰囲気を察知した俺は、如月とはこっそり会うことにして、必要最低限のイベントには出席して他のやつらの不満が溜まらない程度にコントロールした。
そして、問題が起きたのは大学四年の時だ。
就活や卒論だけであまり集まりが盛んでなくなった頃、久しぶりに集まろうってことで行った先で、友人のひとりが葉っぱを出してきたのだ。
正直、ドン引きした。
チャラいやつらだとは思っていたが、犯罪をするやつらだとは思っていなかったから。
俺はさっさとその輪から抜け出て、従兄弟に連絡をした。
従兄弟は警察一家だから、情報提供をしたのだ。
俺はあっさりとそいつらを警察に売ったことになる。
恐らくそいつらに対して情報源は明かされなかっただろうが、さっさとそいつらと縁を切ることにした俺は、大学四年でほとんど学校に行く必要がないタイミングで良かったと思いながら地元に戻るからとだけ連絡して別れの挨拶をし、卒業式には行かずにそれまで使っていた自分の連絡先を捨てたのだ。
「南出先輩と急に連絡が取れなくなって、本当に驚きましたよ。ほとんど知らないようなサークルメンバーからも、南出先輩の連絡先聞かれましたし」
「すぐに連絡しなくて悪かったよ。ただ、如月も就活で忙しいだろうと思ってさ」
鼻の頭を人差し指でこしこしと擦りながら、平気で嘘を吐く。
最近、家の整理をしていたら、如月から借りたDVDが出てきたのだ。
大学時代の友人とは縁を切りたくて連絡先を一新したものだから、正直如月に連絡するのも躊躇った。
それでも、如月だけはあの連中とは違う、と頭のどこかで理解していたため、俺は如月だけに連絡を入れたのだ。
「そうでしたか。南出先輩、SNSとかのアカウントも大学卒業後に全て削除したじゃないですか。僕、なんの連絡もなくて本当に寂しかったんですよ。南出先輩からのお誘いなら何を置いても駆け付けますから、これからはまた連絡くださいね」
「ああ、わかった。また如月とは映画語りたいしな」
前髪が邪魔で、手で掻き上げてから、少し冷めてしまったコーヒーを啜る。
猫舌の俺には、ちょうどいい熱さだ。
その時視線を感じて、如月を見る。
丸テーブルを挟んではいるものの近距離で目が合って、少し驚いた。
露になった切れ長の如月の眼光は結構強烈だ。
今までも同じ距離で映画について語ったものだが、顔が見えるだけでこんなに近く感じるものなのか、と目を瞬く。
「ん? どうした?」
「いえ。……ええと、先輩ってこの辺に住んでいるんですか?」
「ああ。お前が俺の利用駅まで来てくれるって返事くれたから、お言葉に甘えてがっつり来て貰ったよ。あ、如月って明日休み? よければこれからウチに来て、映画一本観てく?」
飲み屋でも入って食事をするつもりだったが、相手が如月だったこともあり、昔みたいにピザとコーラとポップコーンを準備して映画を観るのもいいなと思って提案してみた。
「いいんですか? ぜひ、そうしたいです」
「おう、じゃあそうしよ。帰り道にピザ屋もスーパーもあるからさ。商店街を抜けていくから、つまみになるものも買っていこうぜ」
ちょうどいいタイミングで如月がコーヒーを空にしたところで、俺は喫茶店の会計伝票をさっと掴んで立ち上がる。
「僕が払います」
「いや、ここまで来てもらったんだから、いいよ。俺が払う」
如月の新居の住所や仕事の話をしながら、俺たちは自宅に向かった。
***
「南出先輩。僕、先輩がずっと好きでした」
「おお、ありがとな」
お気に入りの監督の最新作を二人で観たあと、気分の良いことを言われた俺はほどよく酔いながら、隣に座る如月の空いたコップにビールを注いだ。
「俺も好きだよ」
大学時代から、実家で飼っていた大型犬を思い出させる如月を、俺はとても気に入っている。
「え……っ、と、その、なら僕たち、両想いってことですか?」
「ははは、そうだな」
随分と懐かれたものだなと思いながら、俺は如月の肩を引き寄せてその頭をわしわしと乱暴に撫でた。
今日は金曜、仕事あがりに待ち合わせたはずなのに、如月の頭からは汗ではなく整髪料の良い香りが漂ってくる。
一方の俺は、今日は外回りで汗臭いだろう。
そろそろお風呂に入りたい、と思いながら紙皿をゴミ箱に投げ入れつつ、如月に声を掛けた。
「すっかり遅くなったけど、今日は泊まってく?」
「……は、はい……」
立ち上がって伸びをし、座りっぱなしで凝った身体を軽く動かす。
「風呂はどうする? 先に入る?」
「本当に、いいんですか?」
「え? 明日俺も仕事休みだし、別に構わないよ。パンツとか服とか、俺のでよければ貸すからさ」
「……ありがとうございます」
お礼を言いながら、ごくり、と如月が喉を鳴らす。
「如月、喉乾いた? うち水道水しかないんだけど、コンビニで麦茶とか買ってこようか?」
「だ、大丈夫です。水道水で」
「そ? 悪いな、今度買っておくから」
「今度……」
「ああ」
クローゼットを開けて、引き出しの中からごそごそと部屋着を取り出す。
陰キャになっておいて良かった。
以前みたいな外用の派手な服ばかりじゃ、友人の急なお泊りでリラックスできるような服を提供できなかったかもしれない。
俺は上下セットのゆるりとした部屋着と新品でまだ開けてなかったパンツを如月に渡しながら「これでいい?」と声を掛ける。
はい、と如月が言うのを背中に聞きながらざっと風呂場の掃除をすると、湯船に湯を溜めるために、給湯器のボタンを押す。
「溜まるまで少し時間かかるから、もうちょい待ってて」
ついでに洗面所で歯ブラシの在庫を探すと、それも如月に渡した。
***
如月が風呂に入っている時、大学の時に使っていた雑魚寝用の布団を捨ててしまったことに気付いて俺は慌てた。
「お先にありがとうございました」
「……あれ、如月って俺より体格いいんだな。初めて知った」
俺が着ると余裕のあるスウェットも、如月が着るとだぼつかない。
少し悔しい気持ちを抱えながら、「そいや、俺布団捨てたの忘れててさ。狭いけど、一緒のベッドで寝るんでいい?」と尋ねれば、如月は赤ベコのように何度も頷いた。
先に寝てていいよと伝えてから風呂に入り、
ゆっくりと浸かってから上がると、如月は何故か座椅子の上で正座をしたまま待機している。
「先に寝てていいって言ったのに」
「……眠れません」
「そう? 枕が変わると寝れないタイプかー」
俺は笑いながら部屋の電気を消し、非常灯が点いている間に布団の中に滑り込む。
入れよ、という意味で布団を持ち上げたままでいると、如月は「失礼します」と小さな声で呟きながら、俺の横に入って来た。
「それにしても、如月は見事に化けたな。大学時代も今の感じだったら、きっとモテたぞ」
仰向けのまま瞳を閉じて、眠気に襲われるまではと思い如月に話し掛ける。
「うーん、どうでもいい人たちにモテても、意味がないので」
「そっか」
なんとなく、もしかしたら如月は、高校時代は今の感じで女の子たちからきゃあきゃあ騒がれ、それが面倒で大学では今の俺と同じく陰キャにイメチェンしたのかもしれないな、と感じた。
「でも、南出先輩の隣にいるにはこっちの姿のほうが便利かなと思って」
「ああ、あの頃は悪かったな。俺の友達がお前に色々言い掛かりをつけたって聞いた」
あんなダサいやつとなんで一緒にいるのかとか、オタクとつるんだっていいことないだろとか、俺も当時は結構言われた。
誰と付き合おうが俺の問題なんだから赤の他人にとやかく言われる覚えはないと思ってガン無視したけど、それで友人たちが如月にちょっかいを出すようになったのは失敗だった。
「いいえ、僕と南出先輩の問題なので、あんな人たちがなんと言おうとどうでもいいのですが……あ、南出先輩の友人に対して失礼な言い方をしました、すみません」
「いや、いいよ。もう縁切ったし」
「はは。そう言っていただけると、安心します。とにかく、こっちの姿のほうが便利かなと思ったのですが……就職活動が落ち着いて先輩に連絡を取ろうとしたら、連絡が取れなくなっていたので、そっちのほうがよっぽどショックでしたよ」
「あー、それは悪かった」
如月のほうにごろりと身体ごと向けると、如月は顔だけこちらを見ていて、近距離でばっちりと目があった。
近い。
思わず顔を後ろに引くと、後頭部が壁に当たってなかなか良い音がした。
痛い。
「ちょ、大丈夫ですか、南出先輩」
如月が慌てたように俺のほうを向き、ぶつけた後頭部に片手を置いて、ぐっと優しく手前に引っ張った。
う、わ。
恐らくまた打ち付けないようにするための配慮だったんだろう。
しかし、身体をくの字に曲げるような格好になった俺は、如月の身体にすっぽりと収まるように、まるで抱き締められるような状態となっている。
なんだ、この体勢。
俺が女だったらときめいたかもしれないと思いつつ、男二人でなにやってんだと、思わず笑いが漏れた。
「痛くないですか?」
後輩に頭を撫でられ、俺は如月の整った顔を見上げながら笑って言う。
「音は大きかったけど、そんな痛くなかった」
「ならいいですけど」
そこで一度沈黙が訪れ、布団と如月の体温で訪れそうになった眠気を俺は歓迎しようとした。
「……南出先輩」
「……んー?」
「その、僕は試されているのでしょうか?」
意味がわからず、「そんなことしてないけど」と寝ぼけながら返事をする。
「南出先輩って、その、男相手に……したことありますか?」
「……ん?」
如月から何を尋ねられたのか意味がわからず、俺は眠たい目は持ち上げないまま会話を続けた。
「……何を?」
「性行為、です」
せいこうい?
「……セックス?」
「はい」
……俺が、男とセックス?
ああ、もしかして、大学時代の俺の友人たちから、変なことを聞かされたのかもしれない。
「……そんなこと……あるわけないだろ」
おまんこなら週替わり、下手すりゃ日替わりだったけど。
そんなことを思い出したら、最近ヌいていなかった息子が少し元気になってしまった。
「じゃあ、僕が初めてなんですね。嬉しいです」
は?
という言葉は、紡ぐことができなかった。
如月の指が俺のあごに触れた、と思った瞬間、俺の口は如月のそれで、塞がれていたからだ。
***
「男相手は僕も初めてなんですが、南出先輩とこうして両想いになった時のために勉強だけはしておきましたから。精一杯気持ちよくなれるよう、頑張ります」
「ちょ、待って、如月……っっ」
酔いはほとんど残っていなかったものの、寝ぼけて大した抵抗ができずにいた俺は、如月のやたら上手いキスのせいで完全に骨抜きにされていた。
男とのキスでフル勃起するとは思わず、いくら最近ご無沙汰とはいえそんな自分にドン引きする。
それはともかく、如月の様子が明らかにオカシイ。
まるで発情した顔で、俺の身体を撫で繰り回しているのだ。
ゆったりパジャマの裾から滑り込んできた如月の掌は、俺の真っ平な胸をすりすりと撫でると、唯一ぷっくりと飛び出した乳首をきゅうと摘まんだ。
「おま、ちょ、俺は男なんだが」
「はい。乳首も開発すれば、男でも気持ち良くなれるらしいので」
いやいやいや。
それをなぜ、俺で試す必要がある?
多少パニックに陥りながらも、興奮している息子に気づかれないように腰を引き、「そもそも何でお前が、俺とキスするんだよ!」と冗談めかして言った。
すると、ごく真面目な顔をして如月は返事をする。
「だって僕たち、今日からお付き合いをしているってことですよね。少し性急かもしれませんが、僕も男なので。目の前に風呂上がりの恋人がいて、同じベッドに誘われて、我慢なんてできません」
「……は?」
俺はやっと、如月がとんでもない勘違いをしていることに気づいた。
ついでに、ポカンとする俺を見て、如月も何かとんでもないすれ違いが起きたことに気づいたらしい。
「……南出先輩、さっき俺の告白に応えてくれたじゃないですか。両想いですねって確認した時も、そうだって言ったじゃないですか」
「え? えええ?」
言ったか? 俺、そんなこと言った??
「まさか、酔っていた、なんて言いませんよね?」
「い、言わないけど! 言わないけど、俺はてっきり……」
普通の先輩後輩、もしくは気の合う友人として、だとばかり思っていて。
狼狽える俺の両腕を、据わった目つきの如月が自分の両手でぐっと握り締める。
如月の曲げた膝が俺の息子に当たり、痛さより気持ち良さが俺の身体を駆け抜けた。
「しっかり反応してるじゃないですか」
ひぃ、と怯える俺の耳元で、如月は囁く。
「今更、なしなんて言わないで下さい」
「ほ、本気?」
「冗談でこんなこと、言いませんよ」
万にひとつでも罰ゲーム的なやつならいいな、なんて思って一応聞いてみたのだが、如月は冗談めかしてなかったことにするという選択をしなかった。
「じゃあ、今日は擦り合いだけしましょうか」
「へ?」
「ほら、先輩のコレ、苦しそうだし」
如月はそう言うなり俺のズボンをずり下げ、息子をぽろんと外に出した。
「え、あ」
俺の両手首は頭の上でひとつに括られ、如月の大きな手でぐっと押さえつけられる。
ズボンを下げた手が俺の息子に伸びて、そっと優しく包まれた。
「ちょ、きさ、らぎぃ……っっ」
久々に触れられる他人の手に、俺の息子は言うことを聞かずにあっという間に欲で膨れ上がっていく。
「あ、は……っ」
「南出先輩、気持ち良さそうですね。先走りが凄い出てますよ」
「んんっ……!」
如月の指がカリに当たるたび、気持ち良い。
同じ男だからか、気持ち良くなるポイントがわかっているようだった。
如月の手をオナホ代わりにして、存分に腰を振りたくなった。
それでもかろうじて残された理性が、その快感を拾おうとするものの、如月の手で扱かれるだけに留まる。
そうこうしているうちに俺の息子に熱い棒が密着し、如月の手はその棒ごと俺のペニスを掴んでしっかり上下に擦った。
「うぁ……っ」
やばい、気持ち良い。
「南出先輩……」
如月の顔が近付き、キスを落とされた。
開いた唇から舌が差し込まれ、覚悟を決めた俺は、今度はその舌に積極的に絡みついて応える。
くちゅ、くちゅ、と口内を舌で掻き回す音と、ぐち、ぐち、と如月の手が俺達のペニスを扱き上げる音が室内に響いて、俺はとうとう我慢できないところまで昂らされた。
「き、如月、も、イく……っっ」
「いいですよ。イって、先輩」
少し強めに扱かれ、袋がきゅっと射精のために縮こまる。
「くぅ、はぁ……っっ」
ペニスの先端から物凄い勢いで精液がどぷどぷ♡ と溢れ出て、俺は久々の吐精の快感に酔いしれた。
「……い、南出先輩」
遠くで如月の声が聞こえた。
「……んー……?」
イったついでに、少し落ちたらしい。
「南出先輩、お試しでもいいんで、僕と付き合ってください」
「……んー……」
仕事が落ち着いたら、彼女でも作ろうかと思っていた。
「じゃあ、彼女ができるまででいいので、僕と付き合ってください」
「……」
それじゃあ、如月はつなぎのようなものだ。
流石にそんな扱いは失礼だろう。
「大学時代だって、彼女は作らないって公言して、女の子たちと遊んでたじゃないですか」
「……」
それは、そうだけど。
相手の女の子たちは、そういうのをひっくるめて、理解して付き合ってくれただけで。
「なんで、女の子たちは良くて、僕は駄目なんですか? 僕にもチャンスをください」
「……」
本気の相手だとわかっていて遊びで付き合うなんて、残酷なことはしたくないんだよな。
「僕なら大丈夫です。ただ、先輩と気持ち良いことを共有したいだけです」
「……」
うーん。
なら、いいのか?
「いいです、それで。だけど、僕がタチでもいいですか?」
わかった、もう、なんでもいい……。
そう会話したところで、俺の記憶は途切れた。
***
俺が寝ぼけている間に、如月は「俺が彼女をつくるまでの暫定のセフレ?」に決まったらしい。
なんだ、男のセフレって。
まあ、女の子を不安にさせるような妊娠の危険がないだけ、男をセフレにしたほうがいいのかもしれないが。
記憶にないで押し通すことも出来たかもしれないが、精液のついた服やらシーツやらを甲斐甲斐しく洗濯やら何やらしてもらっておいて、流石にそんな薄情なことは出来なかった。
俺を好きだという相手に酷かもしれないが、「思い出だけでもください」と言われれば、強くは突っぱねることが出来なかった。
……というのは建前で、単に如月のキスや手淫が上手くて気に入っただけなのかもしれない。
俺たちが久しぶりに再会してから、お互い土日休みの仕事なので、どちらかの家に泊まったり、映画を見に行ったり、買い物したりで毎週会う感じになっていた。
「……これ俺、彼女作る時間なくないか?」
そんな期間が三カ月続き、ある日気づいた俺がポテチを齧りながらふと呟くと、如月はくすくすと口角を上げて笑った。
「今気づいたんですか?」
「うん」
如月との時間は大学時代と変わらず、とても居心地の好いものだ。
変わったことは、名前で呼ぶようになったことと、知久に敬語を禁止したことと、少しえっちな関係になったこと。
毎週何をするか、もしくはどこに行くかを決めて、夜はどちらかの家でお酒を飲みながら映画を一本観る。
「翼、可愛い」
「可愛いとか言うな」
「じゃあ、カッコイイ」
「気づかないことがカッコイイわけあるか」
「翼のどんな反応も、最高」
「~~っ」
照れ隠しに、知久のグラスの中身をわざと飲み干す。
知久と夜に過ごす時間は、少しくらい酔ったほうが、やりやすい。
「翼、そろそろお風呂入ろうか」
「……ん」
知久に手を引かれ、お風呂に向かう。
酒が入っていても、やっぱりこの時間は緊張する。
俺は知らなかったが、男同士のセックスはお尻を使うので、挿入するほうがタチ、挿入されるほうがネコと呼ぶらしい。
で、寝ぼけている間に、知久がタチ、俺がネコに決まってしまった。
知久と一緒に勉強ということで男同士の行為の動画を何本か観たけど、ネコのやつがやたら「気持ち良い」を連発するので、どんなもんかと気になり俺はネコ役を承諾した。
好奇心って、恐ろしい。
でも、男同士の行為で面倒なのもネコのほうで、色々不具合を起こさないために、アソコを綺麗にしたり解したり、とにかく大変なのだ。
面倒だから、トイレ以外は全部知久に丸投げした。
知久はそれも嬉しそうに手伝うんだから、まあウィンウィンの関係ということでいいだろう。
三カ月経っても、俺たちは本番をしていない。
お風呂やベッドでえっちなことはしているが、それも延々と俺のお尻の開発をしているだけだ。
知久のペニスの出番のなさがあまりにも哀れで、前々回に会った時俺は、手コキしてやった。
知久が嬉しそうにするものだから、前回はフェラしてやった。
俺にもこんな奉仕精神があったんだなと驚いたが、知久の笑顔を見るのが好きになった俺も、大概絆されている自覚はある。
「翼、身体洗ってあげるね」
「ん」
知久は泡のボディソープを手に取り、俺の全身を優しく洗う。
「まだ何もしてないのに、もう勃っちゃってる。期待してるの?」
触れられていない俺のペニスは、既に臨戦態勢だった。
ちらりと知久の息子を見ると、俺の息子以上に天を向いていた。
「はやく、してくれ」
「はは、了解」
俺はいつも言われる通り、壁に手をつき、もう片方の手でお尻の穴を広げるように臀部を押さえる。
「ああ、最高の眺め。翼も慣れてきたね」
「そりゃ、毎回同じこと言われるからな」
泡を纏った知久の指が、穴の周りをくるりくるりとなぞるように触れるだけで、その中心はキュンキュンと期待するように動く。
「前だけでイっちゃ駄目だよ」
「ん」
勃起したペニスを優しくゴシゴシ扱かれながら、お尻の穴にも二本の指が挿入され、じゅぶじゅぶ掻き混ぜるように出し入れされた。
「ん♡ は、ぁあ……♡♡」
「気持ち良い?」
「ん、すご、い……っっ♡♡」
知久と付き合うまで、男の尻の穴が性感帯だなんて知らなかった。
ここがこんなに気持ち良い穴だということを、知久が教えてくれた。
「お願い、あそこ、触って……!」
「うん」
俺が懇願すると、知久は俺の前立腺を突くように指を出し入れする。
「あ♡ あ♡ ああッッ♡♡」
もっとそこを突いて欲しくて、自然と腰が揺れた。
「翼、エロいね」
「知久、気持ち♡良い♡♡」
気づけば知久は俺の息子から手を離し、乳首を捻り上げるように弄りながら、アナルだけで俺の射精を促している。
「どう? 今日はこれだけでイけそう?」
「わか♡ んな……っっ♡♡」
我慢できなくなった俺は、知久の指を貪るように自ら腰を振り始めた。
ぐちゅ♡ ぐちゅ♡ ぐちゅ♡ という卑猥な音が、風呂の中に響き渡る。
俺が腰を揺らすたび、ぺちん♡ ぺちん♡ とペニスが下腹部に当たって、上下した。
「あ、イき、そうかも……っっ♡♡」
お尻しか弄られていないのに、息子が膨れ上がっていくのを感じる。
あと少し。
もう少し。
「翼……、このまま、イけ」
そう知久に命令されながら耳の中に舌先を突っ込まれ、ぐちゃぐちゃという音が鼓膜を揺らした時、俺はとうとう絶頂した。
「ああ……っっ♡♡」
びゅるるるる、と勢いよくペニスの先端から白濁の液体が飛び散る。
最後の最後まで精液を絞り出すように、アナルに指を突っ込まれたまま、へこ♡ へこ♡ と腰を動かした。
「初めてのドライだね、おめでとう」
アナルから指を抜き、ぐったりとした俺を抱え上げようとする知久の腕を、そっと止めるように掴む。
「翼?」
「知久……シよ」
「え?」
「今なら、出来る気がする」
最高の快感に酔いしれた身体に力を入れ、再び知久にお尻を突き出すと、両手でぐっと尻たぶを割り開いた。
「……っ」
情欲に濡れた目をしながらも息を飲んだ知久に振り返り、おねだりをする。
「知久、頂戴」
「翼……いいの?」
「ん」
知久が掴んだ、熱く脈打つ硬いペニスの先端に、自分のアナルを押し付ける。
ごくり、とどちらともなく唾を飲み込んだ。
この三カ月、知久がいない時はアナルプラグを入れて過ごした。
結構、順応してきたはずだ。
俺より一回りはデカい知久のちんぽに恐れ戦いた時もあったが、これだけ解したアナルなら、きっと受け入れられるはず。
「一思いに、突っ込んで」
「一思いって……」
くすくすと知久が笑った気配のあと、アナルに押し付けられた知久の先端がぐぐ、と入り口にめり込んできた感覚が俺を襲う。
その先の痛みを想像して思わず身体を硬くした俺の首筋に知久はちゅ、ちゅ、とキスを落とす。
「痛くしたら二度とさせて貰えなくなるかもしれないから、優しくする」
「……わかった」
くぷ♡ と知久の亀頭全体を、俺の入り口が受け止めた。
「美味しそうに頬張ってるよ。上手」
「も、早く……」
もっと奥の奥、先ほど指で可愛がって貰った前立腺が、疼いてしょうがない。
早く、そこをペニスで突いて欲しかった。
「早くちんぽで、奥を突けって……!」
「翼っ……!!」
――そこから先のことは、しばらく無我夢中で覚えていない。
覚えているのは、知久が俺の身体を貪るように、硬いペニスで犯し続けたこと。
ぢゅぽ♡ ぢゅぽ♡ とはしたない水音を止まることなく、貫かれ続けたこと。
そして、それが堪らなく、気持ち良すぎたことだ。
***
「なあ、知久」
「なあに、翼」
「俺さ、知久とのセフレ関係……お試し期間やめようと思って」
初めて身体を繋げてから、更に三カ月後。
俺たちが再会してから、半年が経過していた。
目を見開いた知久ががばっと上半身を起こし、切れ長の瞳で俺を見る。
そこには傷ついたような、それでいて覚悟を決めたような、そんな感情が見え隠れした。
「……彼女が出来たの?」
「いや」
「なら、なんで……っ」
まあ落ち着けよ、という意味で、知久の手を取り、その甲にキスをした。
そんな、まるでお姫様のような扱いを受けた知久は、ポカンという表情を浮かべる。
いつも穏やかな知久だが、こいつも意外と俺にだけは色々な表情を見せてくれるのだ。
そんなところも……好きだ。
「知久、恋人になってよ」
「へ?」
「こんな陰キャでもよければさ。これから末永く、よろしくお願いしたいなあと」
知久は陽キャキャラを保ったままだが、俺も陰キャキャラを保ったままだった。
二人で並んで歩くと、その距離の近さよりも、なんであんなイケメンの隣にあんな陰キャがいるんだという目つきで、よく女性たちからジロジロ見られる。
でも、俺は陰キャなほうが性に合っていたみたいで、知久のように、知久と横に並ぶために、以前のように戻ろうという気にはなれない。
大学時代の友人に見つかっても、厄介だし。
「それは……勿論です。因みに、翼さんは今も最高に可愛くてカッコイイですよ」
「はは、ありがと」
俺たちは恋人繋ぎで手を握り合うと、お互いに顔を寄せて、唇を合わせるだけのキスをした。
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