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第2話 睦の日常

 僕の学校生活は平凡そのものだった。昼休みは1人で過ごしている。  お母さんが作ってくれたお弁当を開くと、アスパラの肉巻きとミートボールが入っていた。温野菜のカリフラワーとブロッコリーも入っていて彩り豊かだ。僕は手を合わせて「いただきます」と小さく呟きながら昼食をとる。  お弁当を食べ終えてからはお腹の休憩として軽く仮眠をとったり読書をして過ごしている。  不意に後ろから人の気配を感じて静かに振り返ると、よく玲乃と一緒にいる男子生徒の村野が連れの三上と共に僕を見下ろしていた。玲乃の姿は教室にはない。 「もやしくん。今日の放課後の教室掃除代わりにやってくんない? 俺ら部活の集会があってさあ」  「もやしくん」は僕のあだ名だ。ニックネームと呼ぶには躊躇いがある。何故なら「もやしくん」は裏で呼ばれている蔑まれたあだ名だからだ。  村野の言葉に僕は怯えて返事ができない。机の下で握りしめた手のひらにじわりと汗が滲む。するとそれを拒否と受け取ったのか、三上が僕の肩に手を置いた。ぐっと力を込めて抓られる。 「ゔっ……」 「聞いてんのかよ。ほんとお前反応悪いっつうか、空気みてえに存在感ないし。だから俺らにもやしくんって呼ばれてんの。わかる? お前がそんなんだから他の奴らも関わろうとしてないんだよ。もやしみてえに細いし白いし、噛みごたえもないしさあ。わかったよな? 放課後の掃除頼んだからな」  どん、とそのまま肩を小突かれて身体が揺れた。その時、机の上に置いてあった本を床に落としてしまった。その物音でクラスメイトの全員の視線が自分に集まり顔が熱くなる。 (やだな。注目されたくないのに……)  その日の午後の授業を終えると、僕は誰も居なくなった教室のはき掃除を始めた。箒で満遍なくちりごみを集めて捨ててから、床を雑巾がけしていく。  何で自分がこんなこと、と思うこともあるけど拒否したら村野と三上に何をされるかわからなくて請け負ってしまう。  内向的すぎると自分でもわかっている。でも、学校生活の中で大きな波風を立てたくないし、誰かがやらなければならない掃除なら、自分がやるのも仕方がないと思っていた。  教室の掃除を終えて学校から出た。そのまま黙々と歩いて自宅へ向かう。高校までは徒歩20分。なるべく家から近い高校を選んだ。他にもこの高校を選んだ理由はあるけれど──。  マンションのエレベーターの中でほっと息をつく。学校では緊張してしまう場面が多くて肩に力が入りがちだ。  小さく溜息を吐いているとすぐに6階についた。僕はエレベーターを降りてから606と書かれた玄関の黒いドアを開く。 「ただいま」  小さく呟くとシーンとした部屋がもっと静かに感じられた。

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