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第10話 玲乃の甘えたモードON
「ふぁー。食った食った」
洗い物を終えた玲乃がリビングのソファにばたんきゅーしてきた。
3人がけのソファの隅っこで体育座りをしていた僕の身体がぴょこんと波打つ。
バランスを崩して玲乃のお尻に頭をぶつけて「うっ」と変な声が洩れた。おでこを押さえて鈍い痛みに耐えていると、目の前に黒い影が伸びてきた。はっとして顔を上げれば玲乃が神妙な面持ちで僕の顔を覗きこんできていた。
「なっ、何?」
まじまじと何も言わずに見つめてくる玲乃の本意がわからずにじりじりと後ろに下がれば、玲乃もぐーっと顔を近づけてきて僕は逃げられなくなった。
「いや。前髪伸びたなーって」
「っ!」
さらりと前髪をかきあげられおでこが露わになる。そのままおでこの上を柔らかくマッサージされてしまい、僕の身体の力が抜けてソファに身体が溶けていく。
「睦。ふにゃふにゃになっちゃったね」
玲乃のマッサージはすごく上手で、まるで美容院で髪を洗ってもらったりヘッドスパを受けている感覚になるのだ。
「黒髪さらさらでいいね。まさに清楚って感じする。天使のわっかできてるし、つやつやだし、前世は黒ポメラニアンだったのかな?」
耳元で囁いてくるから、距離が近くて動揺してしまう。僕は何も言えずに目線を下げていた。おでこをつん、と人差し指で小突かれて後ろへ仰け反る。
「わっ」
ソファの端から落下した。僕は襲ってくるであろう床に叩きつけられる痛みを想像して、慌ててぎゅっと頭を両腕で抱えた。目をきゅっとつむり身体を縮こませる。
しかし、数秒待っても痛みは襲ってこない。その代わりに背中に回された腕が熱くて、触れるところから体温が伝わってきて胸の奥がきゅっと締め付けられた。
「あっぶな。ごめんね。落としちゃうとこだった」
「……あ、ありがとう」
ソファから落ちるところを玲乃が抱きとめてくれたらしい。
玲乃の制服のワイシャツの隙間から放たれた甘い匂いが鼻を掠めた。玲乃のお気にいりの香水だった。バニラの香りに包まれ僕の身体の力が抜けていく。ワイシャツ越しに玲乃の硬い胸まわりが伝わってきて、玲乃は綺麗な顔をしていても男の人なんだなあと思い知る。
「……玲乃?」
ソファからの落下を防いでくれたことには感謝しつつも、未だに離れる素振りのない玲乃に僕は小さく呼びかける。
突如すんすん、と僕の耳元に鼻を近づけてきた。心臓がばくん、と一際大きく跳ね上がる。身体中の血液が心臓と顔に集まっていくような感覚にぱっと顔を伏せた。
「睦いい匂いする。ねえ、今日も『あれ』して欲しいな」
『あれ』というのは僕と玲乃だけに伝わる秘密の言葉だ。僕は目を右と左に泳がせながらこくんと頷き返した。
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