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第21話 最終話(蛇足的なお話)
その後、二人や二人の通う学校生活がどうなったか。
特に変わりなく過ぎていった、と言えるかもしれない。
継信は相変わらず、黒江以外に話すクラスメイトはいなかった。光映もクラスであまり話しかけられることがなくなった。だが、特に二人が孤立している、というわけでもなく、なんとなく周囲がどう接したらいいのかわからない、といった様子で過ぎていった、というのが正しいのかもしれない。
小林が学校を辞めたのは、自分のせいなのか、と継信は思っていたが、実は小林は前からクラスで少し浮いていたのだという。人の嫌がることを言うことで注目を集め、自分がリーダーのような振る舞いをする小林のことを、クラスメイトも少し遠巻きにしていたのではないか、というのが黒江の意見だった。
「そんで、あたしが結構ぼろくそに文句言っちゃったしね。別に小林だけに向けていったわけじゃなかったんだけど」
黒江はあっけらかんとそう言った。
光映と継信の写真をSNSに上げた西野マリも、のちに処分を受けた。画像をたどった生徒指導部が発信元がおそらくマリだろうと見当をつけて呼び出したところ本人が認めたらしい。
そもそも、個人情報やそれに類するものをネット上にアップすること自体が校則でも禁止されていたことだったので、マリは停学処分となった。
だが、マリはそれを良しとせず学校を辞めて転学していった。自分のクラスでも、発信元だとみられて白眼視されていたらしいので、それも原因の一つかもしれない、と木村は言った。
期せずして加害者二人は去ったことになる。だが、それで光映と継信の心が晴れたわけではなかった。
三年になって、少しずつ受験の雰囲気になり、二人は会う頻度を少なくして受験勉強に励んだ。光映は司法試験を受けることを目指し、継信は情報系のエンジニアを目指すことにした。同じ大学で、なおかつそれぞれ二人が目指した学部があるところを第一志望としてお互いに勉強に集中した。継信は普段の成績もよかったので指定校推薦が受けられることになり、いち早く合格をした。光映も遅れて一般受験で目指す学部に合格した。
あっという間に卒業式の日を迎えた。
特に最後まで何も起こらず、普通に終わった。ああ、これでこの狭いコミュニティから解放されるんだな、と継信は思った。光映の伯父の話を聞けば大学が自由だとは限らないだろうが。これから自分たちで選び取れる、ということは大きい。
式が終わり、クラスでの諸々が終わって、生徒たちが写真を撮り合ったり今日の予定の確認をしていたりしてざわざわしている教室。継信は黒江に挨拶をして荷物をまとめ、帰ろうとした。
「邑前 くん」
後ろから声をかけられた。
同じクラスの田伏という女子生徒だった。継信と、すぐそばにいた黒江が揃って田伏の方を向いた。
今まで一度も話したことのない生徒である。何の用だろう、といぶかしみながらその次の言葉を待って、田伏の顔を見た。
田伏は少し俯いたまま、話し出せずにもじもじしていたが、継信が「何?」と促したことでやっと顔を上げた。
「あの‥私‥俺、FtMのトランスジェンダーなんだ」
思いがけない内容に、継信と黒江はぽかんとして田伏の顔を見つめた。田伏は少し目を伏せながら続けた。
「性自認、は男で‥でも、俺こんなチビだし見てくれは全く女だし‥親にもずっと言えなくて、制服着るのも毎日、辛くて‥」
そう言いながら、田伏は少し長めのスカートの裾をぎゅっと握った。
「‥俺も、マイノリティ、なのに、全然邑前くんに、歩み寄ることもできなくて、悪いなって気持ちがずっとあって‥」
「‥‥うん」
田伏は顔を上げて継信の目を見た。
「だから、許してほしい、とかじゃなくて、‥最後に、俺のことを、邑前君に知っててほしかったから‥それだけなんだ」
「そっか。ありがとう」
するり、と「ありがとう」の言葉が出た自分に、継信は自分でも驚いた。だがそれは継信の素直な気持ちだった。言わなくてもいいのに、今日を選んででも言ってくれた田伏の気持ちが嬉しかった。
すると横で黒江がごそごそとスマートフォンを出した。
「連絡先、交換しない?」
余りに滑らかにそう言った黒江の姿を見て、継信と田伏は思わず吹き出して笑った。
その後、光映と合流して公邸に出た。校庭には保護者や卒業生がまだ相当数残っていた。その間をかき分けながら二人は歩く。
校門を出て、なんとなくふうと息が出た。終わったんだな、と思った。横を見れば光映も同じような顔をしてこちらを見ていた。
「今日から、新しいスタートだな」
そういう光映の顔を見て、ふふっと笑みがこぼれた。
「すごいな光映。おれは今『終わったな』って思ってたよ」
「まあ、終わりでもあるけど、新しい場所でまた新しい生活が始まるだろ。俺すっげえ楽しみなんだけど、継信との二人暮らし」
そう言って満面の笑顔を浮かべる光映が、かわいいな、と継信は思った。
継信の制服のネクタイをぐいっと引っ張って自分に寄せる。
そして、ちゅ、と触れるだけのキスをした。
きゃああ!うぉぉぉ!と、後ろで騒いでいる声が聞こえた。光映は顔を真っ赤にして呆然とこちらを見ている。継信はぺろっと舌を出した。
「やっちまった」
「も、もう!継、もう!!帰るぞ!」
校門の中でざわついている人々を尻目に、二人は駅に向かって駆け出していった。
終わり
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最後までおつきあいいただいてありがとうございました。
性的マイノリティの方の生き辛さは、想像しえない部分もありますが(とはいえ私は出会いが前後していたら同性のパートナーだったかもしれないとは思っております)、高校生の中にこういう問題が発生した時どうなるか、という視点で書いてみたつもりです。
割合的には、きっともっとたくさんの当事者の方たちがいて、苦しんでいることもあるのではないか、と思ってできた作品です。
至らない部分もたくさんあったかとは思います。よかったらご感想やご意見などいただけると嬉しいです。
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