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【New】LastDrop🌹Drop.031『 The WORLD:U 』
彼は、運命の人との出逢いに憧れていた――。
そんな彼のお気に入りの絵本に登場したのは、オオカミ族の王子様。
それゆえ、美しい少年に成長した彼が、運命の人と出逢うべく恋をするのは、オオカミ族の男が多かった。
しかし――、そうして出遭ったオオカミや他種族の男たちは、そんな純粋な彼を欲の儘に弄び、酷く傷つけては、美しく輝いていたはずの彼の世界を闇色に染め上げていった。
そんな残酷な運命の仕打ちを受けた彼は、その果てで、ついに――。
幼い頃から大切に抱き続けてきた望みも、希望も、心の奥底に捨て去ると――、酷く輝いて見えていたはずのオオカミすらも、嫌い、恐れるようになった。
だが――。
酷く傷つき、オオカミに怯える彼を――、欲で穢れた暗く深い闇色から、救い出したのも――。
― LastDrop 🌹 Drop.031『 The WORLD:U 』―
「うぅ……っ、姐さん˝……っ、――もぉ˝……っ、――なん˝が……っ、――どにがぐ……っ、――め˝っぢゃ、きれえ˝っす……っ」
「ちょっと、京……。――褒めてくれるのは嬉しいけど、――せっかく綺麗にしてもらったんだから。――色々飛ばして汚さないでちょうだいよ?」
「ぇう˝っす……っ、――ぎを˝づげま˝ず……っ」
その美しく清らかな教会で交わされたのは、愛の誓い。
それを祝福するようにして鳴り響くは、祝福の鐘の音。
そんな祝福の音は、幾羽もの鳥たちを、青々と美しく広がる天の覗き窓へと向かわせた。
そうして、その愛らしい使者たちから祝福の報せを受け取った天界が見守る中――、法雨 は、ミントグリーンのドレスを纏い、翠色の煌めきに彩られながら、泣きじゃくる灰色オオカミを嗜めていた。
そんな法雨は、一向に感激止まぬらしい灰色オオカミをひとつ置く事にすると――、自身の傍らに寄り添う漆黒のオオカミを見上げては微笑む。
「それにしても……、――まさか本当に、こんなお姫様みたいなドレスを着られるとは夢にも思ってなかったわ。――これも、雷 さんのおかげね。――有難う」
その法雨が愛する漆黒のオオカミ――雷は、穏やかに微笑んでは、優しく紡ぐ。
「こちらこそ、君の夢を叶えさせてもらえて嬉しいよ。――本当に、よく似合ってる。――綺麗だよ」
法雨は、そんな雷の言葉に気恥ずかしそうにしながらも、幸せに満ちた笑顔を返す。
「ふふ。有難う。――でも、こういうのは何度言われても照れるわね」
そして、そう頬を染めながらも、改めて自身を彩る繊細で美しいドレスを愛おしげに撫でた法雨は、ふと、教会の庭園を見やる。
その視線の先には――、純白の毛色を煌めかせ、来賓同士の談笑を楽しんでいるネコ族の友人が居た。
「でも、まさか、姫 の分のドレスもプレゼントしてくれるなんてね。――うちの店のコたちも、雷さんに感謝しきりよ」
そうして法雨が目をやったのは、法雨のバーのスタッフでもある、純白で小柄なネコ族の青年――茅花 姫であった。
そんな彼は、その日――。
雪色の三角耳と、細長く柔らかな尾を揺らがせては、その小柄で愛らしい外見に見合う、しばし上質なパーティードレスを身に纏っていた。
その彼のドレスだが――、実のところ、それは雷の計らいによって、法雨のウェディングドレスと共にオーダーされた品であった。
「ははは。――あんな風に瞳を輝かせる姿を見てしまったらね」
と云うのも――、その姫は、女性物のファッションをよく着用している事から、その“目”と経験を買われ、法雨のドレス選びにも同行していた――のだが、その最中、法雨のドレス姿に度々と瞳を輝かせては酷く感激した姿を披露していたため、それが二人の心を動かし、結果として、雷の計らいに至った――というわけであった。
「ふふ。気持ちは分かるわ」
そんな、とある日の思い出を振り返りながら法雨が言うと、雷は、同じく姫を見やりながら言う。
「姫君も、“次は”ウェディングドレスだね」
そんな雷に、法雨は頷き、彼を見守る様にして言う。
「えぇ。そうね。――姫も早く幸せになってほしいわ」
それに、雷も頷くようにしながら言う。
「――そうだね」
そして、それに次ぎ、ふと背後へと視線をやると、
「姫君と、――“桔流 君も”」
と言っては、にこりと笑んだ。
桔流は、そんな雷に不意をつかれると、咄嗟に一歩身を引いては、両手を前にして言った。
「うわ。ちょっと、雷さん。――なんでそこで俺に振るんですか……。――俺は今、舞台上の木役に集中してるんで、――カメラもスポットライトも、雷さんと法雨さんに固定でお願いしますっ」
すると、その桔流の“反応”が随分と気に入ったらしい法雨と雷は、揃ってその身を桔流に向けると、肩を並べて言った。
「ううん。――タキシードとドレスなら、桔流君はどっちがいいだろうねぇ」
「う~ん。そうねぇ。それが悩みドコロよねぇ……。――せっかくのイケメンだし、タキシードも捨てがたいけれど……、シックめなドレスも似合いそうなのよねぇ……」
その二人の悪戯に、珍しく慌てた様子の桔流は抗議する。
「ちょ、ちょっと、二人とも……! 揃って俺で遊ばない……! ――そもそも……! ――俺はドレスとか着ませんから――っていうか、――別に式の予定とかも」
「アラ~? ――“薬指にピッタリ”な指輪まで受け取っておいて、何を言ってるのかしら~?」
「う……、――そ、それは……」
そんな桔流は、なんとか自身からスポットライトを外すべく足掻いたが――、法雨から決定的な“思い出”を掘り返されては、左手で煌めく“証”を咄嗟に隠すと、ぎこちなく最後の抵抗を紡ぐ。
「ど……、どっちにしても……、ドレスは着ませんので……」
すると法雨は、その桔流に――ではなく、何故かその背後に微笑みを贈ると、言った。
「アラ。そうなのね。――じゃあ、“桔流君はタキシードがいいみたいよ?” ――花厳 さん?」
そうして、法雨から重要な報せを受けた、桔流の最愛の人でもあるクロヒョウ族の青年――鳴海 花厳は、すっかり固まっている桔流の様子を伺う様にしながら言う。
「――あ、あはは。――じゃあ、彼に見合うタキシードを贈ろうと思います」
そんな花厳に向け、じとりとその身を向けると、桔流はじとじとと言う。
「花厳さん……。――さっきまで姫たちの所に居たじゃないですか……。どうしてそうタイミングが悪いんですか……」
その桔流に、花厳は苦笑して言う。
「いやぁ……、ちょうど来た所だったもので……」
「本当に、いつもながら素晴らしいタイミングだね。花厳君」
そうして、じとじととした桔流にぎゅうと正装の裾を握られる花厳に、雷が朗らかに称賛を贈ると、彼はまたぎこちなく笑った。
すると、その空気に耐え切れなくなったらしい桔流は、花厳の手をわしりと掴んでは言う。
「だぁ~もう! ここに居るのなし! ――ほら、花厳さん! ここに長居すると二人の邪魔になりますから! 俺たち“木役”はあっちに行きますよ!」
「ははは。分かった、分かった」
それに、美形“木役”の花厳が楽しげに笑うと、その愛豹の手をぐいぐいと引きながら、色白美人“木役”の桔流はずんずんと退場していった。
そんな二人の背を見届けながら、法雨と雷がくつくつと笑っていると、不意に、その背後からのんびりとした声が聞こえた。
「――う~ん。――ドレスって云えば~、やっぱり“後ろ”のセクシーさも見逃せないよねぇ~」
その声に法雨が振り返ると、そこには、彼の唯一無二の親友――夢廼 菖蒲 が居た。
「まったく。――アンタはそういうコトばっかね。――相変わらず」
その法雨に、菖蒲はによによとして言う。
「“イイ本音”は、どんどん口に出していかないと損だからねぇ~」
そんな菖蒲に、口元を綻ばせながら溜め息をついた法雨は、次いで、菖蒲のもとへと歩み寄ると――、その頬に両手を添えて言った。
「ほら、菖蒲。――アタシ、ちゃんと幸せになったわよ。――だから……、――次は、アナタの番」
菖蒲は、その言葉に幾度か耳をはたりとさせては、大ぶりな尾をふわりと揺らすと、苦笑しながら言った。
「もう。法雨……。――今くらいは自分の幸せだけを見ててよ……」
法雨は、そんな菖蒲の頬をぎゅうと両手で押すと、窘めるようにして言う。
「ダメよ。――もう逃がさない。――いいコト? 菖蒲。――アタシはね、アンタ“も”幸せにならないと、ちゃんと幸せになりきれないの。――だから、――ここからはちゃんと、“アナタの幸せのために”生きて」
その法雨の想いに、菖蒲は愛おしげに苦笑しては、観念した様子で言う。
「はぁ……。しょうがないなぁ。法雨は。――……分かったよ。――じゃあ、“俺の望み通り”、先に法雨が幸せになってくれたから、――そんな法雨の“最高の幸せを完成させるため”にも、――ここからは自分の幸せのために生きるよ」
その菖蒲に、法雨は酷く嬉しそうに笑む。
「えぇ。――そうしてちょうだい」
菖蒲は、そんな法雨と幼げに笑み合うと、次いで、くるりとその身を翻しては、法雨と雷に背を向けた。
そして、陽光でふんわりと艶めく琥珀 色の尾を上機嫌に揺らしては、その両腕を燦々と輝く天に向けぐぐと伸ばして言った。
「――さ~て、それじゃあ、俺も、――法雨の幸せの総仕上げに向けて、――“王子様狩り”、始めますかねぇ~」
そんな菖蒲に思わず眉を顰めた法雨は、その背に反論を紡ぐ。
「え? ――ちょっと、アンタ。“俺も”って、何よ。――アタシは“王子様狩り”なんてしてないわよ?」
すると、背中越しに振り返った菖蒲は、にやにやとして言う。
「え~? そうだったの~? ――戸惑う“王子様”を誘惑してお家に強引に連れ込んで~、“その夜のうちに食べちゃった”のに~?」
そんな菖蒲に、法雨はさらに反論を紡ぐ。
「な……、――だ、だから、――それは、そういう話じゃないって言ってるで」
「さぁ~て~、俺に“食べさせてくれる”王子様は、ど~こっかな~」
しかし、そんな法雨の声など聞き入れる気もないらしい菖蒲は、その反論を遮るようにして言うと、のんびりと歩みながら、来賓客たちの輪の中へと戻っていった。
「まったくもう……」
その上機嫌な後ろ姿を見届けながら、法雨は溜め息を零す。
そんな法雨の傍ら、同じく菖蒲の後ろ姿を見送っていた雷は、寄り添う様にして言う。
「菖蒲さんも……、――早く運命の人と出逢えると良いね」
それに嬉しそうに笑むと、法雨は、雷にその身を寄せる様にして言う。
「――えぇ。本当に……」
そして、その――最愛の運命の人の存在を確かに感じながら、庭園で談笑する愛しき人々をゆっくりと見回した法雨は、続けて、その幸せに満ち溢れた声で、喜びを紡ぐ。
「――本当に……、夢のよう……。――雷さんのおかげで、アタシ、何から何まで、幸せでいっぱい……」
その愛おしい想いに、雷もまた穏やかに笑んでは、そっと法雨の肩を抱くようにすると、その酷く優しい声で、愛を贈った。
「そう言ってもらえて、――俺も本当に幸せだ」
法雨は、そんな雷に愛を込め、最幸の笑みを贈る。
「雷さん。――この先も、どうか末永く、雷さんのお傍に居させてね……。――心から、――愛してるわ」
雷は、その美しい微笑みに、幾度目かも分からぬ恋に再びと落ちると――、そんな最愛の彼へ、心からの愛を紡ぐ。
「こちらこそ。――この先もどうか、末永く、俺の傍に居てほしい……。――俺も、心から愛しているよ……。――法雨さん」
彼は――、運命の人との出逢いに、酷く憧れていました。
そんな彼は、ある日から――、オオカミの王子様と結ばれる幸福を、夢見るようになったのです。
それゆえに彼は――、その運命のオオカミと巡り逢うべく、沢山のオオカミと、沢山の恋をしたのでした。
しかし、その美しい彼に目を付けたのは、酷く欲深いオオカミたちでした。
その悪いオオカミたちは、美しい彼の純粋さを知ると、純粋な彼を騙しては、彼の大好きだったオオカミが、大嫌いになるまで、欲望のまま、彼の心を酷く傷つけ続けました。
そうして、そんな彼の心が、だんだんと暗く冷たい闇に囚われてゆくと――、彼は、ついに、大切に抱き続けたオオカミの王子様への憧れにも、蓋をしてしまったのでした。
しかし――、とある日の朝。
そんな彼の前に、突如として、強くも優しい、勇敢なオオカミが現れました。
その優しいオオカミは、そうして現れると、暗闇に囚われた彼を救うべく、すぐさまその大きな手を差し伸べます。
ですが、とっくの昔にオオカミが大嫌いになっていた彼は、その手を取る代わりに、酷く冷たい言葉を放つと、その優しいオオカミを追い返そうとしました。
しかし――、そのオオカミは、それでも彼を救おうと、優しく手を差し伸べ続けます。
どうしてそんなに優しくするんだろう――。
すると、そんな彼は、どれだけ冷たく追い返そうとしても、優しく手を差し伸べ続けてくるそのオオカミの事を、次第に不思議に思うようになってゆきました。
それゆえに彼は、意を決して、そのオオカミに尋ねてみる事にしました。
どうして、そんなにも優しくするのですか――。
しかし、その理由は、その優しいオオカミにすらも、分からないようでした。
ですが、どうしても、この心が、あなたを放ってはおけないのです――。
そんなオオカミの言葉に、ついに彼は警戒に凍った心をすっかりと融かしてしまうと、自分でも理由が分からないのに、必死に彼を助けようとしているオオカミがおかしくて、ふふと美しく笑いました。
そして、それからようやっと、その優しいオオカミの手を取った彼は、その日を境に、暗闇の世界から、美しい光の世界へと、戻る事ができたのでした。
しかし――、それからしばらくと月日が過ぎても、オオカミが彼を放っておけなかった理由だけは、彼も、優しいオオカミも、分からぬままでした。
ですが、それもそのはずです。
何せ、彼らは――、二人が初めて出逢った瞬間に起こった、とてもとても大切な事に気付けぬまま、その出逢いを終えてしまったのですから。
彼らは共に――、そうして出逢った、その瞬間に――、最幸の恋に落ち逢っていたというのに――。
Fin.
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