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第15話 緊迫のやり取り

颯太はしばらく泣いていたが、疲れたのかそのうち眠ってしまった。 俺は弁護士と事務所の社長のやり取りが気になって仕方がなかった。 書斎に行ってパソコンにイヤホンをつけてメールを確認する。 届いていた。 「録画が長いので、重要書類が消えていた場面だけ先に送ります」と書かれていた。 ー契約書が消えていた場面ー 音楽事務所の男性スタッフが2名、緊張した表情で立っていた。 まるで見張っているようだ。 スタッフが部屋のドアを開ける。 カメラは寮の部屋に入り、続いて入ってきた引っ越し業者が手際よく荷造りを始める。 山川先生は一つひとつ丁寧に確認していた。 部屋の様子はぐるりとカメラが回ってよく分かる。 狭いワンルームだ。 「契約書は机の一番上の引き出しにあるはずですね」 独り言のように分かりやすく話してくれる。 颯太から事前に聞いていた通り、棚の犬のぬいぐるみのポケットから鍵を取り出す。 山川先生は迷いなく引き出しに手を伸ばした。 「……え?」 引き出しはすでにこじ開けられ、鍵穴と上部が変形していた。 そのまま引き出しを開けると――空っぽだった。 「やっぱりな」 山川先生の低い声が入っていた。 胸ポケットのカメラに向けて、はっきりと声を出す。 「契約書がありません。 依頼人は“ここに保管していた”と証言しています。 返還拒否として記録します」 事務所スタッフが慌てて口を挟む。 「最初からそんなもの、ありませんでしたよ」 山川先生は静かに、しかし鋭く言い返した。 「録画しています。 では“最初からなかった”という文書を、あなたの署名入りで作成していただけますか?」 スタッフの顔色が変わる。 「い、いや……その……」 「控えは事務所にあるはずです。 後日、必ず提出してください。 提出できない場合は、契約書隠匿として法的措置を取ります」 スタッフは完全に黙り込んだ。 山川先生は淡々と次の確認に移る。 「では通帳と印鑑と現金はどうしたんですか? 通帳に現金が挟んであったと依頼人が言っています。 これもありませんね? 机の上の引き出しに一緒に入っていたはずです。 こちらも返還拒否として記録します」 スタッフが小さく舌打ちした音を、カメラはしっかり拾っていた。 「通帳は銀行で再発行できますので問題ありません。 ただし、紛失したのが事務所側である以上、責任の所在は明確にさせていただきます。 もし、印鑑を使って現金が下ろされていた場合も、必ず責任を取っていただきます。 銀行には監視カメラの映像があるんですよ。 誰が下したかなんて調べればすぐわかることです」 スタッフは完全に押し黙り、 業者は静かに荷物を運び出していく。 山川先生は最後に部屋を見渡し、胸ポケットのカメラに向かって言った。 「以上、契約書・通帳・印鑑の不在を確認。 依頼人の証言と一致しないため、事務所側の返還拒否として記録します」 その声は静かだったが、 部屋の空気を完全に支配していた。 録画はそこで切れていた。 ーーーーーーーーーー 重要な場面だけ切り取ったんだな。 はあ……深いため息しか出てこない。 なんてひどい社長なんだ。 これじゃあ、ただ裁判を起こすだけじゃ気が済まない。 上からガーンと押しつぶしてやりたい。ぎゃふんと言わせたい。 山川先生の言う通り、裁判にかかる手間暇を考えると、 上から圧力をかけた方がよほど堪えるだろう。 恐らく、あの父親なら一言でこの事務所を潰すことができる。 そうだ、こんな時のための父親じゃないか。 一回くらい父親らしいことをしたらどうだ。 いや、それすら父親にとっては、 “自分がマスコミに騒がれないための最小限の行動”でしかない。 社長に電話一本入れれば済む話だ。簡単だ。 山川先生は正しい。 俺はメールに返信した。 「山川先生、拝見しました。ありがとうございました。 後はお任せしますので、どうぞよろしくお願いします」

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