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第18話 鉢合わせ
机と椅子が届いた。
颯太はものすごく喜んでいた。
子供って、親が買ってやるとこんなにも喜ぶものなのか。
初めて知った。
颯太の部屋には、あとは「仕舞うだけ!」という状態で荷物が整えられていた。
並んでいる順番通りに本棚へ丁寧に並べていく。
へえ……結構几帳面なんだな。
俺は椅子を持ってきて、ただ見物していた。
だって、颯太を見ているだけでかわいくて飽きない。
時々目が合うと、あの大きなかわいい目でにこっと笑う。
ああ……どうしよう。かわいすぎる。
頬が緩みっぱなしだ。兄妹には絶対に見せられない。
今日も午前は事務仕事をして、午後はオンコールにして自宅で論文を書くと看護部長に言っておいた。
医者は「論文を書く」と言えば、一生使える言い訳になる。(笑)
こういうのは世間的に何て言うんだ?
骨抜き状態か‥‥‥。
まあ、何と言われてもいいさ。
そうだ。おやつでも作ってやろう。
何がいいかな?
甘いぜんざいにしよう。颯太のお疲れ休みだ。
白玉粉を練って丸め、ゆでて冷水で冷ます。
小豆は缶詰で十分。お湯を入れて白玉団子を放り込む。
そして熱々に仕上げる。
俺は熱々が好きなんだ。ぬるいのはダメ。
颯太の部屋に行って声をかけた。
「颯太、おやつにしようよ。ぜんざい作ったよ」
えー?という笑顔で駆け寄ってきて、ぎゅっと抱きついてきた。
もう……可愛い。
余計に骨抜きになるじゃないか。
そのまま抱きついた状態でダイニングへ移動する。
絶対に人には見せられない。
そして顔を上げたら――
目の前に妹がいた!
あっと口を開けたまま絶句していた。
いや、こっちだって絶句だよ。
頭が真っ白になった。
颯太はそっと俺から離れて、俯いてしまった。
「颯太、とにかくダイニングに行こう。おやつ食べよう」
手を引いて席に連れていく。
こうなったら破れかぶれだ。
妹は無視して、ぜんざいをよそった。
「楓も食べるか?」
「食べる」
そう言ってさっさと座った。
「颯太ね、こっちは俺の妹で楓(かえで)。耳鼻咽喉科の専攻医だよ」
颯太が頭を下げる。
「あ、楓。この子は颯太って言うんだけど、今俺が保護者になって預かってる。もううちに住んでるからよろしく。それと声が出ないから、話しかけても返事はできないよ」
颯太はぱっと席を離れ、タブレットを持ってきて猛烈な勢いでタイピングした。
<初めまして、立花颯太です。先生にはお世話になっています。よろしくお願いします>
楓に差し出すと、それを読んで、
「はあ〜ん、なるほどね。でも何で声が出ないの?」
「ある日突然だよ。多分パニックで声を失ったんだと思う。
まだ全身状態が悪くて静養中なんだ。この一週間でだいぶ良くなったけど、まだ目が離せない。長年の過労とストレスだと思う」
「へえ〜、診てあげようか?私専門医だから」
颯太はペコリと頭を下げた。
「まあ、いずれ楓と淳一にも診てもらおうと思ってたんだけど、事情があって保険証が使えなかったから、まだ何も検査してないんだ」
「ふ〜ん、今はどうなの?」
「昨日ようやく自由になって、保険証が使えるようになった。でも住所変更してないな……やばい。また市役所行かないと」
「そうなんだ。颯太君はいくつ?」
<18歳で大学1年です>
「颯太君は俺と同じ大学だよ。偶然だけど」
「ふ〜ん、論文という名の子育てね」
ぷっと吹き出した。
颯太も照れくさそうに微笑んでいる。
「楓、何か用でもあったの?一応颯太のことは内緒にしてよ」
「さあ〜どうしよっかなあ?颯太君を私の症例にしてくれたら内緒にしてあげる」
「よし。こうしよう。淳一も呼んで事情を話すから、二人で颯太の具合を診てくれない?ずっと熱が続いて、吐いたり気を失ったりして寝込みっぱなしだったんだ」
「そりゃまずいね。じゃあ閉院してから私のところに連れてきて。兄貴も呼んでおく」
「マイナンバーカードの住所変更がまだだけど……いいの?明日にしようか?」
「OK、明日でいいよ。カルテ作れないし」
「うん、じゃあ明日住所変更しておくよ」
楓は喋りながらも、ぜんざいをあっという間に食べ終わっていた。
颯太は緊張のあまり、一口も食べられていない。
かわいそうに……。
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