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§38-3 異変
「少しでもグレンとゼフィロスの民の力になりたいので……。それに、スフェーンでは災害の対応に追われノグタム王国からの侵攻に後れを取りました。その際に、もっと冒険者ギルドとの連携を普段から強化しておけばよかったと思ったのもあります」
「貴族の方の中には、冒険者は騎士になれなかった落ちこぼれだと評する方もいらっしゃいますが、やはりライゼル様は違うのですね」
「戦場の応援で冒険者に参加してもらうこともありましたからね。農家の手伝いに行き始めた子どもの頃は、冒険者の先輩方に指導してもらいましたし、生活や戦いの場で使える知恵を多く教わりました」
俺の言葉にバノーテが大きく目を見開いた。彼の驚きが、まっすぐに伝わってくる。俺がそこまで冒険者と関わりがあるとは思っていなかったのだろう。
「ゼフィロスからスフェーンへ冒険者として働きに来てくださる方々にも助けられました。貴方が推進してくれていたと聞きました」
「えぇ……やはり、ゼフィロスだけでは依頼に限りがありますし、特に若い衆には他国での生活を経験させたかったのもあります」
「確かにそれは大事なことですね。今後はスフェーンからも勉強をしに来る者たちが増えるようにしたいと思っています」
「歓迎いたします」
バノーテは将来を担う若手の育成にも目を向けているようだ。
とても視野が広く、さっぱりとした性格で話しやすい。豪快さの中に繊細さを隠しているところが少しグレンに似ている気がする。
いつまでも話せそうだったが、バノーテの時間を拘束し続けるわけにはいかないので立ち上がる。
「では今日はこのあたりで失礼します。色々な話を聞かせてくれてありがとう、バノーテ」
「ライゼル様ならいつでも歓迎いたします。そしてもしよろしければ、高位冒険者たちとの手合わせなどもご検討ください」
「あぁ……もうこの後すぐお願いしたいくらい魅力的な誘いだ。落ち着いたらぜひ頼む」
和やかに終えたバノーテとの顔合わせ。想像以上の収穫だった。
帰り際にドアの隙間から少し顔を覗かせてギルドの表を見せてもらったが、冒険者とギルド職員が活気にあふれた様子で話しているのが見られた。
掲示板に張り出された依頼はほぼ全て引き受けられており、王都の冒険者の数を物語っていた。
俺はギルドを出てウォルスの背に乗り城への帰途につく。
バノーテからもらった情報をグレンと一緒に精査しなくてはならない。やるべきことが山積みだ。
城の裏手から戻り、出迎えてくれた係にウォルスを預ける。
「ウォルス、今日はありがとう。またお出かけしような」
「ブルルルッ!!」
機嫌よく鳴いてくれた様子に笑み、厩舎へ向かう彼の堂々とした背を見送る。
ブラスとタイクも一緒に執務室へ向かってくれるようで、俺の少し後ろを歩きながら回廊を行く。
「二人とも付き合わせて悪いな」
「とんでもないことでございます。冒険者ギルドはいかがでしたか」
「本当は訓練場も見に行きたかったなぁ」
「高位冒険者との試合を実現させればいいんじゃねぇですか?」
「うーん、これから収穫祭も控えているからなぁ……」
ブラスが鼻息荒く提案してくるが、自分が試合に出たいだけだろう。分かりやすい男だ。
今後控えている行事のひとつが収穫祭だ。
例年夏か秋のはじめ頃に行うようで、現在関係各所で打ち合わせ中だ。
家臣たちの一部からは、ユーディア王国の情勢を鑑みて中止も考えるべきだという意見も出ている。
グレンは賛成、反対意見双方の主張を聞いた上で、そろそろ答えを出すはずだ。
こういう政治的判断を下すときは、グレンから助言を求められない限り俺は意見を伝えない。王の領域を、侵すつもりはない。
代わりと言っては何だが、民に係わることに関しては提案させてもらうことが多い。
はじめはそれも躊躇していたのだが、グレンに強く請われたので最近は大人しく思いついたことを話している。
もちろん最終的に採用するかどうかは王であるグレンが決める。
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