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§39-1 灯に透ける夜の枝*
開け放たれた窓からは、星々が宝石のように瞬いている。
窓辺に立ち、ふと今夜は風があまり吹かないなと思う。
俺はそっと窓枠に手をかけ、指先に魔力を集中させる。
窓枠の上側からきらきらと月の光を反射する氷柱を生やしながら、初夏の夜の香りを肺一杯に吸い込んだ。
その風で、グレンに丁寧に乾かされたばかりの髪がさらりと靡く。まだあの大きな手のひらの、温かな感触が頭皮に残っている。
乾かした後、 「今日も完璧な仕上がりだ」 と、まるで名工が作品を仕上げたかのように誇らしげな顔で風呂に向かった。
俺の髪を整えるのが、彼のささやかな楽しみになっているのが微笑ましい。
俺はまだ薄着では肌寒く感じる季節だが、立派な毛を持つグレンは風呂あがりが暑そうなのだ。
おそらく今日も火照った身体を持て余し、暑そうにしながら風呂から上がってくるだろう。俺はそれを見越し、愛しい彼のために何かできることがないか考えた結果がこの氷柱というわけだ。
ガチャリ、とドアの開く音がする。
「グレン、見て見て」
「どうした」
下着だけ身に着け、魔法で体毛を乾かしながらそばに来たグレンが、俺の視線の先にある窓を見上げる。
「これは……何というのだったか」
「氷柱だよ。冬にできるだろ、こういうの」
「いや、ゼフィロスでは滅多に見かけない」
「本当か! それだけ冬が暖かいんだなぁ」
グレンが氷柱にそっと触れる。指先から伝わる冷たさに耳がぴくりと動いた。
スフェーンとの気温の違いが氷柱で分かりやすくなった。
冬の寒さが苦手な俺にとっては朗報だ。凍えることなく冬を越せるだろう。
「この氷と一緒に風魔法を使って身体を乾かしたら、涼しいんじゃないかと思ってさ」
「……相変わらず発想の天才だな。やってみよう」
ぱあっと空色の瞳を輝かせ、嬉々とした様子で風魔法を氷柱に当てながら自分のほうへ向ける。
これをやってみよう、といってすぐに高度な魔法をできてしまうグレンのほうがすごいと思う。具体性に欠けた俺の言葉をよく嚙み砕けるものだ。
「おぉっ……! 涼しいぞ!」
「ははっ、良かったね」
俺の顔を見て無邪気に目を輝かせる。涼しい風に当たりながら感動しているグレンの尻尾が、喜びを隠せないとばかりに激しく揺れる。可愛いなぁ。
そんな愛しい人の背後に回り、俺はグレンが手に持っていた櫛を優しく奪い取り背中の毛を梳いていく。
あらかた乾いて綺麗に整ったところで、俺は櫛をベッドに放り投げた。
グレンはまだ気持ちよさそうに涼風に当たっていて、すっかり気が抜けている。
そんなグレンの後ろからそっと抱き着き、彼の鍛え上げられた身体を優しくまさぐり始める。
「ライ……?」
甘えるような、それでいて戸惑うような声色。
「ほら、しっかり乾かさないと」
「う、む」
まだ少し湿っている前身を乾かすのを口実に、脇腹と見事に割れた腹筋を指先でなぞるように触る。
隆々とした筋肉に惚れ惚れしながら、その熱い背中に顔を埋めて息を吐く。吐息がくすぐったかったのかグレンの背中がぴくっと震える。
腹周りを触っていた手をゆっくりと胸元に持っていく。
厚く張りのある胸筋は手のひらに収まりきらず零れる。構わず優しく揉んでみると、さすがに抵抗が始まる。
「……こういうのは、逆だろう」
「ふぅん、そうなのか。俺はお前が初めての相手だから知らないんだ」
「くっ……」
身をよじったグレンの体毛はしっかり乾いたようだ。
この後、どうせ二人ともまた汗をかく。氷柱はそのままにしておこう。
俺はグレンの腕を掴んでベッドに寝転がるよう誘導する。
素直じゃない動きだが、俺の瞳に宿る熱を見止めたのか、のそのそとシーツの上に寝そべる。
「今日は、俺が全部するから、グレンは動くなよ?」
「……絶対にだめか?」
「だめだ」
ぐぅ、と喉元が鳴った。納得していない表情だが、鳴った音は甘えるときのそれだ。
俺は自分の機嫌が急激に上向いてくるのを感じる。支配欲にも似た喜びが腹の底から湧き上がり、にんまりと口角が上がる。
弄ぶ手つきでまた彼の胸筋を揉みしだく。
「ンッ……」
「かわいい、グレン」
「……気の迷いだ」
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