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§53-3 変怪の暴威
「戦況は!?」
「グレンはサノメと一緒にドルゥーガを倒しながら暴徒をひとどころに集めている。カウカとアリュールは避難民の保護と街までの移送をしている。グレンとサノメの方へ6割、カウカとアリュールの方へ4割向かってくれ。俺はブラスと一緒に要救助者を拾って回る。少し離れた後方部分に怪我人の待機所を作ってくれ。時々俺が戻って騎士と冒険者の治療をする。以上だ。――――守り切るぞッ!!」
「「「「「はいッ!!!!!」」」」」
すぐさまバノーテとフーベルが隊を分ける。これができるのも訓練あってのこと。二人があっという間に精鋭それぞれの得意を生かした編成を終え、持ち場へ散る。一糸乱れぬ動き。彼らなら任せられる。
ブラスは俺の傍にきて準備をしている。
「ラタ・バボール〈大地の輪舞〉!」
ブラスが作り出した土人形は6体。主人の魔力に応え、無機質な瞳に闘志が宿る。いつもならせいぜい3~4体だが、戦闘ではなく俺について回ることの役割を考慮して増やしてくれたようだ。
俺はその土人形に魔法を重ねる。
「ヒューロ・シャライド〈晶晶築く石叩き〉」
水と土魔法の応用で、アリュールとカウカと契約した後に作った魔法だ。土を極限まで固めることができるので、ブラスの作る土人形と相性がいい。
ブラスの土人形を強化しつつ、騎士のように鎧を纏わせ武器を持たせる。これのよいところは、ドルゥーガの汚染を気にしなくてよいところだ。頑丈であるほど救い出せる人数も増えるだろうと期待をしている。
「準備は良いか、ライゼル、ブラス」
「あぁ」
「いつでも行けますぜ!」
頷いたアリュールが身をかがめてくれる。本来の姿になったアリュールの背へ乗るにはこの方法になる。
初めて乗ったときは翼に影響がないのか心配したが、アリュールいわく当たっても問題ないらしい。
「まずはカウカの負担を軽くするため、避難民の救出、誘導を優先しつつ邪魔な汚物を掃除する、でよいな」
「ばっちりだ。それで頼む」
「よし! では参るぞ!」
俺たちはカウカの近くへと走る。ブラスは馬に乗り、土人形たちは馬の足の速さにもついてくる。ブラスが魔力で操作しているからついてこられる。常人には無理だ。
「カウカ!!」
俺は上空から繊細な魔力操作で避難民を守るカウカを呼ぶ。
すると、瑞々しい鱗を輝かせながら声が届くところまで下りてきてくれる。
「ライゼル~! 僕、頑張ってるよぉ」
「あぁ……! 本当にありがとう……! カウカのおかげで多くの避難民が助かっているよ」
「えへへ、ほめられちゃった」
荘厳な気配を纏う水龍らしからぬ可愛らしい話し方に頬が緩む。
「ユーディア王国とスフェーンの様子は分かるか?」
「うん。ユーディア王国のほうは神たちが直接力を使ってどうにかしようとしているみたい。スフェーンの方はどうも大精霊が数人出張ってきているみたいだから、大丈夫だと思うよ」
「本当か!」
ユーディア王国を守る大精霊ははっきりとした数は分かっていない。しかし、ギル兄は森の大精霊、アド兄は雲の大精霊と契約しているのでそれだけでも大きな戦力のはずだ。兄たちの無事を祈る。どうか、無事で。スフェーンの緑が守られていますように。
精霊たちは浄化が得意だ。それゆえ、スフェーンに関してはドルゥーガ相手にも優位に戦えると踏んでいる。
ユーディア王国と接する国境もゼフィロスと比べて広くないということもある。
「くっちゃべってばかりいるな。来るぞ!」
「はいはい!」
前方から蜘蛛型のドルゥーガが20体ほどが避難民へ向かっている。そのおぞましい影が、大地を黒く染めながら迫る。
俺は避難民たちの前に土壁を出現させ、ブラスが土人形を動かしてドルゥーガを切り裂いていく。その間にカウカが避難民を水膜で包み、アリュールが退避させる。
「よし、なかなかに魔力の消費が激しいが、この調子でいこう」
「御意!」
その一連の流れを精密に続けつつ、負傷した避難民は止血して後方の即席救護所へ連れていく。
どんどん避難民の数が増えていくので、俺がその場でできる治療は止血くらい。救護所では街に着くまでもつようにさらに応急処置を行い、移動させる。
負傷者の移動もカウカとアリュールが繊細に行ってくれている。このふたりがいなければこの広野はもっと赤く濡れていただろう。
「しかし予想通り、切っても切っても消滅はしないな……!」
蜘蛛型も、それ以外の原型をとどめていないドルゥーガも、収穫祭の時同様に真っ二つになっても蠢いている。その生命力と呼べない執着に、寒気すら覚える。
醜いだけでなく異臭もする。腐臭と瘴気が混じり合い、呼吸すら困難になるので早く焼き払ってしまいたいところだが。
それから一刻ほどかけて、ユーディア王国からやってくる避難民の誘導と暴徒の鎮圧が落ち着いてきた。あれほど絶望的だった戦況が、ようやく。
いったいどれだけの人数になったのかは定かではない。きっと街のほうはてんやわやだろう。早く戻ってティラを助けてやらないと。
「ふぅ~、さすがに疲れたよぉ」
「神の眷属が弱音を吐いてどうする」
「まあまあ。カウカもアリュールも本当にありがとう」
カウカは空を飛ぶのをやめて、俺たちの前に舞い降りた。まだ警戒を怠ることはできないので大きな姿はそのままだ
鼻先を俺に押し付けてくる。甘えるような仕草に、思わず笑みがこぼれる。ちょっと今の自分の大きさと力加減を意識してほしいけど。
「ブラスも。6体も出して大変だっただろう」
「ライゼル様をお守りできたんですから、なんてことないです!」
「ははっ、ありがとう。いったんグレンたちのところへ合流しよう」
俺はそう言うとまずサノメを探す。
サノメもカウカと同様に着地していたが、遠目でもすぐに視認できる。恐らくグレンも近くにいるはずなのでアリュールに頼んで近づいてもらう。
グレンたちに近づくにつれてドルゥーガの細切れの屍が積みあがっていく。
その異様な光景と、立ち上る悪臭に眉をひそめる。積み上がった死の山が、不気味な静けさを湛えている。
その先へ走っていくと、一つの家ほどのドルゥーガ3体とグレンが相対していた。
「――ユファル・メノルト〈炎花森厳〉」
グレンの周りに見方はいない。恐らく自分自身がおとりになって大きな個体をおびき寄せたのだ。
そして自身の周りに火柱を作り上げ、ドルゥーガの足元から炙る。
耳をつんざく奇声をあげたドルゥーガを一気に切り倒し、動けない状態にしてしまった。ほんの一瞬で。
「グレン!」
「……ライ!」
大物を討伐したグレンの姿を見止めたら、身体が勝手に動いた。
アリュールの背を降りて駆け寄る。人目を憚らずグレンの胸に飛び込む。
装備同士のぶつかる音がしてうるさかった。
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