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短編
「〜〜やめッ、まっで、ほん″、む、りい″……ッ!!」
ベッドの上、俺の上に覆い被さってくるヤツから逃れようと、ズリズリ、と這い上がろうと藻掻いた。
「ほら、抜けるって」
違う、抜こうとしてるんだよ、こっちは!
しかし、ガシッ、と力強く腰を捕まれたかと思えば、バチュン! と一気に奥深くまで突っ込まれる。
「お″ッ♡♡」
ばちばち、と視界が弾けて、一瞬真っ白な世界が訪れた。
「すっかり結腸で咥え込むようになったな。上手に雁首くぽってくれて、凄く気持ちいいよ」
「ひぐぅッ♡」
どちゅ、どちゅ、どちゅ、と何度もナカに放たれた精液を擦り込むように、激しく腰を振る男……ニホンオオカミ獣人のフェリクスは、俺の親友だった男だ。
「そこ、やら、やらぁ……ッ♡♡」
「大丈夫、きちんとメスイキ出来て気持ちイイって、セオの身体は悦んでるから」
俺の袋はとうに空っぽなのに、フェリクスに突っ込まるたび、全身に快感が駆け巡って、どこにも逃がせない。
フェリクスと番って、まだ数日。
俺の後ろの穴は、すっかりフェリクスの肉棒の形を覚え込まされていた。
***
ここは獣人たちが集う世界、ビーストワールド。
俺は十六歳のある日、アカデミーに入ってから気付いた。
ここは、ハーレムエンドありの、乙女ゲームの世界の中だと。
この世界で俺「セオドア」は、乙女ゲームの中で、攻略対象者のひとりに該当する。
アカデミーは将来国を担う有望な若者たちが集うのだが、伯爵家の次男で騎士道に邁進している攻略対象者として登場するのが猫獣人の俺だ。
このアカデミーでは、十八歳になると乙女たちが入学してくる。
そこで乙女たちは、好みの男たちを見繕って、恋やら愛やら青春を楽しむのだ。
つまりアカデミーは、乙女たちによる将来を共にする相手を選定する、公式的に認められた場でもある。
なぜならこのビーストワールドは、男性対女性の比率が九十九対一という、とんでもない世界だからだ。
アカデミーに入るまで、いや前世を思い出すまで、俺はこの世界になんの疑問も抱かずに生きてきた。
思い出したのは、入学式、クラスメイトが並んだ時だ。全員知らない相手であるのに、なぜかその顔に見覚えがあったからだ。
――ビーストワールドをプレイしていたのは、前世の俺の姉である。
俺が攻略対象者のひとりであるセオドアそっくりだというので、とあるビッグなイベントへとずるずる連れて行かれては、シャム猫っぽい耳とカツラを被せられたものだ。
当時はマジでウザかった姉だが、その時は感謝した。
なぜなら、乙女たちがこれから遭遇するであろうイベントが、わかるからだ。
だったら、やることはひとつ。
乙女たちのイベントに乱入し、さっさと好感度をあげ、そして三年後の卒業式に、指名してもらうのだ!!
……と、思っていた時もありました。
いや、前世の記憶がなければなんとも思わなかったんだけど、今の俺には辛い。
いたたまれない。
なぜなら、昨日まで乙女ちゃんは俺といい雰囲気になっていた筈なのに、次の日には他の攻略対象者とイチャイチャしてるのを目にするから。
前世で俺は、浮気とか目移りとかが許せないほうだった。
自分がそうだからか、相手にもそれを求める傾向があった。
そういう一途な人と、添い遂げたかった。
お互いが唯一無二の存在であり、そこから幸せを広げていきたかった。
……多分、俺は何かで死んで、誰かと結婚まではできなかったんだけど。
周りのクラスメイトは、乙女のハーレム環境を当たり前のように受け止めている。
ビーストワールドは、そういう世界だから。
でも、ひとりだけ俺の考えに、深く頷いてくれたヤツがいた。
それがメイン攻略対象者のフェリクスで、辺境伯領の次期後継者でもある彼は、俺との手合いで唯一張り合う、良きライバルでもあった。
「セオ、今日は俺の買い物に付き合うって約束だったよな?」
「ああ、わかってる。ちょっと待っててくれ、これ教授に出さなきゃいけないから」
「一緒に行くよ」
「サンキュ」
フェリクスは、乙女たちが入学する前から俺とウマが合った。
それもそうだろう、前世でも俺の親友だったヤツと、顔も性格もそっくりだったから。
お互い、生きる世界と頭に耳が付いてるってところが違うだけで。
あいつも距離感が近いヤツだったけど、フェリクスはそれ以上で、一度仲間とみなしたやつにはとことん尽くすヤツだった。
授業で誰かと組む時は必ずフェリクスだったし、遊びに行くのも、勉強をサボるのも、クラスの係ですら、いつだってフェリクスが一緒だった。
ビーストワールドは攻略対象者同士の距離感が一部バグっているから腐女子には堪らん、とそういえば姉が力説していた気がする。
俺はそれを、フェリクスと仲良くなってから思い出した。
「なあ、フェリクス」
「ん?」
「お前、今日は乙女に誘われてなかったか?」
今日は、乙女の誕生日だ。
攻略したい対象者をデートに誘うイベントがあるのだが、俺は誘われず、フェリクスは声を掛けられていた。
だからてっきり、今日の買い物の話は流れたのだと思っていたんだけど。
するとフェリクスは、その端正な顔を思い切り顰めた。
「あんな尻軽女たちを相手にするなんて時間の無駄だ。その分、セオとの時間を大切にしたい。セオもそう思ってくれるだろ?」
「えーっと、まぁ、うん」
「はは、嬉しいな。俺たちはずっと一緒だ、セオ」
フェリクスは顔を近付け、俺の頬にキスをした。
***
そして、三年後。
乙女たちは各自十人くらいのハーレムを築いて、卒業式を迎えた。
その中には、俺も、フェリクスも入っていなかった。
自分から能動的に動かなければ乙女から声もかからなかった俺と、乙女たちから散々積極的にアピールされたにもかかわらず、そのフラグを一刀両断しまくっていたフェリクスでは、メンバー入りしなかったという事実は変わらずとも、実情はだいぶ違う。
「セオ、俺と一緒に辺境伯領へ来てくれないか? 両親に紹介したいんだ」
フェリクスからそう言われて、俺はニコニコ笑って返事をした。
アカデミーで、乙女の誘いに全く乗らないフェリクスは、変わり者であると同時に皆の羨望の的でもあった。
そんなフェリクスに働き口を紹介してもらえることになり、少しだけ優越感に浸る。
「フェリクスと一緒に働けるなら、楽しそうだな。わかった、頼むよ」
そうして俺たちは、アカデミー卒業後、フェリクスの生まれ故郷である辺境伯領へ向かったのだった。
ビーストワールドは、男女比が著しい国。
乙女と結ばれなかった男たち……乙女ゲームの裏ではどんな事態が起きているのか、という疑問を、俺は辺境伯領で知ることになる。
「セオ、俺と番ってくれないか。俺の相手は、セオしか考えられないんだ」
道中、フェリクスから求婚された。
ちなみに、俺の両親から許可はすでに貰っているとのこと。
実家に帰省する時に連れて行ったこともあり、フェリクスは両親からとても気に入られているのだ。
前世の記憶がある俺に、正直男との結婚は考えられなかった。
一生独り身を覚悟していたのだ。
フェリクスを嫌いなわけではないが、俺は丁寧にお断りをした。
しかし、フェリクスは挫けず、毎日俺に求婚してきた。
結局、辺境伯領に着くまでの二カ月間は耐えたが、着いてからご両親に「今必死で口説き落としているところだ」と言われてしまい、白旗を振った。
まぁ、俺がさっさと実家に戻らなかった時点で、そしてフェリクスの両親に会うと返事した時点で、勝機を見出していたのだろう。
ひとまずお付き合いから、と返事をした日から、散々気持ちイイことを身体に叩き込まされた。
最初は抜き合いで、次はフェラされた。
いつの間にかフェラのお礼に素股でフェリクスの昂りを放出させる流れが当たり前になり、気付けばフェラの最中、後ろの穴を拡張されるようになっていた。
さすがに男女比がえげつない世界のせいか、男同士で営むための道具は豊富にある。
フェリクスはそうした道具を駆使して、俺に何度も愛を囁いた。
その頃にはニホンオオカミ獣人のフェリクスが一途であることは十分理解したし、フェリクスには性別以外の障壁は何も存在しないことも理解した。
そして最後の障壁だった性別も、張形よりもフェリクスのペニスのほうがずっと気持ちイイ、と教えられてからは、全く抵抗がなくなった。
俺が恋人になると返事をするとフェリクスは本当に嬉しそうな顔で笑ってくれて、その顔にドキドキした自分はとうにフェリクスを好きになっていたのだと気付いた。
「セオ、俺だけのセオ……、愛してるよ」
「あぁんッ♡」
片足だけを持ち上げられ、後ろから貫かれる。
「深、深い……ッ♡」
「ほら、ここ突いてあげると、きゅうきゅう締まる」
どちゅどちゅどちゅ♡ と、フェリクスはそのありあまった体力を、俺のナカを掘ることで毎日発散する。
「ぁんッ♡ ああッ♡ イく、も、イくぅ……ッ♡♡」
前立腺をいじめられて、俺は潮を撒き散らす。
フェリクスはそれを見て、嬉しそうに目を細めた。
――よくよく考えてみれば、俺の母は女じゃなくて、男だ。
男同士で子をもうけるには、祈りの間という世界の神を信仰する場に行って、十日間毎日、五時間連続で祈りを捧げれば良いのだ。
お互いに迷いがなく、本当に愛し合うカップルの場合、子を授かることができるのだ。
気を失う寸前、フェリクスが俺に、愛を囁く。
「愛してるよ、セオ……前世から、ずっと」
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