5 / 13
第5話
ヴィクトールはしなやかな体を預けていた脇息からわずかに上体を起こした。
ゴウは彼が隣国ルミナス・ヴェインで手広く娼館を経営する宝石商人だと紹介した。ダイヤモンド専門の娼館など、多くの宝石人を保有する有数の商人の名前はこちらの国にも轟いている。
そんな商人でも、いや、だからこそ朱雀が放つ深く濁りのないピジョン・ブラッドの輝きに興味を惹かれたようだった。
だからと言って、そんな客相手に普段なら朱雀は微笑むくらいしかせず、声を上げることも滅多にしない。
「ダイヤモンドの宝石人はなかなかお目にかかれない、なのにそれを何体もとは……あれは壮観でしたな。あれの借りを返すのは容易ではないでしょうな、はは! 」
だが、ゴウの言葉を聞いた途端、朱雀の瞳に静かな火が灯る。隣国で自分以外の宝石人に酌をさせた事実、自分以外の宝石人に囲まれて嬉しそうにしている顔、それらが朱雀の誇りに傷をつけていく。
「なかなかお戻りになりませんから、海で何かあったのではと胸を騒がせておりましたが……向こうでお楽しみでございましたか。それは私の胸も騒ぐはずです」
朱雀は唐突にそう言うと、ゴウの膳に乗せられていた酒を取り上げてヴィクトールの横に着く。
「隣国からのお客様、朱雀がお注ぎいたします」
優雅な所作で……けれどゴウへの当てつけのように、ヴィクトールへ向けて艶然と微笑んでそっと酒を注いだ。
ゴウは呆然と、朱雀が他所の男に酌をしている姿を見せられ……ピジョンブラッドの瞳を細め、ヴィクトールの杯に酒を満たす朱雀。
その挑発的な美しさに、座敷の空気は一瞬で張り詰める。
ゴウはおおらかな性格をしていたが、それはすべて朱雀に関係しないことが前提だった。
一度朱雀が絡むと、妥協もしなければ鷹揚さもなくなる。
ゴウが暴れるか……と座敷の人間がヒヤリとした瞬間、朱雀はサッと立ち上がって出ていってしまった。そのあまりの素早さにゴウは声をかけそびれ、シオンは下駄を出すのが遅れてしまった。
「おい! 朱雀! 待ちやがれ」
顔を潰されたと怒るにしては、ゴウの表情はどこか愉快そうだ。
ゴウは急いで立ち上がると、ヴィクトールに向かってその横にいる宝石人を指差す。
「すまねえ、ああ見えて独占欲が強くてな。……ヴィクトール、あんたには酌をさせていたこのNo.2のラブラドライト、三日月の時間を線香何本分でも使ってくれてかまわねぇ、ゆっくり楽しんでくれ」
指名された三日月は飛び上がったが、その瞳には隣国の大商人の接待を任された喜びでキラキラと輝いている。
ともだちにシェアしよう!

