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第18話 校外学習

今日は学園からそう遠くない位置にある森に来ている。 何でも魔法訓練の為で、ここには低級魔物が発生するので討伐兼学生の訓練場らしく、そこを利用して全クラス合同でする学年行事が組まれている。 本音で言えば、面倒でしかない。 それでも、クラスの違うエストレヤと共に出来るのはこんな時くらいだけだ。 全生徒で説明を受けクラス毎に移動していく。 BクラスとDクラスでは一つクラスが間にあるため、すれ違う事も少なくすれ違ったとしてもこの人数では気付けるかどうか…。 髪色って思っても、この世界は目がチカチカするような髪色の奴が本当に存在する。 俺の頭はエストレヤの事ばかりを考えているのに、こいつらは俺の周囲から離れようとしない。 名前は…なんだっけ? 俺に触れることはないがギリギリの距離で纏わりついてくる。 こいつがエストレヤだったらなんの問題もないんだけどな…。 森の中を教師が先導しながら歩いていく。 何処にどんな魔物が現れるのか熟知しているのだろう、歩みに迷いがなく草木の合間からガサガサと揺れるも小動物だろうと予測し身構えてはいるものの緊迫感はなかった。 案の定兎だったが、それでも生徒にとっては緊張感で空気が変わるも一瞬で魔物討伐というよりは散歩のようだった。 貴族にとってこれだけ歩くことはないから、良い運動ではあった。 俺としては思いっきり魔法を使ってみたかった。 学園に来てからはかなり制御し教師の指示通りのことしかしていない。 大技なんて教わることはなく、どれだけ暴走せずに使いこなせるのかばかりだった。 教師の動きが止まり、真剣に構えたので緊張が伝染し明らかに自然ではない揺れを起こしている方へ視線が集まった。 ガサガサガサガサ 「グアアアアア」 …緑色の人形…ゲームやアニメで見るような…ゴブリン?のようなモノが現れた。   「ひっ」 「うわっ」 「ホンモノ?」 驚きの声が上がるも全員状況を理解しているのか小声だった。 そんな中、俺はと言うと…。 うぉーテンション上がるぅ。 …俺だって高校生、こういうゲームは結構好きなんすよ…ダメ? ん?なんだよ順番か? 教師の側にいる三名ほどの生徒が構え攻撃準備に入っていた。 そんなことなら教師の真後ろにいりゃぁ良かったな。 魔物も一気に出ても四匹だったり不意に一匹出たりと、俺の番に来るまで相当時間かかることが分かった。 ウズウズする。 一段落し場所を変え森の中を歩き続ければゴブリンの団体が現れた。 教師と共に倒し、倒した人間は後ろに並び直すので、次第に俺の番が近づいてくることが分かる。 俺も早くやりてぇな~と油断していると、上からスライムが降ってきた。 スライムは基本不意打ちで、俺にとっては「そうパターンも良くあるよな~」てな気分で焦ったりはしていなかった。 他の奴らはここで可愛さアピールのつもりなのか「キャー」と叫びながらイチャつきだし、一人がすると連鎖的に起こり俺にも被害が現れだした。 「グラキエス様ぁ」 呼ばれながら腕にしがみつかれるも、反応するのも面倒だった。 俺の頭の中は「ピンクのスライム居ねぇかな?エロい反応をする分泌液を出すんだろ?エストレヤに掛けてぇな。」とピンクスライムをどうやって持って帰ろうか悩むのに必死だった。 その魔物達も効率はどうか分からないが、教師と共に殲滅していた。 俺は油断しきっているのか「魔物って何処から生まれんだろ?時空の歪みとかか?」など視界にはいる光景を画面のように感じていた。 そして思考は、「魔界への歪み?が存在するならそこを塞がない限りいつまでも出てくるよな?低級しか出ないなんて誰が決めたんだよ?月日がたち歪みが大きくなり、巨大な魔物が現れたりしたらどうすんだよ?時空の歪みの直し方なんて知らねぇけど。」と深みにハマっていった。こういうのって、ゲームでは「魔王討伐」が組まれんじゃねぇの?勇者・魔術師・聖女とか引き連れてよ。面倒…絶対に選ばれたくないな…なんて事を考えてたらゴブリンの団体や出現頻度が壊れたように増加した。 なんか多くね? 俺も漸く順番となり氷魔法で討伐してるけど、後ろに下がる暇はなかった。 寧ろ後ろの奴らも攻撃しているのを音で感じた。 今の俺に後ろを振り向く余裕はない。 なんだかこれ雰囲気おかしくね? 教師も眉を寄せて困惑しているように見てとれる。 ここで「異常事態なんじゃねぇの?」なんて言えば集団パニックになる恐れがあるので声には出さないが様子を伺った。 エストレヤは…平気か? 心配だが、俺の身勝手な衝動でここを離れるわけにはいかない。 誰が抜けるなどは関係なく一人抜けると、倒せるもんも倒せなくなる。 精神のバランスが崩れてしまう。 「あっちもちゃんと教師がいるんだ、信じるしかない。」と自分に言い聞かせ、目の前の魔物に集中した。 いつまでも終わらないゴブリンに次第に魔力も消費し、疲弊も隠せなくなってくる。 現にクラスの三分の一が焦り出している。 焦った人間の挙動不審が周囲に不安として伝染し連携が崩れ始めていた。 丁寧に一匹ずつ討伐せず二匹三匹と一緒に倒し始めるも追い付く気配がない。 俺の側にいた奴らも可愛さアピールなどする余裕はなく必死に魔法を繰り出しているが、足が震えだしていた。 威力も次第に弱まり魔法が当たるも倒せなくなり出していた。 これは魔物が強くなったのではなく、彼らの魔力が弱まり出していることを意味していた。 教師も周囲の生徒を確認しながら倒しているものの焦って冷静な判断が削がれているように見える。 このままでは目の前にいる魔物は倒せても帰る体力が無く、次に現れた魔物に殺られる可能性がある。 一気に全体を倒せる技…。 一気に…ここは森…火は使えない。風を使ったとしても遠くへ吹き飛ばすだけで切り刻む技は俺にはない。万が一他のクラスの所に集中してしまう可能性もある…だとすると…凍らせてやれば良いだろうか?全体を凍らせれば森にも影響は少ないはず。 一気に…全体を…集中しろ…集中、辺り一帯を氷らせる。 「…いけぇぇぇええええ」 声だすの恥ずかしいだろ?と思っていたが全力出す時は声をだした方がいいと言うのを体験した。 「…おぉっ」 全力を出したらゴブリン一帯を凍らせることに成功したらしい…。 被害は森の一部を凍らせるだけだった。 「…寒ぃっ」 「「「「「「「「………」」」」」」」」 全身から力が抜けると冷気を感じ寒かった。 俺が氷らせて起きながら「寒ぃ」発言したのに、誰にも「お前だろ」と突っ込まれる事がなく寒い空気が続いた。 注目を浴びているが…やり過ぎてしまったのだろうか? 森の一部をこ氷らせるってのは…まずいっすよね…。 本意ではなかったです…事故…ダメっすか? 「グラキアス…」 マジかぁ…教師に声掛けられたらお説教で決まりだよな…。 「すんませっ」 「やはり、実力を隠していたのですね?」 なんだ? 教師が興奮したように近付いてくる。 俺より少し…少しだ少し、少しだけ身長の高い男に迫られても嬉しくない。 …ちょっと離れて。 「…今はそれよりも、生徒の安全と他のクラスと合流すべきじゃないっすか?」 漸く魔物が居なくなり安心したのか、危機感が無さすぎないかこの教師。 「そっそうだなっ、怪我してる奴はいるか?」 はぁ、漸く教師から解放された。 それよりも「やはり、実力を隠していたのですね?」と言った。 これは転生者に与えられたチートではなく、こいつの身体本来の力だったのか? 属性も水や氷、風だけでなく他も使えていたと…。 なぁんだ、俺だからじゃないのか…。 だけどなんで隠す必要があったんだ? 多数属性持ちは面倒事に巻き込まれるとか? 気を付けねぇとやべぇな。 能力欲しさにまた、あの金髪野郎と婚約なんて勘弁だしな。 「怪我人もいないようだから急いで集合地点に戻る、全員気を抜かないように。」 俺達は来た道を戻ることになった。 来る時の余裕はなくなり、全員が警戒しながら進んだ。 合流地点まで問題なく到着するも、他のクラスの姿はなかった。 「エストレヤ?」 ついここにいないエストレヤの名前を呼んでいた。 頼む、無事に戻ってきてくれ…。 他のクラスの奴らも続々と戻ってきたが、エストレヤの姿を見付けることが出来なかった。 「先生、Bクラスは何処のルートですか?」 俺の質問に対して俺が次に何するか理解できたのだろう。 「だめですよ。異常事態の今、一人行動は認められません。」 「先生、俺なら平気です。」 「だめです、教師が付いています。信じて待ってください。」 「…くっ…エストレヤ」 俺だって分かってる。 一人行動の危険性、統率の出来なくなった集団は危険なことも。 「俺なら大丈夫」という無駄な自信家の奴が最も危険を呼び寄せることも…だが、じっとしていられねぇんだよ。 「グラキアス様、きっと大丈夫です。」 こいつが宥めてくるのは善意からかもしれないが、イラついてる時に俺に触れるなっ。 俺達が到着してら数十分、なかなか来ないエストレヤ不安が募る。 クラスごとに纏まり教師達も連絡を取り合うも、首を振ったり表情からして良くない状況だと知る。 漸く他のクラスが戻ってくるもエストレヤのクラスだけ来ないのは明らかにおかしい…。 頼む来てくれ…。 …いくら待ってもAクラスとBクラスだけが戻ってこない。 もう限界だ。 エストレヤを向かいに行く。 「グ…グラキアス様っ」 呼ばれても振り返る事なく再び森の中に入った。 CからFクラスが戻った方向は、学園を背にし正面から右側の森だった。 A、Bはきっと左側の森だろう。 ドサドサッバタァアアアンガサガサガサガサ 森へ入って間もなく、轟音が轟いた。 大木が倒れたのだろう…但し何本か同時に…自然現象なのか何かの故意かは判断できない。 音のした方へ全力で走った。 叫び声のような指示の声に今までに無い異常事態が起きているのを察知した。 魔物なのか人間の魔力なのか、近付くにつれて異様な魔力を肌が感じ取った。 寒くもないのに指先が冷えていく。 何が起きているんだ? 森が開け目映い光に目を細めた。 光に慣れ再び状況を確認すると、多くの生徒がある一方向に向け魔法を放っていた。 相手にしていたのはゴブリンなどとは比べ物にならない何かだ。 大型で全く魔法が効いていないように見えた。 教師や魔法が得意なものは前衛で攻撃を繰り出しながら後衛の奴らは怪我の手当てや弱点らしきものを探っていた。 エストレヤは後衛で小さな身体でありながら怪我した人間を安全な場所に運ぶ手伝いをしていた。 魔物は魔法を受けても効いているようには見えなかった。 大抵、魔物の弱点は目と核となる場所だよな…ゲームの知識しかないが今はそれにすがるしかない。 魔法で弓を作り雷の矢を魔物の目をめがけて飛ばした。 矢は魔物に当たり多少怯んでいるうちに、炎の剣で切り裂いた。 突然現れた俺に生徒達が魔法を止め俺の独壇場になった。 「森」と言うことで多くの生徒は火を使うのは避けていたが、非常事態なので許して欲しい。後で氷で凍らせるから。 それに練習した時には俺の炎の剣は対象物のみを燃やすので問題は…ないと思う…多分…きっと…平気な…はず…。 何度か切り裂きとどめに雷をヤツの頭上に落とした。 魔物はゆっくりと倒れ、炎に包まれ丸焦げとなった。 ほぼ魔力を使いきったが、そんな事はどうでも良かった。 「アティッ」 俺はエストレヤがいる場所へ走った。 後方から誰かに名前を呼ばれたような気がしたが振り向く事はしなかった。 「エストレヤ」 「グラキアス様っんっんふっんっあむっんっんぁ…」 エストレヤの無事をを感じたくて抱きしめキスしていた。 エストレヤの唇は暖かかった。 「心配した…傷はないか?」 「……んっ、僕は平気っ」 「よかった…なら、もう行くぞ」 「…ぇっ…ぁっ…ちょっグ、グラキアス様?」 躊躇うエストレヤを無視して抱き抱え、俺が来た道に歩きだした。 「グラキアス様…個人行動は…」 「エストレヤ、抱えたら腕は何処だ?」 「ぁっはぃ」 エストレヤは返事をすると直ぐに俺の首に腕を回した。 教師と目があったが止まる事なく俺は集合地点に向かい、教師に先に寮に戻ることを伝えた。 きっとエストレヤの状態を勘違いして俺の単独行動を許したように見えたが、丁度良かったので訂正はしなかった。 エストレヤも大人しく俺に抱えられていた。

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