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第61話 見た目に似合わず初々しいな

放課後はエストレヤと別行動で、ダンスの練習に向かっている。 「グラ…グラキエスッ」 「ん」 今、俺をグラキエスと呼ぶのは一人しかいない。 声がした方向へ振り向けば、予想通りラーデン ティエンダがいた。 「店について伝えたいことがあるんですが、お時間ありますか?」 「あぁ、少しなら。」 自由に使える談話室に移動した。 今回は二人だけのようだ。 二人きりだとは言え、エロイ雰囲気は一切ない。 「はい、店の場所や資本金などは目処がたっており料理人もすぐに決まるかと。」 「んー。」 「一度出店場所など見に行きませんか?」 「あぁ、そうだな。その時エストレヤも一緒になると思うが良いか?」 「はい、構いません。」 「んっ…他にもなんかあんのか?」 「えっ?」 「ないなら良いんだ。」 「いえっ…そのぉ。」 「なんだよ?」 「グラ…キエス…に…聞きたいことが…。」 「ん?なんだ?」 「…婚約者の方とは…。」 「エストレヤがなんだ?」 何故急にエストレヤ? まさかこいつエストレヤに興味あんのか? 「いえっイグニス様というより…婚約者の方と…親しいと思いまして…。」 「ん?あぁ、エストレヤとは問題ないが…。」 「その…私にも婚約者がいるんですが…。」 なんだよ相手いんのかよ。 …まさか、あの男じゃないよな? 不快な視線の…。 「全く…その…関係が…。」 「悪いのか?」 「悪いと言いますか、接触が一切ないんです。」 エロい事がしたいってことかよ…。 婚約者なら多少強引でも許されんじゃねぇの? 「婚約者とどうにかしてイチャ付きたいってことか?」 「イチャっちっ違います。会話すら…。」 「………」 会話すら…ねぇのかよ? イチャつく以前の話か…。 それはもはや解消じゃねぇの? 他人の解消話は俺の手に負えねぇよ。 「ティエンダはどうしたいんだ?」 「私は…政略的な婚約だったので疑問など無かったのですが、グラキエスとイグニス様を見ていたら変わるべきてはと思い始め…。」 俺が原因か? 「関係改善の前に、ティエンダはそいつと婚姻する気なのか?」 「ん?はい。」 なんですか?その質問って顔すんなよ。そう見せてんのはお前だぞ? 「婚約したからって無理に婚姻することはないんじゃねえの?嫌なら解消に向けて話し合うなりすればいいだろ?」 「婚約を解消する気はありません。」 そこはハッキリしてんだな。 まぁ、俺にその宣言をするのも…婚約者にするべきとは思うがな。 貴族ってのは、婚約は家の為、結婚は義務、恋愛は別でやれって感じだもんな。 ティエンダが相手を思っているのか、家の為かは聞かないでおいた。 そこは、俺がどうこう言えるものではない。 「なら、なんで急に?」 「俺は…私は。」 俺への言葉遣いで無理して「私」と使われると、そっちに気を取られる。 「俺で良いよ、無理して変えてたら会話が進まない。」 「はぃ…そのぉ、俺は婚約はそう言うもんだと思ってました。学生のうちはお互い距離があったとしても婚姻後は共に住むのだから問題ないと考えていました。俺だけでなく周囲もそう見えたので、間違っていないと…。最近グラキエスとイグニス様をお見かけするようになり、果たしてこのままで良いのかと悩み…。」 「婚約は二人の問題だ、相手とよく話せよ。」 「もちろんそのつもりです。その…どうしたら、お二人のように親密になれるのか…。」 親密…。 この世界の人間は潔癖というか、清らか過ぎないか? 俺が異端なのか? …あれ?俺にとってはここは異世界…ってことは宇宙のようなもの…。 こいつらからしたら、俺は宇宙人的存在なのか? 俺って…宇宙人だった。 「会話の最中は手を触れる事から始めてみたらどうだ?」 「手を…触れる…手を…分かりましたやってみます。」 嘘だろ? 冗談で言ったんだけどな…。 婚約者で手さえ繋いでないのか? 「おぅ。」 ティエンダは真剣な表情で、手を握りしめ去っていった。 きっと婚約者に会いに行くんだろうな。 検討を祈る。 フラれないといいが、あの視線の男が婚約者ってことは…って俺が気にすることじゃないな。 俺もエストレヤと婚約者ダンスをする為に練習に行きますか。

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