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第63話 相談者 ラーデン ティエンダ

こんこんこん しまった。 グラキエスに相談にのってもらった後、そのまま来てしまった。 何の先触れもなく突然婚約者の部屋に来てしまった事に、ノックをしてから気づいた。 学園に入学し既に三年も経っているのに、こんなことをしてしまって良かったのだろうか? 止めようかと部屋に戻ろうと一歩後ずさると、ノックしてしまっていたことを思い出す。 ノックされて扉を開け、誰もいなかったら嫌がらせだと思われてしまう…。 愚かにも身動きが取れなくなってしまった。 がちゃ 「はい?…ぇ?」 一人悩んでいると扉が開き、住人が顔を出した。 逢いたかった人だが、俺の予想通り突然の訪問に驚きを隠せずにいた。 「………。」 しまった、開口一番なんて声をかければ良いのか分からず黙り混んでしまった。 俺から来たというのに。 「…あの…」 「………」 どうしたら…。 「…えっと…入りますか?」 「あっあぁ。」 彼の言葉に救われた。 頭が真っ白になってしまい、俺はきっといつまでも立ち尽くしていただろう。 ソファに座るよう促された。 彼の隣に座りたかったのだが、対面に促されてしまった。 大人しく対面にと思ったが、隣を選んだ。 隣に進んだことで「えっ?」と彼から戸惑いの声を聞いたが聞こえないふりをした。 初めて入る彼の部屋に緊張した。 彼の部屋は、俺とは違う香がした。 香を気にするなんてイヤがられるだろう。 それに変態だと思われかねない。 緊張しすぎて冷静ではいられなくなる。 彼との距離も何だか近い…。 隣に座ったのは俺の意思だか、想像以上に近くて心臓が早くなる。 落ち着かせるために深呼吸すれば余計変態に思われないか?と余計なことを考えてしまう。 部屋自体も子爵家の彼の部屋と伯爵家の俺の部屋では広さが違う事に気がついた。 そんな事は今は関係ないのかもしれないが、他の事を考えないと冷静さを保てなかった。 彼との距離が近すぎて、呼吸が乱れる。 久しぶりの婚約者に対して緊張と興奮、さらには欲情しているのかもしれない。 学園に入学したことで月一のお茶会が無くなった為、面と向かって会う機会がなくなった。 約二年ぶりの彼は幼さが薄れ美しい青年となっていた。 この時理解した。 俺は彼が好きだったんだ。 嫌われたくなくて、俺のダメなところを知られないよう近づけなかった事を思い出した。 「と、突然来てしまい申し訳ない。」 「はい。」 「話がしたかったんだ。」 「…はい。」 彼も突然の俺の訪問に困惑しているようだった。 「ラ…ラフィキ フロイント。」 名前を呼ぶだけで緊張した。 「はい。」 「手を繋がないか?」 手を繋いで会話が婚約者の初歩だと聞いたのですぐに実行してみた。 「………手?」 「あぁ。」 「………手を繋ぐんですか?」 「あぁ」 「話をするのに関係ありますか?」 「ある。」 「…わかり…ました。」 彼の困惑の表情を見ると、俺はまた彼を威圧してしまったのかもしれない。 俺の手に重ねられた彼の手は、俺と違い柔らかく小さい。 「………」 「…あの…話は?」 「あっ、あぁ…これからもっと逢わないか?」 「…ぇ?」 「お…私達は婚約者だ、貴方との二人きりの時間が欲しい。」 「………」 「ダメだろうか?」 「…婚約は…続行?と言うことですか?」 「…ん?あぁ…当然だろ…何故だ?」 「…てっきり解消の話かと…。」 「…だっ誰がそんなことをっ?」 何を言われたのか理解できず頭が真っ白となり、理解した瞬間には頭に血が上り声を荒げてしまった。 自分でも驚く程の声量に「ひゃんっ」と彼を驚かせてしまった。 グラキエスも「解消」と言っていた。 まさか、俺は解消したいって思われていたのか? 「ぃえ…その…僕の勘違いでした。」 「………勘違いさせたのは俺だ。それなのに図々しいかもしれないが、貴方の婚約者として貴方の大切な時間を俺にくれないか?」 「…はぃ」 「そっそうかっ…良かった。」 それから、俺達は会話をしていたと思う。 緊張が途切れたのか記憶が曖昧だった。 覚えているのは、会話の最中手を繋いでいた事だけだった。 恥を忍んでグラキエスに相談してよかった。

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