104 / 156
第104話 後遺症
数日、俺はエストレヤと公爵家で幸せで穏やかな時間を送っていた。
これが現実なんだと脳が理解するまで。
共に庭を散歩したりと、年齢に似合わない程のんびりとした生活。
俺達の関係で以前と違うことと言えば、あれから一度もエストレヤを抱いていない。
風呂には一緒に入っていた。
エストレヤの身体を洗いながら現実を確認するために。
全身の噛み痕や、手首の痣までも残酷なまでにハッキリと残っている…。
お互いを確認し洗いあい、服を着て眠るなんて初めてなのではと思えるくらい新鮮だった。
ベッドの中では躊躇いつつ抱きしめ合っていた。
俺の腕の中にエストレヤがいたり、エストレヤの腕の中で心音を聞きながら眠ったりした。
だが、それ以上にはならなかった。
もし流れでそうなった時、エストレヤに拒絶されるのが怖かったから。
普段は平気でも、あの時と同じような状況になった時フラッシュバックしないとは言いきれない…。
最近ではエストレヤが側にいるだけで十分だった。
膝の上で会話する日常に戻りつつあったが、必要以上に触れることはしない。
雨が降った日は一日中俺の部屋で、エストレヤを抱え込むように触れていた。
触れているだけ。
俺の行動に嫌がること無く好きにさせてくれるエストレヤの優しさに甘えるも、それでも行為には至らなかった。
偶然唇が触れそうになると、俺の方があからさまに避けていた。
だが、そんな日も終わりを告げる。
「二人とも、そろそろ学園に戻れそうか?」
このままで良いとは思っていなかった。
いずれは学園に戻らなきゃいけないと…。
「…はい。」
あれから考えないようにしていたが、向き合わなければならなくなった。
あいつの事。
学園に戻れば嫌でも顔を合わせることになる。
相手は王族。
王家との話し合いでどうなったかは聞いてない…俺が避けているから。
あいつは俺の事を…アティラン グラキエスをどう思っていたのか知るべきなのか?
このまま、距離をとり続けてはダメなのか?
俺達はこれからもあいつに邪魔され続けるのか?
アティラン グラキエスは相当恨まれているんだろうか?
始めて見た時のあいつは、婚約者の俺の前で他の男を侍らせながら突き飛ばした姿だった。
根本的に性格が合わないんだろうな…。
側妃や愛人を何人も作ることが許される王族が、婚約者とは違う人間の肩を親しげに抱くのは百歩譲って良しとしよう。
だが婚約者に暴力を振るうのは間違っている。
それが原因で婚約解消は当然であり、不仲なんだ喜ばれることだろう?
もしかして、日本のざまぁものの小説で流行った卒業パーティーで婚約者を断罪するってやつをやりたかったのか?
それって目立ちたがり屋で、自分を正当化させたい奴がやるんだろう?
…金髪も自己顕示欲、承認欲求の塊だったのか。
王子ってだけでも目立っていたのに、それだけじゃ足りないのか?
そういう欲求は終わりがないからな…。
真面目で堅物なアティラン グラキエスとは考え方も違えば、そんな自慢も通用しなかったんだろう…それが気にくわなくて当て付けのように振る舞い暴力まで?
めんどくせぇ奴。
ともだちにシェアしよう!

