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第155話 子ども

あれから十二年後。 「エストレヤ、ただいま。」 「お帰りなさい。」 帰ってきた俺達は抱き締めあい唇で挨拶を交わした。 「フェアメーゲン、ヴァイスハイト、キントリヒお母様に挨拶は?」 「「「お母様、おはようございます」」」 「おはよう。お父様との訓練は楽しかった?」 「「「はいっ」」」 初めての出産からから、さらに二人の子に恵まれた。 フェアメーゲンは髪色から瞳まで俺であり、父さん達に聞けば幼い頃の俺そのものらしい。 性格は魔力が非常に高く、制御するのに苦労しつつも楽しみながら魔法を学んでいる。 ヴァイスハイトは髪色と顔の雰囲気はエストレヤであった。 性格は魔力が高いが、それよりも読書が好きらしい。 家庭教師から習いつつ、自身の中で生まれた疑問を検証するのに夢中だった。 そして末っ子のキントリヒは二人に比べると小さめの体格で髪は俺だが瞳と魅力的な目はエストレヤだった。 性格は兄二人について行く末っ子の様だが、ふとした瞬間エストレヤの魔性を感じた。 家庭円満で家族仲も良好といえる。 俺の子育てはこの世界では異質らしく周囲を困惑させた。 日本の親子で見るように肩に子供を乗せる行為は貴族はしないらしく、エストレヤが驚いていた。 それでも子供が喜んでいたので、周囲の者は反対しなかった。 勉強する時はして、ふざける時は本気でふざける姿を見せると子供も自然と切り替えが出来るようになっていた。 遊びも俺はこの世界の事を知らないので、子供の頃を思いだし竹トンボや縄跳びも作って見せた。 雨で外に出られない時には、折り紙で唯一折り方を覚えていた鶴を作った。 何度も折り最終的に鳥になるのに子供だけでなくエストレヤや使用人も驚いていた。 その日は一日中鶴を折り続け、子供達の集中力には感心した。 昔はもっと折れたんだが…覚えてないな。 子供達は鶴が相当嬉しかったのか、会う人皆に鶴を見せていた。 俺達の結婚の二ヶ月後にティエンダとフロイントも結婚し、翌年子供が生まれた。 ヴァイスハイトと同じ年と言うこともあり、家族同士で仲がよかった。 キントリヒは兄が一人増えたように甘えている。 ティエンダの子供はリアンフォールと言い、ティエンダに見た目も性格も似ていてキントリヒのワガママに耐える男だった。 不安なことと言えば、あの懐かしの…懐かしく思いたくない金髪野郎も二つ下の侯爵家の者と結婚し子供が生まれていた。 あの後王子には継承権の剥奪やらなんやらの話があったらしいが、俺に関わることがなければそれでいいと思っていた。 だが、王子だけでなく王族を引きずり下ろそうと画策する輩達が俺に近付き優位に立つために俺を利用しようとする動きがあると聞かされた。 王子と婚約さえしなければ巻き込まれないと考えていたが、その考えは甘く婚約しなくても巻き込まれた。 そして面倒なことに、あいつが継承権を剥奪されると戒めのように俺を王宮務めにすると勝手に話が出て盛り上がっているらしい。 俺は王宮なんて堅っ苦しい場所で働く気はない。 なので、王子にはそのまま継承権は維持してもらい多額の慰謝料で手をうった。 あれだけのことをしておとがめなしは公爵家を軽んじていると言われたが、何か重い刑を下しても日本人の記憶がある俺にはこの世界の刑の重さを受け止めきれない、罰を受ける姿なんて見てしまえば俺の記憶に奴が残り続けると判断し金髪のアティランへの思いには悪いが俺の記憶から金髪を消したかった。 俺の記憶に残さないために今後必要以上関わらないという誓約書を金髪には書かせた。 その後王子は一年間過酷な辺境での生活をさせ、国王の決めた人間と婚約が決まった。 本来なら五年辺境の地で鍛え直す予定だったらしいが、国王が倒れてしまい一年で終了となった。 国王は命に関わることはなかったが今までのような執務は出来ないことから王子の強制送還が決まった。 きっと、金髪の暴走で心労がたたっての事だろう。  その後金髪は厳重な管理下の中、執務を行う事になった。 気になる婚約者だが、同年代で王子の相手を見つけるのは難しく二つ年下の侯爵家の人間が選ばれた。  かなりの上昇志向のタイプで、学園で俺達と一年被っていたが過去に興味はなく金髪との結婚に不満はなかったらしい。 かなり引っ張っていくタイプなので、あの金髪には丁度良いと思う。 金髪の子供がヴァイスハイトと同じ年だった為、婚約者・側近候補の可能性がある家門全てを招待したお茶会に呼ばれてしまった。 俺としては子供達が婚約者にも側近にも選ばれたくはないが、子供達が望めば…まぁ、許さないこともなくはない…嫌だけど。 これが娘を嫁に行かせたくない親の気持ちか…。 お茶会では子供は子供、親は親達と談笑していた。 俺達は学生の頃と変わらずエストレヤと人目も気にせずいちゃついていた。 視界には金髪野郎からの視線を感じるも気付かないフリを続けた。 「んあ゛っ」 視線を逸らした先には、キントリヒとミニ金髪野郎が会話していた。 まさか…。 二人の会話は全く聞こえないが、様子を見続けていた。 俺の異変に気付いたエストレヤも視線の先の二人に気付いて「ぁっ」と困惑の声をあげた。 エストレヤも俺と同じことを予感したらしく、俺達は瞬きを忘れ遠くにいる我が子に意識を集中させた。 キントリヒが何が伝えた後、勢い良く向きを変え共に招待されたリアンフォールに駆け寄っていた。 …上目遣いのように背の高いリアンフォールを見上げながら会話する姿に危機感を覚えた。 どんな会話が行われているか想像するしかないが、キントリヒの表情は真剣な表情から困惑へと変わり…。 リアンフォールに満面の笑みで抱きついていた。 あっ、罠にかかった。 そうとしか思えない光景だった。 偶然見ていたティエンダとフロイントは何が起きているのか対応できずにいた。 「アティ?どういう状況?」 エストレヤも息子が何をしているのか…いやっ、何を思って行動しているのか理解できていなかった。 「予想だが、キントリヒとリアンフォールは婚約を言い出すかもな。」 「「「えっ」」」 三人は同時に声をあげ、遠くの二人を見続けていた。 硬直し続けるリアンフォールにキントリヒは他人を虜にするような笑みで相手を魅了し始めた。  三人は気付いていないが、キントリヒは既に自分の魅力と使い方を理解しているように見える…。 キントリヒは体格や顔の作りはエストレヤに似ている。 性格は…エストレヤが照れた時の癖や無意識にしてしまう人を誘惑する仕草をキントリヒも行うがそこには天然ではない何かを感じていた。 キントリヒは今全力でリアンフォールを自分のものにしようとしているのが俺には感じ取れた。 首をかしげる仕草をした後リアンフォールは頷き、手を繋いで私達の方へ向き歩いてくる。 三人はまだ信じられず二人が近付くのを待ち続けた。 目の前に二人が現れ、緊張した面持ちのリアンフォールとは違いキントリヒは俯きながらも照れたように微笑んで見せた。 その表情は作り物だな。  俺には分かる、表情全体は恥じらいを見せていたが目だけは獲物を捕らえる肉食の瞳だ。 「お…お父様、お母様よろしいでしょうか?」 リアンフォールから口を開くも、当の親は声が出ておらず何度も頷いていた。 「私は、こちらのキントリヒ様と婚約したいと思っております。」 「「っ…」」 予想していたとは言え、二人はかなり驚いていた。 助けを求めるように二人は俺に視線を送った。 「キントリヒは?」 「ぼくも…婚約したいです。」 更に身を寄せて宣言するキントリヒの姿に、相手に対して同情してしまった。 婚約はキントリヒから言ったにも関わらず、親たちには相手に言わせる狡猾さ。 今からこれだとキントリヒから逃げられないだろうな…。 その様子を見ていたフェアメーゲンとヴァイスハイトも妙な顔で頷いていた。 もしかしたら、二人はキントリヒの性格に以前から気付いていたのかもしれない。 「俺は政略結婚より二人の気持ちを優先したい。」 友人だが、爵位を考え俺が先に考えを述べた。 「「………」」 今は幸福だが俺が政略結婚で婚約解消しているのは、ここにいる三人は当然覚えているだろう。 「だめ…でしょうか?」 かなり作った悲しげな表情を浮かべながらキントリヒはティエンダとフロイントに狙いを定めた。 「あっと…俺は構わない。」 「ぼ…僕も二人が望むのなら反対はしません…ですがよろしいでしょうか?」 フロイントが困り顔で俺に視線を寄越した。 「何がだ?」 「グラキアス様は公爵家で、私達は伯爵家です…その…」 「爵位が降格するがキントリヒは覚悟の上か?」 フロイントも二人を引き離したくて言っているのではなく、キントリヒからすれば公爵家や侯爵家との縁も結ぶことが出きるので態々二つも爵位を降格させてまでの婚約に申し訳ないと思ったいるようだった。 「はい、勿論です。婚約出きるのであれば爵位など関係ありません。」 「…そうですか。」 キントリヒの言葉にフロイントもティエンダも頷いていた。 「なら、帰ったら婚約の手続きだな。」 「はいっ」 全て思い通りになったキントリヒの今日の笑み、俺は忘れないだろうな。

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