1 / 1
優しい赤ずきんちゃんと、純情なオオカミさん
※なんでも許せる方向けです。
ある日、かわいい男の子の赤ずきんがいました。
赤ずきんは、かーちゃんから森の奥で療養中のババアに、ワインとレーズンパンを届けるよう頼まれます。
けれど、赤ずきんちゃんはとても優しかったのです。
「療養中のババアにワインなんて飲ませたら、おっちんじまうだろ!」
と、ワインを道中でラッパ飲みしてしまいました。
「ういっ! これでババアが死ぬことはない!」
赤ずきんちゃんは、ほんとうに優しい子だったのです。
* * *
そんな赤ずきんちゃんを、木の影から見つめていたのは──
純情な感情を抱く狼さん。
「グルルゥ……今日も赤ずきんちゃんは可愛いなぁ」
狼さんは赤ずきんが大好きでした。けれど純情すぎて、手のひらでお目目を隠してしまうので、今日も姿が見えません。
その代わり、肉食特有の鋭敏な鼻で、赤ずきんの甘い香りだけを頼りに恋をしていたのです。
「よし、今日こそは話しかけるぞぉ〜グルルゥ」
酔いの回った赤ずきんちゃんは、お花畑に座り込み、傍若無人に花を摘みまくっていました。
「あ〜花〜お花〜きゃははははあ!」
そこへ目隠し歩きの狼さんが通りがかり──
前が見えないため、赤ずきんにつまづき、なんだかんだもんどりうって、彼を押し倒してしまいました。
あたりには花が舞い散り、2人は──はじめて、出会ったのです。
「……あー、腹減った」
赤ずきんちゃんは何事もなかったかのように、手籠からババアへのレーズンパンを取り出します。
「ち、レーズンあげるな」
「え、あ……はい///」
赤ずきんちゃんはレーズンが嫌いだったのです。
一粒一粒むしり取って、狼さんに手渡しました。
その瞬間──2人の手が、はじめて触れ合いました。
しかし、残念なことに狼さんはイヌ科なので、ブドウが食べられませんでした。
* * *
どうしようか悩んだ狼は、持っていた紐にレーズンを通し、ネックレスを作りました。
「あれ? 赤ずきんちゃんは?」
ネックレスを作っている間に、赤ずきんちゃんはバックれており、周囲には花の山ができていました。
「きっとおばあさんに持っていこうとして、忘れちゃったんだね。かわいい赤ずきんちゃん……」
そう呟いた狼は、周囲の花をかき集めて大きな花束を作り、時速60キロで赤ずきんの後を追いかけます。
* * *
赤ずきんちゃんがババアの家にたどり着くと、ババアは目を閉じていました。
「おっちんじまったのか!?」
慌てた赤ずきんはババアを激しく揺さぶります。
「ババア! ババア! バババカババババア!!」
その握力──90キロ。
ババアの肌はぶるんぶるんと揺れ、マッサージ効果が生まれ、血行が良くなって、20代並みに若返りました。
ベッドはギシギシと音を立て、木でできた家は崩れ始めます。
そこへ、花束を持った狼が、目を閉じたまま壁に突っ込み──
家は一瞬で破壊されました。
「やっべぇ、おい、お前も手伝え!」
赤ずきんと狼は、崩れた木材を使って、三匹の子豚の藁の家のような屋根をベッドの周りに組み直しました。
赤ずきんは、まだ目をつぶっているババアにそっと問いかけます。
「おばあさんの肌は、歳のわりにどうしてプルプルなの?」
「そのわりに、お顔が真っ青なのはどうしてなの?」
お決まりのセリフではありませんが、優しい言葉をかけると──
ババアの目がパチリと開き、
「おまえらのせいだろ」
と、一喝しました。
赤ずきんと狼は、その言葉にピシッと背筋を伸ばしたのです。
* * *
肌の若返りに悪い気はしなかったババアは、赤ずきんにまたマッサージに来るよう約束します。
そのまま、近くの狩人の家までババアをおんぶして連れていくことに。
狼も、なんとなく2人にちょこちょこついていきました。
そしてたどり着いたのは――
中年のナイスミドル。長身のスリムマッチョで、ブラウンの長髪をラフに束ね、白いタンクトップにカーキ色のパンツ、ゴツいブーツを身に着けた、けだるげな雰囲気をまとう狩人の家でした。
「ちーす、おっさん!」
「は、はじめまして……オオカミです///」
丁寧に挨拶をする2人。
その瞬間、狩人は狼に目を奪われました。
小柄な体に褐色の肌、つり目気味の黒い瞳。小さな鼻と形の整った口元。全身をふわふわの毛で包まれたその姿と、どこか純情でけなげな雰囲気――。
そのすべてに、狩人は一目惚れしてしまったのです。
……その熱い視線に、ババアはちゃんと気づいていた。
「家の建て替え業者、前に紹介するって言ってたろ」
「え、今かい?」
ババアと狩人が、大人の会話(お金の話)をしている間に、赤ずきんはまたバックレます。
狼は何故か、ちょこんと正座して待っていました。
「建て替えの金、そんなに払えないよ。年金暮らしだよ」
「まいったなぁ」
「じゃあ、こいつをあんたにやるから、代わりに金を払ってくれないかい?」
ババアはちろっと狼を見て、顎でくいっと示します。
「ええ!? いや、そんな……困るな……///」
まんざらでもない狩人。
「えええっ、お、お、おれ困ります!!」
「私の家、ぶっ壊しといてよく言えるよ」
「うっ! うぅ……」
こうして狼は、狩人の家に嫁ぐこととなったのです。
* * *
「君の嫌がることは何ひとつしないから」
優しい狩人との、はじめての夜。
狼は、レーズンのブレスレットを握りしめながら夜を乗り越えました。
そして翌朝──
トントンッ
窓を叩く音。
「さすがに目覚めが悪くてなっ!
赤ずきんもこんな村、嫌いだったとこさ。
一緒に逃げよーぜ!」
赤ずきんが迎えにきてくれたのです。
狼はその手を、目を閉じたまま探るように掴みました。
* * *
森を少し歩いたところで──
「どっち行く?
あれ、お前うんこ踏んだだろ! エンガチョ! いい加減、目を開けよ!」
──そう言われて、狼は意を決して目を開けました。
目の前にいたのは、色白の肌に垂れ目の碧眼を持つ美少年でした。
意志の強さを湛えた瞳と、きゅっと引き結ばれた形の良い唇。スリムでありながら、ほどよく鍛えられた体躯。
……けれど、それでも狼は思いました。
「思ったより、自分の好みの顔じゃない」と。
狼はオロオロします。
「おい、朝から何を話してるんだ?」
セクシーなイケオジの狩人が、森の中に狼を探しにきてくれました。
「森で遊んでたら危ない。戻っておいで」
その優しい言葉に、狼は迷わずその胸に飛び込みます。
「けっ、おめでとさん」
赤ずきんは狼に、手籠に入ってた花束を投げて去っていきました。
それは、かつて狼が赤ずきんのために集めた花──
2人の想いがすれ違いながらも、確かに重なっていた証。
森の中には、花の香りと、レーズンのネックレスだけが残っていました。
END
ともだちにシェアしよう!

