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第1話

音楽が好きだ。普段は口下手で、人とまともに話せないけど、ベースを弾けば人と繋がれる。俺を表現できる。俺は一応、社会人の人たちとバンドを組んでいて、次のライブに向けて自分たちの曲のセトリを通学中に聴くのを日課にしていた。高3のときは、受験を理由に一旦、バンド活動をお休みさせて貰ってたから、久しぶりのライブになる。毎日、ベースは触ってたし、最近はスタジオ練習もほぼ毎日してるけど、不安でしかたない。失敗したらどうしようとかいう妄想で、碌に寝れてない。 「すみません。音漏れしてますよ。」 不意に上から声が降ってきた。 「え、あ、すすみません!」 ヤバい、やってしまった。今まで、有線を使ってたから音漏れとかしなかったけどBluetoothにしたから、慣れてなくてやってしまった。最悪だ。返答、めっちゃ吃ったし。教えてくれた人は、キチンと髪をセットしてて、キレイめ?な服装をしているイケメンだった。ヨレヨレなTシャツに、美容院に行くのが嫌でダラダラ伸びたロン毛の俺とは全く違う。絶対、陰キャが朝からイキって音楽聴くなよとか思われてる。辛すぎる。はやく、駅に着いてくれ。駅に着いた瞬間、おれは急いで立ち上がってまだ、まだ1限までに余裕があるというのに、全力ダッシュした。 「あの、さっき聴いてたのって、fat catですよね?」 後ろから腕を掴まれて声をかけられた。振り返るとさっきのイケメンくんが立ってた。おれは全力ダッシュで息切れしてるのに、こいつは涼しい顔をしてる。やっぱり、普段引きこもりでタバコ吸ってる奴がこんな見るからにリア充の運動能力にはかなわないのか。 「え、まぁ、はい。」 てか、オレの返事きもいな。イケメンは少し興奮気味で話を続ける。 「俺もそのバンド、好きで、今まで知ってる人に会えなくて嬉しくて声かけちゃいました!よかったら話したいんでインスタ交換しませんか。」 まさかの俺のバンドのファンだったのかよ。ヤバいなリア充のコミュ力、会って5分で連絡先聞いてくるんだ。舐めるなよ、俺はインスタやってない。 「すみません。俺、インスタやってないんで。」 「そうなんですか。じゃあ、LINEとかはダメですかね?」 イケメン引いてるじゃん。情けないな俺。てか、このイケメンめちゃ食い下がるじゃん。普通に考えて、自分のバンドのファンのイケメンとかとどう話していいかわかんないから無理だよ。コミュ障だもんで。 「LINEもやってません。」 「そうなんですか。忙しとこ、呼び止めちゃってすみません。」 「ああ、はい。」 イケメンは少しシュンとした後、申し訳なそうに謝罪してきた。俺の良心は少しだけ痛んだが、俺は家族とメンバー以外とはLINEをしたことがなかったからあんなリア充とLINEなんて無理に決まってるから許してほしい。さらばイケメン。冷たくしてごめん、でも俺のバンドは応援してくれてるのめっちゃ嬉しい。 ライブ当日になった。やっぱり一年のブランクは大きいし、相当緊張してる。 「お前なら、大丈夫だよ、キヨ!」 と、ギターボーカルの橘 晴彦が声をかけてくれる。この人に誘われて俺はこのバンドに入った。晴彦さんは、電車で会ったイケメンとはまた違ったタイプで、なんというか女を殴ってそうなイケメンという感じだ。実際、何股もしている。でも、音楽でしか人と繋がれない俺をみつけてくれて一緒にバンドをしてくれてるし、めっちゃ感謝してる。 「お前が失敗しても、俺たちがついてるし安心しろよ」 続けてドラマーの矢吹 真也も声をかけてくれた。この人は、スキンヘッドで目つきも鋭いし、怖い見た目だけど、めちゃくちゃな晴彦さんを支えてくれる俺らのバンドにとって大黒柱のような人だ。確かに、後ろに真矢さんがいるだけで安心する。呼吸を整えて、ステージに上がる。 「今日は1年間、休んでたメンバーが帰ってきました。ベースのキヨです。皆、盛り上がろうぜ!」 晴彦さんのフリで演奏をはじめる。一度、音を鳴らすと、さっきまでの緊張が嘘みたいに吹っ飛ぶ。晴彦さん、今日のってるから俺も負けないようにしないと。真矢さん、めっちゃいいとこに音くれる。2人ともこういう音がほしいんでしょ。やっぱり音楽をすると人の心と繋がれる。ファンの人にももっと楽しんでほしい。もっと俺たちの音楽を聴いて。演奏が終わって達成感に満ちながら、メンバーと話し合う。 「お前、ブランク全く分からなかった。やっぱり、キヨとやるの楽しいわ!」 晴彦さんが肩を組んでくる。 「お疲れ様、お前とハルが飛ばすからこっちはお前らの帳尻合わせで大変だったわ。」 真矢さんが呆れ気味にでも、楽しそうにいう。 「でも、シンも楽しんでだろ?」 「あは、すみません。真矢さんいると安心してやれます。」 「ハルは調子乗りすぎだ。キヨ、嬉しいこと言ってくれるね」 この人たちに会うまで、俺はずっと1人で音楽をしてきた。だからこの2人にはとっても感謝してるし、ずっとこの2人と音楽をしたい。 「じゃあ、今日最高だったキヨくんにはもう少し頑張ってもらよ。」 真矢さんが俺をみて不敵に笑う。 「あ、あ、ありがとうございました。」 今にも消え入りそうな声でお礼をいいながらグッズやCDを売る。ライブで演奏するのは好きたけど、物販は人とたくさん喋るから苦手だ。でも、せっかく来てくれてるんだから頑張らないと。チラリと晴彦さんのほうを見ると、「ありがとうねー。またきてね。」なんて言って女性のファンが頬を赤く染めている。あの人、本当にすごいな。かたや、真矢さんは 顔が怖いためか全く人が寄り付いていない。ヘトヘトになりながら、やっているとオレの列の物販は最後の人になっていた。 「すみませんでした!」 ライブハウスに響く大声で謝罪する声が響き渡る。驚いて上を向くと、あの電車のイケメンがそこには立っている。 「おれ、キヨさんがfat catのメンバーって知らなくて、失礼なこと言っちゃいました。」 イケメンに頭を下げれ、周囲から注目される状況に耐えられず、俺は口を開く。 「いや、俺は1年間、活動やめてたし。俺たちのバンドの演奏聴いてくれてありがとうございます。全然怒ってないから、気にしないでください。」 そういうと、イケメンはパッと顔をあげて 「今日のライブめっちゃよかったです。これからも応援してます!」と食い気味に言ってきた。俺はその圧に押されながら「ありがとうございます。」と消え入りそうな声で返事をした。 諸々の片付けが終わった後、バンドのメンバーとライブハウスを後にする。本当は打ち上げをしたかったけど、俺は明日は1限からだし、真矢さんも仕事があるので別日にすることになった。晴彦さんは彼女と過ごすらしい。ヘトヘトになった体を動かしてライブハウスの外へでると、あのイケメンくんがいた。まだ春といえど夜は冷えるから耳は真っ赤だ。 「あの、やっぱりきちんと謝罪したくて連絡先、教えてください。ご飯奢ります。」 大丈夫だって言ったじゃんか。律儀すぎるだろこのイケメン。お前は何にも悪いことしてないし、LINEやってないとか嘘ついて断った俺のが最低だよ。正直、勘弁してほしいと思う。しかし、ふと俺に邪な考えが浮かぶ。最近、スタジオをとったり、防音の部屋にしたため家賃が高かったりでお金がほぼないことを思い出した。音楽をするのにはお金がかかるのだ。そんな中、俺は食費を削り、お金を捻出していたため、ここ最近はずっともやし炒めだけだったのである。肉、食べたいなと心に浮かんだらもうダメだった。俺は食欲に負けたのだ。 「いいですよ。」 俺がokするとイケメンは嬉しそうに 「じゃあ、電話番号教えてください!」と聞いてきた。そうだった、俺はLINEやってないって嘘ついたんだ。過去の俺を恨ましく思いながら電話番号を教え合う。 家に帰って表示された名前を見ると小野寺 海斗と書かれていて、イケメンしか許されない(と俺は思っている)三文字の名字の名前が表示されていた。

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