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5話・2日目その1《撮影がスタート》

目が覚めると、部屋には太陽の光が燦々と降り注いでいた。 朝7時。 昨晩約束した時刻に、ミツバくんの部屋をノックする。 「はーい、ちょっと待って」 少ししてドアが開くと、そこには昭和初期からタイムスリップしてきたような、ミツバくんがいた。 「うわー!」 「部屋の中に入って。廊下で喋ってると、メイキングカメラが来ちゃうから」 ミツバくんは、白く涼しげな麻のスーツに身を包み、丸い黒縁のメガネをかけて、カンカン帽をかぶっている。 足元は、ブラウンの革靴だ。 実際、昭和初期の富豪がどんな格好をしていたのかは、知らない。 でも、僕が頭の中でイメージする像とは、ぴたりと重なった。 フェイクドキュメンタリーというのは、そういう合致が大事なのだろう。 「どう?似合う?」 クールな表情を作り、ポーズをとってくれるから、僕は戸惑ってしまった。 「か、格好いい……と、とっても」 「やだな。なんでマナトが顔を赤くするの?俺まで照れちゃうじゃないか」 「……」 こんな風に揶揄われたとき、気の利いた切り返しができたらいいのに。 僕は無様に、言葉に詰まってしまった。 だってそれくらい、白い麻のスーツはミツバくんに似合っていたから……。 「さっ。朝ごはん、食べ行こうぜ」 彼が僕の肩に触れ、廊下へ出るよう導いてくれた。 「うん」 今は、そう頷くのが精一杯だった。 — ミツバくんと一緒に1階のレストランへ降りていくと、約束したわけでもないのに、皆が揃っていた。 当然のようにメイキングカメラも回っていて、僕ら2人にレンズが向いた。 でも、それよりも今は、皆のスタイルに目を奪われてしまう。 サイカワさんは、縄文人みたいな格好をしている。 粘土質の土を探し出し、海岸で土器を焼くつもりらしい。 海岸でなら火を起こしてもいいと、ホテル側から説明があった。 ユーキさんは、ザ・大学生という服装だ。 昨日はもっとお洒落をしていたから、動画のイメージのために、わざとファストファッションを着ているのだろう。 イタルさんは、サファリ探検家のコスプレみたいな格好だ。 ご丁寧に、双眼鏡まで首から下げている。 ナーゴさんに関しては、一目でこれから昆虫採集に行くのだろうと、わかった。 虫取りアミの数は、どこに隠していたのか、昨日より増えている。 彼とペアにならずに済んで、本当に助かった……。 「ミツバ氏、めちゃくちゃ格好イイじゃん!」 「ホント、ホント。魅力爆発って感じでズルいですね」 よかった。 僕の目からだけじゃなく、他の人から見ても、このスタイルのミツバくんは、最高に格好いいみたいだ。 ……自分の認識がズレていないと知れて、僕は少し安心した。 — 朝食を食べ終えれば、皆が散り散りに撮影へと出掛けていく。 僕らも、すぐに浜辺へ移動し、海岸に上陸したと想定するシーンから撮り始めた。 ホテルを出ると、流石にメイキングカメラはついてきておらず、少しホッとする。 撮影機材は、僕も小ぶりなものを持ってきたけれど、普段のミツバくんの動画と画質を揃えるため、彼が持参したカメラを使うことになった。 シナリオのようなものは、存在しない。 時には走り、時には立ち止まりながら移動し続ける彼を、手振れを最小限に抑えながら、とにかくカメラで追う。 また、せっかくの美しい表情にも関わらず、顔のアップは撮らないよう、指示を受けた。 常に全身が収まる構図で撮影し続けてほしい、とのことだ。 2本目との対比を作りたいのだろう。 そしてミツバくんが、鳥の声や、水の流れる音に反応し、視線を大きく動かしたときには、カメラもその目線の先を捉える。 視聴者に同じものを見せるためだ。 彼の胸元にはピンマイクもついている。 スーツと同化するよう、白い風防ボアがかぶせてあった。 彼の呟きや息遣いまで、臨場感たっぷりに撮れているはずだ。 — 森の中の少し開けた場所に出たとき、カメラ目線をしないはずの彼が、しっかりとカメラを見据えてきた。 液晶モニターを見ていた僕は、急に目があったように感じ、ドキリとしてしまう。 「休憩にしようか」 な、なんだそういうことか……。 僕が彼に向けていたカメラを止めると、ミツバくんの表情から、フッと力が抜けたのがわかる。 「ミツバくん、水分取ったほうがいいよ」 背負っていたリュックサックからペットボトルを取り出し、彼に渡す。 気がつけば、撮影開始から、もう3時間が経っていた。 「サンキュ。マナトも、腕が疲れるだろ?カメラ置いて、身体を休めて」 森の中は静かで、鳥のさえずりや風で木々が揺れる音だけが……いや、違う。 微かなブーンという羽音が、終始聞こえ続けているのだ。 僕もミツバくんも、上空を見上げる。 「必死だな、藤原さん。ドローン映像まで使うつもりか」 「バズるためのメイキングって、どんな場面を使うんだろ?」 「それはさ。ほら、こういうのだよ」 ミツバくんはドローンへ見せつけるように、突然僕との距離を詰め、至近距離から肩に触れてきた。 「え?」 なぜか一瞬、キスされると思ってしまった。 「葉っぱがついてる」 彼はクールにそう言った。

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