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18話・5日目その4《美しい星空》

ホテルに戻ると、ちょうど、サイカワチームとユーキさんも、びしょ濡れで戻ってきていた。 「どうだった?土器は焼けたか?」 ミツバくんが問うと、サイカワさんは悲しそうに首を振る。 「雨で火が消えちゃって、生焼けですよ。まぁ、動画としてはオイシイとも言えますけど……。まだ焼いてないのが半分あるので、明日こそ、成功させます!」 「そっちのデートは?」 ユーキさんが「デート」という言葉を使い、僕はドキリとしてしまう。 けれど、ミツバくんはサラッと返事をする。 「こっちも雨のせいでプラン変更だ」 「おっ、フェイクの恋も生焼けってことですか?」 サイカワさんが、びっくりするような親父ギャグを口にし、僕らはシーンと静まり返った。 ……この人、本当に元アイドルとの結婚に至るのだろうか? 「マナト、部屋でシャワー浴びて、少し休むといい。次は18時にレストランで」 僕らは皆、自室へ戻った。 — 18時。 カメラを回しながらレストランへ行くと、いつもより照明が落とされ、ジャジーな曲が流れていた。 窓際のテーブルには、通常とは違う臙脂色のテーブルクロスがかけられ、花も飾られている。 「なにこれ?」 「ん?頼むとこういう演出もやってくれるんだって。プロポーズしたいカップルとかが利用するらしい」 「プ、プロポーズ?」 「とにかく、座ってよ」 ミツバくんが椅子を引いてくれた。 「あ、ありがとう……」 続いてウエイターがやってきて「お飲み物は?」と訊いてくれた。 「オマエも、シャンパンでいい?」 「え。あ、うん」 そこに今度は、ユーキさんのサポートスタッフが現れた。 「カメラ、変わります」 「へ?」 「僕がマナトさんの背後から撮ります。そのようにミツバさんに頼まれてますから」 「そ、そうなんだ」 何もかも、いつものバイキングとは違う食事が始まった。 よく見ると、ウエイターをしているのは、いつもフロントにいる人だ。 どうやら今から食べるのはコース料理のようで、まずは前菜のカルパッチョが運ばれてきた。 「ねぇねぇ、ミツバくん」 僕は小声で彼に尋ねる。 「ん?どうした」 彼は澄ました美しい顔でナイフとフォークを使いながら返事をくれたが、この状況はどう考えてもおかしい。 すぐ横に、メイキングカメラのクルーがいて、僕らにレンズを向けていた。 さらに隣のテーブルには、食事をするわけでもない、ナーゴさん、ユーキさん、サイカワさん、イタルさんがこちらを眺めている。 「ミツバのお手並み拝見」ということらしい。 彼らは撮影に差し障りがないようにと、無言でそこにいるから、余計に違和感を生み出していた。 「いや、これってさ……」 「ここは撮影だって割り切ってほしい」 「……そっか、うん。そうだね、ごめん」 ギャラリーがいる撮影。 そう考えたら、全く珍しいことではない。 サイカワさんが土器を焼くのを、ユーキさんが見に行ったのと同じである。 僕が「これはデートだ」って意識で取り組んでいるから、おかしいと思うのだ。 「これは撮影だ」 そう自分に言い聞かせ、高価なコース料理を味も良くわからず、せっせと口へと運んだ。 — 食事が終わり、一旦部屋へ戻る。 今度は「22時に屋上へ来るように」と指示されていた。 「もうギャラリーはいないから、安心して」 ミツバくんがそう言い切るということは、大丈夫なのだろう。 もしかすると藤原さんと、夕食を撮影させるかわりに……といった交渉があったのかもしれない。 時間になりカーディガンを羽織った僕は、カメラを回しながら屋上へ続く階段を登る。 そこにあったのは、ランタンの光と、テントだった。 「うわー、キャンプだ!」 ミツバくんは僕の手を引いて、テントの中へ誘導する。 たくさんの敷物やクッションが敷き詰められ、フワフワの寝床が出来上がっていた。 心が落ち着くようなアロマも、焚かれている。 「このホテル、こういう貸し出しもあるんだって」 「今夜は、ここで眠るの?」 「そのつもり。どう?」 「めっちゃいい!」 僕は、羽織っていたカーディガンを脱いで、テントの中へダイブする。 「気に入ってくれて、よかった」 ミツバくんは、ホッとした顔をし、僕の横に寝転んだ。 画面の向こうの視聴者も、彼が添い寝してるように感じる動画を、撮影する。 ミツバくんの手は一瞬躊躇ったのち、僕の頭に伸びてきて「いいこいいこ」するように撫でてくれた。 さっきの夕食の席とは違い、フェイクだろうとなんだろうと、二人きりの幸せが満ちている空間だ。 それゆえに、疲れていた僕は段々と眠くなってしまう。 「いいよ。このまま眠っても」 柔らかな声が僕に言う。 「寝ないよ、まだ」 そう返事をしても、瞼は重くなってゆく。 ミツバくんが僕の手からカメラを取り、停止ボタンを押したのがわかった。 でも、もう目を開けることはできなかった。 — ふと目が覚めたとき、隣にミツバくんはいなかった。 僕はズボンのポケットに入れたままだったスマホで、時間を確認する。 夜中の2時だ。 テントから出て、彼を探しに行こうとすると、その姿はすぐに見つかった。 美しい人は、屋上に置かれた椅子に座って、一人星を眺めている。 「ごめん。一人だけ先に寝ちゃった。ミツバくんは眠れないの?」 彼はただ首を横に振る。 なぜかミツバくんの手には僕のカーディガンが握られていた。 「寒いでしょ?それ羽織っていいよ」 「大丈夫……。星が綺麗だったから。ちょっと眺めていただけだよ。一緒にテントに戻ろうか」 「うん」 穏やかな気持ちの僕に引き換え、ミツバくんはなんだかソワソワとしているように感じた。 再び僕が微睡みかけたとき、彼が呟いた言葉の意味が、寝ぼけ半分の僕には、全くわからなかった。 「BL漫画の課題図書、4冊目と5冊目も読んでもらうべきだったよ、マナト」

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