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SS「二人で暮らす部屋探し」ミツバ視点
3軒目の内覧が終わって、俺たちは今、クーラーのよく効いたカフェにいる。
7月も下旬になり、外は茹だるように暑い。
「マナトはどの部屋がよかった?」
アイスコーヒーをゴクゴク美味しそうに飲む彼氏を、愛おしく思いながら問う。
「僕は、最後の物件かな。あの寝室なら朝は燦々と日差しが入るだろうし、バルコニーに出たら星も見えるでしょ?」
「窓から海は見えないけど、隣の公園の木々が森みたいに見えたしな」
「うん!3階建ての低層階マンションっていうのも、いいよね」
そんな風にニッコリと笑ってくれるのなら、俺もあの部屋でいい、と即決したくなる。
でも少し、意地悪を言いたくなるのは、可愛さゆえだ。
「マナト。それってさ、寝室にはクッションや敷物を敷き詰めてふわふわにして、窓辺にはランタンを飾りたいとか、そういうこと?」
「な、なんで、僕があの屋上のテントの夜を思い浮かべてたって、わかったの?」
「そりゃわかるだろ。でも、あの晩、マナトはすぐに寝ちゃってさ。俺は一人でずっと星空を見上げてて、どれだけ寂しかったか」
「ごめん……。アロマもいい匂いで、寝床も心地良かったから……」
「ちょっとはドキドキしてほしかったよ。二人きりの夜に、緊張とか興奮とか全くないのは悲しかったなー」
今のマナトは、あのときの俺の気持ちをよく理解してくれている。
BL漫画の課題図書も、毎日のように読んでるから恋愛偏差値も上がっているはずだ。
「……じゃあさ、新しい部屋に一緒に住み始めたら、あのテントを再現して、やり直そ?」
なんて可愛いことを言ってくれる彼氏なんだろう。
俺は照れ隠しのために俯いて、自分のアイスオレをストローでグルグルとかき混ぜる。
「ダメ?」
俺が、拗ねているとでも思ったのだろうか。
上目遣いに聞いてくる。
そういうところだぞ、マナト。
他の男に絶対そんな顔しちゃダメだからな。
「いいよ。引っ越して、俺が赤樹島でみんなとライブ配信して戻ってきたら、テントの部屋を再現しよ」
「やったー!」
「でも、わかってる?すぐに寝ちゃダメなんだよ?ふかふかの寝床で、朝までずっと、あんなことや、こんなことして……」
「ミツバくん!」
マナトが周りを気にして、俺を注意する。
俺はキャップをかぶって金髪を隠し、メガネだってかけているから、YouTuberのミツバだなんて、バレっこないのに。
色々想像してしまったのか、彼の耳は、照れて真っ赤になっていた。
「ハハハ。それよりさ、本当に3軒目の物件でいい?俺的には、収納も多いし、スタジオとして使える部屋もあるし、ルームシェアOKだし、即入居可だし、それぞれの大学にも1時間以内で通えるし、アリだと思うよ」
「家賃は本当に僕が30%でいいの?」
「そこは何度も話し合っただろ?俺のほうが圧倒的に荷物が多い。それに一部屋はスタジオにさせてもらう。むしろマナトが使えるのは、リビングと寝室だけだけど、いいの?」
「うん。問題ない」
話をしながら、マナトはゴソゴソとカバンに入っていたカーディガンを引っ張り出す。
「クーラーすごく効いてるから、寒くなってきちゃった」
そう言ってTシャツの上に羽織った。
今度は俺がドキマギとする番だ。
このカーディガンは、あのテントの夜にマナトが羽織っていたものだ。
俺は彼が脱いだカーディガンを、星空の下で、抱きしめていた。
マナトの匂いがするからと身代わりにして、イヤらしい想像を巡らせてしまったのは、鮮明な記憶。
「どうしたの?ミツバくん?」
「ううん。行こうか。俺も寒くなってきた」
どこか人目のないところで、マナトを抱きしめたい。
いい場所はないだろうかと、頭の中で必死に考えた。
すでに、俺が死角をついて彼にふわっとキスする構図が、映像として浮かんでいるのは、YouTuberの業だろう。
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