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8.何でも歌うよ

 すぐそこにあったカラオケ屋にてブルータイガーの自慢の歌声を聞いていた。  チャラ男の癖に上手いじゃん。俺もカラオケは嫌いじゃないから普通に楽しめるけど、大我くんが入れた曲を覚えておいて後で若い子と行った時に歌おうと密かに考えていた。 「大我くん歌上手いね♪今はこういう歌が流行ってるんだー?」 「俺、流行りでも懐メロでもアニソンでも何でも歌うよ♪」 「演歌も?」 「ぶ!さすがに歌った事ねぇわ!何、リクエストしちゃう?」 「リクエストするー♪とびきり渋いの入れてあげるー♪」  ここで恥をかかせてやろうと、俺は自分でも良く分からないような昔っぽい演歌を入れてやった。  ふん、さすがに歌えなくて参りましたって言うんじゃね?  これで少し大人しくなってくれればいいんだけど♪  曲が流れ始めて、大我くんがマイクを握る。  お、歌う気か?  渋いイントロが流れる中、大我くんはマイクを使って喋り出した。 「あのさ~、もし歌い切ったらご褒美ちょーだい♡そうだなー?俺のお願い一個聞いて貰おう♡」 「いいよ~?ちゃんと最後まで歌い切ったらな?」 「よっしゃー!行くぜ!俺様の美声に酔いしれろー!」  ふん、強がってられるのも今の内だろ。  すぐに難しいテンポの曲に根を上げるのがオチさ。演歌とか俺も良く分からないけど、こぶしが効いてないとダメなんだろ?あー、歌うのも辛くて早々に諦めて曲だけがこの部屋に流れる近未来が目に浮かぶな~♪  大我くんは立ち上がり、マイクをしっかり握って、モニターを見ながら堂々と歌い始めた。  声量は抜群だった。ただ、知らない曲だからか歌詞を見ながらでも苦戦してるように見えた。それでも大我くんは諦めようとせずに、知らない曲をそれっぽく歌った。  なんだよ、意外と根性あるじゃん。  俺には出来ない芸当を見せつけられているようで、少しだけ感心してしまった。  そして見事に歌い切った大我くんは、息切れしながら俺の方を向いて、ニッコリ笑った。 「やったー!歌い切ったぜ~♪音程合ってるか分からねぇけど、約束は歌い切る事だもんな♪」 「やるじゃん……まぁいいよ、お願い一個ぐらいなら聞いてあげる。言ってみなよ?」 「やばー♡何にしよう?何がいいかなぁ?えー、やっぱりアレ?いやー、こっちも捨てがたい!」  いろいろ候補があるみたいだな。  さすが若いだけあるな、迷う程選択肢があるなんて羨ましいぜ。  俺なら迷わず現金だ。  一生懸命迷った後、俺の隣に座って体を密着させて来た。  こいついちいち距離感が近いんだよなぁ。俺はさり気なく反対側にズレながらも笑顔を絶やさないようにしていた。  一応客だからな。 「決めた♡俺の彼氏になって♡」 「あー、それなら今なってるから」 「そうじゃなくてガチのやつ!てかデートクラブ?それも辞めて!」 「はぁ!?ガチのやつってなんだよ?しかも俺のバイト辞めてって、お願いの範疇超えてるだろ!」 「やっぱり一個だけぇ?じゃあ彼氏かなぁ」 「おい、馬鹿にしてるのか?ここでするお願いはカラオケ代出してとかだろ」 「そんなのいいって!それと、馬鹿になんかしてねぇよ?てか時間無くなっちゃうから早くOKしていちゃつこうって♡」  大我くんは俺の肩を抱き寄せて息が掛かるぐらい顔を近付けて来た。  近い近い近い!  20歳の若者のノリってのはこういう物なのか!?  俺はこんな事出来ないぞ! 「伊吹♡愛してるぜ♡」 「口説くなー!てか無理!俺こういうの無理だから!俺のプロフィールにも書いてあるっしょ!?割り切って楽しい時間を過ごしましょうって!ちゃんと読んだか!?」 「写真と名前と性別不問しか見てなーい♡」 「そんな奴いるのかよ!!」 「ここにいるよーん♪」 「って事は俺がいくつなのかも知らないのか?」  ここで俺はしつこいブルータイガーを失望させる案を思いつく。  それは年齢だ。俺は実年齢より若く見られる事が多いから、写真だけ見て俺の事若いとか思ってるんじゃないか?  本当の歳を知ったらおっさんじゃんとか言ってシラケるんじゃないか?   「知らない。いくつなの?」 「25」 「なんだ、俺と変わらないじゃん♪」 「オイ!5歳も違うだろ!」 「年上なのは意外だけど、俺は気にしないよ?伊吹なら40だって言ってもOK!」 「馬鹿か!?許容範囲広過ぎるだろ!だったらもっと上のおっさん行けよ!」 「だーから、俺は伊吹の顔が好きなんだって~。伊吹の顔で40ならOKって事~」 「なぁ、さっきから彼氏に~とか、OK~とか言ってるけど、お前ってまさか?」 「そうでーす♪ゲイでーす♡」 「!!!!」  こんな事あるか!?  2日連続でゲイと出会うなんて!  しかもどちらからも気に入られるって言う偶然!  俺はゲイ対策なんて出来てないから、このカラオケ屋という密室でどう乗り切るか必死に考えた。  

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